【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
13 / 181
第一章 銀狼は青に還りて

11

しおりを挟む
 清家太陽せいやたいようは、生まれた年=フリーだ。もちろん童貞だしキスなんて、この世界に来るまでした事もなかった。

 普通の一般家庭に生まれた、どこにでもいる子供だった。

 そんな太陽の人生が大きく変わったのは、中学卒業が間近に迫った頃だった。両親を交通事故で同時に亡くしたのだ。

 両親は駆け落ちして一緒になった為、親戚は誰も太陽の面倒を見ようとはしなかった。そして太陽は天涯孤独になった。

 今では両親の残してくれた財産を少しずつ切り崩しながら高校生活を乗り切っている。

 とても恋愛する余裕なんかなかったし、ただ立派な大人になることが唯一の恩返しになると思って、奨学金で大学へ進学する為ひたすら勉強を頑張った高校生活だった。

 だから少しでも早く元の世界に戻って、早く遅れた勉強を取り戻したい。そう思っていた。



◇◇◇



「おはよう、起きた?」

 太陽が目覚めるとテーブルで朝食の準備をしていたルースが振り返った。

「おはようございます」
「起きたら朝ご飯にしよう」

 カチャカチャと食器を並べる音がする。辺りには食欲を刺激する良い匂いが漂っていた。

 両親が亡くなってから、こういう風に朝の挨拶をされたのは何年ぶりだろう。自分の為に食事を用意してもらえるのも思えば数年ぶりの事だった。

 何となくルースの動きを見てしまう。彼はいつも身なりを綺麗にしている。そして料理が上手だ。性格も優しく穏やかで、一緒にいると安心する。

 この世界で彼の様な人と最初に出会えたのは、きっと幸運だったろう。

「どうしたの?身体でもだるい?」

 ベッドから起きない太陽を心配して、ルースが近寄って来た。

「いえ、起きます」

 慌てて起き上がろうとしてベッドから落ちそうになる。それをルースが抱き止めてくれた。細身で一見優男に見えるのに、彼は意外に筋肉質だ。昨日、湖でそれを知った。

 バカ、俺何考えてー。
 昨日の湖でのルースの上半身を思い出して何だか恥ずかしくなった。

 太陽の内心の焦りも知らず、セーヤはそそっかしいなぁ、とルースは笑って抱き起こしてくれた。

 そのまま一緒に席に着いて朝食を摂りながら、これからの事についてルースが話してくれた。

 恐らく明日には森の様子も見終わる。だから明後日にはここを出立して近くの村を経由して南に向かうそうだ。南までは乗合馬車を使うらしい。

 それまでに太陽は出来るだけ弓の練習をして、いざという時に身を守れる様にしてと言われた。

「今日は少し遠くまで見て来るから遅くなると思う。お腹空いたらパンとスープがあるから先に食べてて」
「わかりました」

 ルースが弓矢とリュックを背負って扉に向かう。何となく別れがたくて扉までついていった。

「セーヤ?どうしたの?」
「いってらっしゃい。気をつけて」

 太陽の言葉にルースは一瞬面くらい。次の瞬間、破顔した。

「ありがとう。こんな風に誰かに見送ってもらうのは久しぶりだ。嬉しいな」
「お、俺もこういうの久しぶりです」

 何だか気恥ずかしくなって俯いた太陽の頬に、ルースがそっと手を添えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

欠陥Ωは孤独なα令息に愛を捧ぐ あなたと過ごした五年間

華抹茶
BL
旧題:あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~ 子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました

岩永みやび
BL
公爵家の次男ウィルは、王太子殿下の婚約者に手を出したとして犬になる魔法をかけられてしまう。好きな人とキスすれば人間に戻れるというが、犬姿に満足していたウィルはのんびり気ままな生活を送っていた。 そんなある日、ひとりのマイペースな騎士と出会って……? 「僕、犬を飼うのが夢だったんです」 『俺はおまえのペットではないからな?』 「だから今すごく嬉しいです」 『話聞いてるか? ペットではないからな?』 果たしてウィルは無事に好きな人を見つけて人間姿に戻れるのか。 ※不定期更新。主人公がクズです。女性と関係を持っていることを匂わせるような描写があります。

花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?

銀花月
BL
魔導師マルスは秘密裏に王命を受けて、花街で花を売る(フリ)をしていた。フッと視線を感じ、目線をむけると騎士団の第ニ副団長とバッチリ目が合ってしまう。 王命を知られる訳にもいかず… 王宮内で見た事はあるが接点もない。自分の事は分からないだろうとマルスはシラをきろうとするが、副団長は「お前の花を買ってやろう、マルス=トルマトン」と声をかけてきたーーーえ?俺だってバレてる? ※[小説家になろう]様にも掲載しています。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました

あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。 完結済みです。 7回BL大賞エントリーします。 表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)

処理中です...