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第三話
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「こんなことは馬鹿げています。……皇くん、あなたももう気が済んだでしょう。今回のことは目をつむります。ですから、もう終わりにしましょう」
このおばさんは本当にダメだなと、僕は思わずため息が出た。
「理事長、状況わかってます? この動画が表に出れば、終わるのはあなた方学園のほうなんですよ? 今やSNSは世界と繋がるツールなんです。世界中からバッシングされれば、帝王学園の名前すら残りませんよ」
「大袈裟です」
「大袈裟……? 聞きましたか、冷泉莉世さん」
僕は全校生徒の中に、身を隠す女子生徒に目を向けた。
「なっ、なんであたしに振るのよ!」
「芸能人の意見を聞きたいからですよ。この状況、SNSに詳しい芸能人から見てどうですか?」
「え……いや………それは………ねぇ、お願いだから撮らないでよ!」
いつもは芸能人オーラを振りまく彼女が、おどおどと目を泳がせていた。
「あー、そっか! ファッションモデルの冷泉莉世さんは鮎喰と付き合っているんでしたよね? 彼氏だから、暴力を振るっても許されるってことですか?」
「ち、違うっ!」
違うわけあるかっ!
お前たちがいつも、僕や拝村さんを馬鹿にしていたの知っているんだからな。百歩譲って僕のことだけなら見逃してやったかもしれないけど、僕のことをかばってくれた拝村さんを馬鹿にしたことだけは、絶対に許さない。
呑気に芸能人なんてやれると思うなよ。
「違うって……何がですか?」
「あたしは……その、土下座コールにも参加していないし、そんな暴力男と付き合ったりしてないわ! 皇くんの誤解よ!」
「は? 何言ってんだよ莉世ッ!」
「気安く話しかけんじゃないわよ! この暴力男!」
「て、てめぇふざけたこと言ってんじゃねぇぞ! そもそも募金箱を盗んでこいつのロッカーに入れたら退学にできんじゃねぇ? って提案したのはてめぇだろ! ――……あっ、しまった!」
慌てて両手で口を塞ぐが、時すでに遅しである。
生徒会メンバーや全校生徒たちは驚きの表情を浮かべ、口を大きく開けてただ立ち尽くしていた。
「では、窃盗の指示役が冷泉さんで、実行犯が鮎喰くんということでいいですか?」
「――待って、あたしじゃない! はじめに募金箱を盗もうって言い出したのは絵美と隼人よ!」
「ふざけんなしっ!」
「俺たちは関係ないからなっ! つーか、ふざけんなよこのクソモデルっ!」
「は? 事実を言ってるだけじゃない! あんたらがくだらないこと言わなければ、こんなことにはならなかったのよ!」
「っんだとこの野郎っ!」
醜い仲間割れに、生徒会メンバーもあきれ果てている。
「生徒会長、先程の約束覚えていますか?」
「……本気なのか?」
「人に罪を擦りつけたんですから、謝るのは当然では? ――――っ!?」
約束通り、真犯人たちに土下座をさせるよう生徒会長にお願いをしていると、いきなり鮎喰に体当たりされ、吹き飛ばされてしまった。
「――あっ!?」
「うらぁあああああッ!」
――バキッ!
