あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

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最終章 永遠の愛編

第78話 社会人として/亮二

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 7月半ば、加奈子ちゃんは高校生になって初めての夏休みに入った。それとは逆に俺は長い長い休み?が終わることになった。そうである。俺はリハビリが順調に進んだお陰である程度は歩けるようになり遂に今日から隆おじさんの会社で働く事になったのだ。

「隆おじさん、いや、社長!! 今日から宜しくお願いします!!」

「ああ、こちらこそよろしくね? 本当に今日の日が来るのが待ち遠しかったよ」

「そう言っていただけて嬉しいです。でも……」

「ん? でも何だい?」

「でも、俺は未だに記憶が戻っていませんし、学力も高校1年生レベルなのでおじさんの会社でお役に立てるのかどうか少し不安というか……」

「ハハハ、そんな事を気にする必要は無いさ。短い期間でそこまでのレベルになった事の方が凄いと思うし、それに記憶の事は焦らなくてもいいよ。まぁ、今は思い出さなくてもいい記憶だってあるんだしね……」

「えっ、今は思い出さなくてもいい記憶っていうのは?」

「いや、こっちの話だから気にしなくていいよ。いずれにしてもうちの会社は高卒の社員も多いし、亮二君なら直ぐに活躍できるさ。まぁ、自分のペースで頑張ってくれ」

「はい、ありがとうございます。精一杯頑張ります!!」

 隆おじさんの会社は金属加工を中心にしている会社で前に加奈子ちゃんが言っていた来月オープン予定の水族館『サワレル』や来年春頃に完成予定の大観覧車ジャンプスターの部品にも携わっているそうだ。

 従業員は約100名で地元ではかなり有名な会社になっている。昔は隆おじさんのお父さんと数名の従業員で細々と鉄工所を営んでいたらしいけど、隆おじさんの代になってから今の規模へと成長したらしい。

 昔、広美がそんな凄い隆おじさんの事を自慢げに話していたよなぁ……広美は俺が引いてしまうくらい極度のファザコンだったけど、今もそうなのかな?

 いや、あれだけの大女優になったんだから、さすがにファザコンは卒業しているだろうな?

「あっ、そういえば、久しぶりに広美からラインがきたんだけど、あいつも亮二君がうちの会社で働くと知ってとても喜んでいたぞ」

「え、そうなんですか?」

 ちなみに俺が意識不明の間に携帯電話からスマートフォンというものに世の中が変化していたのは驚いた出来事の一つでもあった。



 隆おじさんは俺に広美から来たラインの画面を見せてくれたが隆おじさんの身体を気遣っている文章が多く、それに文章の端々にたくさんのハートの絵文字が貼り付けられているのを見て俺は広美が未だにファザコンを卒業していないことを確信した。

「はぁ……」

 相変わらず広美は……

「ん? ため息なんかついてどうしたんだい亮二君?」

「へ? い、いえ、別に何でもありません……ただ広美は相変わらず隆おじさんの事が大好きなんだなぁと思って……」

「ハハハ、そうみたいだね。でも娘に嫌われるよりはこっちの方が幸せだけどね。特にこの歳になれば余計にそう思うようになったよ。でも最近、広美には好きな人ができたって聞いたけど……」

「えっ!? そうなんですか!?」

「あっ!! い、いや、今のは聞かなかった事にしてくれないか? っていうか、俺もバカだよなぁ……よりによって『記憶が戻っていない亮二君』にこんな事を言ってしまうなんて……いや本当に今の発言は忘れてくれないかい?」

「ハ、ハハハ……忘れろと言われても……でも忘れられるように努力はしますけど……それに広美は芸能人ですしこんなことが世間に知られるとマズいですもんね……」

 俺の記憶に残っている広美は父親にしか興味の無い女の子で今まで告白してきた数多くの男子達をフッてきたイメージしかない。

 そしてそんな広美に小さい頃から片思いをしていた俺はフラれて幼馴染の関係が壊れるのが怖くて告白する事ができなかった。まぁ、中学生になった頃までの記憶しか無いからそれ以降に俺が広美に告白したのかどうかは未だに謎ではある。

