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第7章 試練編
第71話 あなたの傍にいたくて/千夏
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私が東京の会社に就職して早いもので1年半が過ぎた。
24歳になった私は現在、彼氏無し……今まで彼氏が途切れた事の無かった私からすればこれは奇跡みたいな話だ。
会社の同僚や先輩に誘われて何度か合コンに参加はしたけど、これといった男性には巡り合えていない。いえ、巡り合う気が無いのに参加しているんだから彼氏ができるはずもない。
東京に来る前に亮君に告白をしてフラれた私……やはりそれが原因なんだろうなぁ……まだ今でも私は亮君の事を……
「ところで田中さん? あと半年で2年になるけどどうするつもりだい? 私としてはこのまま東京本社で務めてもらいたいが、君がどうしても青葉工場勤務を望むなら希望は叶えるつもりだが……」
休み明けの月曜日の朝、私の上司である総務部長が来年の勤務についての話をしてくださっている。うちの会社は入社後2年間は東京本社勤務が決まっていてその後は本人の希望があれば各地方にある支店や工場などで勤務ができるようになっている。
「す、すみません。もう少しだけ考えさせて頂けないでしょうか? まだ悩んでいまして……」
「そうか……それなら仕方がないね。出来れば10月までには決めてもらえないかな?」
「わ、分かりました。それまでには決断させて頂きます……」
私は悩んでいた。地元の青葉市で仕事をしたいという気持ちもあるけど、私をフッた亮君に会うのも辛い……でも別に地元に戻ったからといって頻繁に亮君に会う訳でも無いという思いもある。
だけど……別れ際にキスをしてしまったからなぁ……あれで余計に亮君の顔を見るのが恥ずかしいし……っていうか、男性経験豊富な私がキスくらいで恥ずかしがるってどういうことなの? 私はそんなピュアな女じゃないのにさ……
やはり亮君の前では本当の自分になってしまうんだよなぁ……
うーん、どうしたものか……
そんな事を考えていた矢先、お母さんからメールが届く。
そしてメールの内容を読んで私は愕然とした。
う、嘘……亮君が意識不明の重体だなんて……
私は上司に頼み込み会社を早退し、急いで青葉市へと向かった。
久しぶりに帰って来た地元だけど実家に寄らず直接、亮君が入院している病院へと向かう。
今、私の目の前には意識が戻らないまま人工呼吸器を付け眠っている亮君がいる。
私の後ろには三郎おじさんと志保おばさんが私を見守ってくれている感じで立っている。そして志保おばさんが背中越しに話しかけてくれた。
「千夏ちゃん、わざわざ来てくれてありがとね。亮二のこんな痛々しい姿を見てとてもショックでしょうけど……でもあんなにも悲惨な事故にあった亮二が手術も無事に成功してこうやって生きているのは奇跡なの。先生方に感謝してもしきれないくらいの気持ちよ……あとは亮二が目を覚ますのを待つだけなの……」
「そ、そうなんですね……」
志保おばさんはそう言っているけど、本当はとても辛くて悲しいのは長い付き合いだからよく分かる。だから亮君、志保おばさん達の為にも早く目を覚ましてちょうだい。
そして目を覚ました時には私も亮君の傍にいたいという思いになった。
恐らく意識を戻しても日常生活をおくる為には大変なリハビリをしなくちゃいけないだろうし、そんな亮君の役に立ちたい。
小さい頃からいつも一緒に遊んでいた亮君、非行に走っていた私を元に戻すきっかけをくれた亮君、そして私が初めて心から好きになった人でずっと片思いだった亮君の役に立ちたい……
その為には……亮君の傍にいる為には……
来年から地元の工場で働くことを私は決めた。
年が明け4月になった。
亮君は今も眠ったままだ。
