二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

文字の大きさ
23 / 125
白薔薇から青薔薇

襲撃事件

しおりを挟む
 昼から、早速ギルベルトは仕事があると名残惜し気にジークハルトの元に向かった。薔薇園でその事を伝え忘れたと、赤薔薇騎士団と白薔薇騎士団員が揃ってヴェンデルガルトの部屋まで迎えに来たのだ。

「バーチュ王国の第三王子の願いで、紛争が起こりそうな隣国との和解の為ギルベルトとランドルフが仲裁として南に向かう事になったらしいです」
 カールはギルベルトを迎えに来た騎士から聞いた事を、早速ヴェンデルガルトに話した。食後のお茶を用意しながら、カリーナは少し不安げに首を傾げた。
「普通カール様かイザーク様が、ギルベルト様に付いて行かれるのではないですか? もし向こうが武装していたら、危ないと思うのですが」
「ギルベルトの剣の腕は、目が見ない時でもすごかった。目が見えるようになったから、後方支援を任せられるくらい心強いと思う。ランドルフが行くのは、バルシュミーデ皇国皇族代表だからだよ」

「でも、ギルベルトの様があんなにお綺麗な灰色の瞳をしていたなんて知りませんでした。素敵でしたね、ヴェンデルガルト様」
 ビルギットがそう言うと、ヴェンデルガルトは少し赤くなって両手で顔を隠す。
「どうしましょう、ビルギット。私、ギルベルト様に求婚されたの」
「えぇ!?」
 カールが大きな声を上げ、「まぁ」とビルギットは微笑み、カリーナは驚いてティーポットを落としそうになった。
「ダメダメ、俺反対! 俺だって、ヴェンデルガルト様に婚礼を申し込もうと思っていたのに!」
 カールの言葉に、ますますヴェンデルガルトの顔が赤くなる。
「それに、どうもランドルフもヴェンデルガルト様の事を気に入ってるように見える。ヴェンデルガルト様の事を、ヴェンデルと愛称で呼んでいたよね?」
 最初、皆厄介事を自分に任せていたのに。カールは、日頃みんなと仲良くしていたが、ヴェンデルガルトの事では譲るつもりはなかった。目覚めた時から傍に居るのは、自分なのに――他の騎士団長達が彼女を連れて行く度に、カールは歯痒く見送っていたのに。
「カール様も、私の事は呼びやすい様に呼んで下さい」
「え?」
 ヴェンデルガルトにそう言われると、今度はカールが赤い顔になる。
「え? じゃあ――ヴェン、と呼んでも?」
「ええ。勿論構いません、カール様」
 そう言われると、カールは途端嬉しそうに笑って紅茶を一口飲んだ。

「カール様は、随分可愛らしいお方なのですね」
「騎士団の人気者ですから」
 カリーナとビルギットが、小さく笑いながらそう話していた――が、不意にドンドンと部屋のドアが強く叩かれた。
「どなたです?」
「青薔薇騎士団の、副団長のライナーです! ヴェンデルガルト様に至急、お願いがあり参りました!」
 カールは声と名前に覚えがあったので、慌てて立ち上がりドアを開けた。そこには、マントを血で汚した青年が立っていた。走って来たのか、息を切らせている。

「ヴェンデルガルト様、どうぞお力をお貸しください! イザーク団長が……!」
「聞きながら行きましょう、大変な事になっているようですね」
 カリーナとビルギットは、血の匂いに怯えたように表情を強張らせている。立ち上がってライナーの元に向かうヴェンデルガルトは、ライナーを促した。カールも慌ててヴェンデルガルトに付き添う。
「実は東の端の公国に向かう最中に、三体のバウンドが現れまして――不意を突かれ部隊が乱れ、イザーク様が大怪我を負いました」
「バウンドだと!?」
 カールが驚いた顔になる。その名のものが何か分からないヴェンデルガルトは、怪訝そうに眉を寄せる。
獰猛どうもうな魔獣です。東の方に生息しています――何人で応戦したんだ? 他の負傷者は?」
「一名が死亡、三名が大きな怪我を負いました。我々は十名で向かっていました。先ずは、どうかイザーク様を! 俺達を護りながら戦ってくださったので、怪我で今意識が……!」
 早足で歩きながらも、二人は状況を確認し合っている。ヴェンデルガルトは、二人に付いて行くので精一杯だ。

 ライナーに連れられて来たのは、騎士団の医務室だ。医師が大慌てで治療をしているが、呻き声と強い血の匂いが漂っていた。
「ヴェンデルガルト様が来られた!」
 ライナーが叫ぶと、青騎士団員と医師が驚いたようにその声に振り返った。
「私に、治療させてください」
 息を切らしながら、ヴェンデルガルトが大きくそう声にした。ライナーが、急いでイザークの元にヴェンデルガルトを連れて行く。ベッドには、四人の青年が寝かされていた。その中の手前の、瞳を伏せて荒く息を繰り返す青年の前に立つ。肩や腕、足にも切り裂かれた傷があり、出血が多い。
 ヴェンデルガルトはまた血が乾かない彼の手を、ぎゅっと握った。
「私が治します、イザーク様」
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~

猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」 王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。 王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。 しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。 迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。 かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。 故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり── “冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。 皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。 冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」 一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。 追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、 ようやく正当に愛され、報われる物語。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

処理中です...