39 / 125
アンドレアス皇帝
皇帝との謁見・上
しおりを挟む
ジークハルトにプレゼントされたドレスを着て、ランドルフとギルベルトに貰ったイヤリングと指輪を身に着けると、ため息が零れるほどヴェンデルガルトは美しい。
「ヴェンデルガルト様付きに命じられて、私幸せです……」
カリーナが、うっとりとしたようにその姿を眺めた。
「有難う、カリーナ。でも、少し恥ずかしいわね」
今風のドレスなので、胸元が強調されているのが恥ずかしい。その照れる姿も可愛らしいと、カリーナはヴェンデルガルトを褒めた。
「ジークハルトだ。迎えに来た」
ヴェンデルガルトとメイド二人で楽しんでいる時に、ドアがノックされた。その声の名前を聞いて、三人は慌てて姿勢を正す。
「お待たせしました、ジークハルト様」
カリーナがドアを開けると、ヴェンデルガルトは少し恥ずかしそうにしながらも、エデルガルトに教えて貰った作法でお辞儀をする。自分が贈ったドレス姿のヴェンデルガルトの姿を見て、ジークハルトは僅かに息を飲んだ。女性を見て美しいと思ったのは、初めてだった。
「もう出られるだろうか? それと――ビルギットだったか? 君も来て欲しい」
「私も、ですか?」
「ああ、陛下がそう望んでいらっしゃる。頼む」
ヴェンデルガルトとビルギットは顔を見合わせたが、ビルギットは頭を下げた。
「ヴェンデルガルト様の傍に居る事が、私の役目で望みです。御一緒させて頂きます」
「ヴェンデルガルト様、ビルギット。お茶を用意して待っています」
カリーナに見送られて、ジークハルトとヴェンデルガルト。その後にビルギットが続いて謁見室へと向かった。進むにつれて、赤薔薇騎士団の姿が増えていく。
「ジークハルトです。ヴェンデルガルト嬢と、メイドのビルギットを連れてまいりました」
そう言うと、小さな声なのに謁見室に響く声が返事をした。
「入れ」
ジークハルトが礼をして室内に入る。ヴェンデルガルトとビルギットも、それに倣って中に足を踏み入れた。
中には、豪華な椅子に座ったアンドレアス皇帝。年の頃は、五十半ばだろうか。威厳に満ちた面持ちで、豪華な服や装飾品を身にまとっていた。脇に控える内の一人は、ギルベルトの父であるアダルベルト宰相だろう。ヴェンデルガルトとビルギットの前には、全く知らない男たちが並んでいた。
「そなたが、ヴェンデルガルト王女か」
皇帝の視線がヴェンデルガルトに向けられると、ヴェンデルガルトは綺麗なお辞儀をする。
「ヴェンデルガルト・クリスタ・ブリュンヒルト・ケーニヒスペルガーでございます。二百年前に存在した、バッハシュタイン王国第三王女です。そしてこちらが、私のメイドのビルギット・バルチュです」
室内の人物の視線が、二人に向けられた。眩しい金の髪と瞳が珍しく、室内が少し騒めいた。
「一六〇〇年に、古龍の最後の生贄になったと聞いたが、誠か?」
「はい。私が十四の年に、古龍の元に参りました。二年彼と暮らし、封印されました。封印されたのは――古龍に考えがあっての事です」
皇帝は、真っ直ぐにヴェンデルガルトを見つめた。
「古龍の考えとは何だ?」
「それは――私には、分かりかねます。申し訳ございません」
その言葉に、ジークハルトは僅かに眉を顰めた。彼女は理由を知っているはずだ、なのに何故知らないと? もしかして、古龍が再び龍として甦った場合敵と認識されるのを恐れたのかもしれない。後で確認しよう、とジークハルトは大人しく会話を聞いていた。
「そうか――それで、ヴェンデルガルト王女。我が国は、そなたの国を滅ぼして新しく出来た国だとご存知だな? それを、どう思う?」
「私は、この世界を創られたフロレンツ神の導きだと、この運命を受け入れました。恨みなど、抱いておりません」
凛とした声で、ヴェンデルガルトははっきりとそう言った。
「そうか……分かった、ではそなたの処遇を決めさせて貰った。もしこれを受け入れられなければ、この国を出て貰う事になる」
ヴェンデルガルトは、皇帝のその言葉に何かを感じた――受け入れなければ処刑する、と聞こえたように感じたのだ。
「この、忌々しい悪魔め!」
その時、赤薔薇騎士団の中から一人の男が飛び出した。振りかぶっているのは、剣だ。ヴェンデルガルトの傍には、ビルギットしかいない。
まさかここで、剣を振るう者がいるとは誰も思っていなかった。慌てたジークハルトは飛び出すが、間に合いそうになかった。
ヴェンデルガルトに剣が振り下ろされる――そう誰もが思った時だ。
「防御!」
叫んだのは、ビルギットだ。彼女の青い瞳が、金色に輝いていた。そうして、透明の箱のようなものがヴェンデルガルトを包んで、振り下ろされた剣を弾いた。全員が驚いたように瞳を丸めたが、慌ててジークハルトがヴェンデルガルトを襲おうとした男を蹴り飛ばす。そして赤薔薇騎士団員が、慌ててその男を取り押さえた。