私は地元の工場勤務になり『株式会社橋本金属青葉工場』の総務部に配属となる。
「本日より総務部で働かせて頂く事になりました、田中千夏です。皆さん、どうぞ宜しくお願い致します」
パチパチパチパチ
総務部の人達が笑顔で私を歓迎してくれた。
そのうちの一人の先輩女性が私に近づき小声でこう言ってきた。
「田中さん? あなた思い切ったわねぇ? 東京本社で同期の中では一番良い仕事をしていたって聞いたわよ。勿体なくない? そのまま本社勤務だったら出世も早かったのに。まぁ私は対して仕事もできなかったし、ホームシックみたいになっちゃったから何も悩まず青葉市に帰ってきたけどさぁ……」
「ハハハ、いえ、私も同じようなものですよ。少しは悩みましたけど、やっぱり地元が好きですし……それに……」
「それに?」
「いえ、何でもないです。い、いずれにしても青葉工場のことは何も分かりませんのでこれから色々と教えてください」
「分かったわ。それじゃぁ、早速、工場見学でも行こうか? 工場の中を見るのは初めてではないとは思うけど、田中さんが新人研修の頃よりは設備も色々と変わっているし、やはりいくら総務部でも現場は見ていた方がいいから」
「そうですね。お願いします」
ヘルメットをかぶった私は先輩に連れられて工場見学をしている。
大きな機械を目の当たりにして少し感動している私がいた。
すると男性が声をかけてきた。
「あれ? 君はもしかして千夏ちゃんじゃない?」
「え?」
私は下の名前で呼ばれたので驚いた顔をして声をかけてきた男性の方に顔を向けた。
「ほらやっぱり千夏ちゃんだ。僕だよ。五十鈴博だよ。おじさんのこと忘れたかなぁ……?」
「えっ!? ひ、博おじさん!?」
私に声をかけてきた人は五十鈴博……そう、五十鈴隆おじさんの弟さんだ。
今頃、思い出したわ。そういえば博おじさんはここの工場勤務だった……
博おじさんは年齢よりも若く見え、イケメンでスタイルも良く隆おじさんよりも身長が高い。恐らく若い頃はというより今も結構モテるんだろうなぁと思ってしまうような人だ。ちなみに独身である。
「僕のこと覚えてくれていたみたいだね? しかし、しばらく見ないうちに大人の女性になったねぇ……あのやんちゃだった千夏ちゃんがなぁ……おじさん、凄く驚いたよ」
「お久しぶり、博おじさん!! 忘れる訳ないじゃない。小さい頃、よく遊んでくれていたし……っていうか、やんちゃって何よ? それにしてもまさかこんなところで博おじさんに会うとは思わなかったわ。おじさんって今30代半ばくらいの年齢だよね? でも年齢よりも若く見える……20代後半でも通るんじゃない?」
「ハハハ、千夏ちゃんにそう言ってもらえると嬉しねぇ。これからも老けないように頑張らないと……」
「フフフ、頑張ってね? それで博おじさんはここで何をしているの?」
「ああ、僕も千夏ちゃんと同じさ。工場見学みたいなもんだよ」
「へぇ、そうなんだ。それじゃ私と一緒に回りましょうよ?」
「おお、それは良い提案だねぇ」
「ちょ、ちょっと田中さん!?」
「えっ?」
私と博おじさんの会話の中に慌てた感じで先輩が割り込んできた。
「田中さん、この方は青葉工場の製造部長なのよ!! お二人の会話で知り合い同士なのは分かったけど……いくら知り合いでも他の従業員の目もあるし、会社では口の利き方に気を付けなさい!!」
「えっ!? 博おじさんが製造部長!? ご、ゴメン……いえ、すみません、博、いえ、五十鈴部長!!」
「ハハハ、別に気にする事は無いさ。僕は全然気にして無いから」
「いえ、五十鈴部長!! 部長が気にし無くても他の人達が気にしますので……」
「うーん、そっかぁ……それじゃ僕も気を付けないといけないね……千夏、いや、田中さん、これからこの工場で頑張ってね?」
「うん、いえ、はい、頑張ります!!」
こうして笑顔で去って行く博おじさんを見送った後、私は引きつった表情をしている先輩と再び工場見学をするのだった。
