あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

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第7章 試練編

第70話 幼馴染の為にできること/広美

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 記者会見の次の日の夕方、突然お母さんから電話がかかってきた。私はおそらく昨日の記者会見の件で何で事前に教えてくれなかったのよぉ? といった電話をかけてきたんだろうと思っていた。

 しかし電話の内容は私が予想していた内容とはあまりにも違い過ぎてショックで頭の中が真っ白になった。

「亮二君が指名手配中の犯人が運転する車に轢《ひ》かれて意識不明の重体なの!!」

 私はお母さんから詳細を聞き終え電話を切ると茫然としながら携帯電話を握りしめていた。そして目から大粒の涙が流れだす。

 傍に居た順子が私の様子を見てただ事ではないと察知し、直ぐに地元に帰りなさいと言ってくれた。

 新幹線の中での私は祈る気持ちでいっぱいだった。
 神様、お願い!! どうか亮君を助けて下さい!!

 それに私は加奈子ちゃんも心配だった。亮君が事故にあい意識不明の重体になってしまったのは自分のせいだと思い詰めているんじゃないだろうか……加奈子ちゃんにも会って少しでも元気づけてあげることが出来れば……


 そして私は病院に着いた。高校を卒業して初めて地元に帰ってきたのが、まさかこんな理由になるなんて……

 『国立青葉病院』……奇しくも私が石田浩美時代に白血病で死んでしまった病院……五十鈴隆君と私、お互いのタイムリープでの話をした病院……

「まさか、亮君までもがこの病院に……」

 病室の扉を開けると部屋には亮君の家族、私の家族、そして主治医と思われる若い先生と数名の看護師さんがいた。

「広美ちゃん!!」

 お母さんが私に気付いた。目からは涙が流れている。

「広美ちゃん、よく来てくれたね……今夜が山だそうだから来てくれて嬉しよ……」

 亮君のお父さん、三郎おじさんが涙をこらえながら話しかけてくれる。

「りょ、りょう君の容体はどうなんですか?」

 私がそう聞くと亮君のお母さん、志保おばさんが少し肩を震わせながら小さな声でこう言った。

「あれだけの事故なのに命に別条はないそうなの……これは本当に奇跡だと思うわ。ただ……」

「ただ?」

「ただ、いつ目を覚ますかは分からない。それに目を覚ましたとしても身体中、骨折をしているし、内臓にも損傷があるから直ぐには社会復帰はできないと思う……でも私は亮二が生きてくれているだけで十分……ウウッ」

「志保おばさん……」

 私は何も言えなかった。というより志保おばさん達にかける言葉が浮かばなかった。

 何も言えない私はそのまま意識不明の状態の亮君に近づき、そしてソッと手を握り心の中で謝罪した。

 ゴメンね、亮君……いつもあなたばかり辛い思いをさせてしまって……私ばかり好きなように生きてしまって……

 ポンポン……

 私の心の中を分かってのことか、いえ、分かるはずは無いけど、五十鈴君、いえ、お父さんが私の肩を優しく叩いたかと思うと亮二君の耳元に顔を近づけ私だけにしか聞こえないくらいの小さな声で「俺はなんてことを……亮二君、すまない……ウウッ……」と呟き、そして泣いていた。

 どうしてお父さんが亮君に対して謝っていたのかは分からなかったけど、後でお母さんから聞いた話しで少しだけ謎が解けた。

 あの時、亮君を車で轢いた指名手配犯の山本次郎は昔、レストランで行われたお母さんとのお見合いの席でお母さんに交際を断られた。すると突然、山本次郎は怒り出し、お母さんに詰め寄ったそうだ。

 その時、お母さんの事が心配で二人の席の近くで待機していたお父さんが山本を止めようとした時に殴られ気を失い病院に入院し、山本はその場で現行犯逮捕されたそうだ。

 その後の山本は落ちぶれてしまい、いくつかの窃盗や傷害事件を起こし、何度も刑務所に入っていたらしい。そして先日の事件で山本が指名手配をされていることをニュースで知り、昔のことを思い出した両親は不安がよぎったらしい。そんな中での今回の事故だった。

 お父さんとすれば山本が恨んでいるのは自分なのに関係の無い亮君が被害にあってしまったから複雑な思いになっているのだろう。でもあの時の五十鈴君、いえ、お父さんの表情はなんか別の事でも謝っていた様な気がしたのは私の考え過ぎだろうか……?

