二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

文字の大きさ
55 / 125
南の国の戦

三国の関係

しおりを挟む
「お前の治癒魔法は、最大どれくらいの範囲まで届くんだ?」
 朝食を終えた後、南の国のメイドらしい女性達が片付けをしてくれた。そうして、チャッツを飲みながらアロイスはそう訊ねた。
「どうなんでしょう? 私は今まで、遠隔で試した事が無いので分からないです」
 チャッツを一口飲んで、ヴェンデルガルトは首を傾げた。龍の姿のままのコンスタンティンを治した時は、彼の身体に触れて治した。治癒魔法を使うこと自体、そう必要ではなかったのだ。
「三国間で戦争が始まるが、いつどの国から仕掛けるか分からん。お前は自分の身体を護る事を一番にして、余裕があれば兵を回復してくれ」
「話し合いで、話はまとまらないのですか? 出来れば、戦争は避けて欲しいです」
 バルシュミーデ皇国で教えられた南の国の状況を思い出しながら、ヴェンデルガルトはそうアロイスに懇願した。しかし彼は、深くため息を零して首を横に振った。

「アンゲラー王国が問題だ。俺達は貿易の通行料さえ出してくれれば、戦争をするまで困っていない。万が一ヘンライン王国があいつらに負ければ、鉱物が手に入らない上俺達の国も危うくなる」
「東のレーヴェニヒ王国が、ヘンライン王国を支援すると聞きましたが……もしバーチュ王国がヘンライン王国を滅ぼす気がないのであれば、ヘンライン王国と手を組んではいかがですか?」

「レーヴェニヒ王国か……」
 バーチュ王国にとっても、この国は不思議な国だった。ただ、一度アロイスが国王に会いに行った時、歓迎してくれた事がある。「龍の血が流れる御身に、加護を」と言っていたので、龍が住む国と言われているレーヴェニヒ王国では歓迎されるのだろうか。
「王や兄上たちと、話してみよう。俺も攫っておいて言うのはおかしいかもしれないが、お前が危険な目に遭うのは避けたい。それに、レーヴェニヒ王国と対立はしたくない」

 チャッツを飲み干して、アロイスは立ち上がった。
「少し、話し合いをしてくる。何か用があれば、お前につけさせた使用人に言ってくれ」
 上体を屈めてヴェンデルガルトの額にキスをすると、アロイスは部屋を出て行った。

 ――戦いがなくなるなら、ヘンライン王国と手を結んで欲しい。でも、バルシュミーデ皇国がどう出て来るのか。もし自分の為に戦に参加するのなら、それだけはやめて欲しい。ビルギットと、連絡が取れれば……考え込んでいたヴェンデルガルトだったが、ドアがノックされて「どうぞ」と答えて考える事を止めた。

「失礼します、ヴェンデルガルト様」
 丁寧にお辞儀をするのは、ベルトだった。手には、籠のようなものを持っている。ヴェンデルガルトは少しほっとして、彼女を部屋にいれた。
「ヴェンデルガルト様、お暇ではありませんか?」
 確かに、庭を散策したり宮殿の中を見学しに周ることは出来ない。それに話し相手は、アロイスかベルトしかいない。
「ええ、何をして過ごせばいいかしら。なにか、する事がある?」
 ヴェンデルガルトがそう尋ねると、ベルトは手にしていた籠を差し出した。細い毛糸と、長めの針のような細い金属が入っている。
「我が国では、アヤーという織物があります。織機おりきるのではなく、針で編みます。これで花嫁衣裳を自分で編む方も多くいらっしゃります。先ずは練習しませんか? 耳飾りやネックレスなど作れば、アロイス様もお喜びになるかもしれません」

「私の作ったものを?」
 よく考えれば、ヴェンデルガルトはプレゼントを貰ってばかりだ。誰かにちゃんとした贈り物をした事があったのか――眠る前でも思いつかなかった。
「私、そんなに器用ではありません」
 出来るかしら? と困った様に首を傾げるヴェンデルガルトに、ベルトは「出来ます」と返事をした。
「私は小さい頃、母に教わり沢山作ってきました。ヴェンデルガルト様に分かりやすい様にお教えさせて頂きます。作ってみましょう」
 確かにする事もなく、戦争が始まればアロイスは忙しくなるだろう。それに、ベルトと仲良くなっておきたかった。
「分かったわ、私に教えてくれる?」
「喜んで、お教えさせて頂きます」
 生真面目なベルトは、そう言ってもう一度深々と頭を下げた。そうして「失礼します」とヴェンデルガルトの横に座り、籠の中から針と細い毛糸を取り出した。
 
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~

猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」 王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。 王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。 しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。 迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。 かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。 故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり── “冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。 皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。 冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」 一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。 追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、 ようやく正当に愛され、報われる物語。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

処理中です...