あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

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第7章 試練編

第69話 試練の始まり/加奈子

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 私はあの日、りょう君に命を救われた。

 何故あの時、横断歩道で転んでしまったのか、何故直ぐに起き上がりその場から逃げる事ができなかったのか、何故あの日、りょう君に無理して私達の所へ来なくてもいいよって言えなかったのか……

 事故後、私は軽傷ということで、りょう君とは別の病院にしばらく入院することに……その入院中、りょう君は命は取止めたが意識不明の重体であることを知り、りょう君に会いたいという思いと申し訳無くて会えないという思いが入り乱れた状態になった。

 そして数えきれない程の後悔の念が頭の中を駆け巡ると共にりょう君のご家族に申し訳無いという思いも大きかった私はベッドの上で毎日泣いていた。

 その後、私は退院したけど心の中は何一つ元気にはなっておらず食事も喉を通らず、学校にもずっと行けず家の中に引きこもっていた。なのでりょう君が入院している病院には事故後一度も行く事が出来ずにいた。

 そんな生活をしていた私は自分だけがこうして元気に生きていることに対しての罪悪感がどんどん芽生えてしまい遂には自殺まで考えるようになっていた。それを察知したのかある時、お母さんが私にこう言った。

「亮二君が加奈ちゃんを守る為に自分の命を張ってまで救ってくれた命……絶対に無駄にしてはいけないわよ。辛くても苦しくても加奈ちゃんはこれから先も頑張って生きなくちゃいけないの。そして亮二君にその元気な姿をいつか見てもらわないと亮二君、ガッカリするわよ」

 ハッ!!

 その言葉に私の心は救われた。そうだ、私はこの命を無駄にしちゃいけないんだ……私はりょう君に伝えなければいけない……

 りょう君が命がけで助けてくれたお陰で私はこんなにも元気だよ。私を助けてくれてありがとう、だからりょう君も早く元気になって前みたいに私と一緒に……

 身体中のいたるところを骨折し、内臓の一部も損傷していて、後頭部も強く打っているりょう君は今も尚、意識不明の状態……でも必死に生きてくれているんだ。

 私が病んでいる場合じゃない!!

 これから私はりょう君を一生かけてお世話するんだ!!

 私はそう決意してから毎日、病院に通い始めた。
 私は眠っているりょう君の手を握りながら顔をじっと見つめていた。

「りょう君、お願い……目を覚まして……お礼を言わせて……そして……」

 私はりょう君が入院している病院に初めて行った時、ご両親やお姉さんに責められると思っていた。あんたのせいで息子がこんな目にあったんだと言われると覚悟していた。

 でも、りょう君のご両親は私を見るなり直ぐに近づき、そしてお母さんは私を強く抱きしめながら涙を流しこう言ってくれた。

「加奈子ちゃん、よく来てくれたわ!! あなたの事がとても心配だったのよ。もしかしたら自分を責めているんじゃないかと思って……でも責める必要は無いんだからね。あの亮二が命がけで守った加奈子ちゃんに何か有れば私達は後悔してもしきれない気持ちになるから!!」

「お、おばさん……ありがとうございます……グスンッ……」

 きっと、りょう君のお母さんは私が自殺を考えたかもしれないと思ったのかもしれない……だからこんなにも優しい言葉を……

「それに亮二はこうしてちゃんと生きているわ。いつになるかは分からないけど必ず亮二は目を覚ます。だから目を覚ました時に加奈子ちゃんに何かあったと知ればこの子は命を張った意味が無くなってしまい、せっかく目覚めても生きていく気力が無くなってしまうかもしれないから……だから加奈子ちゃん、これからあなたは自分の幸せだけを考えて元気に頑張って生きて欲しいの。だから亮二に気を遣ってこれからの大事な人生を亮二だけに捧げる必要は無いから……」

 りょう君のお母さんの言葉に私は感謝の気持ちになったけど、同時におばさん達ははもしかしたらこのままりょう君は目覚めないかもしれないとう覚悟もしていて、私を巻き込まないようにしてくれているのではないかとも思った。

