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南の国の戦
私とビルギット
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ジークハルト、カール、イザーク、ヴェンデルガルトは報告の前に休憩を取る様にと皇帝から命令が出た。丸一日は、部屋から出ずに体を休める事。四人は、素直にその命令を聞いた。と言うよりも、流石に身体が疲れていた。ベッドに横になると、明け方近くまで目を覚まさなかった。
「ヴェンデルガルト様」
夜明けに目が覚めたヴェンデルガルトは、ベッドの上に座って明け方の空を眺めていた。そこに、ドアがノックされてビルギットが顔を見せた。それだけではない、彼女の手には、お茶とガヌレットの皿があった。
「そろそろ起きられると思ったので、朝食までのおやつにいかがですか?」
「さすが、ビルギットだわ! 有難う」
ビルギットの言葉に、ヴェンデルガルトは喜んだ。いい香りのするガヌレットに、ヴェンデルガルトのお腹が小さく鳴った。「今日は、お行儀悪い事しても小言は言いませんよ」と、ベッドの上にトレイを置いた。それからベッド近くに椅子を置いたビルギットは、そこに座りヴェンデルガルトを見つめた。
しばらく振りに見るヴェンデルガルトは、少し肌が焼けたようだ。しかし、目立つほどではない。しかし、ビルギットは彼女の様子が少しおかしい事に気が付いていた。ヴェンデルガルトは何げない振りをしているが、少し大人びたような感じがした。
「やっぱり、ビルギットのガヌレットは、世界で一番美味しいわ!」
美味しそうにガヌレットを食べるヴェンデルガルトを、ビルギットは少し寂しそうに眺めた。
「――あのね、ビルギットに聞いて欲しい話があるの。長い話だけど、聞いて貰えるかしら?」
ガヌレットを食べ終えて紅茶を一口飲んだヴェンデルガルトは、少し沈んだ口調でビルギットにそう話しかけた。ビルギットは、「勿論です!」とすぐに頷いた。
それからヴェンデルガルトは、ビルギットと離れてからの事を話した。バーチュ王国での暮らし。三人の王子の事、二人の女性の龍。アンゲラー王国の幼くも恐ろしい王女のこと。初めて見た戦争。アロイスに求婚された話。アロイスが刺されて眠りについた事。コンスタンティンの遺言の事。
アロイスの話をすると、ヴェンデルガルトは涙を零した。ビルギットがロルフを見て過去の想い人を思い出した時のように、コンスタンティンを重ねて見ていた事。そして、でもアロイスはアロイスで、もしかすると自分は彼と共に南の国に残っていたかもしれない事。
ジークハルト達には言えなかった、ヴェンデルガルトの小さな恋心だった。
ビルギットが腕を伸ばして、ヴェンデルガルトを抱き締めた。
「もしもヴェンデルガルト様が南に残るのなら、私も南に向かいました。私の大事なヴェンデルガルト様。お辛い経験をしましたね。傍にいる事が出来ず、ビルギットはなんて愚か者なんでしょう。もしアロイス王子が目を覚まされたら、ヴェンデルガルト様が思う道をお選びください。私は、いつでもヴェンデルガルト様の傍にいます。あなたの後ろに、必ず私はいますから」
ビルギットの優しい言葉に、ヴェンデルガルトはわんわんと声を上げて泣いた。ジークハルトの傍で涙が枯れるまで泣いたと思っていたが、まだ涙は枯れていなかった。アロイスに対しての想いを口にした事で、残っていた最後の涙があふれ出たようだ。
「今は、ゆっくりお休みください。ヴェンデルガルト様は今、お身体も心も疲れていらっしゃいます。もしも運命がアロイス様をヴェンデルガルト様の伴侶に選ばれるなら、きっとまた出逢えます」
ビルギットの言葉に、ヴェンデルガルトは素直に頷いた。それに安心したビルギットは、ほっとした顔になった。しかし彼女の顔を見て、くすっと小さく笑う。
「目が赤くなってしまいましたね。タオルを濡らしてきます。朝、騎士団の皆様に見られて恥ずかしくないように、冷やしておきましょうね」
ヴェンデルガルトを離すと、ビルギットは部屋を出て行った。今日は、朝食を五薔薇騎士団の団長ととることになっていて、その場で今回の事の話し合いをする事になっていた。その話をまとめて、ジークハルトが皇帝に報告するのだ。
起き上がると、自分が南の服のままだった事に気が付く。アロイス、ツェーザルにーーベルトにバルドゥル。東のレーヴェニヒ王国の人達、水と火の龍。それが全部、過去の事になっていく。
「そうだわ」
ヴェンデルガルトは、ビルギットが冷たいタオルを持って帰ってくると一つの願い事をした。ビルギットは不思議そうな顔をしながらも、「用意しておきます」と受け入れてくれた。
