あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

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最終章 永遠の愛編

第79話 思い出してあげて欲しい/亮二

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「りょう君、仕事の方はどう? 少しは慣れた?」

「うん、どうだろぉ……まだ就職して一ヶ月も経っていないからねぇ……でも従業員の皆さんとても優しくて丁寧に仕事を教えてくれるから毎日とても楽しく仕事をしているよ」

「へぇ、そうなんだね。それは良かった」

「これも加奈子ちゃんのお陰だよ。ありがとね?」

「え? 私、何もしてないよ」

「イヤイヤイヤッ、加奈子ちゃんが勉強を教えてくれたお陰で当初の不安がかなり消えたから働く事ができているみたいなものだからねぇ。ほんと加奈子ちゃんには感謝しかないよ」

「それは大袈裟だよぉ。。なんだか恥ずかしいわ。でもりょう君にそう言ってもらえるのは嬉しいけど……りょう君のお役に立てて良かったわ。あ、もうこんな時間。りょう君、そろそろ中に入りましょうか?」

「ああ、そうだね」

 今日は8月半ば、俺達は前に約束した通り、エキサイトランド跡地にできた水族館『サワレル』に来ている。青葉市の隣で政令指定都市でもある大葉市南部の大型水族館『水遊館』と同じ会社が手掛けている水族館だけあって外装内装共に凄く凝ったデザインで中に入っただけで別世界に来た感覚になるとてもワクワクする水族館だ。

「りょう君見て!! このお魚さん達の色、とても綺麗だね?」

「うん、そうだね。とても綺麗だ。水族館に来たのは『小学生以来』だから凄くテンション上がっちゃうよ」

 俺はそう言った後に少ししまったという気持ちになった。

「小学生以来じゃないんだよ……」

「え?」

「ううん、何でもない……」

 俺はなるべく加奈子ちゃんと会話する時は昔の話をしないように心掛けていた。何故なら昔の話をすればする程、消えた数年間の記憶の事をお互いに意識してしまい会話が弾まなくなるからだ。

 だから興奮して思わず言ってしまった言葉に俺は後悔した。そして本当は加奈子ちゃんが呟いた言葉は聞こえていたんだ。そうだよな。俺の記憶から消えている数年間に1度や2度くらいは水族館に行っているだろう。そして加奈子ちゃんとも、もしかしたら……

 二人の間に沈黙が流れる。マズいと思った俺は慌てて加奈子ちゃんに質問をした。

「そ、そういえばさ、ここの水族館はイルカショーは無いのかな?」

「え? うん、イルカショーは無いけど、ペンギンショーならあるみたいだよ」

「ペンギンショー!? それいいね。俺は昔からペンギンが大好きだからそれは観てみたいなぁ。それでそのペンギンショーは何時から始まるのかな?」

「ちょっと待ってね? 今、サワレルのパンフレットを見てみるから」

――――――――――――――――――――――――

 ペンギンショーを堪能した俺は興奮冷めやまぬままだったがトイレに行きたくなったので加奈子ちゃんにはベンチに座って待ってもらうことに。

 そして俺が早歩きでトイレに行くとさすがに日曜日ということもあり男女共にトイレは長蛇の列ができていた。

「あちゃぁ、順番が来るまで俺は我慢できるだろうか……」

 そう俺が不安げな独り言を言っていると後ろから俺の名前を呼ぶ声がした。

「か、鎌田さん……?」

「え?」

 振り向くとそこには見覚えのあるイケメン高校生風の男子が立っていた。

「えっとぉ……君はたしか……」

「山田です。山田翔太です!!」

「ああ!! そうだ。前に俺のお見舞いに来てくれた山田さんっていう人の息子さんだよね?」

「はい、そうです。お久しぶりです」

「あの時はゴメンね? せっかくお見舞いに来てくれたのに翔太君達の事を何も思い出せなくて……」

「いえ、鎌田さんは何も悪くないですから……それよりも今日はもしかして加奈子と一緒に来ているんですか?」

「え? ああ、そうなんだよ。前から俺が退院して加奈子ちゃんが高校生になったら一緒にサワレルに行こうって言っていてさ、それで今日はその約束を果たしているって感じかな」

「加奈子……ちゃん……ですか……」

 あれ? 何か翔太君の反応が俺の予想と違うぞ……加奈子ちゃんとは幼馴染だって前に会った時に翔太君のご両親から聞いたから加奈子ちゃんを知らないって事は無いと思うんだが……

