21 / 181
第一章 銀狼は青に還りて
19
しおりを挟む
獣が来たー。
昨日と同じ様に木の後ろから獣が姿を現した。
「ー!お前その姿…」
太陽は驚きで息を飲んだ。
現れた獣の様相がまた変わっていたからだ。獣は全身輝く様な美しい銀色の毛並みになっていた。澄んだ青い瞳は美しく知性を感じさせる。
こいつは魔獣とか普通の動物なんかじゃない。この世界に疎い太陽でも何となくわかった。
初めて獣を見た時は目が黒や灰色で濁り、だらしなく開けた口からは涎を垂らしていた。毛並みも薄汚れた濃い灰色だった。きっと瘴気で闇堕ちしたのがあの姿だったんだろう。でも今は?何で元に戻った?
太陽がどう対応していいか困惑していると、獣がガウ、と鳴いた。太陽の手にした弓を見ている。
「今日も練習相手になってくれるのか?」
獣は軽く頷いた。間違いなく太陽の言葉を理解している。
そして、獣が的の前に出て左右にピョンピョン飛び跳ねた。動く相手への練習。それを理解した太陽は頷くと、獣に向かって弓を引いた。
動く的に当てるのは格段に難しかった。獣を傷つけるどころか、かすりもせず、全く的外れな方向に飛んで行った。
手元の矢が一旦尽きると、獣はまた矢を集めて咥えて来た。受け取って背中の矢入れに戻した。
「ありがとうな」
お礼を言って頭を撫でると獣は嬉しそうに、グルルと鳴いた。身体はこんなにデカいのに人懐こい。
「でも動くのに当てるのは難しいな。明日には出発するのに、こんなんで大丈夫かな」
ガウ
太陽に頭を撫でられたまま獣が太陽を見て鳴いた。どういう事だ?と問われた気がした。
「明日にはこの森を出るんだ。だからお前とも今日でお別れだ。食糧とか沢山ありがとな」
「イヤダ」
どこからか声が聞こえた。驚き周囲を見回すが、太陽と獣しかいない。
「今のお前か?」
太陽が呆然と獣を見つめた。獣はジッと太陽を見ている。
「イカセナイ」
再び声が聞こえた次の瞬間。
獣が太陽の股下に頭を入れて掻い潜って来た。デカい図体が通り抜けれる筈もなくそのまま太陽は獣に乗り上げる形になった。
「わ、お前!何すんだ!降ろせよ」
バランスが悪く、慌てて獣の毛並みを掴んだ瞬間、獣が走り出した。
すごいスピードで周りの景色が流れて行く。山道で足場は悪い筈なのに、信じられない位、獣は森を軽やかに駆け抜けた。
スピードが少し落ちた所で飛び降りようかとも思ったが、地面は山道でしかも石や岩がゴロゴロしていた。しかも気づいたら傾斜面を登っている。そうなると、太陽はもう大人しく獣にしがみついているしか出来なかった。
数十分ほど走った所で、獣は少しずつスピードを落とし、辿りついたのは急な傾斜面の上にある洞穴だった。
獣にしがみついたまま、奥に連れて行かれる。中は天井が高くとても広かった。そこからいくつも道が分かれていて、獣は真ん中の道を進んだ。
暫く歩くと行き止まりの場所にこんもりと藁が置かれていた。獣がブルッと身体を震わせると、太陽はその上にドサッと落っこちた。
「お前!何すんだよ!こんな遠い所まで連れて来て!」
藁まみれになりながら、太陽は獣に抗議した。
「イッショ」
「え?」
「オマエイイニオイ。ズットイッショ」
獣の言葉にゾッとした。
昨日と同じ様に木の後ろから獣が姿を現した。
「ー!お前その姿…」
太陽は驚きで息を飲んだ。
現れた獣の様相がまた変わっていたからだ。獣は全身輝く様な美しい銀色の毛並みになっていた。澄んだ青い瞳は美しく知性を感じさせる。
こいつは魔獣とか普通の動物なんかじゃない。この世界に疎い太陽でも何となくわかった。
初めて獣を見た時は目が黒や灰色で濁り、だらしなく開けた口からは涎を垂らしていた。毛並みも薄汚れた濃い灰色だった。きっと瘴気で闇堕ちしたのがあの姿だったんだろう。でも今は?何で元に戻った?
太陽がどう対応していいか困惑していると、獣がガウ、と鳴いた。太陽の手にした弓を見ている。
「今日も練習相手になってくれるのか?」
獣は軽く頷いた。間違いなく太陽の言葉を理解している。
そして、獣が的の前に出て左右にピョンピョン飛び跳ねた。動く相手への練習。それを理解した太陽は頷くと、獣に向かって弓を引いた。
動く的に当てるのは格段に難しかった。獣を傷つけるどころか、かすりもせず、全く的外れな方向に飛んで行った。
手元の矢が一旦尽きると、獣はまた矢を集めて咥えて来た。受け取って背中の矢入れに戻した。
「ありがとうな」
お礼を言って頭を撫でると獣は嬉しそうに、グルルと鳴いた。身体はこんなにデカいのに人懐こい。
「でも動くのに当てるのは難しいな。明日には出発するのに、こんなんで大丈夫かな」
ガウ
太陽に頭を撫でられたまま獣が太陽を見て鳴いた。どういう事だ?と問われた気がした。
「明日にはこの森を出るんだ。だからお前とも今日でお別れだ。食糧とか沢山ありがとな」
「イヤダ」
どこからか声が聞こえた。驚き周囲を見回すが、太陽と獣しかいない。
「今のお前か?」
太陽が呆然と獣を見つめた。獣はジッと太陽を見ている。
「イカセナイ」
再び声が聞こえた次の瞬間。
獣が太陽の股下に頭を入れて掻い潜って来た。デカい図体が通り抜けれる筈もなくそのまま太陽は獣に乗り上げる形になった。
「わ、お前!何すんだ!降ろせよ」
バランスが悪く、慌てて獣の毛並みを掴んだ瞬間、獣が走り出した。
すごいスピードで周りの景色が流れて行く。山道で足場は悪い筈なのに、信じられない位、獣は森を軽やかに駆け抜けた。
スピードが少し落ちた所で飛び降りようかとも思ったが、地面は山道でしかも石や岩がゴロゴロしていた。しかも気づいたら傾斜面を登っている。そうなると、太陽はもう大人しく獣にしがみついているしか出来なかった。
数十分ほど走った所で、獣は少しずつスピードを落とし、辿りついたのは急な傾斜面の上にある洞穴だった。
獣にしがみついたまま、奥に連れて行かれる。中は天井が高くとても広かった。そこからいくつも道が分かれていて、獣は真ん中の道を進んだ。
暫く歩くと行き止まりの場所にこんもりと藁が置かれていた。獣がブルッと身体を震わせると、太陽はその上にドサッと落っこちた。
「お前!何すんだよ!こんな遠い所まで連れて来て!」
藁まみれになりながら、太陽は獣に抗議した。
「イッショ」
「え?」
「オマエイイニオイ。ズットイッショ」
獣の言葉にゾッとした。
26
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
塔の魔術師と騎士の献身
倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。
そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。
男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。
それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。
悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。
献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。
愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。
一人称。
完結しました!
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる