【オリジナルBL】冷たい海の底(特攻隊員×軍医)

ラセル

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第一話『秘密の逢瀬-1』

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※本作では特攻隊及び船舶特別幹部候補生を題材として扱っておりますが、実際の史実、制度とは異なる部分があります。あらかじめご了承ください。


第一話 秘密の逢瀬-1


 普段は人の声が絶えない駐屯地内も、半月に一度の自由外出日だけは、まるで白昼夢のように静まり返る。船舶特別幹部候補生・月舘竜輝つきだてたつきの耳に聞こえるのは、窓の向こうに広がる海の波音と、床を踏みしめる自分の足音だけだ。
 そんないつもとは違う雰囲気の兵舎内を一人歩きながら、竜輝はそわそわと落ち着かない胸の内を宥めるように深呼吸する。

(駄目じゃな、逢う前からこんなに興奮しとるなんて、我ながら情けないわ……)

 そう自嘲しながら長い廊下の突き当りのドアを出ると、そこは屋根付きの外廊下になっていて、廊下の先は衛生兵たちが暮らす兵舎と救護所を兼ねた建屋へと繋がっている。
 建屋内は竜輝たち船舶特別幹部候補生の兵舎と同様に、しんと静まり返っていた。竜輝たちの兵舎に比べると人数が少ないゆえに普段から静かなほうではあったが、今は比喩でも何でもなく物音一つしない。
 妙に大きく響く足音を気にして自然と忍び足になりながら、竜輝はこの建屋にある医務室を目指した。そこにはきっとあの人が――竜輝が逢いたくて堪らなかった人がいるはずだ。
 もう間もなく医務室に着くというところで、竜輝は階段下にあった姿見で自分の身なりをチェックする。着ている軍服に乱れはない。髪は……丸刈りだから整える必要はなかった。
 すぐ目の前に医務室の名称札が見える。音が聞こえてきそうなほど激しく心臓を脈打たせながら、竜輝は閉められたドアをノックした。

「誰だ?」

 ドア越しに返ってきたのは、あの人の声だ。

「月舘であります!」
「また貴様か。まあいい、入れ」

 許可が出たので、木製のドアを開けて部屋の中に入る。
 医務室は二十帖ほどの広さになっていて、左手のほうにはベッドが五台、正面の窓際には大きな机が置かれている。その机の向こうの椅子に腰かけているのは、舞台役者さながらに整った顔立ちをした男だ。竜輝と同じく全身を包むのは陸軍の軍服だが、襟元には中尉を示す階級章が覗いている。

「せっかくの自由外出日にもかかわらず、またここに留まったのか、月舘候補生」

 男が少し呆れたような顔をしてそう言った。

「帰る場所がありませんので」
「帰る場所がなくとも、他の兵士たちのように女遊びをしてくればいいものを」
「自分は……女よりもあなたがいい」

 正直な気持ちを吐露すると、男――日高郷治きょうじ陸軍軍医中尉は、端正な顔立ちに少しだけ意地の悪い笑顔を浮かべる。その顔のままツカツカと竜輝の目の前まで歩いてきたかと思うと、おもむろに股間を鷲掴みにしてきた。

「女よりも男の俺がいいだなんて、相当な変態だな。しかも部屋に入る前からここをこんなに硬くして……どれだけ期待していたんだ?」
「申し訳ありません……」

 細い指が竜輝の股間にできたテントの先を撫でる。性の匂いを感じさせる触れ方に、背中がぞくぞくと鳥肌立つのが自分でもわかった。

「まあいい。俺も溜まっていることだし、面倒なことは抜きにしてとっととやるぞ」
「はい!」

 日高が軍衣を脱ぎ始めたのに倣って、竜輝も着ているものを上から順に脱ぎ始める。真冬でも部屋の中はストーブが利いていたので、褌一丁になっても寒くはない。
 先に褌一丁になっていた日高は、己の身体を見せつけるように腰に手を当てる。晒された裸体はどちらかというと細いほうだが、隅々まで鍛えられており、筋肉の凹凸がはっきりとしている。何度見てもしなやかで美しい身体だと、竜輝は釘付けになりながら、思わず手を伸ばしかけている自分に気づいて慌ててその手を引っ込めた。

