あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV

文字の大きさ
9 / 93
第2章 再会編

第9話 二つ目のアルバイト/亮二

しおりを挟む
「えっ? 広美が夏休みにエキサイトランドでバイトをするのか!?」

 もうすぐ夏休みの7月上旬、突然、広美がアルバイトを始めると言い出した。
 そしてアルバイト先があの遊園地、エキサイトランド……

 実は広美のお父さんの隆おじさんも高校生の頃、エキサイトランドでアルバイトをしていて、園内にある大観覧車『ステップスター』のてっぺんで広美のお母さんである香織おばさんにプロポーズをしたそうだ。

 この話は広美から耳にタコができるくらいに聞かされている。

「うん、昔お父さんがお世話になった根津さんっていう人が今は所長さんらしくてね、その根津さんからお父さんに『夏休みはナイターもあって人手が足りなくなるから誰か若い子を数人、紹介してくれないかな? もし良ければ娘さんでも構わないよ』って連絡があったのよ」

「でも何でアルバイトをいちいち知り合いに頼むんだ? アルバイト募集の広告に出せば済むことなのにさ……」

「うーん、それはよく分からないけど、根津さんとすれば全然知らない人を雇うよりも知り合いの紹介の方が何となく安心できるんじゃないの。私は小さい頃に何度か根津さんと会ったことあるしね」

 そんなものなのかなぁ……

 でも俺も今のバイトは千夏ねぇの紹介で働かせてもらっているし、それと同じ事かもしれないな。

「それで隆おじさんも真っ先に広美に声をかけたってことかぁ?」

「そうなの。お父さんも私なら安心だって言ってくれているし、それに私は来年の春には東京に行くけど、お金もかかるし少しでも両親の負担を軽くしたいなぁって思っていたからバイトの話が来て丁度良かったと思ったんだぁ」

 広美らしいよな。隆おじさんは会社の社長さんだし、香織おばさんも今は幼稚園の園長先生をしているから生活には全然困っていないと思うけど……

 でも広美は昔から金持ちの娘らしくないんだよなぁ……まぁ、俺は広美のそんなところも好きなんだけどな。

「それにお父さんが高校時代にやっていた遊園地で私もアルバイトできるなんて、凄く素敵だと思わない?」

 思わねぇよ。このファザコン娘!!
 と言いたいところだけど……

「そ、そうだな」

 ブブッ

 あっ、メールが来た。

「広美、ゴメン。ちょっとメールが来たみたいだから確認させてもらうぞ」

「うん、どうぞ~」

 俺はズボンの後ろポケットから携帯電話を取り出しメールを確認する。

「あっ」

 思わず声を出してしまったが、広美は気付いていない。
 そしてメールの差出人は千夏ねぇだった。

 メールに書かれている内容は『そろそろ返事が欲しいなぁ。あれから結構、日にち経ってるぞぉ』だった。

 そうである。俺は千夏ねぇに告白された時に出来るだけ早く返事をすると言っておきながら未だに返事をしていなかった。

 本当は直ぐに広美に告白をし、フラれたらキッパリ諦めて、俺の事を好きだと言ってくれている千夏ねぇと付き合ってみようと思っていたズルい奴だ。

 そんな『ズルい奴』が未だに広美に告白できていないということで『情けない奴』という言葉が付け加えられている状態であった。

 このままではマズいと思った俺は千夏ねぇに『夏休み中にハッキリさせるから出来ればそれまで待って欲しい。いいかな? ワガママ言ってゴメン』とメールを打ち返信をした。

 ブブブッ

 千夏ねぇから直ぐに返信が来る。

 『了解。頑張れ亮君!!』と短い内容のメールだった。

 俺はそのメールを見て決断する。

「広美、俺もエキサイトランドでアルバイトできないかな?」

「えっ? でも亮君は焼き鳥屋さんでバイトしてるじゃない。もしかして辞めちゃうの?」

「辞めないよ。焼き鳥屋のバイトは平日の夜だけだし、ローテで回しているから毎日じゃないし、エキサイトランドのバイトも上手く調整すれば出来ると思うんだ。俺も昔から遊園地のアルバイトも経験したいと思っていたしさ……」

