あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV

文字の大きさ
12 / 93
第2章 再会編

第12話 奇跡の再会/亮二

しおりを挟む
 エキサイトランドでバイトを始めてから3週間が経とうとしていた。

 俺はいつも早めに出勤して開園するまで事務所でゆっくりしているが、今日は山田さん家族が友人家族と一緒に遊びに来ると言っていたので少し落ち着かないでいた。

 そして今日に限って珍しく広美も早く出勤している。

「亮君、今日は日曜だからお客さんたくさん来るといいわね?」

 広美はなんだか嬉しそうな顔をしている。

「俺はあまりお客が多いのは……ってか、広美なんだか嬉しそうだな? 何か良い事でもあったのか?」

 俺がそう尋ねると、広美の口から驚く言葉が出てきた。

「実は今日ね、幼稚園の頃の先生家族がお友達家族と遊びに来るの。仕事しているところを見られるのは少し恥ずかしいけど、やっぱり来てくれるのは嬉しいなぁって思ってさ……」

「えっ、広美もなのか? 俺も今日、マスター家族が友人家族と一緒に遊びに来るって昨日の夜に連絡があったんだよ。だから全然落ち着かなくてさ……」

「へぇ、それは奇遇だねぇ? って事は今日一日、私達緊張しながらの仕事になるかもしれないわね? フフフ……」

 広美が緊張しながら仕事をするってのはあり得ないな。今までたくさんの観客の前で演劇をしてきたんだからな。

「いずれにしても特に今日はマスター達の前で失敗しているところは見せたく無いから慎重にやらないと……」

 マスターにエキサイトランドに遊びに行くと聞かされた時はもしかして千夏ねぇも付いて来るんじゃないかとビクビクしたけど、そうじゃないみたいだから少しホッとしたんだけどな。

「チュンチューン!!」

 ん? 所長の根津さんがスズメに餌をやっているみたいだな? 
 相変わらず、見た目とやっている事のギャップが半端ないよな?

 ガラッ……ガラガラッ

「おはよう。あれ? 鎌田君はいつも来るのが早いけど広美ちゃんも今日はやけに早い出勤だねぇ?」

「根津さん、おはようございます。そうなんです。今日は知り合いが遊びに来るのでそれを考えていたらだと思いますが早く目が覚めてしまって……」

「ハハハ、なるほど、そういうことか。それでその知り合いは何時くらいに来るんだい? 出来れば休憩時間を合わせてあげるよ」

「ありがとうございます。でも合わせてもらわなくて大丈夫ですよ。それに亮君の知り合いも今日、来るらしいので私だけっていうのは気を遣いますし……亮君もとなると他の先輩達に申し訳ないですし……」

 ん? そういう事は俺に気を遣うんだな?

「オッケー、それじゃぁ、いつも通りの体制で仕事をしてもらおうか? で、広美ちゃんの知り合いってどんな人が来るんだい?」

 根津さんがそう問いかけると広美の顔がニヤリとする。

「フフフ……今日来る私の知り合いの名前を聞けば根津さん、ビックリしますよぉ」

「え、そうなの?」

「はい、今日来る人はぁ……三田さん家族です!!」

「えーっ!? そうなのかい!? それはビックリだよ。そうかぁ、三田君と佐々木さん、いや真由子ちゃんが来るのかぁ……それは楽しみだねぇ。会うのは五年ぶりくらいになるかなぁ……その後、私は別の遊園地へ移動になったからねぇ……あの時、連れて来ていた娘ちゃんも大きくなっただろうねぇ……」

「私も三田さんご夫婦に会うのは久しぶりなんですよ。それに娘ちゃんも2歳か3歳くらいの時に会った以来ですし……」

 それから広美は根津さんに五年の間に下の子も生まれた事や一緒に来る数家族のうちのひとつが大塚という人で、その名前を聞いた根津さんは更に驚いていた。

「へぇ、大塚さんも来てくれるのかぁ。懐かしいなぁ……ちょっとしたプチ同窓会みたいだね? もし広美ちゃんのお父さんまで来ちゃったら凄いことになるだろうねぇ? ……でも大塚さん、子供さんもいて今の苗字が大塚って事は……いや、大人の事情があるだろうからそこらへんは聞かないようにしよう」

 しかし、とてもいかつい根津さんが一番ワクワクしている様に見えるけど、なんだか奇妙な感じだな。

「ところで鎌田君の知り合いはどんな人が来るんだい?」

「え? ああ、僕が高1の時からバイトをさせてもらっている焼き鳥屋のマスター家族が来るんですよ。マスター達も友人家族と来るって言ってましたけど」

「ほぉ、焼き鳥かぁ……私は焼き鳥が大好きなんだよ。お店の名前は何ていうだい? 今度、次の日が休みの時にでも行こうかなぁ」

「是非、いらしてください。店の名前は『焼き鳥やまだ』っていいますので。後で住所をお教えしますよ」

「おお、ありがとう。それじゃ後で教えてね?」

「やまだ……?」

 突然、広美が首を傾げながらマスターの名前を呟いている。

「どうした、広美? 山田さんがどうかしたのか?」

「いえ、その山田さんって私の知っている人かなぁって思ったんだけど、でも全国に山田っていう人はたくさんいるから、さすがにそんな偶然は無いよねぇ……」

「ハハハ、そりゃそうだよ。山田さん夫婦は7年くらい前に東京からこの青葉市に引っ越して来たらしいし……ん? でも二人共、元々こっち出身だって言っていたような……いやいや、だからって広美が知っている山田さんってことは無いと思うんだけどなぁ」