 あ、もしかしたら……

「ち、違うよ。そんなんじゃないから。俺は別に加奈子ちゃんとデートで来ている訳では無いからね。7歳も歳が離れているんだしさ。ど、どちらかと言えば俺は加奈子ちゃんの保護者みたいな感じで来ているようなものだからさ……」

 俺がそう言うと翔太君は少し暗い表情で口を開く。

「鎌田さん、まだ数年間の消えた記憶は戻っていないんですね? 僕達の事は直ぐに思い出さなくてもいいんですが、加奈子の事もまだ思い出せていなかったんですね……」

「うん、そうなんだよ……ほんと、早く記憶を取り戻したいんだけどさぁ……そうなれば翔太君の事も思い出せて会話も弾むと思うんだけどなぁ……」

「弾みませんよ」

「えっ?」

「僕の事を思い出しても何も弾む様な事はありませんよ。どちらかといえば逆です……思い出さない方が良いかもしれません……」

 翔太君の言葉に驚いた俺は以前、隆おじさんが「思い出さない方が良いこともある」という言葉が浮かんでしまった。

「いや、でもさ……」

「それよりも僕としては一日も早く加奈子の事を思い出してあげて欲しいんです!! じゃないと加奈子が可哀想ですし、僕も加奈子を見ていて辛いし複雑な気持ちになってしまうというか……」 

 何故、翔太君は自分の事は思い出さなくてもいいと言いながら、加奈子ちゃんの事は早く思い出して欲しいと言うのだろうか?

 それに加奈子ちゃんに対して複雑な気持ちというのは……そう言えば二人は幼馴染だったよな?

 幼馴染と言えば俺と広美も幼馴染だけど……

 あっ、もしかして翔太君は……

「翔太君は今日、誰と来ているんだい?」

「え? あ、はい……彼女と来ています」

「そっかぁ……それはいいねぇ」

 ふぅ、良かったぁ……翔太君には彼女がいたのか? まぁ、こんなにイケメンだし彼女がいない方が不思議だけども……いずれにしても翔太君が加奈子ちゃんの事を好きって訳では無さそうだな?

「僕の彼女は前にお見舞いに一緒に来ていた根津桜ですよ」

「おお!! あの時の可愛らしい女の子かぁ。二人共、美男美女だからお似合いだねぇ。そっかそっか、それは良いねぇ」

「ちなみに桜は加奈子の親友で、僕達は『加奈子の紹介』で小学生の頃から付き合っています」

「え、そうなの!? 小学生から付き合っているって凄いなぁ……それも加奈子ちゃんの紹介って凄いなぁ……」

 最近の小学生は凄くマセているんだな? 俺は小学生の頃の記憶は残っているけど、当時、女子と付き合うなんて考えたことなんか無かった……

 いや、あったよな。ずっと俺は広美の事を考えていた……
 子供ながらにいつか広美に告白して付き合いたいって想っていたよなぁ……

 ってことは俺もかなりマセた小学生だったって事なのかな?

「鎌田さん?」

「えっ? い、いや、ハハハ!! そ、そうなんだぁ……桜ちゃんは加奈子ちゃんの親友なんだぁ……」

 加奈子ちゃんの親友が加奈子ちゃんの幼馴染と付き合っているってことになるのかぁ……もし加奈子ちゃんが俺みたいに小さい頃から翔太君の事が好きだったのにその好きな相手が親友と付き合っている姿を見ればかなりショックで落ち込んでしまうだろうなぁ……俺なら落ち込むぞ……現に最近、広美に彼氏がいるって知っただけで結構ダメージがあったからなぁ……

 加奈子ちゃんはそうではない事を願いたいものだ。

 いずれにしても俺は早くトイレを済ませて加奈子ちゃんの所へ戻りたい。

「それでは僕はそろそろ桜の所へ戻りますね?」

「え? 翔太君もトイレじゃなかったのかい?」

「いえ、僕は鎌田さんを見かけて声をかけただけですので……」

「ハハハ、そうだったんだね……それじゃぁ彼女さんにもよろしく伝えておいてね?」

「はい、分かりました。それでですね、できれば僕と会ったというのは加奈子に言わないで欲しいのですが……」

「え、何で?」

「お願いします!!」

「うん、分かった……」

「ありがとうございます。それでは失礼します」

「翔太君、デート楽しんでねぇ?」

 翔太君は笑顔で俺に手を振りながら加奈子ちゃんが待っている方向とは逆の方へと去って行き、そんな彼の姿を見ながら何故、翔太君と会った事を加奈子ちゃんに内緒にしなくてはいけないのかを考えているうちに俺のトイレの順番がやってきたのだった。






――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
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