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第6章 衝撃の事実編
第62話 とある時代の記憶/隆
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山本次郎……『前の世界』で香織の夫だった男……そして山本は香織に対してのDVが酷く、頻繁に香織は暴力をふるわれていた。そして挙句の果てに山本はある母娘に対し、ひき逃げ事故を起こしたのだ。
母親の方は亡くなり、娘は重症……山本は直ぐに逮捕され、交通刑務所で服役している時に病死したらしい。
何故俺がその事を知っているのかというと……
俺は小六の夏休みに香織の家に遊びに行った際、電話が鳴った。そして電話に出た香織は電話の相手ととても親しく話をしていて、その電話の相手が山本という人だと知ってしまう。
『前の世界』の香織は結婚して山本香織と苗字が変わっていたのは亮二君のお母さんである志保さんから聞いていたので親しく電話をしている山本が『前の世界』の主人だと確信してしまった。そしてそれと同時に親しく会話している香織に対して激しく嫉妬してしまい、その影響で俺は香織に冷たい態度をとりそれにショックを感じた香織を泣かしてしまったのだ。
俺は香織を泣かしてしまった事に後悔しながらも謝る事ができないまま体調を崩してしまう。
ちなみに電話相手の山本は同じ山本でも名前は次郎ではなく三郎で、数年後に志保さんと結婚して鎌田家に婿養子になる人、そう、亮二君のお父さん……
俺は勘違いをしてしまったのだ。
数日後、体調を崩し部屋で寝込んでいる俺のもとへ石田浩美と親友の高山がお見舞いに来てくれたのだが、先に高山が帰ってしまい石田と俺は部屋で二人きりになった。
すると突然、石田は俺が小さい頃から本気で香織を好きな事を知っていると打ち明けてきた。でも本当は「私も五十鈴君の事を昔から好きだった」と告白したと同時に「つねちゃんの事が好きでもいい。でも私の事も見て欲しい」と言いながらキスをしてきたのだ。
石田が帰ってからの俺は更に複雑な気持ちになり悩み苦しみそして再び寝込んでしまった。そして目を覚ますとそこは『前の世界』49歳の俺に『逆戻り』をしていたのだった。
香織と結婚する為に必死で頑張っていたのに『前の世界』に戻ってしまった俺はショックだった。でも落ち込んでいても仕方が無いと思った俺はふと香織が亡くなった自宅に行ってみようと思い、志保さんの所へ行き住所を教えてもらう。というか、志保さんは香織から志保さん宛てへの年賀状を渡してきたのだった。
俺は年賀状に書かれていた香織の住所を頼りに自宅へと向かった。そして香織の自宅前で遺品整理に来ていた香織の弟、昇さんと偶然出くわし、自分が香織の元教え子だと伝えると昇さんは俺を待っていたかのように笑顔で家の中へ招いてくれた。
リビングに入った俺は驚いた。部屋を見ると俺と香織が一緒に写っている写真が飾られていたのだ。そして昇さんの口から香織は常々、幼稚園時代の俺との思い出話を嬉しそうにしていたらしい。
それを聞いた俺は驚きと同時に嬉しさが込み上がてきた。それとは反面に卒園してから一度も香織に会わなかった自分を恨んだのを覚えている。
続いて昇さんは笑顔から急に暗い表情に変化して香織と山本次郎との悲惨な結婚生活の内容を話してくれた。酒乱で暴力夫だった山本次郎……その中で先程語った山本次郎にひき逃げされて亡くなった母親の娘の話にもなった。
香織はいくら憎くてたまらない山本が犯した罪とはいえ、自分の主人の罪は妻である自分にも責任があると心の優しい彼女はそう考えたようで、山本の代わりに罪の償いをする為、母親を亡くした娘さんを自分の娘のように成人するまでお世話をしたらしい。
『前の世界』では子供がいなかった香織にとってその子を本当の子供の様に愛情を注ぎ、その娘さんもいつのまにか香織の事を本当の母親の様に慕う様になったそうだ。
『この世界』に来て俺はその香織がお世話をしたという娘さんと出会ってはいない。昇さんからも名前を聞いていなかったから出会っていても気付くはずもない。
ただ最近、俺はある事に気付いたんだ。もしかしたらその香織がお世話をした娘さんというのは田中千夏ちゃんなのではと……
確証を得たわけでは無いが『この世界』で出会った人達は全て『前の世界』で関わった事のある人達ばかりだ。でも田中さん母娘だけは『前の世界』で俺は一度も出会っていない。