 もしマスター達が広美の知り合いだったらこんな奇跡はないけどな。

 広美が鶏肉嫌いじゃなかったら一度くらいうちの店に来て知っている人かどうかハッキリさせることができたかもしれないけど……それに千夏ねぇだって今までそんな事は言っていなかったしな。

 千夏ねぇだって広美の知っている山田さんって人を知っているだろうから……


『まもなくエキサイトランド開演です』

「あっ、ヤバい!! 広美、そろそろ時間だぞ。開園の準備をしないと」

「う、うん……そうだね」

「よーし、今日は日曜日でお客さんも多いだろうし、二人の知り合いも来るしみんな張り切って頑張ろう!!」

「 「はい!!」 」



 やはり予想通り日曜日ということで朝からお客さんが多かった。俺が働いている雨の日だけ人気のある『ハリケーン・エキスプレス』もさすがに今日はお客さんの入りが凄かった。

 隣のお化け屋敷の方まで客の列が伸びている。

「鎌田君、大丈夫かい? 顔色が悪い気がするんだけど。早めに休憩に行ってくれても構わないよ」

 俺の顔色を見て心配して声をかけてくれたのは『ハリケーン・エキスプレス』の責任者を5年前に根津さんから引き継いだ松本さんだった。

「大丈夫です。顔色が悪いのは疲れているんじゃなくて、もうすぐ知り合いが来ると思ったら少し緊張してきたからだと思いますので」

「ハハハ、そういう事かい。オッケー、それじゃぁ本当に疲れたら遠慮せずに言ってくれよぉ?」

「はい、ありがとうございます!!」

 いつも思うけど本当に俺って良い人に恵まれているよなぁ……
 これが人徳っていうやつなのか?

 イヤイヤイヤッ、俺に人徳だなんて……そんなのがあればとっくに広美と……
 それに調子に乗った途端にいつも失敗をしてしまうのが俺なんだ。ここは慎重にしないとな。

 俺は気を引き締め直して操縦室前に立ち、前方に回転中の乗り物の安全確認をしていた。すると俺から少し離れた搭乗口付近が騒がしくなっている。

 ん? 何かあったのかな?


「広美ちゃん-ん、久しぶり~!! しばらく見ないうちにすっかり大人の顔になっちゃって~!! ほんとお母さんにソックリだわ!!」

 搭乗口付近が賑やかになったのは広美の知り合いの人達が来たからみたいだ。

「ありがとうございます。マーコ先生も相変わらずお綺麗ですよ。あれ? この可愛らしいお嬢さんはもしかしてカナちゃんですか?」

「フフフ……そうよ、広美ちゃんがよくあやしてくれていた、あの加奈子よ」

「やっぱりそうなんだぁ。ん? でもカナちゃんの顔……うーん、どこかで会った事があるような……どこだったかなぁ……?」

 しかし広美のやつ、仕事を忘れて喋り過ぎじゃないのか?
 他のお客さんに迷惑をかけてしまうじゃないか。よし、俺が広美に注意を……

 あれ!? 

 広美の知り合い家族の後ろに並んでいるのはマスター達じゃないか!?

 いや、絶対にそうだ。もしかして広美の知っている山田さんと同一人物ってことなのか!? そんな奇跡ってあるものなのか?

 それに……さっきから広美が話かけている女の子が広美の方を見ずにずっと俺の方を見ている様な気が……

 イヤイヤイヤッ、さすがに自意識過剰だろ?

 さっき調子に乗らないって思ったところだし……でも、やはり俺を見ている様な……

 えっ!? 
 あの子、泣いていないか!?

 もしかして広美のやつ、あの子になんか失礼な事を言ったんじゃないだろうな!?

 でも待てよ。あの子の顔に似た子をどこかで見た事があるような……

 ん? あの子、俺に向かって何か言おうとしているぞ。

「りょ、りょう君……」

 えっ!? 

 も、もしかして……

「か、カナちゃん……なのか……?」






――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。

遂に奇跡の再会か!?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

幸せのありか

神室さち
恋愛
 兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。  決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。  哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。  担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。  とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。 視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。 キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。 ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。 本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。 別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。 直接的な表現はないので全年齢で公開します。

管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ
恋愛
 桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。  しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。  風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、 「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」  高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。  ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!  ※特別編11が完結しました!(2025.6.20)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。  入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。  しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。  抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。  ※タイトルは「むげん」と読みます。  ※完結しました!(2020.7.29)

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

俺の心を掴んだ姫は笑わない~見ていいのは俺だけだから!~

あとさん♪
恋愛
侯爵令息のオリヴァーは代わり映えのしない毎日に飽きていた。 飽和した毎日の中、鮮烈な印象を残したのはブリュンヒルデ・フォン・クルーガー伯爵令嬢。 妹の親友だと紹介された伯爵令嬢の生態を観察するうちに、自分の心がどこを向いているのかに気が付く。 彼女はいつの間にか、自分の心を掴んでいた。 彼女が欲しい! けれど今の自分では彼女に釣り合わない。 どうしよう、どうしたらいい? 今自分が為すべきことはなんだ? オリヴァーは生まれて初めて全力を尽くす決心をした。 これは、ひとりの少女に愛を乞うために、本気を出して自分の人生に向き合い始めた少年がちょっとだけマシな人間になるまでのお話。 ※シャティエル王国シリーズ、5作目。 ※シリーズ4『お姉さまは酷いずるいと言い続け、王子様に引き取られた自称・妹なんて知らない』でちょい役だったオリヴァー視点のお話です。 ※このお話は小説家になろうにも掲載しております。

処理中です...