「なんだ、触らないのか?」
「はしたないと思って……」
「股間を滾らせた奴が今更何を言うか。触りたいなら好きに触ればいい」

 許しが出たので、一度引っ込めた手を再び日高のほうへ伸ばす。桃色の乳首、割れた腹筋、その下の褌にしまわれたモノ、引き締まった尻――日高の身体で触りたいところなど、いくらでもある。けれどそういうのはあとの楽しみにとっておいて、まずは鍛え上げられた身体を抱き締めた。日高は百八十五センチの竜輝よりも十センチくらい背が低いから、抱き締めるとどうしても竜輝が包み込むような感じになってしまう。

「貴様はこうするのが好きだな」
「……駄目でしょうか?」
「いや、構わん。俺も嫌いじゃない」



 日高と身体の関係を持つようになったのは、今からちょうど二カ月くらい前のことだ。深夜、溜まった欲を自分で処理しようと、竜輝は寝室をこっそり抜け出した。十九歳の竜輝はもちろんのこと、この兵舎でともに暮らす候補生は二十歳前後の若い男ばかりだ。当然溜まるものも溜まるし、時々処理しなければ入浴の際にうっかり勃起してしまう……なんていう恥ずかしい事態にもなりかねない。
 六人一部屋の寝室では当然抜くに抜けないので、この共同生活の場の中で唯一一人になれる便所で皆処理しているのだが、竜輝はあそこの臭いが苦手で勃つものも勃たず、処理の機会を失いかけていた。
そこで思いついたのが、兵舎裏のガスボンベを保管している小屋の陰で抜くことだった。あそこなら人目に付かないし、深夜ならなおさら誰かに見られる心配もないだろう。
 件の場所は、やはり人気がなく静かだ。小屋の陰に立つと竜輝はズボンを下ろし、褌の隙間からイチモツを取り出した。性を溜め込んでいたそれは、冷たさを含んだ秋の夜風に晒されただけであっという間に硬くなり、手に握るとビクンと震える。
 最初はゆっくり、久々の快感を味わうように丁寧に扱き始めたが、すぐに我慢できなくなって手の動きが速くなってしまう。先走りが溢れ始めると湿った音が辺りに響き始め、さすがに誰かに聞かれてしまいそうだったのでまた少しだけ手を緩めた。
 やはり不快な臭いに苛まれずにできるのは気分がいい。それにこの解放感と、してはならない場所でしているというスリル――癖になってしまいそうだ。
 久々なだけあって、絶頂が迫ってくるのも早い。あと三十秒くらい扱けば達するはずだ。

「――そこで何をしている」

 唐突に鼓膜を刺激した声に、竜輝は驚きのあまり心臓が止まりそうになる。反射的に声のしたほうに視線を向ければ、ほんの数メートルしか離れていないところに人影があった。自慰に集中しすぎてこんな近い距離まで接近されていたことに気づかなかったようだ。
 人影はゆっくりとこちらに歩み寄ってきて、もうあと一メートルもないという距離に入ってようやく、その顔が誰ものなのかわかるようになる。

「日高中尉……」

 陸軍軍医中尉、日高郷治――この兵舎の医療部門の長だ。竜輝も訓練中に怪我をした際、世話になったことがある。
 日高はこの男臭い場所に不釣り合いの綺麗に整った顔立ちに、意地の悪い笑みを浮かべた。その視線は明らかに竜輝の股間に注がれている。

「月舘候補生、ずいぶんと立派なモノを持ってるんだな」
「えっ……あっ!」

 突然の誰何に動揺しすぎて、いきり勃ったものをしまうのを忘れていた。慌てて褌の中へとなんとか押し込んだが、見られたことへの羞恥で顔が赤くなっているのが自分でもわかる。夜闇でそれが日高側からはわからないことを願うしかない。

