あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV

文字の大きさ
30 / 93
第3章 想い編

第30話 それぞれの旅立ち/亮二

しおりを挟む
 千夏ねぇと話をした次の日の朝、俺は根津所長に8月いっぱいでエキサイトランドを辞めることを伝え、了承してもらう。その際、事務所には松本さんがいたけど、最初は黙って俺と根津所長の会話を聞いていたが、途中から割り込み、俺の手を握り泣きながらこう言った。

「鎌田君が受験勉強に専念する為には仕方ないけど、本当に残念だよ。もしよければ大学生になったら、またうちでバイトしてくれても構わないんだからね。いつでも大歓迎だから」

「あ、ありがとうございます。その時は宜しくお願いします」

 松本さんが涙を流しながら言ってくれたので俺まで泣きそうになってしまった。
 ちなみに広美はエキサイトランドで年内はアルバイトを続けることを根津所長に伝えているみたいだった。


 そして夏休みが終わるに近づいていった頃、俺はいつもよりも早く山田さん夫婦のお店に行き、受験勉強に専念したいので、出来るだけ早く、遅くても9月末までには辞めたいという旨を伝えた。

 最初は二人共驚いた様子だったけど、いつかはこんな日が来るとも思っていたらしく最後は笑顔で承諾してくれた。

「亮二君、大学生になれば、またいつでもうちで働いてくれていいんだからな。その気になったら直ぐに言ってくれ」

「はい、ありがとうございます」

 マスターが松本さんと同じような事を言ってくれて俺はとても嬉しかったし胸が熱くなった。そしてマスターの奥さんは笑顔で俺にこう言った。

「亮二君には本当に感謝しているわ。2年以上もの間、私達を助けてくれてありがとね。主人の言う通り、またいつでもうちで働いてくれて構わないし、もしバイトは無理でも20歳になったらお客さんとして来てちょうだいね? 大歓迎だし焼き鳥サービスしちゃうわよ」

「ハハハ、ありがとうございます」

「しかし、亮二君とは不思議な縁があったんだねぇ? とても驚いたわぁ。まさか広美ちゃんと同級生だったなんてねぇ……それに三田さんとも面識があっただなんて……ほんと、世間って狭いなぁと思ったわ」

「そ、そうですよね」

 俺は広美の名前が出た途端に少し身体が硬直してしまう。

 何故なら広美の言っていたことが本当なら俺の目の前にいる山田久子さんは広美が石田浩美として生きていた時の親友なんだから……

「それとね、これは最近思い出したんだけど、私、亮二君のお母さんとも昔何度かお会いしていたと思うのよ」

「えっ、そうなんですか?」

「ええ、多分そうよ。でも亮二君のお母さんは私の事はあまり知らないと思うけどねぇ……亮二君のお母さんって広美ちゃんのお母さんの大学、そして幼稚園の先生時代の後輩じゃないの? そして隆君……いえ、広美ちゃんのお父さんとは逆に幼馴染のお姉さんみたいな関係の先輩だったはずだけど……」

「はい、そうです!! 広美のお母さんの後輩ですし、隆おじさんの先輩でもあります……って、マジなんですかぁ? 母さんが奥さんと昔会った事があるのっていうのは驚きですね……」

「まぁ、私が小学生の頃だからかなり昔のことだけどね……でもほんと亮二君と知り合えたお陰で懐かしい人にも会えたし、実は三田さんの奥さんとも色々と共通点があることも分かったから本当に嬉しくて嬉しくて……亮二君、本当にありがとね」

「い、いえ、俺は何もしてませんから……ハハハ……」

「今度、順子にも今回の話をしないと……あの子もきっと驚くだろうなぁ……」

 順子って誰だろう? まぁ、奥さんの友達なんだろうけど……

 こうして俺は新しいバイトさんが入り一週間、仕事の引継ぎなどをした後、『焼き鳥やまだ』のアルバイトを辞めるのだった。

 そしてここから俺は必死に勉強を開始する。今から頑張っても大学進学は難しいかもしれないけど、俺はそんな事は考えずに必死に勉強を頑張った。両親も喜んで協力してくれたので塾にも通うようになり奇跡的に少しずつ成績は上がっていく。

 その間、たまにカナちゃんから電話がかかってきて学校の話など、たわいもない話をして気分転換もしている。このカナちゃんから電話がかかってくるタイミングが絶妙で俺が勉強で疲れ切っている時によくかかってくるのでとても有難かった。

 稀にカナちゃんがお母さんの携帯電話を使ってメールをしてくるけど、もし俺が変な文章の返事をしてしまい、先にカナちゃんのお母さんに見られてしまったらと考えると恥ずかしくなり、返信には凄く気を遣う。