「なっ、なにをするんだッ!」
倒れた僕からスマホを奪い盗った鮎喰が、床にスマホを投げつけた。
「動画がなかったらいいんだろうがァッ!」
粉々に割れたスマホをこれでもかと踏みつける鮎喰の姿を見て、「あっはははは――」悪魔のような高笑いを響かせる理事長。
静まり返る体育館に、理事長の笑い声だけがこだました。
「ナイスよ、ナイス! スカッとしたわ京介!」と、年甲斐もなくはしゃぎ回る理事長に、生徒会メンバーはドン引きしていた。
「ヤバすぎますわよ、あの理事長……」
「あの理事長にあの生徒、親戚というのはどうやら本当のようだな」
鮎喰は僕のスマホの上で跳びはねていた。
「ざまあみろ、ボケッ!」
「な、なんてことするんだ! 器物破損だぞ!」
「知るかっ! どんくさいてめぇが転けて落として壊れただけだろ。なぁ、そうだろみんな!」
凍りついたように静まり返る体育館に、狂人のような鮎喰の声が響き渡った。
「そ、そうだ! 京介の言うとおり、今日体育館では何もなかった。それでいいじゃないか!」
鮎喰の提案にすぐさま賛同したのは、彼の仲間の一人、風間隼人だ。
風間は驚きに困惑する全校生徒に向かって声を張り上げていた。
「お前らだって土下座しろって言ってただろ! あれがSNSに上がってみろ。集団いじめをした加害者の一人として、一生付きまとうことになってたんだぞ! この先帝王学園の卒業生ってだけで、就職だって困難になる。それでも良かったっていうのかよ!」
誰もが同じように、今日のことを無かったことにしようとしていた。
「だからと言って、こんなこと見逃せるかッ!」
「あのなぁ、生徒会長さんよ。あんたらだって帝王学園の生徒なんだぞ? 学園の関係者でもない限り、あんたらが生徒会メンバーだって誰も知らない。帝王学園の制服を着てるだけで後ろ指さされていたところだったんだ」
「隼人の言うとおりだ! こんなイキリ散らかしたゴミクズ野郎はどのみち退学だ! そうだろ、おばちゃん!」
「もちろんよ!」
鮎喰にサムズアップする理事長は、その通りだと首肯する。
「生徒会の皆さんも、退学にはなりたくないわよね?」
「こんなふざけたこと、許されませんわよ」
「ここは私立帝王学園なの! 文句があるなら他所にでも行けっ! さあ、先生方も通常業務に戻ってください」
ほっとしたような顔で笑顔になる教員たちの中に、大きく口を開ける西方の姿があった。
――ざ・ま・あ・み・ろ・ま・ぬ・け。
口の動きからして、そう言っていたのだろう。
「生徒会長! このままでいいんですか!」
「こんなの無茶苦茶じゃないですかっ!」
「生徒会として、断固抗議すべきです!」
「もちろんそうするつもりだが、動画がなければ……有耶無耶にされて終わるだけだ」
生徒会長の言うとおりだ。唯一残っている証拠は、鮎喰に破壊されたスマホだけだ。
しかし、生徒会が証言してくれたとしても、おそらくそれほどの罪には問われないだろう。ましてや、世論を巻き込むことなどできるわけがない。
「……終わった」
くそっ。
みんな何事もなかったように体育館から出ようとしていた。
僕は悔しくて床に拳を振り下ろしていた。
「――――投稿しましたぁあああああ!!」
突然、体育館に振り絞るような声が響き渡った。
なんだ……今の声。
壊れたスマホから声の方に顔をあげると、そこには、胸の前で、震えながらスマホを握りしめる拝村さんの姿があった。
「……拝村、さん?」
普段は教室で控えめに本を読んでいる彼女の、こんなに力強い声を聞いたのは初めてだった。
「わ、わたしも……と、撮っていました」
「え……」
「み、みんなで……皇くんをいじめてるところ、全部、撮っていました。理事長が笑っているところも、鮎喰くんが皇くんのスマホを壊すところも、全部、私撮っていました!」
「は……? 何言ってんだよ、このブスッ!」
慌てて壇上から飛び降り、拝村さんの下に駆け寄ろうとする鮎喰の前に、生徒会メンバーが立ちはだかった。
「――――!?」
「拝村さんと言ったな、生徒会が責任を持って君を保護する。だから、君の正義を続けたまえっ!」
小さく頷いた彼女が、まっすぐ僕を見つめる。
「私、怖くて、恥ずかしくて、ずっと言えずにたことがありました。そのことを一年間、ずっと後悔していました。……私は1年前、鮎喰くんにスカートの中を盗撮されていたところを、皇くんに助けてもらったんです」
拝村さんの告白に、体育館内は一気に騒然となった。
「なっ、何言ってんだよてめぇッ!」
「本当のことです。1年生の頃は皇くんと別のクラスでした。私……ってきり彼が上級生だと思っていたんです。でも、違いました。同学年の生徒だと知った時には……すでに、鮎喰くんによって彼が盗撮犯にされた後でした。私は申し訳なくて……」
「ゆっくりでいいんですわよ」
泣き出してしまった拝村さんの肩を、副会長が優しく抱き寄せた。