「ビルギットーーあなた、魔法が使えるの?」
「ヴェンデルガルト様付きに命じられて、私幸せです……」
カリーナが、うっとりとしたようにその姿を眺めた。
「有難う、カリーナ。でも、少し恥ずかしいわね」
今風のドレスなので、胸元が強調されているのが恥ずかしい。その照れる姿も可愛らしいと、カリーナはヴェンデルガルトを褒めた。
「ジークハルトだ。迎えに来た」
ヴェンデルガルトとメイド二人で楽しんでいる時に、ドアがノックされた。その声の名前を聞いて、三人は慌てて姿勢を正す。
「お待たせしました、ジークハルト様」
カリーナがドアを開けると、ヴェンデルガルトは少し恥ずかしそうにしながらも、エデルガルトに教えて貰った作法でお辞儀をする。自分が贈ったドレス姿のヴェンデルガルトの姿を見て、ジークハルトは僅かに息を飲んだ。女性を見て美しいと思ったのは、初めてだった。
「もう出られるだろうか? それと――ビルギットだったか? 君も来て欲しい」
「私も、ですか?」
「ああ、陛下がそう望んでいらっしゃる。頼む」
ヴェンデルガルトとビルギットは顔を見合わせたが、ビルギットは頭を下げた。
「ヴェンデルガルト様の傍に居る事が、私の役目で望みです。御一緒させて頂きます」
「ヴェンデルガルト様、ビルギット。お茶を用意して待っています」
カリーナに見送られて、ジークハルトとヴェンデルガルト。その後にビルギットが続いて謁見室へと向かった。進むにつれて、赤薔薇騎士団の姿が増えていく。
「ジークハルトです。ヴェンデルガルト嬢と、メイドのビルギットを連れてまいりました」
そう言うと、小さな声なのに謁見室に響く声が返事をした。
「入れ」
ジークハルトが礼をして室内に入る。ヴェンデルガルトとビルギットも、それに倣って中に足を踏み入れた。
中には、豪華な椅子に座ったアンドレアス皇帝。年の頃は、五十半ばだろうか。威厳に満ちた面持ちで、豪華な服や装飾品を身にまとっていた。脇に控える内の一人は、ギルベルトの父であるアダルベルト宰相だろう。ヴェンデルガルトとビルギットの前には、全く知らない男たちが並んでいた。
「そなたが、ヴェンデルガルト王女か」
皇帝の視線がヴェンデルガルトに向けられると、ヴェンデルガルトは綺麗なお辞儀をする。
「ヴェンデルガルト・クリスタ・ブリュンヒルト・ケーニヒスペルガーでございます。二百年前に存在した、バッハシュタイン王国第三王女です。そしてこちらが、私のメイドのビルギット・バルチュです」
室内の人物の視線が、二人に向けられた。眩しい金の髪と瞳が珍しく、室内が少し騒めいた。
「一六〇〇年に、古龍の最後の生贄になったと聞いたが、誠か?」
「はい。私が十四の年に、古龍の元に参りました。二年彼と暮らし、封印されました。封印されたのは――古龍に考えがあっての事です」
皇帝は、真っ直ぐにヴェンデルガルトを見つめた。
「古龍の考えとは何だ?」
「それは――私には、分かりかねます。申し訳ございません」
その言葉に、ジークハルトは僅かに眉を顰めた。彼女は理由を知っているはずだ、なのに何故知らないと? もしかして、古龍が再び龍として甦った場合敵と認識されるのを恐れたのかもしれない。後で確認しよう、とジークハルトは大人しく会話を聞いていた。
「そうか――それで、ヴェンデルガルト王女。我が国は、そなたの国を滅ぼして新しく出来た国だとご存知だな? それを、どう思う?」
「私は、この世界を創られたフロレンツ神の導きだと、この運命を受け入れました。恨みなど、抱いておりません」
凛とした声で、ヴェンデルガルトははっきりとそう言った。
「そうか……分かった、ではそなたの処遇を決めさせて貰った。もしこれを受け入れられなければ、この国を出て貰う事になる」
ヴェンデルガルトは、皇帝のその言葉に何かを感じた――受け入れなければ処刑する、と聞こえたように感じたのだ。
「この、忌々しい悪魔め!」
その時、赤薔薇騎士団の中から一人の男が飛び出した。振りかぶっているのは、剣だ。ヴェンデルガルトの傍には、ビルギットしかいない。
まさかここで、剣を振るう者がいるとは誰も思っていなかった。慌てたジークハルトは飛び出すが、間に合いそうになかった。
ヴェンデルガルトに剣が振り下ろされる――そう誰もが思った時だ。
「防御!」
叫んだのは、ビルギットだ。彼女の青い瞳が、金色に輝いていた。そうして、透明の箱のようなものがヴェンデルガルトを包んで、振り下ろされた剣を弾いた。全員が驚いたように瞳を丸めたが、慌ててジークハルトがヴェンデルガルトを襲おうとした男を蹴り飛ばす。そして赤薔薇騎士団員が、慌ててその男を取り押さえた。
「ビルギットーーあなた、魔法が使えるの?」
1
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる