あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

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第7章 試練編

第68話 生と死の狭間/亮二

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「亮二……亮二……」

 だ、誰だ? 誰が俺を呼んでいるんだ?
 カナちゃんなのか……?

 いや違う。聞いた事のない声だ……

 というか、ここはどこなんだ? 暗くて何も見えない。それに俺の身体は金縛りにあったかのように全然動かす事ができない。

 宙を浮いているのだろうか? そんな感覚もしている。
 俺は車にひかれて死んでしまったんだよな……
 もしかして、ここがあの世っていうところなのか……?

「亮二……亮二……」

 また俺の名前を呼ぶ声がする。
 一体、誰が読んでいるんだ?

 俺は声のする方になんとか目線だけは向ける事ができた。すると目線の先に大きな光の輪があり、その輪の中央部分に光が眩しくて顔はよく分からないが子供と思える様なシルエットが見えた。

 このシルエットの人間が俺を呼んでいたのか?
 俺は恐る恐る、そのシルエットに話しかける。

「き、君は誰だい? っていうか、ここはどこなんだ? やはり、ここがあの世ってところなのかい? 」

「違うよ。あの世ではないよ。ここは『生と死の狭間』で君はまだ死んでいないよ」

「え、そうなのか? あんな酷いはねられ方をしたからてっきり俺は……でも『生と死の狭間』って事はやはり俺は死んでしまうんじゃ……」

「大丈夫だよ、亮二……君は生まれた時から僕に守られている。そして今回も僕が守る。だから君は死なない……でも僕が君を助けられるのはこれで最後になってしまうけど……」

「君が俺を守ってくれる? 生まれた時から守ってくれているっていうのは……それに助けるのはこれで最後って……」

「亮二、僕が誰だか分からないかい? 僕だよ……亮一だよ……」

「えっ!? りょ、亮一兄さんだって!?」

「ああ、そう亮一だよ。初めましてだね……」

「りょ、亮一兄さん……うっ……」

 俺は隆おじさんから聞いた話を思い出す。『違う世界』では俺ではなく亮一兄さんが生きていて幸せに暮らしていたのに『この世界』では亮一兄さんが死に俺が生きている……

「亮二、何故泣いているんだい? せっかくの兄弟再会なのにさぁ……もしかして僕の事を気遣ってくれているのかい?」

「だって本来なら亮一兄さんが……」

「ほんと、亮二は優しい子だねぇ……でも気にする必要は無いよ。こうなる事はずっと前から決まっていたことなんだから……それに僕は『違う世界』ではちゃんと生きているしね。逆に亮二は生まれて直ぐに死んでしまったしさ……だからお互いに気にする事は無いんだよ」

「で、でも……」

「お互いの世界で精一杯頑張って幸せになればいいんだよ。だから『この世界』では亮二が幸せに生きていく為に僕がサポートしてきたんだし……でもサポートも今回で最後になってしまうけど……」

 サポート? それに今回で最後ってどういう事なんだ?

「隆おじさんから話は聞いて理解していると思うけど、『この世界』にはタイムリープ者と呼ばれる『選ばれた』人達が世界中にいるんだよ」

「えっ、世界中に!?」

「うん、お互いに『違う世界』で縁のあった数人が本人達は気付いていないけど一つのグループとして『この世界』にタイムリープしているんだ。そしてその複数あるグループの中でも隆おじさんや石田浩美さんグループの様に『違う世界の未来』から来たことを隠しながら純粋に目標に向かって頑張ったり人助けをする人もいれば、自分の強欲の為に『未来』を無理矢理変えようと理容する人達もいる。まぁ、そういう人達は直ぐに『反動』によって『前の世界』の時よりも酷い目にあってしまうんだけどね」

 は、反動かぁ……隆おじさんはそれを凄く心配していたよなぁ……

「でも隆おじさんのグループは石田浩美さんと、あともう一人いるんだけど、その3名はとても純粋に『この世界』で必死に頑張り生きてきた……だからこれまで彼等自身には大きな反動は起こらなかったけど……それでも『前の世界とは違う未来にする』ということは簡単に言ってしまえば、やはり『自分の欲を叶える』って事になってしまうんだ。だから、多かれ少なかれ『反動』は起こってしまう。本人や家族に反動が無くても親しい人達に反動が起こってしまう事もある……」

「親しい人達……それが俺やカナちゃん、もしくは亮一兄さんって事なのかい?」

「ハハハ、さすがは僕の弟だね。理解が早いなぁ。そういうことなんだ。そしてこれ等の『反動を終わらせる者』として選ばれたのが亮二と三田加奈子さんで、君達二人を『サポートする者』として選ばれたのが僕なんだ」

「お、俺とカナちゃんが『反動を終わらせる者』だって? 何で俺達がそんな役に選ばれなくちゃいけないんだよ? それに世界中にいるタイムリープ者はどういった基準で選ばれるんだい!?」

「さぁ、それは僕にも分からないなぁ。分かる事は一つ、選ばれたからには頑張るしかないって事だねぇ……」

「だとしたら俺はカナちゃんを守れたし、それで俺がこのまま死ねばその『反動』っていうのは終わりだよね?」

「だから亮二は死なせないって言っているじゃないか。亮二が死んでまったら加奈子ちゃんが悲しむし、それに別の人に新たな『反動』が起きてしまうかもしれない……だからこの反動は『君達』で終わらせて欲しい……いや、終わらせないとダメなんだ。だから僕も最後に亮二の命を助けるんだよ……」