「……私、皇くんの誤解を解きたくて、みんなの前で話すと言ったんです。けれど、皇くんに止められました。話しても、私が嘘つき女にされて、いじめの標的になってしまうからと……守ってくれたんです。だけど、私……ずっと苦しくて、いじめの標的になったとしても言っておけば良かったと……今でも後悔しています」
そこで一度言葉を切った拝村さんは、鮎喰に向き直った。
「私……もう逃げません。皇くんを助けるためなら、あなたと戦います!」
突き出したスマートフォンの画面には、拡散力の高いSNSが表示されていた。そこには、全校生徒による土下座コール動画が添付されていた。
「総員、スマホを構えろ! 全力拡散、打てぇえええええ!!」
生徒会長の号令により、SNSアプリを開いた生徒会メンバーが一斉に、拝村さんの動画を拡散した。その動画はあっという間に広まり、1時間後にはネットニュースとして取り上げられることになる。
「貴様らの悪事も、もう終わりだ! 理事長、今日のことは生徒を代表し、理事会に報告させていただく」
「そ、そんな……」
青白い顔で、その場に座り込んでしまった理事長に、「当然ですわ」と副会長はゴミ虫を見るような目を向けていた。
魂が抜け落ちてしまったように放心状態となっていたのは、何も理事長だけではない。担任の西方をはじめ、鮎喰、冷泉、和久井、風間の5名も、廃人のように天井を見つめていた。
「はは……ははは……」
鮎喰たちの、乾いた笑いが小さくこだましていた。
「みんなの誤解を解くのが、遅くなってしまってごめんなさい!」
「ううん。……ありがとう、拝村さん」
僕たちは初めて、笑顔で笑いあった。
「こちらこそ、今まで守ってくれてありがとうございました」
「うん!」
◆◆◆
「申し訳ございませんでしたぁあああああ!」
世界中に広まった土下座動画により、帝王学園は急遽記者会見を開催する事態となった。会見の場において、理事長は日本国民の注目の中、涙を流しながら土下座をした。
生徒会長が理事会に掛け合うより先に、理事長は解任されてしまった。
「ごめんなさああああああい」
冷泉莉世も土下座の映像を公開したが、彼女のSNSには多くの中傷が殺到し、所属事務所は事態を深刻に受け止め、彼女を解雇した。彼女は大勢のモデル仲間と一緒にシャンプーのCMなどに出演しており、噂ではかなりの違約金が発生したと言われている……。
西方は教師の職を失った。最近、彼を駅前のハローワークで見かけたが、声をかけることは避けた。ちなみに、帝王学園の他の教師たちも、3ヶ月間の給料大幅カットの処分を受けた。これは少し寛容な措置かもしれないが、受け入れるしかないと思う。
あの動画の中で最も注目を浴びた鮎喰は、高校を退学せざるを得なくなった。さらに、鮎喰家に対して敵対的な人々が、この機会に暴露系YouTuberに情報を提供し始めた。一族全体に対する深い恨みがあったようで、鮎喰の父親は数年にわたる脱税が発覚し、経営していた会社から内部告発を受け、年内にも倒産の危機に瀕していると言われている。
僕は、帝王学園を含む西方、鮎喰、冷泉、和久井、風間の5人に名誉毀損や精神的苦痛などで訴訟を起こしている(一部示談が成立している)。そんな事情もあり、アルバイトをする必要がないほど経済的に安定している。
ちなみに、SNSの世界では帝王学園の生徒会の人気が驚くほど高まっている。教師であろうと、理事長であろうと、どんな立場でも不正行為を許さない姿勢は、日本中で正義の象徴として崇拝されていた。
逆に、帝王学園の人気は生徒会によって更に高まった結果となってしまった。
一つ気がかりなことは、退学した鮎喰をはじめ、まだ大勢の生徒や教師から土下座による謝罪を受けていないということだ。
しかし、それでも最近の僕は機嫌がいい。
なぜなら、
「おはよう、拝村さん」
「おはようございます、皇くん」
この春から人生初の彼女ができた。
寒い一年間を終え、僕たちの青春ラブコメが始まろうとしていた。
このおばさんは本当にダメだなと、僕は思わずため息が出た。
「理事長、状況わかってます? この動画が表に出れば、終わるのはあなた方学園のほうなんですよ? 今やSNSは世界と繋がるツールなんです。世界中からバッシングされれば、帝王学園の名前すら残りませんよ」
「大袈裟です」
「大袈裟……? 聞きましたか、冷泉莉世さん」
僕は全校生徒の中に、身を隠す女子生徒に目を向けた。
「なっ、なんであたしに振るのよ!」
「芸能人の意見を聞きたいからですよ。この状況、SNSに詳しい芸能人から見てどうですか?」
「え……いや………それは………ねぇ、お願いだから撮らないでよ!」
いつもは芸能人オーラを振りまく彼女が、おどおどと目を泳がせていた。
「あー、そっか! ファッションモデルの冷泉莉世さんは鮎喰と付き合っているんでしたよね? 彼氏だから、暴力を振るっても許されるってことですか?」
「ち、違うっ!」
違うわけあるかっ!