そうして夜が明けてカリーナが来ると、ヴェンデルガルトはお風呂に入る事にした。そうして髪を乾かして北のドレスに着替えると、少し大人びたヴェンデルガルトの姿になった。
「ヴェンデルガルト様」
夜明けに目が覚めたヴェンデルガルトは、ベッドの上に座って明け方の空を眺めていた。そこに、ドアがノックされてビルギットが顔を見せた。それだけではない、彼女の手には、お茶とガヌレットの皿があった。
「そろそろ起きられると思ったので、朝食までのおやつにいかがですか?」
「さすが、ビルギットだわ! 有難う」
ビルギットの言葉に、ヴェンデルガルトは喜んだ。いい香りのするガヌレットに、ヴェンデルガルトのお腹が小さく鳴った。「今日は、お行儀悪い事しても小言は言いませんよ」と、ベッドの上にトレイを置いた。それからベッド近くに椅子を置いたビルギットは、そこに座りヴェンデルガルトを見つめた。
しばらく振りに見るヴェンデルガルトは、少し肌が焼けたようだ。しかし、目立つほどではない。しかし、ビルギットは彼女の様子が少しおかしい事に気が付いていた。ヴェンデルガルトは何げない振りをしているが、少し大人びたような感じがした。
「やっぱり、ビルギットのガヌレットは、世界で一番美味しいわ!」
美味しそうにガヌレットを食べるヴェンデルガルトを、ビルギットは少し寂しそうに眺めた。
「――あのね、ビルギットに聞いて欲しい話があるの。長い話だけど、聞いて貰えるかしら?」
ガヌレットを食べ終えて紅茶を一口飲んだヴェンデルガルトは、少し沈んだ口調でビルギットにそう話しかけた。ビルギットは、「勿論です!」とすぐに頷いた。
それからヴェンデルガルトは、ビルギットと離れてからの事を話した。バーチュ王国での暮らし。三人の王子の事、二人の女性の龍。アンゲラー王国の幼くも恐ろしい王女のこと。初めて見た戦争。アロイスに求婚された話。アロイスが刺されて眠りについた事。コンスタンティンの遺言の事。
アロイスの話をすると、ヴェンデルガルトは涙を零した。ビルギットがロルフを見て過去の想い人を思い出した時のように、コンスタンティンを重ねて見ていた事。そして、でもアロイスはアロイスで、もしかすると自分は彼と共に南の国に残っていたかもしれない事。
ジークハルト達には言えなかった、ヴェンデルガルトの小さな恋心だった。
ビルギットが腕を伸ばして、ヴェンデルガルトを抱き締めた。
「もしもヴェンデルガルト様が南に残るのなら、私も南に向かいました。私の大事なヴェンデルガルト様。お辛い経験をしましたね。傍にいる事が出来ず、ビルギットはなんて愚か者なんでしょう。もしアロイス王子が目を覚まされたら、ヴェンデルガルト様が思う道をお選びください。私は、いつでもヴェンデルガルト様の傍にいます。あなたの後ろに、必ず私はいますから」
ビルギットの優しい言葉に、ヴェンデルガルトはわんわんと声を上げて泣いた。ジークハルトの傍で涙が枯れるまで泣いたと思っていたが、まだ涙は枯れていなかった。アロイスに対しての想いを口にした事で、残っていた最後の涙があふれ出たようだ。
「今は、ゆっくりお休みください。ヴェンデルガルト様は今、お身体も心も疲れていらっしゃいます。もしも運命がアロイス様をヴェンデルガルト様の伴侶に選ばれるなら、きっとまた出逢えます」
ビルギットの言葉に、ヴェンデルガルトは素直に頷いた。それに安心したビルギットは、ほっとした顔になった。しかし彼女の顔を見て、くすっと小さく笑う。
「目が赤くなってしまいましたね。タオルを濡らしてきます。朝、騎士団の皆様に見られて恥ずかしくないように、冷やしておきましょうね」
ヴェンデルガルトを離すと、ビルギットは部屋を出て行った。今日は、朝食を五薔薇騎士団の団長ととることになっていて、その場で今回の事の話し合いをする事になっていた。その話をまとめて、ジークハルトが皇帝に報告するのだ。
起き上がると、自分が南の服のままだった事に気が付く。アロイス、ツェーザルにーーベルトにバルドゥル。東のレーヴェニヒ王国の人達、水と火の龍。それが全部、過去の事になっていく。
「そうだわ」
ヴェンデルガルトは、ビルギットが冷たいタオルを持って帰ってくると一つの願い事をした。ビルギットは不思議そうな顔をしながらも、「用意しておきます」と受け入れてくれた。
そうして夜が明けてカリーナが来ると、ヴェンデルガルトはお風呂に入る事にした。そうして髪を乾かして北のドレスに着替えると、少し大人びたヴェンデルガルトの姿になった。
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