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陰謀
皆の花
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薬を飲み始めて三日ほど。ヴェンデルガルトの容態が、少し良くなった気がする。意識がある時間が、増えたのだ。東の国のお茶のアヴァッケラーも言われるままに飲み、支えられてトイレに何度も行く。荒かった呼吸も、少し落ち着いていた。
「いいですね、良くなってきています」
頑張ってお茶を飲んでいるヴェンデルガルトの様子に、ビルギットは安心したようにそう呟いた。薬とお茶のお陰なのか、食事もほとんど食べられなかったヴェンデルガルトはまだ痩せたままだが、ずっと寝ていた時と随分変わった。
「心配かけてごめんなさい、私ずっと意識が曖昧で……」
「良いんですよ、ヴェンデルガルト様は休んで元気になる事が一番大事です」
カリーナがそう言うと、ヴェンデルガルトは小さく頷いた。
「東のお茶を勧めてくれたのは、ロルフです。本当に感謝しかありません」
「まあ、そうだったのね。有難う、ロルフ。このまま毒素を出して、早く元気になるわ」
「いえ、役に立てることがあって良かったです。ヴェンデルガルト様の笑顔がない城は、静かで色褪せています。他の騎士たちもみんな心配していますよ。頑張りましょうね」
褒められて照れたのか、ロルフは少し顔を赤くして笑った。
その時、コンコンとドアがノックされた。「イザークだ」と聞こえた声に、カリーナがドアを開けた。手には、たくさんの花や果物、お菓子が持たれていた。重そうな彼から、ロルフが慌ててそれを受け取った。
「ヴェーの見舞いに行くと言ったら、騎士たちからお見舞いの品を渡して欲しいと沢山預かった。一応変なものが紛れていないように、調べてあるから」
「ほら、こんなに沢山の人が心配していますよ」
豪華な品物たちではないが、ヴェンデルガルトの為に騎士団の皆が選んでくれた品だ。嬉しそうにヴェンデルガルトは微笑んだ。
「ヴェー……その、先日はごめんね? 体調が悪いのに、無理を言ってラムブレヒト邸に連れて行って。ジークハルトは無事だったけど、君に辛い事をさせてしまった」
ヴェンデルガルトが座るベッドから、少し離れてイザークは立って彼女に謝罪の言葉を口にした。本当に彼女に悪い事をしたと思っているようだ。下を向いて、彼女の顔を見れない。
「イザーク様」
ヴェンデルガルトが名を呼べば、イザークは慌てて顔を上げて彼女を見つめた。痩せてまだ青白い肌をしているが、笑顔はいつもの花のようなヴェンデルガルトが見返している。イザークは駆け寄ると、ヴェンデルガルトの手を握った。
「気にしないでください。ジークハルト様が助かったなら、本当に良かったです。イザーク様は間違った事をされていません――本当に、気にしないでくださいね。イザーク様がお辛そうな顔をしていると、私も辛いです」
「分かった――有難う、ヴェー。ヴェーも、早く元気になってね。僕は毎日、女神アレクシアに祈っているよ」
ぎゅっと握った手を、ヴェンデルガルトは弱くだが握り返した。その反応に、イザークは嬉しそうな顔になった。
昼過ぎ。ヴェンデルガルトに対しての負い目を無くしたイザークは、元気になり数人の部下と共に街に出ていた。騎士服では目立つので、町人らしい服に身を包んでいた。
市場、酒場、食堂、公園――色々な場所を回り、人々の話に耳を向けていた。一見関係なさそうな会話から、意外な繋がりが見える事もある。根気強く、イザーク達は町人たちの話を聞きに周った。
「――やはり、答えなかったか」
『アネモーネ』に、料理人たちが何か知っているかを吐かせようとした。しかし死亡する寸前まで拷問をしたが、「知りません、分かりません」としか口にしなかった。書類によると、料理人たちは言われた料理を仕込み、置いてあった枝を串にしろという事だと思い使った。未使用の串を焚火に入れなかった。焚火前で倒れた人に驚いているとイザークが来て、焚火を消すように指示されたという。イザークはその間、城にヴェンデルガルトを迎えに行っていた。
あの男か?
