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第一章 銀狼は青に還りて
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パチパチ パチッ
乾燥した木の音がした。
沈み込んでいた意識が浮上して目を覚ますと、見覚えのない木の天井が見えた。
横を見ると、簡素な暖炉に焚き火が燃えている。それが部屋を暖かくしていた。
おかしい。今は真夏の筈なのに。空気が乾燥して少し肌寒い気がする。ぼんやりする頭でそんな事を考えた。
太陽はTシャツとデニムという真夏の軽装だった。薄着の太陽を寒さから守る様に、タオルケットがかけられていた。
「あぁ起きたかい?」
暖炉の側で何か作業をしていた緑頭の男が、太陽に気づいて声をかけて来た。
起きようとする太陽を、そのままでいいからもう少し休んでて、と優しく気遣ってくれる。
身体がまだ少しだるい気がしたので、その言葉に甘えさせてもらった。
男は近づいて来ると、太陽のおでこに手をやり熱は無いねと安心した様に笑った。
先程は緊迫した状況だったせいで余裕が無かったが、今は落ち着いた状態で自分を助けてくれた相手を見る事ができた。
やけに顔立ちの綺麗な若い男性だった。年の頃は20代前半に見える。全体的に優しい雰囲気を纏った人物だった。
肩を越える長めの髪は濃いめの緑色。そして太陽に向けられた優しそうな瞳は薄めの黄緑色だった。
薄暗い部屋の中、焚き火の灯りが揺らめいて、その瞳が美しく煌めいて見えた。
「綺麗…」
「え?」
「え?あ!俺、何言って…すみません!」
自分の発した言葉が信じられず慌てた太陽の様子に、男は思わず吹き出した。
「ふふっ。ありがとう。褒めてくれて嬉しいよ」
「いや、だって、男の人に女みたいに綺麗って!」
「そうかい?貴重な女性みたいに綺麗って言われて僕は嬉しいよ」
「え?貴重?」
「ん?どうしたんだい?」
何だかさっきから、男との会話に疑問を感じる。まるでお互いの常識がすれ違ってる様なー。
「あの、変な事を聞きますけど。ここって日本ですよね?」
「ニホン?それがどこかは知らないけど…ここは世界の東側の大陸の中の東の森の東の村近くの山小屋だよ」
「……」
東の大陸の東の森の東の村。
何だかよくわからない。
「あの、国の名前とか村の名前とかは無いんですか?」
「ハッハッ。君、面白い事言うね。魔王が君臨して国や地名を名乗る事を禁止されてしまっただろ?」
「魔王」
「そうだよ。君だって子供の頃に御伽噺や絵本で聞いただろう?光の聖女と光の勇者がいなくなってしまったからね。今は魔王の機嫌1つで根絶やしにされてしまう。だから国や町、村を名乗る者はいないよ」
「光の…」
どうしよう。目の前の男は嘘をついている様には見えない。
それは逆に自分が全く異なる世界に来てしまったのだと証明している様だった。
やっぱり…。あの木の中に引っ張り込まれたのも。知らない場所に来たのも。あの獣も。
夢じゃなかったんだ。
信じられない現実に、太陽の背中を冷や汗が流れ落ちた。
「お腹でも空いた?何か食べるかい?」
「あの…」
離れて行こうとした男の手を慌てて掴んだ。
ん?と男が足を止めて太陽を振り返った。
どうしよう、何て言おう。
正直に自分はこの世界の人間じゃないと言ったら頭がおかしいと思われてしまうかもしれない。
でもこのままやり過ごしても、この世界は常識が違い過ぎてすぐボロが出るだろう。
「あの、俺、さっき襲われた時に頭を打ったみたいで。何も覚えてなくて…」
「えぇ!?君大丈夫かい?」
獣に襲われた所を助けてもらった恩人に嘘を吐くのは胸が痛んだが、ここは記憶喪失を装う事にした。
持っていたリュックもいつの間にか無くしてしまって、本当に身一つだ。このままこの人に見捨てられたら、どうしていいか分からない。申し訳ない気持ちのまま、身体は大丈夫です、と答えた。
人の良さそうな緑頭の彼は慌てた様子で太陽の顔を覗き込んできた。黄緑の瞳が心配そうに揺れている。
「もしかして自分の名前もわからないのかい?」
「あ、それは…覚えてます。名前は清家太陽です」
「セーヤか。いい名前だね。僕はルース。ルースでいいよ」
もしかしてファーストネームが先なのかな?と思ったがそのままにした。多分太陽よりはその方が呼びやすいだろうと思ったからだ。
「ルースさん、俺にこの世界の常識を教えてくれませんか?全然覚えてなくて」
太陽の言葉に、ルースは一瞬キョトンとした後、破顔した。