となると元々、母子家庭だった田中さん母娘が『前の世界』で山本次郎の被害にあった親子で残された千夏ちゃんを香織が成人になるまでお世話した娘さんなのではと思ったのだ。
現に千夏ちゃんは小さい頃から香織に凄く懐いているし、一時グレてしまった時も香織には会うたびに優しい表情になり甘えている感じにも見えた。
絶対にその娘さんが千夏ちゃんだとは言い切れないが俺の中では間違いないと思っている。まぁ、これから先もこの件について俺が誰かに語る事は無いとは思うが……
いや、先でまた、亮二君には俺の考えを話す時がくるかもしれないな。何故だか彼には何でも話したくなる俺がいる。本当に亮二君は不思議な子だよなぁ。
いずれにしても俺が『この世界』に来た影響で千夏ちゃんのお母さんは死ぬこと無く再婚もして幸せに暮らしている。また石田が『この世界』に来て自分自身と母親が飛行機事故で死ぬのを回避させる事もできている。
俺の知っている限り二人の人間が『この世界』では今も元気に生きてくれている。本当に喜ばしいことだが、その反面、前に亮二君に話した通り俺は『反動』も恐れていた。
別にその反動に怯えて暮らしている訳では無いがやはり心の中にはそれが残っているのだ。
話を戻すが俺は昇さんと別れて帰りの電車の中で香織が書いた志保さん宛ての年賀状を読んでみた。行きの時は文章がぎっしり書かれていて年賀状というよりも手紙のように思えたのであえて読まなかったのだが帰りは心に余裕ができていたので年賀状に書かれている文章を読む気になれたのだ。
そしてその年賀状に書かれている内容を読んで俺は驚き、そして涙が溢れ出した。年賀状には俺の事が書かれていたのだ。
『志保ちゃん、明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。ここ数年会えていませんがお変わりはありませんか? 私は最近よく昔の夢を見る様になったわ。だから昔の事をよく思い出してしまうの。志保ちゃんと出会った頃や、それよりも前の事……私が初めて幼稚園の先生になった頃の事かな。その頃に一人印象的な子がいてね、私はその子に会ってみたいなぁって最近よく思うの。そういえば志保ちゃんはその子と知り合いじゃなかった? そう隆君……五十鈴隆君に私は会いたいなぁって思っているの。もし志保ちゃんさえ良ければ隆君に会わせてくれないかな? 宜しくお願い致します。志保ちゃんご家族にとって良い年でありますように……』
香織は志保さんに俺と会えるようにお願いをしていた……でも、志保さんはその願いを叶えてあげなかった。俺はそのまま志保さんの家に行き、何故、香織の願いを叶えなかったのかと詰め寄ったが、志保さんはこう言った。
「香織先輩は隆君の事をとても『良い思い出』にしているの。凄く『美化』しているの。それなのにアナタは……会社をリストラされてから、奮起して一から頑張る訳でも無く、家でウジウジしながらのニート生活……高齢になられたご両親に心配をかけている『親不孝息子』……そんなあなたを『美化』している香織先輩に会わせたくないわ!! 香織先輩の『良い思い出』を壊したくなかったのよ……」
その言葉に俺は何も言い返せずお辞儀だけして帰ろうとした。すると志保さんは突然泣き崩れながらこうも言った。
「た、隆君、ゴメンね……まさか香織先輩が亡くなるとは思っていなかったから……隆君が『人生をやり直した時』に二人を会わせようと思っていたのに……そんな事なら『今の隆君』でも会わせてあげたほうが良かったのかなと今は後悔している……だから本当は香織先輩が亡くなった事も言わないでおこうと思ってたけど、どうしてもそれだけは伝えなければいけないと……伝えなければ私は一生後悔する様な気がしてしまって……」
俺は志保さんの言葉、そして思いを聞いて胸が苦しく心が痛くなる。
「ありがとう……『志保姉ちゃん』……そしてゴメンね……」
俺はそう志保さんに言い、外に出る。
そして俺はこの時、『前の世界』でもう一度人生をやり直す決意をした。
例え、香織がいない世界であっても……香織に認めてもらえる様な男になると決めたのだ。
――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
隆が語る過去。彼は一度だけ前の世界に逆戻りをしていた。
そしてそこからどのようにしてこの世界に戻ることが出来たのか?