 でも仮に告白していたとしても前にお見舞いに来てくれた時にした会話や広美の俺を見る表情などを考えるとフラれたのは間違いないだろう。

 しかし……高校を卒業して直ぐに上京し、必死に演技を頑張って、遂に大女優の仲間入りを果たした広美が……今は仕事の事しか興味が無いと思っていた広美に好きな人ができたなんてなぁ……

 俺は何だか失恋をした気持ちになってしまった。

「亮二君、大丈夫かい? 顔色が悪いようだけど」

「いえ、大丈夫です。あの広美に好きな人ができたって聞いて少し驚いただけですから……」

「ゴメンよ、亮二君。俺が変な事を言ってしまっから……昔から亮二君が広美の事をどう思っていたのか分かっていたのにさ……どうしても亮二君の顔を見ると全ての記憶が戻っている感覚になってしまって……」

「え?」

 記憶が戻っていたら今みたいな感情に俺はならないって事なのか?
 っていうか、隆おじさんは俺が広美の事が好きだって事を知っている様な言い方だよな?

 ああ、早く記憶を取り戻したい!!
 記憶さえ取り戻せば何もかもがハッキリするのに!!

 加奈子ちゃんのことだって……

「そういえば、加奈子ちゃんは元気にしているのかい? 最近、顔を見ていないから気になっていたんだよ。まぁ、たまに香織にはラインがくるみたいだけどさ。4月から高校生になったんだよね? それも俺や亮二君が通っていた青葉東高校に……」

「え? 加奈子ちゃんですか? はい、いつも元気よく高校に通っていますよ」

「そっかぁ、元気にしているなら良かったよ。しかし、あの加奈子ちゃんが高校生かぁ……ほんと、人の成長は早いというか……」

 そうだったな。隆おじさん達は加奈子ちゃんの事を知っていたんだよな。でも何で隆おじさん達は加奈子ちゃんと知り合いになったのだろうか? お互いに接点は無いと思うんだけど……やはり俺繋がりで……

「あのぉ、俺が記憶を失う前の俺と加奈子ちゃんってどんな付き合いをしていたか隆おじさんはご存じなんですか? もしご存じなら教えて欲しいんですが」

「え? う、うーん……」

 隆おじさんはそう言うと目を閉じながら黙り込む。そして数十秒後に目を開けこう言った。

「いや俺から説明するのは止めておくよ。それに二人にまつわる話はそんな短い説明では終わらないしね。やはり亮二君の記憶が自然に戻るまで待った方が良いと俺は思うんだよ……」

「でもいつまで経っても俺の記憶は全然戻らないですし、そんな俺なのにいつも優しく接してくれている加奈子ちゃんに申し訳無くて……俺の為に加奈子ちゃんの大事な青春を犠牲にさせているんじゃないかと思うととても申し訳無い気持ちになってしまうこともあって……」

 ポン

 隆おじさんが俺の肩を軽く叩き笑顔でこう言う。

「大丈夫!! 加奈子ちゃんの青春を犠牲になんてしていないよ。それどころか亮二君が生きてくれたお陰で加奈子ちゃんの大事な青春が途切れずに今も続いているんだ」

「途切れずに今も続いている?」

「そうさ!! それは間違いないと俺は言えるよ。いずれ記憶が戻ったら全てが分るから亮二君は何も心配しなくてもいいし、加奈子ちゃんを信じてあげて欲しい。逆に犠牲とかそんな気持ちでいると頑張っている加奈子ちゃんに対して失礼だよ」

「隆おじさん……」

「さぁ、この話はこれでお終いだ。今から従業員達に亮二君を紹介しないといけないし、会社の中も案内しないといけないしね。それから従業員の前では簡単な自己紹介をしてもらうから考えておくんだよ?」

「は、はい……分かりました」

「いずれにしても今日から君は社会人なんだ。余計な事は考えずにこれからは加奈子ちゃん達若い子の手本になるような立派な社会人になって欲しい」

「はい、そうなれるように頑張ります!!」

 こうして俺は隆おじさんの元、社会人として歩み始めるのだった。





――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
ついに最終章です!
何卒完結までお付き合い宜しくお願い致します。
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