お前たちがいつも、僕や拝村さんを馬鹿にしていたの知っているんだからな。百歩譲って僕のことだけなら見逃してやったかもしれないけど、僕のことをかばってくれた拝村さんを馬鹿にしたことだけは、絶対に許さない。
呑気に芸能人なんてやれると思うなよ。
「違うって……何がですか?」
「あたしは……その、土下座コールにも参加していないし、そんな暴力男と付き合ったりしてないわ! 皇くんの誤解よ!」
「は? 何言ってんだよ莉世ッ!」
「気安く話しかけんじゃないわよ! この暴力男!」
「て、てめぇふざけたこと言ってんじゃねぇぞ! そもそも募金箱を盗んでこいつのロッカーに入れたら退学にできんじゃねぇ? って提案したのはてめぇだろ! ――……あっ、しまった!」
慌てて両手で口を塞ぐが、時すでに遅しである。
生徒会メンバーや全校生徒たちは驚きの表情を浮かべ、口を大きく開けてただ立ち尽くしていた。
「では、窃盗の指示役が冷泉さんで、実行犯が鮎喰くんということでいいですか?」
「――待って、あたしじゃない! はじめに募金箱を盗もうって言い出したのは絵美と隼人よ!」
「ふざけんなしっ!」
「俺たちは関係ないからなっ! つーか、ふざけんなよこのクソモデルっ!」
「は? 事実を言ってるだけじゃない! あんたらがくだらないこと言わなければ、こんなことにはならなかったのよ!」
「っんだとこの野郎っ!」
醜い仲間割れに、生徒会メンバーもあきれ果てている。
「生徒会長、先程の約束覚えていますか?」
「……本気なのか?」
「人に罪を擦りつけたんですから、謝るのは当然では? ――――っ!?」
約束通り、真犯人たちに土下座をさせるよう生徒会長にお願いをしていると、いきなり鮎喰に体当たりされ、吹き飛ばされてしまった。
「――あっ!?」
「うらぁあああああッ!」
――バキッ!