「お安い御用だよ。じゃあちょっと早いけど、夕食をとってから話そうか」
「はい。ありがとうございます」
乾燥した木の音がした。
沈み込んでいた意識が浮上して目を覚ますと、見覚えのない木の天井が見えた。
横を見ると、簡素な暖炉に焚き火が燃えている。それが部屋を暖かくしていた。
おかしい。今は真夏の筈なのに。空気が乾燥して少し肌寒い気がする。ぼんやりする頭でそんな事を考えた。
太陽はTシャツとデニムという真夏の軽装だった。薄着の太陽を寒さから守る様に、タオルケットがかけられていた。
「あぁ起きたかい?」
暖炉の側で何か作業をしていた緑頭の男が、太陽に気づいて声をかけて来た。
起きようとする太陽を、そのままでいいからもう少し休んでて、と優しく気遣ってくれる。
身体がまだ少しだるい気がしたので、その言葉に甘えさせてもらった。
男は近づいて来ると、太陽のおでこに手をやり熱は無いねと安心した様に笑った。
先程は緊迫した状況だったせいで余裕が無かったが、今は落ち着いた状態で自分を助けてくれた相手を見る事ができた。
やけに顔立ちの綺麗な若い男性だった。年の頃は20代前半に見える。全体的に優しい雰囲気を纏った人物だった。
肩を越える長めの髪は濃いめの緑色。そして太陽に向けられた優しそうな瞳は薄めの黄緑色だった。
薄暗い部屋の中、焚き火の灯りが揺らめいて、その瞳が美しく煌めいて見えた。
「綺麗…」
「え?」
「え?あ!俺、何言って…すみません!」
自分の発した言葉が信じられず慌てた太陽の様子に、男は思わず吹き出した。
「ふふっ。ありがとう。褒めてくれて嬉しいよ」
「いや、だって、男の人に女みたいに綺麗って!」
「そうかい?貴重な女性みたいに綺麗って言われて僕は嬉しいよ」
「え?貴重?」
「ん?どうしたんだい?」
何だかさっきから、男との会話に疑問を感じる。まるでお互いの常識がすれ違ってる様なー。
「あの、変な事を聞きますけど。ここって日本ですよね?」
「ニホン?それがどこかは知らないけど…ここは世界の東側の大陸の中の東の森の東の村近くの山小屋だよ」
「……」
東の大陸の東の森の東の村。
何だかよくわからない。
「あの、国の名前とか村の名前とかは無いんですか?」
「ハッハッ。君、面白い事言うね。魔王が君臨して国や地名を名乗る事を禁止されてしまっただろ?」
「魔王」
「そうだよ。君だって子供の頃に御伽噺や絵本で聞いただろう?光の聖女と光の勇者がいなくなってしまったからね。今は魔王の機嫌1つで根絶やしにされてしまう。だから国や町、村を名乗る者はいないよ」
「光の…」
どうしよう。目の前の男は嘘をついている様には見えない。
それは逆に自分が全く異なる世界に来てしまったのだと証明している様だった。
やっぱり…。あの木の中に引っ張り込まれたのも。知らない場所に来たのも。あの獣も。
夢じゃなかったんだ。
信じられない現実に、太陽の背中を冷や汗が流れ落ちた。
「お腹でも空いた?何か食べるかい?」
「あの…」
離れて行こうとした男の手を慌てて掴んだ。
ん?と男が足を止めて太陽を振り返った。
どうしよう、何て言おう。
正直に自分はこの世界の人間じゃないと言ったら頭がおかしいと思われてしまうかもしれない。
でもこのままやり過ごしても、この世界は常識が違い過ぎてすぐボロが出るだろう。
「あの、俺、さっき襲われた時に頭を打ったみたいで。何も覚えてなくて…」
「えぇ!?君大丈夫かい?」
獣に襲われた所を助けてもらった恩人に嘘を吐くのは胸が痛んだが、ここは記憶喪失を装う事にした。
持っていたリュックもいつの間にか無くしてしまって、本当に身一つだ。このままこの人に見捨てられたら、どうしていいか分からない。申し訳ない気持ちのまま、身体は大丈夫です、と答えた。
人の良さそうな緑頭の彼は慌てた様子で太陽の顔を覗き込んできた。黄緑の瞳が心配そうに揺れている。
「もしかして自分の名前もわからないのかい?」
「あ、それは…覚えてます。名前は清家太陽です」
「セーヤか。いい名前だね。僕はルース。ルースでいいよ」
もしかしてファーストネームが先なのかな?と思ったがそのままにした。多分太陽よりはその方が呼びやすいだろうと思ったからだ。
「ルースさん、俺にこの世界の常識を教えてくれませんか?全然覚えてなくて」
太陽の言葉に、ルースは一瞬キョトンとした後、破顔した。
「お安い御用だよ。じゃあちょっと早いけど、夕食をとってから話そうか」
「はい。ありがとうございます」
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