さぁ、今日から新たな職場で頑張らなくちゃ。そして……
これで亮君が入院している病院にいつでも行く事ができるわ……
24歳になった私は現在、彼氏無し……今まで彼氏が途切れた事の無かった私からすればこれは奇跡みたいな話だ。
会社の同僚や先輩に誘われて何度か合コンに参加はしたけど、これといった男性には巡り合えていない。いえ、巡り合う気が無いのに参加しているんだから彼氏ができるはずもない。
東京に来る前に亮君に告白をしてフラれた私……やはりそれが原因なんだろうなぁ……まだ今でも私は亮君の事を……
「ところで田中さん? あと半年で2年になるけどどうするつもりだい? 私としてはこのまま東京本社で務めてもらいたいが、君がどうしても青葉工場勤務を望むなら希望は叶えるつもりだが……」
休み明けの月曜日の朝、私の上司である総務部長が来年の勤務についての話をしてくださっている。うちの会社は入社後2年間は東京本社勤務が決まっていてその後は本人の希望があれば各地方にある支店や工場などで勤務ができるようになっている。
「す、すみません。もう少しだけ考えさせて頂けないでしょうか? まだ悩んでいまして……」
「そうか……それなら仕方がないね。出来れば10月までには決めてもらえないかな?」
「わ、分かりました。それまでには決断させて頂きます……」
私は悩んでいた。地元の青葉市で仕事をしたいという気持ちもあるけど、私をフッた亮君に会うのも辛い……でも別に地元に戻ったからといって頻繁に亮君に会う訳でも無いという思いもある。
だけど……別れ際にキスをしてしまったからなぁ……あれで余計に亮君の顔を見るのが恥ずかしいし……っていうか、男性経験豊富な私がキスくらいで恥ずかしがるってどういうことなの? 私はそんなピュアな女じゃないのにさ……
やはり亮君の前では本当の自分になってしまうんだよなぁ……
うーん、どうしたものか……
そんな事を考えていた矢先、お母さんからメールが届く。
そしてメールの内容を読んで私は愕然とした。
う、嘘……亮君が意識不明の重体だなんて……
私は上司に頼み込み会社を早退し、急いで青葉市へと向かった。
久しぶりに帰って来た地元だけど実家に寄らず直接、亮君が入院している病院へと向かう。
今、私の目の前には意識が戻らないまま人工呼吸器を付け眠っている亮君がいる。
私の後ろには三郎おじさんと志保おばさんが私を見守ってくれている感じで立っている。そして志保おばさんが背中越しに話しかけてくれた。
「千夏ちゃん、わざわざ来てくれてありがとね。亮二のこんな痛々しい姿を見てとてもショックでしょうけど……でもあんなにも悲惨な事故にあった亮二が手術も無事に成功してこうやって生きているのは奇跡なの。先生方に感謝してもしきれないくらいの気持ちよ……あとは亮二が目を覚ますのを待つだけなの……」
「そ、そうなんですね……」
志保おばさんはそう言っているけど、本当はとても辛くて悲しいのは長い付き合いだからよく分かる。だから亮君、志保おばさん達の為にも早く目を覚ましてちょうだい。
そして目を覚ました時には私も亮君の傍にいたいという思いになった。
恐らく意識を戻しても日常生活をおくる為には大変なリハビリをしなくちゃいけないだろうし、そんな亮君の役に立ちたい。
小さい頃からいつも一緒に遊んでいた亮君、非行に走っていた私を元に戻すきっかけをくれた亮君、そして私が初めて心から好きになった人でずっと片思いだった亮君の役に立ちたい……
その為には……亮君の傍にいる為には……
来年から地元の工場で働くことを私は決めた。
年が明け4月になった。
亮君は今も眠ったままだ。
私は地元の工場勤務になり『株式会社橋本金属青葉工場』の総務部に配属となる。
「本日より総務部で働かせて頂く事になりました、田中千夏です。皆さん、どうぞ宜しくお願い致します」