「なっ、なにをするんだッ!」
倒れた僕からスマホを奪い盗った鮎喰が、床にスマホを投げつけた。
「動画がなかったらいいんだろうがァッ!」
粉々に割れたスマホをこれでもかと踏みつける鮎喰の姿を見て、「あっはははは――」悪魔のような高笑いを響かせる理事長。
静まり返る体育館に、理事長の笑い声だけがこだました。
「ナイスよ、ナイス! スカッとしたわ京介!」と、年甲斐もなくはしゃぎ回る理事長に、生徒会メンバーはドン引きしていた。
「ヤバすぎますわよ、あの理事長……」
「あの理事長にあの生徒、親戚というのはどうやら本当のようだな」
鮎喰は僕のスマホの上で跳びはねていた。
「ざまあみろ、ボケッ!」
「な、なんてことするんだ! 器物破損だぞ!」
「知るかっ! どんくさいてめぇが転けて落として壊れただけだろ。なぁ、そうだろみんな!」
凍りついたように静まり返る体育館に、狂人のような鮎喰の声が響き渡った。
「そ、そうだ! 京介の言うとおり、今日体育館では何もなかった。それでいいじゃないか!」
鮎喰の提案にすぐさま賛同したのは、彼の仲間の一人、風間隼人だ。
風間は驚きに困惑する全校生徒に向かって声を張り上げていた。
「お前らだって土下座しろって言ってただろ! あれがSNSに上がってみろ。集団いじめをした加害者の一人として、一生付きまとうことになってたんだぞ! この先帝王学園の卒業生ってだけで、就職だって困難になる。それでも良かったっていうのかよ!」
誰もが同じように、今日のことを無かったことにしようとしていた。
「だからと言って、こんなこと見逃せるかッ!」
「あのなぁ、生徒会長さんよ。あんたらだって帝王学園の生徒なんだぞ? 学園の関係者でもない限り、あんたらが生徒会メンバーだって誰も知らない。帝王学園の制服を着てるだけで後ろ指さされていたところだったんだ」
「隼人の言うとおりだ! こんなイキリ散らかしたゴミクズ野郎はどのみち退学だ! そうだろ、おばちゃん!」
「もちろんよ!」
鮎喰にサムズアップする理事長は、その通りだと首肯する。
「生徒会の皆さんも、退学にはなりたくないわよね?」
「こんなふざけたこと、許されませんわよ」
「ここは私立帝王学園なの! 文句があるなら他所にでも行けっ! さあ、先生方も通常業務に戻ってください」
ほっとしたような顔で笑顔になる教員たちの中に、大きく口を開ける西方の姿があった。
――ざ・ま・あ・み・ろ・ま・ぬ・け。
口の動きからして、そう言っていたのだろう。
「生徒会長! このままでいいんですか!」
「こんなの無茶苦茶じゃないですかっ!」
「生徒会として、断固抗議すべきです!」
「もちろんそうするつもりだが、動画がなければ……有耶無耶にされて終わるだけだ」
生徒会長の言うとおりだ。唯一残っている証拠は、鮎喰に破壊されたスマホだけだ。
しかし、生徒会が証言してくれたとしても、おそらくそれほどの罪には問われないだろう。ましてや、世論を巻き込むことなどできるわけがない。
「……終わった」
くそっ。
みんな何事もなかったように体育館から出ようとしていた。
僕は悔しくて床に拳を振り下ろしていた。
「――――投稿しましたぁあああああ!!」
突然、体育館に振り絞るような声が響き渡った。
なんだ……今の声。
壊れたスマホから声の方に顔をあげると、そこには、胸の前で、震えながらスマホを握りしめる拝村さんの姿があった。
「……拝村、さん?」
普段は教室で控えめに本を読んでいる彼女の、こんなに力強い声を聞いたのは初めてだった。
「わ、わたしも……と、撮っていました」
「え……」
「み、みんなで……皇くんをいじめてるところ、全部、撮っていました。理事長が笑っているところも、鮎喰くんが皇くんのスマホを壊すところも、全部、私撮っていました!」
「は……? 何言ってんだよ、このブスッ!」
慌てて壇上から飛び降り、拝村さんの下に駆け寄ろうとする鮎喰の前に、生徒会メンバーが立ちはだかった。
「――――!?」
「拝村さんと言ったな、生徒会が責任を持って君を保護する。だから、君の正義を続けたまえっ!」
小さく頷いた彼女が、まっすぐ僕を見つめる。
「私、怖くて、恥ずかしくて、ずっと言えずにたことがありました。そのことを一年間、ずっと後悔していました。……私は1年前、鮎喰くんにスカートの中を盗撮されていたところを、皇くんに助けてもらったんです」
拝村さんの告白に、体育館内は一気に騒然となった。
「なっ、何言ってんだよてめぇッ!」