亮二と加奈子は今後どうなっていくのか?
この章はあと数話で終わる予定です。
どうぞ次回も宜しくお願い致します。
ちなみに『登場人物一覧&年表』の後書きに書いていました答えがこの62話に出てきましたね。そういうことなんです(*^▽^*)
分かった方はおられましたかぁ?
母親の方は亡くなり、娘は重症……山本は直ぐに逮捕され、交通刑務所で服役している時に病死したらしい。
何故俺がその事を知っているのかというと……
俺は小六の夏休みに香織の家に遊びに行った際、電話が鳴った。そして電話に出た香織は電話の相手ととても親しく話をしていて、その電話の相手が山本という人だと知ってしまう。
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俺は香織を泣かしてしまった事に後悔しながらも謝る事ができないまま体調を崩してしまう。
ちなみに電話相手の山本は同じ山本でも名前は次郎ではなく三郎で、数年後に志保さんと結婚して鎌田家に婿養子になる人、そう、亮二君のお父さん……
俺は勘違いをしてしまったのだ。
数日後、体調を崩し部屋で寝込んでいる俺のもとへ石田浩美と親友の高山がお見舞いに来てくれたのだが、先に高山が帰ってしまい石田と俺は部屋で二人きりになった。
すると突然、石田は俺が小さい頃から本気で香織を好きな事を知っていると打ち明けてきた。でも本当は「私も五十鈴君の事を昔から好きだった」と告白したと同時に「つねちゃんの事が好きでもいい。でも私の事も見て欲しい」と言いながらキスをしてきたのだ。
石田が帰ってからの俺は更に複雑な気持ちになり悩み苦しみそして再び寝込んでしまった。そして目を覚ますとそこは『前の世界』49歳の俺に『逆戻り』をしていたのだった。
香織と結婚する為に必死で頑張っていたのに『前の世界』に戻ってしまった俺はショックだった。でも落ち込んでいても仕方が無いと思った俺はふと香織が亡くなった自宅に行ってみようと思い、志保さんの所へ行き住所を教えてもらう。というか、志保さんは香織から志保さん宛てへの年賀状を渡してきたのだった。
俺は年賀状に書かれていた香織の住所を頼りに自宅へと向かった。そして香織の自宅前で遺品整理に来ていた香織の弟、昇さんと偶然出くわし、自分が香織の元教え子だと伝えると昇さんは俺を待っていたかのように笑顔で家の中へ招いてくれた。
リビングに入った俺は驚いた。部屋を見ると俺と香織が一緒に写っている写真が飾られていたのだ。そして昇さんの口から香織は常々、幼稚園時代の俺との思い出話を嬉しそうにしていたらしい。
それを聞いた俺は驚きと同時に嬉しさが込み上がてきた。それとは反面に卒園してから一度も香織に会わなかった自分を恨んだのを覚えている。
続いて昇さんは笑顔から急に暗い表情に変化して香織と山本次郎との悲惨な結婚生活の内容を話してくれた。酒乱で暴力夫だった山本次郎……その中で先程語った山本次郎にひき逃げされて亡くなった母親の娘の話にもなった。
香織はいくら憎くてたまらない山本が犯した罪とはいえ、自分の主人の罪は妻である自分にも責任があると心の優しい彼女はそう考えたようで、山本の代わりに罪の償いをする為、母親を亡くした娘さんを自分の娘のように成人するまでお世話をしたらしい。
『前の世界』では子供がいなかった香織にとってその子を本当の子供の様に愛情を注ぎ、その娘さんもいつのまにか香織の事を本当の母親の様に慕う様になったそうだ。
『この世界』に来て俺はその香織がお世話をしたという娘さんと出会ってはいない。昇さんからも名前を聞いていなかったから出会っていても気付くはずもない。
ただ最近、俺はある事に気付いたんだ。もしかしたらその香織がお世話をした娘さんというのは田中千夏ちゃんなのではと……
確証を得たわけでは無いが『この世界』で出会った人達は全て『前の世界』で関わった事のある人達ばかりだ。でも田中さん母娘だけは『前の世界』で俺は一度も出会っていない。
となると元々、母子家庭だった田中さん母娘が『前の世界』で山本次郎の被害にあった親子で残された千夏ちゃんを香織が成人になるまでお世話した娘さんなのではと思ったのだ。
現に千夏ちゃんは小さい頃から香織に凄く懐いているし、一時グレてしまった時も香織には会うたびに優しい表情になり甘えている感じにも見えた。