パチパチパチパチ
総務部の人達が笑顔で私を歓迎してくれた。
そのうちの一人の先輩女性が私に近づき小声でこう言ってきた。
「田中さん? あなた思い切ったわねぇ? 東京本社で同期の中では一番良い仕事をしていたって聞いたわよ。勿体なくない? そのまま本社勤務だったら出世も早かったのに。まぁ私は対して仕事もできなかったし、ホームシックみたいになっちゃったから何も悩まず青葉市に帰ってきたけどさぁ……」
「ハハハ、いえ、私も同じようなものですよ。少しは悩みましたけど、やっぱり地元が好きですし……それに……」
「それに?」
「いえ、何でもないです。い、いずれにしても青葉工場のことは何も分かりませんのでこれから色々と教えてください」
「分かったわ。それじゃぁ、早速、工場見学でも行こうか? 工場の中を見るのは初めてではないとは思うけど、田中さんが新人研修の頃よりは設備も色々と変わっているし、やはりいくら総務部でも現場は見ていた方がいいから」
「そうですね。お願いします」
ヘルメットをかぶった私は先輩に連れられて工場見学をしている。
大きな機械を目の当たりにして少し感動している私がいた。
すると男性が声をかけてきた。
「あれ? 君はもしかして千夏ちゃんじゃない?」
「え?」
私は下の名前で呼ばれたので驚いた顔をして声をかけてきた男性の方に顔を向けた。
「ほらやっぱり千夏ちゃんだ。僕だよ。五十鈴博だよ。おじさんのこと忘れたかなぁ……?」
「えっ!? ひ、博おじさん!?」
私に声をかけてきた人は五十鈴博……そう、五十鈴隆おじさんの弟さんだ。
今頃、思い出したわ。そういえば博おじさんはここの工場勤務だった……
博おじさんは年齢よりも若く見え、イケメンでスタイルも良く隆おじさんよりも身長が高い。恐らく若い頃はというより今も結構モテるんだろうなぁと思ってしまうような人だ。ちなみに独身である。
「僕のこと覚えてくれていたみたいだね? しかし、しばらく見ないうちに大人の女性になったねぇ……あのやんちゃだった千夏ちゃんがなぁ……おじさん、凄く驚いたよ」
「お久しぶり、博おじさん!! 忘れる訳ないじゃない。小さい頃、よく遊んでくれていたし……っていうか、やんちゃって何よ? それにしてもまさかこんなところで博おじさんに会うとは思わなかったわ。おじさんって今30代半ばくらいの年齢だよね? でも年齢よりも若く見える……20代後半でも通るんじゃない?」
「ハハハ、千夏ちゃんにそう言ってもらえると嬉しねぇ。これからも老けないように頑張らないと……」
「フフフ、頑張ってね? それで博おじさんはここで何をしているの?」
「ああ、僕も千夏ちゃんと同じさ。工場見学みたいなもんだよ」
「へぇ、そうなんだ。それじゃ私と一緒に回りましょうよ?」
「おお、それは良い提案だねぇ」
「ちょ、ちょっと田中さん!?」
「えっ?」
私と博おじさんの会話の中に慌てた感じで先輩が割り込んできた。
「田中さん、この方は青葉工場の製造部長なのよ!! お二人の会話で知り合い同士なのは分かったけど……いくら知り合いでも他の従業員の目もあるし、会社では口の利き方に気を付けなさい!!」
「えっ!? 博おじさんが製造部長!? ご、ゴメン……いえ、すみません、博、いえ、五十鈴部長!!」
「ハハハ、別に気にする事は無いさ。僕は全然気にして無いから」
「いえ、五十鈴部長!! 部長が気にし無くても他の人達が気にしますので……」
「うーん、そっかぁ……それじゃ僕も気を付けないといけないね……千夏、いや、田中さん、これからこの工場で頑張ってね?」
「うん、いえ、はい、頑張ります!!」
こうして笑顔で去って行く博おじさんを見送った後、私は引きつった表情をしている先輩と再び工場見学をするのだった。
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