二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

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南の国の戦

混戦

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 カサンドラがヴェンデルガルトをヘンライン王国に連れ帰って来たのは、もう日が昇った頃だった。駱駝での距離よりずっと早い。戦場となっている所を高く飛びなるべく姿が目立たないようにして、戦場の反対側に降り立つ。戦っている兵士たちは、気付かなかったようだ。
『気を付けて降りて下さい』
 地面にヴェンデルガルトを降ろすと、カサンドラの身体は輝いて人間の姿になった。しかしその姿に、ヴェンデルガルトは驚いた顔をした。
「カサンドラ! あなた、お腹に赤ちゃんがいるの!? こんな無茶をしちゃだめよ!」
 青い顔のカサンドラに寄り添い、その身体を支えてヴェンデルガルトは心配そうに彼女の大きな腹を見た。
「大丈夫です――城に参りましょう。ヴェンデルガルトの魔力なら、上からでも怪我人に届きます」
 気丈にそう言ったカサンドラは、それでもヴェンデルガルトに身体を支えられたまま城の入り口を示した。二人はカサンドラの体に負担がない様に、出来るだけ急いで城の中に入った。
「どこに行っていた、心配したぞ。カサンドラ!」
 王らしい男が、カサンドラに駆け寄る。ヴェンデルガルトからカサンドラを受け取ると、不思議そうにヴェンデルガルトに視線を向けた。
「金の髪に金の瞳……? そなた、何者だ?」
「我々の救世主です、あなた。ヴェンデルガルトは、この大陸一の治癒魔法使いです」
 カサンドラは低い椅子に腰を掛けて、水を飲んだ。
「なんと! 素晴らしい、感謝する。ヴェンデルガルト嬢」
 王がそう言うと、周りにいた者の顔も明るくなる。ヴェンデルガルトは戦いが見える窓に向かい、戦場の様子を確認した。

「あ! やはり、ジークハルト様!」
 赤薔薇騎士団の制服に身を包んだジークハルトの姿が、人混みの中で見えた。彼は怪我をしたようには見えないが、所々に怪我を負い倒れている騎士の姿や南の兵の姿が見える。
治療ベハンドルング
 取り敢えず騎士服の騎士たちから治癒していくことにした。突然光が身体を包み怪我が治った騎士たちは「ヴェンデルガルト様だ!」「ヴェンデルガルト様がいるぞ!」と口々に声を上げた。それにより、バルシュミーデ皇国の騎士たちの指揮がまた上がった。夜明け前から戦っているというのに、「ヴェンデルガルトを取り戻す」という事に全員の心を一つにした。
 しかし、その言葉に驚いたのは二人の男だ。

「何故、ヴェンデルがここに!?」
「どういうことだ、こんなところにいるのか!? ヴェンデルガルト嬢!」

 アロイスとジークハルトが、困惑した声を上げる。返事をしたいのを我慢して、ヴェンデルガルトはバーチュ王国とヘンライン王国の兵を探した。
 その前に、毒を負ったランドルフと同じ兵を見つけた。確かランドルフはアンゲラー王国の王子に毒の付いた剣で斬られたと聞いた。少し迷ってから、ヴェンデルガルトはその毒らしい怪我を負っている兵たちにも治癒魔法をかけた。瞬時にその怪我が治り、驚いた顔をするも直ぐに剣を手に立ち上がって斬りかかっていく。

 戦場はかなりの混戦だ。門を突破したアンゲラー王国の兵が、雪崩のように門の内側に入り込んで来る。城の門を死守する兵士たちは、傷だらけだ。門を護っている兵士たちにも、ヴェンデルガルトは治癒魔法をかけた。

「我々には聖女がいる! 負けはしない!」
 薔薇騎士団が声を上げて、勇敢に敵に向かって行く。だが、アンゲラー王国の兵は全く怯まずに怪我を負っていても斬りかかって来る。まるで、操られているかのような気配に、ヴェンデルガルトはぞっとした。
「アンゲラー王国の兵は、幻覚作用と興奮作用のある薬草を飲んでいるのです。今は痛みすら快感に感じているのでしょう」
 カサンドラの言葉に、戦争とはこういう事なのかとヴェンデルガルトは恐ろしくなった。

 ドン!

「きゃ!」
 不意に、ヴェンデルガルトがいる窓辺近くに火の玉が飛んできた。ヴェンデルガルトは驚いて、窓から離れた。
「火の魔法を使う者を探すのです!」
 知らない女性の声が聞こえた。女性が戦場に居る事に、ヴェンデルガルトは驚いた。しかしこの状態では、探すことは難しいだろう。
「治癒魔法を使う者を探せ! 真っ先に殺せ!」
 アンゲラー王国の王子が叫んだ。その王子に、アロイスが斬りかかった。
「させるか! 死ぬのはお前だ!」
 アロイスも、知らない間に腹に傷を負っていた。ヴェンデルガルトは声を聞くと窓に寄り、その怪我を見つけて慌てて治癒魔法をかけた。

 アロイスは、身体を包む甘い香りと優しい光に瞳を細めた。彼女がいるなら、負けるはずがない。
 人数はアンゲラー王国の方が多かったが、ヘンライン王国の部隊は完全に劣勢を立て直して立ち向かっていた。
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