【完結】悪役令嬢の断罪から始まるモブ令嬢の復讐劇

夜桜 舞

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世の中はいつも無情である

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「ねぇ、ヴィル」
「なぁに、レイナ?」

5歳のころ、私は親友であり幼馴染でもある公爵令嬢、「ヴィル・テイラン」と遊んでいるとき、彼女に一つのお願いをした。

「もしも、私に何かあったとしても、貴女は何もかかわらないでね?」

私には前世の記憶があり、この世界が乙女ゲーム「魔法の光と6人の彼」略して、「まほひか」の世界の悪役令嬢だと知っている。しかし、彼女は何も知らない、5歳の少女。こんなお願い、笑って流されると思いきや……

「――わかったよ、レイナがそう言うなら」

はっきりとそう言う彼女の声が、5歳児の声には到底聞こえなくて、驚き半分、困惑半分で彼女を見てみると、「どうしたの?」と、いつもの無邪気で可愛らしい声でそう聞いてくる。

「ううん、何でもない」

私がヴィルの問いにそう返すと、ヴィルは、「そっか」と、無邪気に笑いながらそう言ってくる。

私は悪役令嬢であり、まほひかの世界ではメインキャラであるが、ヴィルは違った。ゲームでは名前すら出てこないモブ令嬢である。だから、親友である彼女を、ゲームの世界に巻き込みたくない。一歩間違えれば、彼女も悪役令嬢になってしまうかもしれない。私は、自身がシナリオ通りにいけば、断罪される運命だと知っている。そんな運命に、大切なヴィルまで巻き込みたくないのだ。

「ねぇ、レイナ。私も一つお願いしていい?」
「いいよ、何でも言って」
「それじゃあ――」

―――――

「――レイナ・ファリアム!!貴様は俺の話を聞いているのか!?」
「っ!?」

しまった、ぼーっとしていた。こんな大事な場面で。
ここは、学園……王立学園の卒業記念舞踏会の会場である。

私は、声を荒げながら自身の名を呼ばれた方……婚約者である「デイファン・テリアム」の方を見る。すると、ディファンは私をにらみつけ、そばにいた白髪の可愛らしい少女……「ソフィア・マグネシア」を私から庇うように、彼女の肩を抱き寄せる。

「貴様はこれまでソフィアに対し、失礼極まりない行為を繰り返し……極めつけには、彼女の命を危険にさらすような真似をした……もう俺は我慢の限界だ」
「ま、待ってください、デイファン様!!私は、ソフィアさんにデイファン様がおっしゃったことなど、何一つとしてしていませ……」
「――黙れ!!貴様の弁明など全て無駄だ。証人など、星の数ほどいる……レイナ・ファリウム!!本日をもって、貴様との婚約破棄を宣言し、貴様を国外追放の身とする!!」

嘘……よね?だって私は、前世の記憶が戻った5歳の時からの13年間、必死にみんなからの信頼を勝ち取るために、行動してきたのに……みんなからの信頼を勝ち取れたと思ったのに……!!すべて、すべてソフィアに壊された。私は、もう……駄目なのかもしれない。

そう思ってしまったら最後、私は足に力が入らなくなり、膝からがくりと崩れ落ちる。
私は、もう二度と立ち上がれないと思うほど絶望した。

「デイファン様、馬車の準備ができました」

絶望して床に座り込む私を無視して、ディファン様にそう声をかけたのは、私の従兄である「シオン・ファリウム」であった。

「シオン……」

肉親であるシオンなら、私を庇ってくれるかもしれない。ディファン様の言っていることはすべて間違っていると弁明してくれるかもしれない。そんな期待を込めて、彼の名を呼ぶと、ギロリと睨まれてしまった。

「レイナ……君にはひどく失望したよ。まさか、嫉妬でソフィアをあんな目に合わせるだなんて……」
「あんな目に……とは?」
「はっ、白々しい。本当はいくつもの心当たりがあるんじゃないか?」

この世界に、私の味方だなんていないと思ってしまうほどの、信じ切っていた人からの冷たい言葉。それだけで、かすかに芽生えた希望は一気に踏みにじられ、私を再度、深い深い絶望に落とすのは容易であった。

勝ち誇った顔でこちらを見てくるソフィア。反射的に睨みつけてしまうと、ディファン様に怒鳴られる。

「レイナ!!貴様、自分の思い通りにいかないからといって、ソフィアを睨みつけるとは……!!貴様には心底呆れたわ!!おい、シオン。この罪人を速やかに馬車へと乗せ、国から追い出せ!!」
「はっ!」

違う、私はやっていない。何もかもが全て、ソフィアの嘘!!
そう叫びたいのに、私の喉からは唸り声一つ出てくれない。

     す べ て ソ フィ ア の う そ な の に

私の悲痛な思いはだれにも伝わらず、シオンに引きずられるようにして、会場を後にした。

―――――

「ほら、さっさと乗れ。あまり俺の手をかけさせるな」

冷酷に私にそう言うシオンは、学園に入学する前は私をとことん甘やかしてくれていた。しかし、まほひかの世界は、学園に入学してからスタートする。もしかしたら、たとえゲーム開始前にどれだけ私が運命を変えようと奔走しても、無駄だったかもしれない。だって、現に今、私が学園入学前に信頼を勝ち取ったと思っていたシオンやディファン様は、ヒロインの登場で私に避難の目を向けるようになった。

――私には、味方なんていない

そう思わざる得ないほど、私は絶望していた。何も変わらないのであれば、そもそもみんなと仲良くならなければよかった。みんなと仲良くなければ、これほどまで絶望は深くなかったかもしれない。

シオンの言葉に従わず、馬車の前そう、頭の中でグルグルと考えていると、不意に背後から背中を押され、強制的に、思考が一時中断された。

「クソが……最後まで手間をかけさせやがって」

そうつぶやきながら、私を一人、馬車の中に残し、舞踏会の会場に戻っていく。
私には、もう抗議する体力も気力もなく、ただ、一人寂しく泣くしかなかった。

―――――

それから、どれほどの時間がたったのだろうか。
馬車は、一向に出発しない。
不思議に思い、私は立ち上がり、外の様子をうかがおうとすると……

「え?」

――世の中は、非情だ。

私はそう思いながら、視線を下へと移し、背中から腹にかけて突き刺さる剣を確認した。最後に一目、私を刺した者の顔を見てみたかったが、そんな体力も、勇気もなかった。

だって、もしも私を刺した者が、私が知っていて、なおかつ親しい者だったら、知らなかったときよりももっと絶望してしまうだろうから。
極めて冷静に、私のもとから去っていく足音が聞こえる。私を刺した者は、すぐに私を殺してはくれないらしい。

これまでありがとう、ヴィル。でも、ごめんね私、死んじゃう。
最後に貴女とお話、したかったな。

消えゆく意識の中で、私が考えたことはこれまで育ててくれた親への言葉ではなく、大切で大好きな親友への謝罪であった。
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