【完結】悪役令嬢の断罪から始まるモブ令嬢の復讐劇

夜桜 舞

文字の大きさ
20 / 23

ルナソル君と復讐者

しおりを挟む
翌日。私は魔法で全くの別人になりきりながら、人間界の城下町をさまよっていた。
これまでは、テイラン公爵家のつてで、攻略対象たちとかかわってきたが、テイラン家を追い出された今、その便利なつては使えない。

そう思考しながら、私は目的の場所がないまま、ぐるぐると城下町を回る。
ひとまず、攻略対象の誰かしらとは接触したい。だが、一体どうすれば……

「うぐ……あが、ぐ……」

ふと、私の耳に、誰かの唸り声が聞こえる。
この国では、貧富の差が激しく、城下町の平民が、飢えに苦しんでいる声はよく聞く。しかし、今聞こえている唸り声は、何か違う。私は、この唸り声の主を知らなければいけない。

使命感にかられながら、私は、唸り声が聞こえるところへ向かうのであった。

―――――

声の主は、ルナソルであった。
彼は立っていられない様子で、薄汚い城下町の道を、はいずりながら進んでいた。
私は、ルナソルに声を掛ける前に魔法を解き、ヴィルに戻る。
――まさか、こんなにも早くに、ルナソルに復讐する機会が与えられるとは、夢にも思っていなかった。

そう考えながら、私はルナソルの目の前に立ちふさがる。

「――こんにちは、ルナソル君」
「がぁ……テイがは……ラ、ンうぐ……」

冷たくルナソルにそう声を掛けると、ルナソルは唸り声の中で、確かに、私の名前を呼んだ。
まるで、助けてと言うように、ルナソルは私の方へ手を伸ばしたが、私はその手を足で踏みつける。

「がぁ……!!」
「苦しい?そりゃあ、そうよね?だって貴方のかつの病は、レイナが治療魔法で直したのだもの。そのレイナが死んでしまえば、貴方の病も再発してしまう……そんなことがわからないほど、貴方は馬鹿だったのかしら?」

くすくすと笑いながらそう言うと、ルナソルは私の皮肉を理解できていない様子で、私になおも助けを求めてくる。

「えぇ、わかったわ」

私はルナソルにそう言い、会話ができる程度には回復させてあげる。

「どう?楽になった?」
「く、苦し……」
「ふふっ。だって貴方は、少しでも長く生きたいのでしょう?よかったですね。きっと、先ほどよりも数分は長生きできますよ」
「て、いらん、せん……ぱ……助け、くださ……」
「えぇ?嫌よ。だって、貴方がレイナを直接殺したのでしょう?」
「 !? 」
「あら?図星かしら?」
「ち、違……」
「貴方はソフィアに言われ、卒業記念パーティーの日に、国外追放されるはずのレイナを殺した……違うの?」
「か、回復、してくれるの、なら……こ、答え……」
「じゃあ、先に言ってよ。その後で、私は貴方を回復することを誓うわ」
「……せん、ぱの……いう、とおり……で、す」
「……そう」

私はルナソルの言葉を聞き終えると、ヒール、とつぶやき、ルナソルを少しだけ回復してから、彼の元から去る。

「え、ちょっと、待って……」

ルナソルは、いまだ立ち上がれないほど、病に侵されている。
おそらく、今の彼にとっては、死ぬ方がよっぽど楽なのであろう。だが、そんなことは知らない。レイナだって、致命傷を与えられず、苦しみながら、死んでいったのだ。それならば、ルナソルだって、長時間、苦しみながら、孤独に死んでいくべきだ。

そう考えながら、私は彼に最後の言葉を送る。

「だって……完全に貴方の病を治すだなんて、言っていないわ。せいぜい、最後まで足掻き苦しむことね」

ルナソルがレイナを直接殺したことには、確証がなかった。でも、これでようやく復讐の準備が整った。
足早にルナソルの元から離れながら、私は、手に持っていたボイスレコーダーに、視線を移す。この世界にボイスレコーダーがあることを知った時は驚いたが、魔法がある世界なのだ。ボイスレコーダーぐらいなら、簡単に作れるのだろう。

私はそう考えながら、ボイスレコーダーの再生スイッチを押す。

(貴方がレイナを直接殺したのでしょう?)
( !? )
(あら、図星かしら?)
(ち、違……)
(貴方はソフィアに言われ、卒業記念パーティーの日に、国外追放されるはずのレイナを殺した……違うの?)
(か、回復、してくれるの、なら……こ、答え……)
(じゃあ、先に言ってよ。その後で、私は貴方を回復することを誓うわ)
(……せん、ぱの……いう、とおり……で、す)

しっかりと録音されていることを確認し、魔界へと撤退する。
私は、モブだと油断しているはずのソフィアに、一泡吹かせて見せるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

モブは転生ヒロインを許さない

成行任世
恋愛
死亡ルートを辿った攻略対象者の妹(モブ)が転生ヒロインを断罪します。 .

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

【短編】お姉さまは愚弟を赦さない

宇水涼麻
恋愛
この国の第1王子であるザリアートが学園のダンスパーティーの席で、婚約者であるエレノアを声高に呼びつけた。 そして、テンプレのように婚約破棄を言い渡した。 すぐに了承し会場を出ようとするエレノアをザリアートが引き止める。 そこへ颯爽と3人の淑女が現れた。美しく気高く凛々しい彼女たちは何者なのか? 短編にしては長めになってしまいました。 西洋ヨーロッパ風学園ラブストーリーです。

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

処理中です...