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第一章 銀狼は青に還りて
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清家太陽は、生まれた年=フリーだ。もちろん童貞だしキスなんて、この世界に来るまでした事もなかった。
普通の一般家庭に生まれた、どこにでもいる子供だった。
そんな太陽の人生が大きく変わったのは、中学卒業が間近に迫った頃だった。両親を交通事故で同時に亡くしたのだ。
両親は駆け落ちして一緒になった為、親戚は誰も太陽の面倒を見ようとはしなかった。そして太陽は天涯孤独になった。
今では両親の残してくれた財産を少しずつ切り崩しながら高校生活を乗り切っている。
とても恋愛する余裕なんかなかったし、ただ立派な大人になることが唯一の恩返しになると思って、奨学金で大学へ進学する為ひたすら勉強を頑張った高校生活だった。
だから少しでも早く元の世界に戻って、早く遅れた勉強を取り戻したい。そう思っていた。
◇◇◇
「おはよう、起きた?」
太陽が目覚めるとテーブルで朝食の準備をしていたルースが振り返った。
「おはようございます」
「起きたら朝ご飯にしよう」
カチャカチャと食器を並べる音がする。辺りには食欲を刺激する良い匂いが漂っていた。
両親が亡くなってから、こういう風に朝の挨拶をされたのは何年ぶりだろう。自分の為に食事を用意してもらえるのも思えば数年ぶりの事だった。
何となくルースの動きを見てしまう。彼はいつも身なりを綺麗にしている。そして料理が上手だ。性格も優しく穏やかで、一緒にいると安心する。
この世界で彼の様な人と最初に出会えたのは、きっと幸運だったろう。
「どうしたの?身体でもだるい?」
ベッドから起きない太陽を心配して、ルースが近寄って来た。
「いえ、起きます」
慌てて起き上がろうとしてベッドから落ちそうになる。それをルースが抱き止めてくれた。細身で一見優男に見えるのに、彼は意外に筋肉質だ。昨日、湖でそれを知った。
バカ、俺何考えてー。
昨日の湖でのルースの上半身を思い出して何だか恥ずかしくなった。
太陽の内心の焦りも知らず、セーヤはそそっかしいなぁ、とルースは笑って抱き起こしてくれた。
そのまま一緒に席に着いて朝食を摂りながら、これからの事についてルースが話してくれた。
恐らく明日には森の様子も見終わる。だから明後日にはここを出立して近くの村を経由して南に向かうそうだ。南までは乗合馬車を使うらしい。
それまでに太陽は出来るだけ弓の練習をして、いざという時に身を守れる様にしてと言われた。
「今日は少し遠くまで見て来るから遅くなると思う。お腹空いたらパンとスープがあるから先に食べてて」
「わかりました」
ルースが弓矢とリュックを背負って扉に向かう。何となく別れがたくて扉までついていった。
「セーヤ?どうしたの?」
「いってらっしゃい。気をつけて」
太陽の言葉にルースは一瞬面くらい。次の瞬間、破顔した。
「ありがとう。こんな風に誰かに見送ってもらうのは久しぶりだ。嬉しいな」
「お、俺もこういうの久しぶりです」
何だか気恥ずかしくなって俯いた太陽の頬に、ルースがそっと手を添えた。
普通の一般家庭に生まれた、どこにでもいる子供だった。
そんな太陽の人生が大きく変わったのは、中学卒業が間近に迫った頃だった。両親を交通事故で同時に亡くしたのだ。
両親は駆け落ちして一緒になった為、親戚は誰も太陽の面倒を見ようとはしなかった。そして太陽は天涯孤独になった。
今では両親の残してくれた財産を少しずつ切り崩しながら高校生活を乗り切っている。
とても恋愛する余裕なんかなかったし、ただ立派な大人になることが唯一の恩返しになると思って、奨学金で大学へ進学する為ひたすら勉強を頑張った高校生活だった。
だから少しでも早く元の世界に戻って、早く遅れた勉強を取り戻したい。そう思っていた。
◇◇◇
「おはよう、起きた?」
太陽が目覚めるとテーブルで朝食の準備をしていたルースが振り返った。
「おはようございます」
「起きたら朝ご飯にしよう」
カチャカチャと食器を並べる音がする。辺りには食欲を刺激する良い匂いが漂っていた。
両親が亡くなってから、こういう風に朝の挨拶をされたのは何年ぶりだろう。自分の為に食事を用意してもらえるのも思えば数年ぶりの事だった。
何となくルースの動きを見てしまう。彼はいつも身なりを綺麗にしている。そして料理が上手だ。性格も優しく穏やかで、一緒にいると安心する。
この世界で彼の様な人と最初に出会えたのは、きっと幸運だったろう。
「どうしたの?身体でもだるい?」
ベッドから起きない太陽を心配して、ルースが近寄って来た。
「いえ、起きます」
慌てて起き上がろうとしてベッドから落ちそうになる。それをルースが抱き止めてくれた。細身で一見優男に見えるのに、彼は意外に筋肉質だ。昨日、湖でそれを知った。
バカ、俺何考えてー。
昨日の湖でのルースの上半身を思い出して何だか恥ずかしくなった。
太陽の内心の焦りも知らず、セーヤはそそっかしいなぁ、とルースは笑って抱き起こしてくれた。
そのまま一緒に席に着いて朝食を摂りながら、これからの事についてルースが話してくれた。
恐らく明日には森の様子も見終わる。だから明後日にはここを出立して近くの村を経由して南に向かうそうだ。南までは乗合馬車を使うらしい。
それまでに太陽は出来るだけ弓の練習をして、いざという時に身を守れる様にしてと言われた。
「今日は少し遠くまで見て来るから遅くなると思う。お腹空いたらパンとスープがあるから先に食べてて」
「わかりました」
ルースが弓矢とリュックを背負って扉に向かう。何となく別れがたくて扉までついていった。
「セーヤ?どうしたの?」
「いってらっしゃい。気をつけて」
太陽の言葉にルースは一瞬面くらい。次の瞬間、破顔した。
「ありがとう。こんな風に誰かに見送ってもらうのは久しぶりだ。嬉しいな」
「お、俺もこういうの久しぶりです」
何だか気恥ずかしくなって俯いた太陽の頬に、ルースがそっと手を添えた。
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