 ちなみにその山本次郎は亮君を轢いた後、ハンドル操作を誤り、そのまま近くの電信柱に衝突、車は大破し、山本次郎は死亡した。それだけが関係者にとって救いになったのかもしれない。


 私はしばらくしてから病室を出ようとした時、主治医と思われる先生に声をかけられた。

「もしかしてあなたは昨夜の記者会見に岸本さんと一緒に出ていた新人女優さんじゃないですか?」

「え? は、はい……そうですが……」

「やはりそうですか……まさか彼とあなたがお知り合いだったとは驚きました。今度の映画撮影、頑張ってくださいね?」

 私はこんな時に映画の話をするなんて、不謹慎な先生だと思ってしまい、顔が強張ってしまう。すると先生は続いて話し出す。

「どうか彼が目を覚ました時に映画館であなたの素晴らしい演技を見せてあげてください。それが彼を早く元の身体に戻せる一番の薬になると思いますから」

 こ、この先生……

「わ、分かりました……亮君に喜んでもらえるように……亮君が一日も早く、元気な体に戻れるように頑張ります。だから先生、亮君をどうか宜しくお願いします!!」

「ええ、任せてください。全力で彼を治療して必ず元の身体に戻してみせます!!」


 後で知ったことだがこの先生の名前は青木啓介あおきけいすけといい、内科専門の先生だそうでこの場にはいなかったが他に脳外科と整形外科の先生と一緒に亮君の担当をしているらしい。

 青木という名前に何となく聞き覚えがあった私は後で両親にお願いして調べてもらった。そしてその結果を聞いて驚いた。

 青木先生のお父さんもお医者さんで名前は青木康介あおきこうすけといい、今はこの国立青葉病院の院長をしているそうだ。そして、その青木康介医院長こそ、私が石田浩美時代に白血病で入院していた時にとてもお世話になった主治医であった。

 これも何かの縁っていうものなのかなぁ……

 まさか、その不思議な縁がきっかけで青木啓介先生が私の将来の旦那様になるなんてことは今はまだ私自身も含めて誰も知らない。


 私は帰りの新幹線の中で病院での様子を思い出していた。

 特に青木先生に言われた言葉が頭から離れない。

 亮君の為に私ができる事……

 亮君が目を覚ました時に素晴らしい演技を見てもらって元気になってもらえるようにこれから必死で演技を頑張らなければ……

 それと心残りが一つある。

 それは加奈子ちゃんに会えなかったこと……加奈子ちゃんは亮君のお陰で軽傷で済んだみたいだけど、しばらくの間は大事を取って別の病院に入院しているらしく、あまり時間の無かった私は会う事ができなかった。

 時間が無い私が何故、行き帰り新幹線なの? 飛行機の方が早いじゃないって思われそうだけど、五十鈴広美に生まれ変わってもやっぱり『前の世界』でのことがあり、飛行機に対してのトラウマは消えない……

 でも今は飛行機でしか行けないところは我慢して乗れるようにはなったから少しはマシになったとは思う。それにこれから本格的に女優として頑張らなければいけない私としてはロケでどこに行くかもしれないから新幹線限定でなんてことは言えないだろうし……

 いずれにしても私は眠っている亮君の顔を見て改めて決意した。

 私は亮君が一日も早く元気になれるよう手助けをしたい。だからその為にも誰もが感動して元気になれるような演技を絶対にしてみせるわ!!



――――――――――――――――――――――――
 そして月日は流れ……

「五十鈴広美さん!! 明日、遂にデビュー映画『姉妹』が上映されますが、誰に一番観てもらいたいですか? やはりご両親ですかねぇ?」

「そうですね。両親に観てもらいたいですね。それともう一人、絶対に観てもらいたい人がいます……」

「ほぉ、その観てもらいたいという方はどなたなんでしょうか? 差支えがなければ教えていただきたいのですが……」

「はい、私が観てもらいたい人……それは事故にあい今も尚、意識が戻らない幼馴染です……」
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