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第一章 銀狼は青に還りて
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蝉の鳴き声に、うだるような暑さ。
手にした冷たい炭酸ジュースを口にして、清家太陽は一息吐いた。
「あっつ」
日陰のベンチに座っても、冷たい炭酸ジュースを飲んでも、汗が引く様子は全くない。
今年の夏も間違いなく猛暑だ。
ベンチに背を預けて見上げた空は、ムカつく程の晴天だ。遠くに夏特有の入道雲が見えた。
清家太陽は高校3年生の18歳だ。
夏休みのこの時期、受験の追い込みの為に図書館へ行ってみたが、あいにく同じ受験生やクーラーを求めた町の人達で既に席が満杯だったのだ。
仕方なく図書館の敷地内の木の下にあるベンチに座ってみたものの。全く涼めず途方に暮れていた。
家で勉強する事も考えたが、クーラー代が気になる。太陽の月々の生活費はそう多くはない。出来れば日中だけでも、どこか涼しい場所を確保したいものだ。
ペットボトルの蓋を閉めて、鞄にしまいながら、さてどうしようかと思案していると。
どこからか呼ぶ声が聞こえた。
周囲を見渡しても誰もいない。
暑さのせいでおかしくなったのかもしれない。太陽はまた溜め息を吐くと、今度こそ移動する為に立ち上がった。
ーひ…め…。
また声が聞こえた。
ひめ?
ー姫よ。答えてください。
「姫?人違いだろ。てか、どこから聞こえて来てんだ?」
辺りを見回しても人影はない。
だが次の瞬間。その声はよりハッキリ聞こえた。
ー見つけた。
愉快そうな若い男の声だった。
気持ち悪さにゾッとした瞬間。何者かに後ろから腕を掴まれた。
振り返ると、ベンチの後ろの大木から人間の腕が生えて、太陽の腕を掴んでいた。ありえないその光景に、思わず太陽が叫び声を上げる。
抵抗する間もなく引っ張られ、木にぶつかる!と目を閉じた瞬間。身体が浮遊する様な感覚があった。
不思議に思い、恐る恐る目を開けると薄暗い空間の中、宙に浮いていた。
違う。浮いてるのではなく、暗闇の中、深さもわからない状態で落下していた。
「うわぁぁぁ!」
恐怖に叫んだ太陽を誰かが引き寄せ抱きしめて来た。
ふわり、と陽だまりの様な匂いがした。
「やっと見つけましたよ。私の姫」
暗闇の中でよく見えないが、囁いてくるその声と、抱きしめられた感触で男だとわかった。
そのまま、ふに、と柔らかい何かが太陽の口を塞いだ。
驚き身体を強ばらせたまま、正面を見れば。
薄暗い闇の中。美しく光る金色の片眼が太陽を見つめていた。もう片方には黒い眼帯。
この至近距離。
え?俺、今こいつにキスされてるの?
「うわぁぁぁ!何すんだ、この野郎!」
ドンと思いきり相手を着き飛ばす。相手を押した力がそのまま自分に返ってきて、下降が早まった気がした。
「うわぁぁぁー!落ちるー!」
「姫!私の手を掴んで!」
「誰が掴むかよ!この変態!」
このままだと死んじゃう!誰か助けて!
思わず恐怖で目を閉じた瞬間。
瞼の向こうに眩い光の放流を感じた。
◇◇◇
ドサッと音がしたと同時に、身体を打ちつけた痛みが走った。
そのまま勢い良くゴロゴロと転がって、やっと止まった。
「いったぁ…助かったのか?」
恐る恐る目を開けると、太陽は土の上に転がっていた。
周囲を見れば太陽の居る場所は少し開けた所だが、その周囲には細い木々や僅かな花が咲いている。
森というよりは林の中の様だ。
見上げた空はどんより雲がかかっていて、そのせいで周囲は薄暗かった。
「ここ、どこだ?」
さっきまで町の図書館の敷地に居て。いきなり木の中に連れ込まれて落っこちて。気づいたら林の中だった。
全く意味がわからない。
とりあえず誰か人がいる所まで移動しよう。太陽は立ち上がると服の汚れを軽くはたいて歩き出した。
空が雲で覆われてるから方角もわからない。だからまず林の中に入って、付近に看板か道がないか探す事にした。その時。
グルルル
犬が唸る様な低い音が聞こえた。
どこから聞こえてくるのか周囲を見回すが、犬や動物の姿は見当たらない。
またこのパターンかよ!嫌な予感がする。
近くの木に背を預ける様にしつつ、周囲を警戒していた太陽の肩に、ポツンと水滴が落ちてきた。
「雨?」
空を見上げる様に太陽が顔を上げると。
黒と灰色に濁った眼を爛々と光らせた獣が、木の上から太陽を見下ろしていた。
手にした冷たい炭酸ジュースを口にして、清家太陽は一息吐いた。
「あっつ」
日陰のベンチに座っても、冷たい炭酸ジュースを飲んでも、汗が引く様子は全くない。
今年の夏も間違いなく猛暑だ。
ベンチに背を預けて見上げた空は、ムカつく程の晴天だ。遠くに夏特有の入道雲が見えた。
清家太陽は高校3年生の18歳だ。
夏休みのこの時期、受験の追い込みの為に図書館へ行ってみたが、あいにく同じ受験生やクーラーを求めた町の人達で既に席が満杯だったのだ。
仕方なく図書館の敷地内の木の下にあるベンチに座ってみたものの。全く涼めず途方に暮れていた。
家で勉強する事も考えたが、クーラー代が気になる。太陽の月々の生活費はそう多くはない。出来れば日中だけでも、どこか涼しい場所を確保したいものだ。
ペットボトルの蓋を閉めて、鞄にしまいながら、さてどうしようかと思案していると。
どこからか呼ぶ声が聞こえた。
周囲を見渡しても誰もいない。
暑さのせいでおかしくなったのかもしれない。太陽はまた溜め息を吐くと、今度こそ移動する為に立ち上がった。
ーひ…め…。
また声が聞こえた。
ひめ?