「こんなところで自慰に更けるなど、ひょっとして貴様は変態か?」
「い、いえっ、そのっ……便所の臭いが駄目で、抜くに抜けんのでここでしようと……」
「確かにここの便所の臭いは最悪だな。あれじゃ勃つものも勃たない。貴様の気持ちもよくわかる」
「ちゅ、中尉はそのっ……ご自分でされるとき、どうなさっているのですか?」

 まだ気が動転しているせいか、訊くべきではないことを訊いてしまう。けれど日高は別段気を悪くしたふうもなく、むしろ楽しげに笑った。

「俺は一人部屋だから、何も気にせずベッドの上でしているぞ?」
「う、羨ましい……」
「だろうな。なんなら今から俺の部屋を使わせてやろうか?」
「よろしいのですか!?」
「利用料は徴収するがな」
「うっ……自分は金の持ち合わせがあまりありません……」
「二等兵から金銭を徴収するほど俺は落ちぶれちゃいないぞ。大丈夫、そう難しいことじゃないし、貴様にとっても得な話かもしれん」
「得な話……でありますか?」
「ああ。ここで話すのもなんだ、詳しいことは俺の部屋に行って話そう」

 来い、と言って歩き出した日高に今更断りを入れることもできず、竜輝は大人しく彼の後ろをついて行く。それに断る理由もない。利用料がどんな内容なのか少し不安なところではあるが、本当に部屋を使わせてもらえるなら竜輝にとってはかなりありがたい話だ。外でするのは気持ちいいけれど、こうして日高に見つかったように、他の上官や候補生に見つかってしまう可能性も十分にある。
 日高に連れて来られたのは、竜輝も立ち入ったことのある医務室だ。聞けばこの医務室を日高は個人の部屋としても使っているらしく、一番奥の布製の間仕切りに囲われたベッドを自分のものとしているそうだ。

「とりあえず脱げ」

 明かりの消えたままの部屋で、日高がそう言った。

「中尉の前で……ですか?」
「なんだ、恥ずかしいとでも言うつもりか? 風呂で皆と見せ合ってるはずだろう?」
「そうですがっ……」
「つべこべ言わずに脱げ。でなきゃ寝るのが遅くなってしまうぞ」

 まったく引く気のなさそうな日高に、竜輝は仕方なく彼の目の前でズボンと褌を脱いでいく。移動している間に勃起は収まっていたが、勃っていようがいまいがやはり人前に晒すのは恥ずかしい。日高が言っていたように、確かに風呂では何度も他人に見せているけれど、誰も彼もがそれを晒している場所で晒すのと、そうではない場所で晒すのとでは気持ちがまるで違う。

「脱ぎました……」
「よし、じゃあベッドの上に横になれ」

 言われたとおりにベッドに上がって横になれば、なぜか日高もベッドに上がってくる。そして竜輝の脚を跨ぐような形で覆い被さってきたかと思うと、おもむろに竜輝自身を握った。

「ちゅ、中尉!?」
「目を閉じて女のことでも想像していろ。俺が最高に気持ちいい思いをさせてやるから」

 生温かい感触が竜輝の先端に触れる。カーテンの隙間から差し込む月明かりで、日高がそこに舌を這わせているのだと見て取れた。

「中尉っ……そんなところ、汚いですっ」
「風呂には入ったのだろう?」
「そうですがっ……」
「なら問題ない。不快な臭いもしないしな」

 そう言って再び竜輝の股間に顔を埋め、まるでキャンディーでも舐めるかのような気軽さでそこを舐め始める。日高の愛撫を受けたそこはあっという間に硬く屹立し、恥ずかしくて顔から火を噴きそうだった。

「若いだけあって硬いな。勃つのも早くて助かる」
「すみません……」
「いや、褒めてるつもりなんだが? 男相手だとまったく勃たない輩もいるし、そういうやつは面倒なだけだからな」