 そう思うと私は涙が止まらなかった。こんなにも私の事を想って言ってくれているりょう君の家族が今まで以上に大好きになり、私もこの家族の一員になりたいと思った。

 なので、りょう君のお母さんが言ってくれた『自分の幸せだけを考えて』という言葉に対して私には選択肢が一つしか見つからない。

「私の幸せは目が覚めたりょう君とたくさん話をして、元気になったりょう君と一緒にお出かけをして、そして……だ、だから、私の幸せはりょう君無しではあり得ません!! だからお願いです!! りょう君が目覚めるまで毎日、病院に来ることを許してください!! お願います!!」

「加奈子ちゃん……」

 りょう君のお母さんは笑みを浮かべながら再び私を抱きしめ「ほんと、亮二は幸せ者だわ。こんなに可愛らしい子にここまで想ってもらえるなんて……」と言ってくれた。

 すると隣にいたりょう君のお父さんも微笑みながら涙を流し私の頭を撫でてくれた。そして「これから大変だけど、一緒に頑張ろう」と言ってくれた。

 ガチャッ

 病室に一人の女性が入室してきた。りょう君に少し表情が似ている顔……りょう君のお姉さんの真保さんだろうか?

「ま、真保、この子が三田加奈子ちゃんよ」

 りょう君のお母さんが私を紹介してくれた。

「は、初めまして……三田加奈子といいます……」

「うん……」

 真保さんはそう言うと私の前を通り過ぎベッドの上で眠っているりょう君の前に行き、しゃがみ込む。

 私、やっぱり真保さんに恨まれているのかもしれないという不安を感じていると、真保さんが私に声をかけてきた。

「か、加奈子ちゃん……」

「え? あ、はい……」

「こっちに来てくれるかな?」

 真保さんがそう言ったので私は慌てて近づく。

 すると真保さんは小さな声で話し出す。

「亮二、あんたいつまで眠っているの? こんなに可愛い子を待たせてる場合じゃ無いわよ……早く『この世界』に戻ってきなさい……」

「ま、真保さん……」

「加奈子ちゃん、私ね、先日亮二の手を握りながら眠ってしまったの。それでその時に不思議な夢を見ちゃって……」

「夢ですか……?」

「うん、そうなの。亮二と生まれて直ぐに死んでしまった私の双子の兄の亮一兄さんが会話している夢を見たの……」

「そうなんですね……どんな話をされていたのですか……?」

「夢の中で二人は何か約束をしていたわ……それと私や加奈子ちゃんの事も話していたような気がしたわ……はっきり聞こえたのは亮二は亮一兄さんの分まで『この世界』で幸せにならなくちゃいけないってこと……そしてその亮二に命を救われた加奈子ちゃんもまた『この世界』で幸せにならなくちゃいけない……それだけは分かった気がする……」

 夢だとはいえ、私は真保さんの話を聞いて嬉しかった。

「だから、さっきお父さんも加奈子ちゃんに言ったけど、これから本当に大変だと思う。亮二が目覚める保証は無いし……それに目覚めたとしても五体満足に今までの様な生活がおくれるとは限らない……」

「は、はい……」

「それでも亮二のことをずっと想ってくれるのなら私は全力であなた達のサポートをさせてもらうから……」

「ま、真保さん……私はずっとりょう君の事を想い、ずっと傍にいます」

「ありがとう、加奈子ちゃん……私ね、また姉弟を失ってしまうかもしれないと思ったら怖くて、苦しくて……でも亮二は生きている。きっと加奈子ちゃんに対する強い想いが亮二の命を繋いだんだと私は思ったの。だからこれから二人、大変だと思うけど『二人の愛』の力で乗り越えて欲しい……夢の中で亮一兄さんも何か『試練』みたいなことを言っていた様な気がするの……」

 二人の愛、そして試練かぁ……

 試練でも何でもいい。私はりょう君と再びあの幸せを取り戻す為に頑張ると決めたんだから……


 こうして私の『試練』が始まり早いものであれから2年が経った。

 現在、私は中学3年生の2学期でりょう君の母校である『青葉東高校』合格に向けて受験勉強を必死に頑張っていた。勿論、病院にも一日も欠かさず訪れている。

 そんな矢先、りょう君のお母さんから遂に待ちに待った連絡が入った。

 りょう君が2年の時を経て目覚めたのだった。
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