二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

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陰謀

地下牢での事

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 クラーラの話は、正に平和な日常からの地獄へ落とされた話だった。
「やはり、二百年前の事件と同じですわね」
 とビルギットが囁くと、イザークが頷いた。
「マッサは西で発見された植物だ。マッサで西の国が一つ滅びたんだ。バルシュミーデ皇国が西を制圧した時、マッサは取り扱わないようにしたんだよ。危険植物として、所持しただけでも罪になる法律も作られている」

 ある日、フロレンツィアが屋敷を訪れた。フロレンツィアだけでなく、ヒューン伯爵家のエリーザ嬢、ヘンチュケ侯爵家のマルガレーテ嬢も居たそうだ。二人の親はラムブレヒト公爵の取り巻きだったので、三人が行動を同じくしても間違いではない情報だろう。
「社交界デビューをする時に、恥ずかしくないように礼儀作法をお教えしますわ。勿論、お金は不要です。しばらくお嬢様をお預かりしてもよろしいでしょうか?」
 フロレンツィアは、にこやかにそう言った。また後日かと思ったのだが、馬車を用意していると言われ、何の荷物も持たせず三人はクラーラを連れ去った。乗せられた馬車には鍵が付いていて、中には四人程の同じ年くらいの少女がいた。それから馬車が色々な貴族の家を訪ねて、昼過ぎには十人と少し集められた。馬車の中は一杯だ。

 それから、ラムブレヒト公爵の別宅と言う所に連れていかれた。出されたお茶を飲むと、何故か意識が遠くなった。そうして目が覚めると、地下牢のような所に運ばれていた。服も脱がされて、淑女のものとは思えない卑猥な下着姿にされている。逃げ出そうにも。手枷もされていた。檻のようなものに囲まれて、二人で一つのエリアに繋がれていたようだ。「出してください!」と叫ぶも、辺りにはすすり泣く声だけが聞こえて来る。
「私たち誘拐されたんだわ」
 隣で同じような状態の少女が、目を覚ましたクラーラに絶望的な言葉を言った。

 それから、定期的に薬を打たれる。地下牢の中は甘くどこか重い香も焚かれていて、数日経つと意識がはっきりしなくなってきた。執事らしい男に地下から出されると、仮面を被った女に注射を打たれた。その注射を打たれると、高揚感と激しい幸福感に満たされて自我を保てなくなる。酔ったように歩き、寝室でワインを飲んだり薬を炙って嗅いでいる公爵や侯爵、伯爵たちの元へ運ばれる。そうして再び意識を取り戻すと、地下牢で寝かされていた。
 食事は二回運ばれるが、薬の影響なのかあまりお腹が空かなくなった。食べないので痩せていく。ひどく痩せてしまった子は、どこかに連れていかれた。それから顔を見ていないので、どうなったのか分からない。クラーラは意識がはっきりしている時から、手枷の鎖をずっと檻の鉄にぶつけていた。
 ある日、その手枷の鎖が割れた。元々、良い鉄を使っていなかったのだろう。自由になったクラーラは、いつも使用人が小さなはしごで降りてくる鉄網の所までふらふらと歩いて行った。
 ――夕日が見えた。
 それは、奇跡の明かりだった。手枷の付いた腕で、ズレていた穴をふさぐ木の板を必死に退けていた。話し声が聞こえる――しかし、この機会を逃すともう逃げられないかもしれない。焦ったクラーラは、小石に当たって音が出ても気にせずに必死に板を退けようとしていた。

 そうして、板が退けられて見た事がある男が自分を驚いたように見ているのに気が付いた。
 第一王子の、ジークハルト様。しかし彼は、フロレンツィアの婚約者だ。また捕まるかもしれない――だが、神はいた。ジークハルトは、クラーラを助けたのだ。


「少なくとも、十人以上はあの地下牢にいると思います。栄養不良の子は何処に連れていかれたのか分かりません――お願いします! 助けて下さい! 皆を、助けて下さい!」

 涙を流しながら叫ぶクラーラを、カリーナが強く抱き締めた。自分一人が助かった事を、彼女は恥じている。仲間を助けなかった自分を、罰しているのだ。

「君と一緒に居た子は、誰?」
 イザークが静かに尋ねると、クラーラは手で涙を拭いイザークをしっかりと見た。
「ラングヤール子爵家の、ローザ様です」
「子爵、男爵家を主に狙っているのかな。間違って死なせても、権力で黙らせそうだよね」
「イザーク」
 クラーラの前で、配慮がない言葉だった。たしなめるようなギルベルトの声に、イザークはそれに気が付いて深々とクラーラに頭を下げた。
「申し訳ありません」

「一斉に救助できる策はないのか?」
 ジークハルトの声に、ギルベルトとイザークは顔を見合わせた。
「多分、ギルベルトと同じ事を思っているよ」
「そうですね、ジークハルトが城でパーティーを開いてフロレンツィアを連れ出せばいいのです――あの、花屋の長男。画家でありフロレンツィアの愛人であり、執事をしている男もですね。何となく、あの人は賢そうです」

 ヴェンデルガルトとビルギットは、顔を合わせて不思議そうな表情になった。

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