ー姫よ。答えてください。
「姫?人違いだろ。てか、どこから聞こえて来てんだ?」
辺りを見回しても人影はない。
だが次の瞬間。その声はよりハッキリ聞こえた。
ー見つけた。
愉快そうな若い男の声だった。
気持ち悪さにゾッとした瞬間。何者かに後ろから腕を掴まれた。
振り返ると、ベンチの後ろの大木から人間の腕が生えて、太陽の腕を掴んでいた。ありえないその光景に、思わず太陽が叫び声を上げる。
抵抗する間もなく引っ張られ、木にぶつかる!と目を閉じた瞬間。身体が浮遊する様な感覚があった。
不思議に思い、恐る恐る目を開けると薄暗い空間の中、宙に浮いていた。
違う。浮いてるのではなく、暗闇の中、深さもわからない状態で落下していた。
「うわぁぁぁ!」
恐怖に叫んだ太陽を誰かが引き寄せ抱きしめて来た。
ふわり、と陽だまりの様な匂いがした。
「やっと見つけましたよ。私の姫」
暗闇の中でよく見えないが、囁いてくるその声と、抱きしめられた感触で男だとわかった。
そのまま、ふに、と柔らかい何かが太陽の口を塞いだ。
驚き身体を強ばらせたまま、正面を見れば。
薄暗い闇の中。美しく光る金色の片眼が太陽を見つめていた。もう片方には黒い眼帯。
この至近距離。
え?俺、今こいつにキスされてるの?
「うわぁぁぁ!何すんだ、この野郎!」
ドンと思いきり相手を着き飛ばす。相手を押した力がそのまま自分に返ってきて、下降が早まった気がした。
「うわぁぁぁー!落ちるー!」
「姫!私の手を掴んで!」
「誰が掴むかよ!この変態!」
このままだと死んじゃう!誰か助けて!
思わず恐怖で目を閉じた瞬間。
瞼の向こうに眩い光の放流を感じた。
◇◇◇
ドサッと音がしたと同時に、身体を打ちつけた痛みが走った。
そのまま勢い良くゴロゴロと転がって、やっと止まった。
「いったぁ…助かったのか?」
恐る恐る目を開けると、太陽は土の上に転がっていた。
周囲を見れば太陽の居る場所は少し開けた所だが、その周囲には細い木々や僅かな花が咲いている。
森というよりは林の中の様だ。
見上げた空はどんより雲がかかっていて、そのせいで周囲は薄暗かった。
「ここ、どこだ?」
さっきまで町の図書館の敷地に居て。いきなり木の中に連れ込まれて落っこちて。気づいたら林の中だった。
全く意味がわからない。
とりあえず誰か人がいる所まで移動しよう。太陽は立ち上がると服の汚れを軽くはたいて歩き出した。
空が雲で覆われてるから方角もわからない。だからまず林の中に入って、付近に看板か道がないか探す事にした。その時。
グルルル
犬が唸る様な低い音が聞こえた。
どこから聞こえてくるのか周囲を見回すが、犬や動物の姿は見当たらない。
またこのパターンかよ!嫌な予感がする。
近くの木に背を預ける様にしつつ、周囲を警戒していた太陽の肩に、ポツンと水滴が落ちてきた。
「雨?」
空を見上げる様に太陽が顔を上げると。
黒と灰色に濁った眼を爛々と光らせた獣が、木の上から太陽を見下ろしていた。
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