 そう言ってから日高は再び竜輝のそれに舌を這わせた。包皮から露出した先端をじっくり濡らすと、そのまま全体を口の中に含む。

「あっ……!」

 生温かい粘膜に包まれて、そのあまりの気持ちよさに、吐息とともに変な声が出てしまう。それをどうにか抑えようと全身に力を入れてみるけれど、容赦のない愛撫に抗うことができず、情けないようなくぐもった声が断続的に零れた。
 さっき日高は男相手に勃たない男もいると言っていたが、竜輝に対してそんな心配をする必要はない。なぜなら竜輝の性愛の対象は女ではなく、男だからだ。相手が日高のような男前ならなおのこと興奮する。
 兵舎内でもよく耳にするが、日高は誰もが認めるような美男子だ。二重でキリっとした瞳、やや高めの鼻、薄い唇――目鼻立ちはどれをとっても整っていて、さながら精巧な彫刻のようだった。
 兵舎内は男しかいないので、日高の浮いた話は一つも聞いたことがないが、街を歩かせればきっとすれ違う女の皆が皆、二度見するに違いない。そんな極上の男前が今、竜輝に懸命に奉仕してくれている。そのことに高揚感や優越感にも似た気持ちを抱きながら、更に相手が直属ではないとはいえ一応上長という立場にあることが、妙な興奮を竜輝に滾らせていた。

「ああっ……中尉っ、出そうですっ」
「そのまま口の中に出せ」

 初めての口での奉仕をじっくり味わう間もなく、竜輝は日高の口内に精を放った。一週間以上も出してなかったからそれなりの量が出たはずだが、日高は苦もなさそうに一滴残らず飲んだようだ。

「なかなか濃いな。若いだけあって量もえげつなかった」
「久々じゃったんで、すみません……」
「謝るな。俺は濃いほうが好きだ」

 笑いながら日高はちり紙で竜輝の性器を綺麗に拭ってくれる。上長に後始末までさせてしまうのも申し訳なかったが、自分でしようとすれば日高に「じっとしていろ」と言いつけられたので仕方ない。

「月舘……なぜまた勃起してるんだ?」

 溜まったものを吐き出して落ち着いたはずなのに、日高に掃除してもらっている間に竜輝のそこはまた硬くなってしまっている。恥ずかしくて手で顔を覆えば、日高は大仰に笑った。

「可愛いな、お前。そう恥ずかしがるなよ。勃ってくれたならちょうどいい」

 そう言って日高は軍衣を上から順に脱ぎ始める。軍医と思って侮っていたが、彼の身体は厳しい訓練に身を投じる竜輝にも劣らない、硬い筋肉に覆われたそれをしていた。恥じる様子もなく褌まで脱ぎ捨てれば、露になった下腹部は硬く怒張している。
 ゴクリと、生唾を飲む。晒された裸体に今まで感じたことのないような、凄まじい興奮が身体の奥底から急激に湧き上がってくるのを感じた。この身体と肌を重ね合わせたい。この身体を強く抱き締めたい。自分でも戸惑うほどの強い欲求を滲ませつつ、しばらくの間日高の身体に見惚れていた。

「そんなに見たらお前が萎えてしまうだろう? 男の裸なんて興奮しないだろうに」
「いえ……とても綺麗な身体じゃって思います」
「そんな世辞は要らん」
「お世辞などではありません! 本当に、すごく綺麗です」
「そうか……」

 月明かりに照らされた日高は、整った顔立ちに照れたような笑みを浮かべる。普段は決してお目にかかることのできないその表情に、なぜだか頬が火照り、胸が弾むような感覚を覚えた。
 全裸になった日高は、竜輝の腰の上に跨る。そして後ろ手に竜輝の屹立を握ると、それを自らの尻の谷間に押し当てた。

「気持ちよくしてやった礼と言ってはなんだが、貴様のこれで俺のことも気持ちよくしてくれ。女を犯すような感覚でやってもらって大丈夫だ」
「お、女としたことがないので、どういう感覚なんか俺にはわかりません……」
「貴様、童貞なのか!?」
「すみません……」
「いや、だから謝るなよ。そうか、童貞なのか……その筆おろしの相手が俺でもいいか?」

 したことはなくても、男同士のセックスで尻を使うというのは竜輝も知識として知っている。だからこれから何をするのか、説明されなくてもわかっていた。

「構いません。むしろ中尉のような方にお相手していただけるなら、光栄であります」
「そうか。なら遠慮なくいただくぞ」


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