二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

文字の大きさ
40 / 125
アンドレアス皇帝

皇帝との謁見・下

しおりを挟む
「どういう事だ? 君も魔法が使えたのか!?」
 ヴェンデルガルトを抱きかかえたジークハルトが、隣で震えているビルギットに訊ねた。ヴェンデルガルトを襲おうとした男は、赤薔薇騎士団に囲まれて部屋から出された。
「これは――古龍の力です」
 ビルギットは、ヴェンデルガルトを見上げて彼女に告げる。
「ヴェンデルガルト様を護る為に、古龍が私に残してくれた力です。ヴェンデルガルト様と、私にしか効果がありません」
 次第に震えが収まって来たビルギットは、彼女を護れたことに安堵したようだ。瞳の色は、青色に戻っている。
「静粛に!」
 先ほどの騒ぎで騒めいている室内で、宰相が大きな声を上げた。完全に静かにはならなかったが、ようやくみんなが落ち着きを取り戻す。

「ジークハルト、警護を完璧に出来るようにするんだ――今回は眼を瞑ろう」
「御意……感謝します」
 皇帝の言葉に、ジークハルトはヴェンデルガルトを支えたまま深々と頭を下げた。これが皇帝を狙ったものだったら、ジークハルトには第一皇子であろうと処罰が下されただろう。不甲斐なさと悔しさに、ジークハルトは唇を噛んだ。
「では――先ほどの続きだ」
 皇帝には、動揺が見られない。途中だった話を再び口にした。
「そなたに、爵位を与える。だが、土地は与えず城で生活して貰う。生活に必要なものも、我が国で用意する。その代わり、重傷者などの治療を可能な限り手伝って欲しい――これが条件だ」
 つまり、城で監視しておくという事だ。治療の手伝いは自分から願い出るつもりだったので、ヴェンデルガルトには好条件だった。目覚めてから今までの生活と変わらない。
「有難うございます。お受けいたします」
 ヴェンデルガルトは、ジークハルトに支えられたままだったのでお辞儀が出来ず、頭を下げる。ジークハルトは考え事をしているのか、気付いていないようだった。
「そして、メイドの――ビルギットだったか」
「は、はい!」
 皇帝が、ビルギットに話しかけた。それは意外な事で、彼女は驚いて深々と頭を下げた。
「そなたが望むのであるなら、どこかの貴族の養女として受け入れよう。どうだ?」
 ヴェンデルガルトは、驚いたようにビルギットを見つめた。ビルギットと離されてしまう? それは、恐怖に近かった。
「恐れ多いお言葉です――ですが、出来る事なら、今のまま……私は、ヴェンデルガルト様のメイドでいさせてください。どうか――どうか、お願いします」
 それは、ビルギットも同じ気持ちだったようだ。懇願こんがんする言葉を口にして、もう一度皇帝に頭を下げた。
「そうか――そなたの忠誠心、誠に素晴らしい。分かった、ヴェンデルガルト嬢のメイドを務めてくれ」
 皇帝の瞳が、僅かに優しくなったように見えた。

「名前を変えるのは、前王国に失礼であるだろう。前例はないが、特別処置とする。これよりそなたは、ヴェンデルガルト・クリスタ・ブリュンヒルト・ケーニヒスペルガー公爵令嬢だ。後見人は、アダルベルト宰相とする」
「感謝いたします」
「仰せのままに」
 ヴェンデルガルトと宰相が、そう続いて答えた。
「ヴェンデルガルト嬢よ、もう一つ聞きたい」
「どのような事でしょう?」
「知性のある龍族は、滅びたのだろうか? そなたの国の時の様に、国を護ってくれる龍は、存在しないのだろうか?」
 皇帝の言葉に、ヴェンデルガルトは少し黙って考えた。魔獣が多くなっている事を、カールが言っていた。それほど今、この国は魔獣に脅かされているのだろう。
「私の国を護っていた古龍は、東より訪れたと聞きます。もしまだ龍族がいるならば――東で暮らしているかもしれません。ただ、龍族が何と引き換えに護ってくれるかはその龍により違うと思われます」
 コンスタンティンは、番であるヴェンデルガルトを探すために国を護っていてくれた。龍族の知性は高く、人間よりはるかに優れている。簡単に、人間と取引をするとは思えない。
「そうか――東、か」
 ため息混じりに、皇帝はその言葉を繰り返した。東の国は、南とまた違い厄介なのだ。長く国交を行わず、独自に大きくなりつつある。最近ようやく貿易を始めたが、頭が良く有利になる取引しか行わない。頭の良い龍族が頭の良い東の国に生息しているのは、分かる様に思う。

「分かった、感謝する。また何か尋ねたい事がある時がるかもしれん。よろしく頼む」
「かしこまりました」
「では、戻る。ヴェンデルガルト嬢、今日の事感謝する」
 そう言って皇帝が立ち上がると、赤薔薇騎士団の護衛も後に続き、部屋を出て行った。出て行く間も、部屋にいた全員は深々と頭を下げた。
「あの、ジークハルト様――そろそろ、離して頂けますでしょうか?」
「あっ、す、すまない!」
 申し訳なさそうにヴェンデルガルトが自分を支えたままのジークハルトにそう言うと、彼はようやく気が付いて慌ててヴェンデルガルトから離れた。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~

猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」 王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。 王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。 しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。 迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。 かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。 故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり── “冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。 皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。 冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」 一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。 追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、 ようやく正当に愛され、報われる物語。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

まさか私が王族の一員であることを知らずに、侮辱していた訳ではありませんよね?

木山楽斗
恋愛
王城の使用人であるメルフィナには、ある秘密があった。 彼女は国王の隠し子なのである。 その事実は、半ば公然の秘密となっていた。公にされたことは一度もないが、嗅覚に優れた者達はそれを察知していたのだ。 しかし中には、そうではない者達もいた。 その者達は、メルフィナを一介の使用人として考えて、彼らなりの扱い方をした。 それは許されるものではなかった。知らぬうちに王家に牙を向けた者達は、その行為の報いを受けることになったのだ。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...