【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第一章 銀狼は青に還りて

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 一通り仲間が集まったのを確認して、力を放った銀狼は人型に戻った。

 それに合わせる様に、他の銀狼達も人間の姿に変わり、そのままその場で片足をついて男に頭を垂れた。
 
 男も女もいる。だが全員共通して獣耳と尻尾がついていた。

「長」

 1人の男が代表して未だ崖端に佇む彼に話しかけた。

「長、私達を救ってくださり感謝します」
「ガソルか。瘴気は祓った。今は聖気で満ちている。やがて森や動物も少しずつ元気を取り戻すだろう」
「おお!さすが森神、我らの長よ!」

 周囲から歓喜の声が起こり、喜びがさざ波の様に広がって行く。

 長と呼ばれた彼が、太陽の方を向いて手を差し伸べてきた。

「こちらへ来い」

 周囲の視線が一気に太陽へ集まった。太陽を見た瞬間に彼らから鋭い殺気が放たれた。その迫力に思わず身を竦める。

「何故ここに黒の者が!」
「今まで気づかせぬとは、気配を消していたか!」
「殺せ!生きて北に帰すな!」

 近くにいた若い少年が、剥き出しの爪で太陽に襲いかかろうとした!

「静まれ!愚か者!」

 長の声は力があるのだろうか。彼の放った言葉1つで、周囲の者達は硬直した様に動かなくなった。

「この者は北の者ではない!」

 そう言うと長自ら太陽の元へ来ると、太陽を横抱きにして洞内の奥へ歩いて行く。
 
 硬直が解けた彼らは、長、長、と彼を呼びながら後を追って来た。

 洞内の広場の奥。長の部屋に続く手前に、いつの間にか複雑な紋様が彫り込まれた大きな椅子が出来ていた。
 見ようによっては玉座の様にも見えた。

 そこに長は座り、そのまま太陽を膝に乗せた。

「あの、恥ずかしいので、下ろしてください」
「嫌だ。コイツらは血の気が多いからな。ココが1番安全だ」

 平然と楽しそうに長は言った。下ろす気は微塵もなさそうだ。

 周囲の視線が刺さって痛い。いきなり現れたコイツは何者だと、彼らの視線が物語っている。

 それに黒とか北とかの意味もわからない。

「長よ。説明をお願いします。この通り皆納得していない」

 また先程のガソルと呼ばれた男が代表して長に話しかけた。

 長が30代前半に見えるのに対し、その男は20代後半位に見える。恐らく長の次に力がある者なのだろう。

「オレが力を取り戻したのはこの者のお陰だ」

 ザワリ、と周囲が動揺した。そんな!まさか!と声が聞こえて来た。獣人の誰かが叫んだ。

「だが、その者は黒を纏っている!ならば魔王の手下じゃないのか!」

 その言葉に、太陽は思わず、え?と驚愕に目を見開いた。

 ルースにこの髪と目の色は珍しいと聞いてはいた。でも魔王の色だなんて知らない。

「違う。俺は魔王の手下じゃない!」

 思わず反論したが、何人かが信じられるか!と怒鳴り声を上げた。

「静まれと言っただろう」

 低い長の声が響き渡った。

「貴様らは長であり、森神であるオレの言う事が信じられないのか!」

 ビリビリと緊張した気配が広がった。皆、長に怯えている。

「ガソルよ、お前はこの者をどう見る」

 ガソルは呼ばれ一歩前に出た。長より少し背が低いが、精悍な顔つきをしている。

「その者からは人間の匂いに混じって、これまで嗅いだ事の無い珍しい匂いがします」

 ザワザワと皆が騒ぎだす。

「ふむ。どんな匂いだ」
「うまく言えませんが…とても良い匂いです。不思議と懐かしい様な心惹かれる匂いがします」
「合格だ」

 満足そうに長は頷いた。

「じゃあ次はお前が長な。森神も任せた」
「は?」
「オレはコイツについて旅に出るから、後は任せた」

 長の軽い発言に「はあぁー!?」と、太陽を含めた長以外の全員が仲良くハモった。
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