 そう言えばさっきから亮一兄さんは『最後』って言葉を使っているけど……

「その……最後というのはどういうこと?」

「うん、そうだね。『最後』の意味を言えてなかったね。実はこれまで亮二や加奈子ちゃんの事をサポートしてきた僕だけど、それはあくまでも君達二人が巡り合う様に、良い人達に囲まれて幸せに生きていく様にと、お膳立てのような事をしていただけなんだ。でも今回は今までとは違う。亮二の命を救わなければいけない……その為には僕が持っている全ての力を出さなくちゃいけないんだ。まぁ、簡単に言うと亮二の命を救う代わりに僕の魂は完全に消滅すると思ってくれればいいよ。だからこれで『最後』なんだよ。だから最後に亮二と話をしたいというお願いも叶えてもらったって感じかな……」

「そ、そんな俺なんかの為に……」

「亮二の為、可愛い弟の為だからだよ。それに加奈子ちゃんの為でもあるし……僕は『この世界』で二人が幸せになってくれればそれで満足なんだ。だから亮二が気にすることは何も無い。逆に僕の為にも『この世界』で精一杯生きて幸せになって欲しい」

「亮一兄さん……グスンッ」

「亮二に兄さんって言って貰えてとても嬉しいよ。これで僕も思い残すことは何も無い……後は君達が頑張る番だよ……そして『反動』を終わらせてみんな幸せになって欲しい……」

「うん、俺頑張るよ。頑張って絶対にカナちゃんと幸せになってみせる!!」

「ああ、期待しているよ。ただ、亮二の命を救う為には一つだけ『代償』があるんだ。時間はかかるかもしれないけど二人ならきっとその『代償』だって乗り越えれると思うから……」

「え? だ、代償って……」

「代償というのは……実は……」


――――――――――――――――――――――――

「えっ!? そんな代償が!? そ、それじゃぁ俺が目を覚めても……」

「でもこれは仕方の無いことなんだ。死んでもおかしくない亮二を救うんだから……それに加奈子ちゃんにもこれから幸せになる為に何らかの『試練』が必要なんだよ。亮二の事を心の底から愛しているあの子ならきっと大丈夫。絶対に試練を乗り越えれると思うよ。だから亮二は加奈子ちゃんを信じて待てばいい」

 カナちゃんの試練……本当に大丈夫なんだろうか……でも俺がカナちゃんを信じないなんてあり得ないし……

「分かったよ。俺はカナちゃんを信じる。そして『その日』が来るまで待ち続けてみせる……」

「うん、その意気さ。絶対に二人は幸せになれるから……さぁ、そろそろ時間が来たみたいだ。これで亮二とはお別れだよ。最後に一つだけ……真保のことなんだけど、あの子は双子で生まれて自分だけが幸せに生きていることをある時期から罪悪感に感じてしまったみたいでさ、それで亮二達とも遊ばなくなっなり両親にも甘えなくなったみたいなんだ。だから亮二から真保に話せる時期が来たら僕は真保を恨んでいないし、僕の事は気にしなくていいから自分の想いのままに生きて欲しいし家族とも仲良くして欲しいって伝えてくれないかな?」

 そうだったんだ……

 言われてみればそうなんだ。真保姉ちゃんも小さい頃は俺や広美、それに千夏ねぇとも一緒に遊んでいたのにある時期から俺達を避けるかのように一緒に遊ばなくなったし、父さんや母さんに甘えるような素振りも見せなくなった。

 高校も寮生活だったし、大学も地方の大学で一人暮らしをしていてほとんど実家に帰って来ない……

 俺は真保姉ちゃんの事をとてもクールな性格だなぁって思っていたけど、亮一兄さんの事を想ってワザとそんな振舞いをしていたのかぁ……

「分かった。時期が来たら真保姉ちゃんに亮一兄さんの想いを伝えるよ」

 俺がそう返事をすると亮一兄さんは笑みを浮かべながら俺を抱きしめた。そして兄さんの身体が更に光輝いたかと思うと少しずつ消えていく。

「ありがとう。これで僕も心配事が全て無くなり安心だ。それじゃぁこれで本当にお別れだよ。次に生まれ変わっても亮二達と身内になれるといいなぁ……今度は一緒に楽しく生活がしたいなぁ……」

「に、兄さん!!」

 亮一兄さんは俺の前から消えてしまった。俺の目からは大量の涙が流れ落ちている。

「兄さん……亮一兄さん……俺、絶対に亮一兄さんの分まで幸せになってみせるから……」


 俺は目が覚めた。

 どうやら俺はベッドの上で眠っていたようだ。部屋の明りが眩しすぎるのか目から涙が流れている……

 そして涙で目が霞んでいる俺の前に今にも泣きだしそうな真保姉ちゃんが覗き込んでいるのだった。






――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
第7章『試練編』スタートです!!
そして『最終章』へと進んでいきます。
どうぞ完結までお付き合いくださいませm(__)m
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