二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

文字の大きさ
102 / 125
陰謀

町の噂

しおりを挟む
「いやあ、ヴェンデルガルト様はどなたと婚約されるんだろうな」
 そんな会話が聞こえてきたのは、酒場だった。イザークは酒に強い。バルシュミーデ皇国の酒と言えばブーナだ。ほろ苦く、泡の立つ黄金色の酒で男は好んでこれを飲む。貴族のパーティーではワインやシャンパンが多くなるが、町人はこれを飲む。それに合わせて、イザークもブーナを飲んでいた。
 関係ない話題だったが、テーブル席にいる三人の男がブーナを飲みながら、そんな話で盛り上がっていた。
「俺は、カール様にお似合いだと思うなぁ。奥手のカール様にも、ヴェンデルガルト様は優しいって聞くぞ? パーティーでダンスが踊れないカール様と、城でダンスを踊ったそうじゃないか!」

 ――カール。城の外でもこんな事言われているんだ……。

 相方を少し不憫に思いながら、その話に聞き耳を立てる。
「俺は、やっぱりギルベルト様だよ! 目を治して下さって、ギルベルト様は感謝と共に深い愛情でヴェンデルガルト様を見守っているらしいからな。しかし、包帯の下にはあんなお綺麗な顔があったとはなぁ。こっぴどく婚約破棄したご令嬢も、今頃後悔してるんじゃねぇか?」
 包帯を巻いていた時のギルベルトは、必要な時以外は人目に付かないようにしていた。しかし今は自信が出て、外交の席にも積極的に顔を出している。確かに、ヴェンデルガルトのお陰としか言えない。無償の愛で治してくれたヴェンデルガルトに惚れるのも仕方ないだろう。
「いやいや、やっぱりジークハルト様だよ!」
 かなり酔った男は、ドンとジョッキをテーブルに置いて力強く言った。
「ジークハルト様には、婚約者が決まったじゃないか」
「ダメダメ、あの婚約者は駄目だ。ほら、街の南の花屋の未亡人を、父親が愛人にしたそうじゃないか。節操ないのが遺伝したのか、その絵描きの息子はジークハルト様の婚約者の愛人になったって聞くぞ? 親子で親子を愛人にしてるなんて、俺には考えられねぇよ。ジークハルト様が、バッサリあの親子を戒めてヴェンデルガルト様を皇妃にしてくれないかなぁ……あの綺麗な金の髪に金の瞳だぞ? 身分も王女だし、ジークハルト様が一番だ」
 話の内容に自分が入っていない事に文句が言いたいが、気になる話題が出て来た。町の南の花屋の親子を、愛人にしている? もしかして、そこに何か隠していないか?
 それからしばらくその三人の話を聞いていたが、話題は違うものになった。これ以上は情報が入らないと、イザークはその酒場を出た。

 それから夕方近くになるとイザーク達は教会に集まり、集めた情報を共有した。
「町の家具職人が、突然死をしたそうなんです。なんでも、大金が入る仕事を貰った、と近所に話していたそうです。しばらく家具を作っていたようですが、急死したようで。突然死ですね、出来上がった家具は見当たらなかったそうです」
 部下の一人が、気になる話を持って来た。
「出来上がったものが無くなって、突然死……不自然だね。それも少し調べよう。他には?」
「ヤバそうな話を聞きました。何でも、薔薇騎士団とは違う部隊を皇国が作る準備をしている。功績次第では爵位や領地が貰える。その部隊に入りたい人を、『ラムブレヒト卿が代表』として集めている。しかしこの話は極秘で、おおやけに話すと処分される――そんな話が、ラムブレヒト公爵が開くパーティーやお茶会で話されているそうです。主に、薔薇騎士団に入っていない子爵や男爵位の若い男に話していると聞きました」
「なにそれ。そんな話聞いてないよ。明らかに怪しいね、誰から聞いた?」
 イザークは、怪訝そうに眉を寄せた。
「従兄弟から、本当なのか? と聞かれました。信用できる話だと思います」
「そうか――それも調べよう。あとは、僕が聞いたラムブレヒト公爵の愛人親子だね。先に、ジークハルトに報告をするよ。それから、その怪しい三つの事を調べよう」
 青薔薇騎士団は頷くと、一度城に戻って騎士服に着替えた。イザークは彼らと別れて、ジークハルトの執務室に向かった。

「どれも気になる話だな。引き続き、調べてくれ。俺は、フロレンツィアの新しい執事が気になる――パーティーで、ワインを持って来た男だ」
 ジークハルトの言葉に、イザークはあの夜を思い出した。確かに、ヴェンデルガルトを見舞いに来たと彼女が現れた時に、迎えに来た男と同じ人物だ。
「じゃあ、それも調べるよ。でも――一貫してるね」
「何がだ?」
 イザークの言葉に、ジークハルトは不思議そうに訊ねた。
「フロレンツィアの愛人だよ。皆、ジークハルトに似た雰囲気じゃないか。もしかしたら、彼女なりにジークハルトには本気で恋をしているのかもしれないよ? 皇国転覆を狙っていても、彼女はジークハルトを手放さないと思う」
「……」
 ジークハルトは、癖になったように溜息を零して頭を掻いた。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

まさか私が王族の一員であることを知らずに、侮辱していた訳ではありませんよね?

木山楽斗
恋愛
王城の使用人であるメルフィナには、ある秘密があった。 彼女は国王の隠し子なのである。 その事実は、半ば公然の秘密となっていた。公にされたことは一度もないが、嗅覚に優れた者達はそれを察知していたのだ。 しかし中には、そうではない者達もいた。 その者達は、メルフィナを一介の使用人として考えて、彼らなりの扱い方をした。 それは許されるものではなかった。知らぬうちに王家に牙を向けた者達は、その行為の報いを受けることになったのだ。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

処理中です...