 本当は少しでも広美と長い時間を一緒に過ごしたいってのが本音だけど。
 それにそうしないと一生、俺は広美に告白出来ない様な気もするし……

「分かったわ。帰ってからお父さんに聞いてみる。本当は違う男子に声をかけようかと思っていたんだけど亮君の方が気を遣わなくてもいいから楽だもんねぇ」

「イヤイヤ、俺にも気を遣えよ」

「フフフ……気を遣わなくてもいいのが幼馴染の特権じゃない?」

 幼馴染の特権かぁ……その縛りのせいにして俺は広美に対し今まで一歩を踏み出せなかったんだよなぁ……って、これも言い訳に聞こえてしまう。俺はこれまでの関係を失う事を恐れていただけのただの臆病者なんだ。

「それはそうと演劇の練習はどうするんだ? 秋に大事な発表会があるんじゃなかったのか? 広美にとっては最後の発表会だろ?」

「それは全然、大丈夫よ。演劇部員はみんな優しいから私のスケジュールに合わせて練習をしてくれるんだぁ」

「そうなんだ。さすが演劇部の女王様だな? ハハハハハ」

「女王様って何よぉ? 失礼しちゃうわねぇ。私は演劇部の部長なだけよ。それに部員全員が私の夢の応援をしてくれているから、何かと融通が利くんだよ」

 夢の応援か……俺も広美の夢の邪魔をしたくないという思いで、これまで何の進展もなかったと言えば恰好の良い言い方だよな……でも、この夏で俺の気持ちにケリをつけないと俺自身も前に進めない……


 夏休みになり今日がアルバイト初日、俺と広美はエキサイトランド内のアトラクションの一つ『ハリケーン・エキスプレス』の裏にある事務所で仕事の説明を聞いていた。俺達はこの『ハリケーン・エキスプレス』でアルバイトをする事が決まっていた。
 
 ちなみに俺達が働く『ハリケーン・エキスプレス』は横並びの最大四人乗り用の座席が円形に繋がっており、ジェットコースター並みのスピードで凸凹したレールの上をグルグルと前方に高速回転した後、次に後ろ向きにも高速回転するという、スリルがあって楽しいけど人によっては酔ってしまうかもしれないアトラクションだ。

「ハリケーン・エキスプレスはね、日頃はさほど人気のあるアトラクションではないんだけどねぇ、屋根があるから雨の日だけは園内で一番人気のアトラクションになっちゃうんだよねぇ……ハハハ、複雑な気分になっちゃうだろぉ?」

「は、はい……そうですね……」

 今、俺達の目の前で話をしてくれているのが所長の根津さんだ。

 根津さんの第一印象はどこからどう見ても子供達の夢の国の所長ではなく『や〇ざ』にしか見えない。パンチパーマでサングラスをかけていて口元には髭を生やしている。でも話し方はとても優しくて聞き心地が良い。

「しかし、しばらく見ない間に広美ちゃんも大きくなったねぇ? お母さんに似てとても美人さんになっているし」

「ハハハ、ありがとうございます。そういえばうちのお母さんって根津さんの初恋の人に似ているんですよねぇ?」

「えっ!? 隆君は広美ちゃんにそんな事まで話しているのかい?」

「フフフ……お父さんは何でも話してくれるんですよぉ。それと今でも事務所近くのベンチで『チュンチュン』って言いながらスズメに餌をあげているんですかぁ?」

 広美、何て事を聞くんだよ!?
 さすがに根津さんも怒ってしまうんじゃ……

「ハッハッハッハ!! そうそう、これは日課になっているからね。スズメ達も私が来た途端に集まって来るんだよ。それが凄く可愛くてねぇ……」

 あの強面の顔でスズメに餌をあげているのか?
 想像しただけで吹き出してしまいそうだ。

 ガチャッ

「 「 「おはようございまーす」 」 」

 事務所に他のスタッフさん達が出勤してきた。

「みんなおはよう、それじゃ二人に他のスタッフ達も紹介しようかねぇ」


 こうして俺の2つ目のアルバイトが始まった。




――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
どうぞ第2章も引き続きよろしくお願いいたします。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。  入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。  しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。  抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。  ※タイトルは「むげん」と読みます。  ※完結しました!(2020.7.29)

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

幸せのありか

神室さち
恋愛
 兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。  決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。  哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。  担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。  とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。 視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。 キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。 ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。 本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。 別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。 直接的な表現はないので全年齢で公開します。

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ
恋愛
 桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。  しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。  風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、 「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」  高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。  ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!  ※特別編11が完結しました!(2025.6.20)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

処理中です...