「本当のことです。1年生の頃は皇くんと別のクラスでした。私……ってきり彼が上級生だと思っていたんです。でも、違いました。同学年の生徒だと知った時には……すでに、鮎喰くんによって彼が盗撮犯にされた後でした。私は申し訳なくて……」
「ゆっくりでいいんですわよ」
泣き出してしまった拝村さんの肩を、副会長が優しく抱き寄せた。
「……私、皇くんの誤解を解きたくて、みんなの前で話すと言ったんです。けれど、皇くんに止められました。話しても、私が嘘つき女にされて、いじめの標的になってしまうからと……守ってくれたんです。だけど、私……ずっと苦しくて、いじめの標的になったとしても言っておけば良かったと……今でも後悔しています」
そこで一度言葉を切った拝村さんは、鮎喰に向き直った。
「私……もう逃げません。皇くんを助けるためなら、あなたと戦います!」
突き出したスマートフォンの画面には、拡散力の高いSNSが表示されていた。そこには、全校生徒による土下座コール動画が添付されていた。
「総員、スマホを構えろ! 全力拡散、打てぇえええええ!!」
生徒会長の号令により、SNSアプリを開いた生徒会メンバーが一斉に、拝村さんの動画を拡散した。その動画はあっという間に広まり、1時間後にはネットニュースとして取り上げられることになる。
「貴様らの悪事も、もう終わりだ! 理事長、今日のことは生徒を代表し、理事会に報告させていただく」
「そ、そんな……」
青白い顔で、その場に座り込んでしまった理事長に、「当然ですわ」と副会長はゴミ虫を見るような目を向けていた。
魂が抜け落ちてしまったように放心状態となっていたのは、何も理事長だけではない。担任の西方をはじめ、鮎喰、冷泉、和久井、風間の5名も、廃人のように天井を見つめていた。
「はは……ははは……」
鮎喰たちの、乾いた笑いが小さくこだましていた。
「みんなの誤解を解くのが、遅くなってしまってごめんなさい!」
「ううん。……ありがとう、拝村さん」
僕たちは初めて、笑顔で笑いあった。
「こちらこそ、今まで守ってくれてありがとうございました」
「うん!」
◆◆◆
「申し訳ございませんでしたぁあああああ!」
世界中に広まった土下座動画により、帝王学園は急遽記者会見を開催する事態となった。会見の場において、理事長は日本国民の注目の中、涙を流しながら土下座をした。
生徒会長が理事会に掛け合うより先に、理事長は解任されてしまった。
「ごめんなさああああああい」
冷泉莉世も土下座の映像を公開したが、彼女のSNSには多くの中傷が殺到し、所属事務所は事態を深刻に受け止め、彼女を解雇した。彼女は大勢のモデル仲間と一緒にシャンプーのCMなどに出演しており、噂ではかなりの違約金が発生したと言われている……。
西方は教師の職を失った。最近、彼を駅前のハローワークで見かけたが、声をかけることは避けた。ちなみに、帝王学園の他の教師たちも、3ヶ月間の給料大幅カットの処分を受けた。これは少し寛容な措置かもしれないが、受け入れるしかないと思う。
あの動画の中で最も注目を浴びた鮎喰は、高校を退学せざるを得なくなった。さらに、鮎喰家に対して敵対的な人々が、この機会に暴露系YouTuberに情報を提供し始めた。一族全体に対する深い恨みがあったようで、鮎喰の父親は数年にわたる脱税が発覚し、経営していた会社から内部告発を受け、年内にも倒産の危機に瀕していると言われている。
僕は、帝王学園を含む西方、鮎喰、冷泉、和久井、風間の5人に名誉毀損や精神的苦痛などで訴訟を起こしている(一部示談が成立している)。そんな事情もあり、アルバイトをする必要がないほど経済的に安定している。
ちなみに、SNSの世界では帝王学園の生徒会の人気が驚くほど高まっている。教師であろうと、理事長であろうと、どんな立場でも不正行為を許さない姿勢は、日本中で正義の象徴として崇拝されていた。
逆に、帝王学園の人気は生徒会によって更に高まった結果となってしまった。
一つ気がかりなことは、退学した鮎喰をはじめ、まだ大勢の生徒や教師から土下座による謝罪を受けていないということだ。
しかし、それでも最近の僕は機嫌がいい。
なぜなら、
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「おはようございます、皇くん」
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