絶対にその娘さんが千夏ちゃんだとは言い切れないが俺の中では間違いないと思っている。まぁ、これから先もこの件について俺が誰かに語る事は無いとは思うが……
いや、先でまた、亮二君には俺の考えを話す時がくるかもしれないな。何故だか彼には何でも話したくなる俺がいる。本当に亮二君は不思議な子だよなぁ。
いずれにしても俺が『この世界』に来た影響で千夏ちゃんのお母さんは死ぬこと無く再婚もして幸せに暮らしている。また石田が『この世界』に来て自分自身と母親が飛行機事故で死ぬのを回避させる事もできている。
俺の知っている限り二人の人間が『この世界』では今も元気に生きてくれている。本当に喜ばしいことだが、その反面、前に亮二君に話した通り俺は『反動』も恐れていた。
別にその反動に怯えて暮らしている訳では無いがやはり心の中にはそれが残っているのだ。
話を戻すが俺は昇さんと別れて帰りの電車の中で香織が書いた志保さん宛ての年賀状を読んでみた。行きの時は文章がぎっしり書かれていて年賀状というよりも手紙のように思えたのであえて読まなかったのだが帰りは心に余裕ができていたので年賀状に書かれている文章を読む気になれたのだ。
そしてその年賀状に書かれている内容を読んで俺は驚き、そして涙が溢れ出した。年賀状には俺の事が書かれていたのだ。
『志保ちゃん、明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。ここ数年会えていませんがお変わりはありませんか? 私は最近よく昔の夢を見る様になったわ。だから昔の事をよく思い出してしまうの。志保ちゃんと出会った頃や、それよりも前の事……私が初めて幼稚園の先生になった頃の事かな。その頃に一人印象的な子がいてね、私はその子に会ってみたいなぁって最近よく思うの。そういえば志保ちゃんはその子と知り合いじゃなかった? そう隆君……五十鈴隆君に私は会いたいなぁって思っているの。もし志保ちゃんさえ良ければ隆君に会わせてくれないかな? 宜しくお願い致します。志保ちゃんご家族にとって良い年でありますように……』
香織は志保さんに俺と会えるようにお願いをしていた……でも、志保さんはその願いを叶えてあげなかった。俺はそのまま志保さんの家に行き、何故、香織の願いを叶えなかったのかと詰め寄ったが、志保さんはこう言った。
「香織先輩は隆君の事をとても『良い思い出』にしているの。凄く『美化』しているの。それなのにアナタは……会社をリストラされてから、奮起して一から頑張る訳でも無く、家でウジウジしながらのニート生活……高齢になられたご両親に心配をかけている『親不孝息子』……そんなあなたを『美化』している香織先輩に会わせたくないわ!! 香織先輩の『良い思い出』を壊したくなかったのよ……」
その言葉に俺は何も言い返せずお辞儀だけして帰ろうとした。すると志保さんは突然泣き崩れながらこうも言った。
「た、隆君、ゴメンね……まさか香織先輩が亡くなるとは思っていなかったから……隆君が『人生をやり直した時』に二人を会わせようと思っていたのに……そんな事なら『今の隆君』でも会わせてあげたほうが良かったのかなと今は後悔している……だから本当は香織先輩が亡くなった事も言わないでおこうと思ってたけど、どうしてもそれだけは伝えなければいけないと……伝えなければ私は一生後悔する様な気がしてしまって……」
俺は志保さんの言葉、そして思いを聞いて胸が苦しく心が痛くなる。
「ありがとう……『志保姉ちゃん』……そしてゴメンね……」
俺はそう志保さんに言い、外に出る。
そして俺はこの時、『前の世界』でもう一度人生をやり直す決意をした。
例え、香織がいない世界であっても……香織に認めてもらえる様な男になると決めたのだ。
――――――――――――――――――――――――
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隆が語る過去。彼は一度だけ前の世界に逆戻りをしていた。
そしてそこからどのようにしてこの世界に戻ることが出来たのか?
亮二と加奈子は今後どうなっていくのか?
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