 だから本当はメールは勘弁してほしいんだけど、きっと電話ばかりすると俺の勉強の邪魔になると思ってカナちゃんなりに気を遣ってくれているんだと思うので俺はカナちゃんにメールは止めてくれとは言えなかった。

 そんなカナちゃんも色々と頑張っているらしい。友達の桜ちゃんが再来年、私立の中学に進学する予定だそうで地元の公立中学に通う予定のカナちゃんとしては桜ちゃんに匹敵するような友達を今のうちにたくさん作ろうとしているそうだ。

 俺からすれば、あんなに可愛らしいカナちゃんなんだし、そんなに自分から友達を作る努力をしなくても向こうから寄って来ると思うんだけどなぁ……何か事情でもあるのだろうか? 今度、それとなしに聞いてみるか……


 11月になり俺が通う青葉東高校の文化祭が行われた。俺も広美も最後の文化祭、特に広美は気合いが入っていた。何故なら体育館の舞台で秋のコンクールで優勝した芝居を全校生徒や外部の人達の前で披露する事になっているからだ。

 帰宅部の俺は広美に頼まれて急遽、裏方をする事になった。そして俺が機材を体育館に運んでいる途中である人物と出会うことに……

「そこの君? 体育館はどこにあるのかしら?」

 そう、俺に訪ねてきたのはサングラスをかけたモデルの様なスタイルの女性だった。歳は30代くらいだろうか? 何か凄いオーラを放っている人だ。

「え、体育館ですか? 僕も今、体育館に行くところなんで一緒に行きましょう」

「フフフ、ありがとう。助かるわ。今日は私の友人の娘さんがお芝居をするらしいから東京から飛んで来たのよ。でも間に合って良かったわ……」

「そうなんですか? それは良かったですね。それでその娘さんって誰なんです? 僕はだいたいの演劇部員の名前は知っているので……」

「あら、そうなの? えっとね……私が会いに来た子の名前は五十鈴広美っていうのだけど、知ってるかしら?」

「えっ!? 広美ですか!?」

 っていうか、この女性……どこかで見た事があるような……

「へぇ、広美って呼び捨てにするって事は君は広美ちゃんの彼氏なのかなぁ?」

「えっ!? ち、違います違います!! お、俺は、僕はただの幼馴染なだけですから!!」

「ふーん、幼馴染なんだぁ……」

 女性はそう言うとサングラスを取り俺に笑顔を見せる。そして俺はその顔を見て息が止まりそうになった。何故なら俺の目の前にいるのは日本で知らない人なんていないくらいの大女優『岸本ひろみ』だったからだ。

 後で聞いた話だが岸本さんは昔から広美の事を気にかけていたらしい。そして本人が本気で女優になると決意した時には協力するつもりでいたそうだ。

 ちなみに『岸本ひろみ』は本名ではない。本名は『岸本順子』……
 そう、山田さんの奥さんがボソッと言っていた友人の名前の順子と同一人物だったのだ。

 そして名前の『ひろみ』はあの石田浩美さんの浩美からとっているのを知り、更に驚いた。女優になれずに亡くなった親友の夢を一緒に叶える為に芸名を『ひろみ』にしたらしい。そのひろみさんが浩美さんの記憶を持った広美に会いに来ている……なんて複雑な関係なんだろう……そしてそれを知っているのは『俺と広美だけ』というのも何だか心苦しくなる。


 こうして月日が経ち年が明けた平成20年、俺はバレンタインデーにカナちゃんから貰った手作りチョコレートをエネルギーにしながら最後の力を降り注ぎ、見事、現役で私立大学に合格したのだった。

 その後、俺は青葉東高校を無事に卒業する。そして広美は卒業して直ぐに岸本ひろみさんの所属する芸能事務所に入所することになり上京、千夏ねぇも就職の為に上京して行った。

 カナちゃん情報で翔太君も見事、私立中学に合格したそうだ。きっと山田さん達も喜んでいるにちがいない。


 そしてあっという間に更に1年が経ち、今は平成21年4月……
 俺は大学2年生、カナちゃんは中学1年生となった。





――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。

これで第3章は終わりとなります。
次回から第4章開始です。引き続きお読みいただけると嬉しいです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。  入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。  しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。  抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。  ※タイトルは「むげん」と読みます。  ※完結しました!(2020.7.29)

幸せのありか

神室さち
恋愛
 兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。  決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。  哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。  担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。  とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。 視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。 キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。 ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。 本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。 別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。 直接的な表現はないので全年齢で公開します。

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。

管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ
恋愛
 桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。  しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。  風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、 「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」  高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。  ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!  ※特別編11が完結しました!(2025.6.20)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

処理中です...