最近フロレンツィアの傍にいる新しい執事。ワインを配りに来てから、姿を見ていなかった。ジークハルトが倒れて料理人たちが慌てている間に、未使用の串を焚火に入れたのだろう。フロレンツィアの言いなりという事は、新しい愛人の一人かもしれない。しかし、証拠が何もない。イザークが何かを見つけてくれるまで、ジークハルト達は何も出来ない。
見舞いに来いとフロレンツィアが騒ぎ暴れていると報告があったが、「俺も病人だ」とジークハルトは断っていた。
ヴェンデルガルトの様子が少しづつ良くなっている。その報告だけが、ジークハルトにとって明るい兆しだった。
「いいですね、良くなってきています」
頑張ってお茶を飲んでいるヴェンデルガルトの様子に、ビルギットは安心したようにそう呟いた。薬とお茶のお陰なのか、食事もほとんど食べられなかったヴェンデルガルトはまだ痩せたままだが、ずっと寝ていた時と随分変わった。
「心配かけてごめんなさい、私ずっと意識が曖昧で……」
「良いんですよ、ヴェンデルガルト様は休んで元気になる事が一番大事です」
カリーナがそう言うと、ヴェンデルガルトは小さく頷いた。
「東のお茶を勧めてくれたのは、ロルフです。本当に感謝しかありません」
「まあ、そうだったのね。有難う、ロルフ。このまま毒素を出して、早く元気になるわ」
「いえ、役に立てることがあって良かったです。ヴェンデルガルト様の笑顔がない城は、静かで色褪せています。他の騎士たちもみんな心配していますよ。頑張りましょうね」
褒められて照れたのか、ロルフは少し顔を赤くして笑った。
その時、コンコンとドアがノックされた。「イザークだ」と聞こえた声に、カリーナがドアを開けた。手には、たくさんの花や果物、お菓子が持たれていた。重そうな彼から、ロルフが慌ててそれを受け取った。
「ヴェーの見舞いに行くと言ったら、騎士たちからお見舞いの品を渡して欲しいと沢山預かった。一応変なものが紛れていないように、調べてあるから」
「ほら、こんなに沢山の人が心配していますよ」
豪華な品物たちではないが、ヴェンデルガルトの為に騎士団の皆が選んでくれた品だ。嬉しそうにヴェンデルガルトは微笑んだ。
「ヴェー……その、先日はごめんね? 体調が悪いのに、無理を言ってラムブレヒト邸に連れて行って。ジークハルトは無事だったけど、君に辛い事をさせてしまった」
ヴェンデルガルトが座るベッドから、少し離れてイザークは立って彼女に謝罪の言葉を口にした。本当に彼女に悪い事をしたと思っているようだ。下を向いて、彼女の顔を見れない。
「イザーク様」
ヴェンデルガルトが名を呼べば、イザークは慌てて顔を上げて彼女を見つめた。痩せてまだ青白い肌をしているが、笑顔はいつもの花のようなヴェンデルガルトが見返している。イザークは駆け寄ると、ヴェンデルガルトの手を握った。
「気にしないでください。ジークハルト様が助かったなら、本当に良かったです。イザーク様は間違った事をされていません――本当に、気にしないでくださいね。イザーク様がお辛そうな顔をしていると、私も辛いです」
「分かった――有難う、ヴェー。ヴェーも、早く元気になってね。僕は毎日、女神アレクシアに祈っているよ」
ぎゅっと握った手を、ヴェンデルガルトは弱くだが握り返した。その反応に、イザークは嬉しそうな顔になった。
昼過ぎ。ヴェンデルガルトに対しての負い目を無くしたイザークは、元気になり数人の部下と共に街に出ていた。騎士服では目立つので、町人らしい服に身を包んでいた。
市場、酒場、食堂、公園――色々な場所を回り、人々の話に耳を向けていた。一見関係なさそうな会話から、意外な繋がりが見える事もある。根気強く、イザーク達は町人たちの話を聞きに周った。
「――やはり、答えなかったか」
『アネモーネ』に、料理人たちが何か知っているかを吐かせようとした。しかし死亡する寸前まで拷問をしたが、「知りません、分かりません」としか口にしなかった。書類によると、料理人たちは言われた料理を仕込み、置いてあった枝を串にしろという事だと思い使った。未使用の串を焚火に入れなかった。焚火前で倒れた人に驚いているとイザークが来て、焚火を消すように指示されたという。イザークはその間、城にヴェンデルガルトを迎えに行っていた。
あの男か?
最近フロレンツィアの傍にいる新しい執事。ワインを配りに来てから、姿を見ていなかった。ジークハルトが倒れて料理人たちが慌てている間に、未使用の串を焚火に入れたのだろう。フロレンツィアの言いなりという事は、新しい愛人の一人かもしれない。しかし、証拠が何もない。イザークが何かを見つけてくれるまで、ジークハルト達は何も出来ない。
見舞いに来いとフロレンツィアが騒ぎ暴れていると報告があったが、「俺も病人だ」とジークハルトは断っていた。
ヴェンデルガルトの様子が少しづつ良くなっている。その報告だけが、ジークハルトにとって明るい兆しだった。
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