【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第三章 空を舞う赤、狂いて

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 ガラガラ ガラガラ

 舗装されていない場所を、木の車輪で引いていく音がする。

 道のデコボコの振動がダイレクトに伝わって来る。ガタッ、と大きな振動を受けて太陽は目を覚ました。

 頭がボーっとして自分が何処にいるかわからなかった。

 横になったまま周りを見回すと、下は木の板で、上はボロ布で出来た屋根だった。それで自分がボロい馬車に乗せられているのがわかった。

 何でこんな所に?

 思い出すのはルースの家で見たラドの姿。そうだ、俺ラドに眠り薬みたいのを嗅がされてー。

 状況がわかった所で、太陽は馬車の前方を見た。御者台に1人座って馬車を操っている姿が見えた。恐らくラドだろう。幸い太陽が目を覚ました事は気づかれてない。

 気づかれない様にゆっくりと馬車の後方に移動した。

 ボロ布の後ろは思い切り開いてて、景色が丸見えだ。周囲は剥き出しの土ばかり草花や木等は見当たらなかった。

 幸い馬車は遅い。飛び降りても大怪我はしなさそうだ。

 覚悟を決めて太陽は馬車から飛び降りた。



 衝撃を減らす為に頭を守りながら、数度回転して太陽は土の上に転がった。

「いて…」

 映画やTVで観たのを真似してみたが、そうそう上手くいくわけもなく、アチコチぶつけてしまった。

 よく考えたら強制的に眠らされて起きたばかりなのだから、身体もうまく動く筈もない。

 呼吸を整えながら、転がったまま馬車を見ると、太陽が飛び降りたのに気づかず走り続けていた。

 ガラガラと走り続けて、いきなり視界から消えた。

 !?

 消えた?

 痛みも忘れて飛び起きて、消えた場所へ慌てて向かう。そこには衝撃的な光景が広がっていた。

「……グラン○キャニオン?」

 元の世界で画像だけで見た事のある景色によく似た光景だった。

 赤い地層が幾重にも重なった、広大な峡谷が目の前に広がっていた。

 底は遥か下で、川や木などは見えない。見渡す限り岩と土だった。

 馬車はココに落ちたの?

 恐る恐る下に視線を向けると、遥か遥か下に馬車ぽい残骸が見えた。

「~~~っ!」

 ココから落ちて生きてる筈がない。

 あの時飛び降りなければ、今頃太陽もあそこにいただろう。

「ラドはむかつく奴だったけど…成仏して下さい!」

 とりあえず合掌してラドの冥福を祈った。

「ナァナァ、何だソレ?」

 この世界は、合掌する度にツッコミが入る。そんなに珍しい行為なんだろうか。

「これは亡くなった人の冥福を祈ってるんだ」

 答えた後に、あれ?となった。
 
 待って!俺、誰と話してんの?

 声のした方角。背後を振り向いたが誰もいない。

「メイフク?それウマイ?」
「バッカだな!食べ物じゃねーよ!お前そんなのも知らないのかよ!」

 声が増えた。上から聞こえた。

 恐る恐る、上に目線を向けると、見たこともない生き物が飛んでいた。

「は?え?鳥?人?」

 まず真っ先に目に飛び込んできたのは「鮮やかな赤」だった。

 次に目についたのは、バサバサと大きく羽ばたく真っ赤な羽根。

 その大きな羽根で浮いてるのは、20歳くらいの若い男。

 臙脂色えんじいろの肩まで伸びた髪。左右で色合いの違う不思議な赤い瞳。左が澄んだ赤。右が濃いめの臙脂色えんじいろをした…ヤンキーぽい兄ちゃんだった。



 あまりの衝撃にしばし放心。

 鳥だ。人だ。真っ赤だ。

「カ、カ…」
「ニンゲン!コワレタか?」
「何だテメー?文句あんのか」
「カッコいい!すっげー!その羽根、本物?」

 太陽のテンションは爆上がりした。

 だって人間が飛行機やパラシュート等も使わずに宙に浮いてるのだ!

 正直、獣人よりエルフより女神より、こっちの方が断然興味があった!

「その羽根すっげーキレイだな!どうなってんの?手は別であんのに、羽根は手じゃないの?」
「…オレ、キレイ?」
「……(ぽかーん)」
「うん、めっちゃキレイ!飛んでても艶々だし生え方もキレイなのがわかる!」

 太陽の大絶賛に、飛んでいた男が側に下りて来た。

 並ぶと太陽より低い。160cm位に見える。

 ミルか?と鳥人間は丁寧に羽根を折りたたんでくれた。

「折りたたむと羽根1枚1枚の美しさがよりわかるな」
「オレ、ウレシイ(ぽっ)」
「……(ぽかーん)」
「これ鳥の羽根?てことは鳥人間なの?それとも天使様?」
「テンシ?オレトリ」
「(ハッ!)ちょっと待て!お前おかしいぞ!人間!」

 鳥人間が太陽にツッコミを入れた。

「あれ?もしかして気のせいかと思ってたけど、やっぱりお前1人で2人分喋ってたの?」

 太陽は逆に鳥人間に尋ねる。

 最初に2人分の声がしたと思ったけど、上空にいたのは目の前のヤンキー鳥1人だけだった。

 てことはコイツが2人分話していた事になる。

「ソウ!オレショーキ!」

 鳥人間が右手で自分自身の右頬を指差して名乗った。続けて左頬を指さす。

「コッチはワルオリ!」
悪男ワルオ?ヤンキーの見た目にピッタリだな。俺はセーヤだ」
「…ヤンキーが何か知らねえが、なんかムカつく」

 とりあえず素直で可愛いのがショーキ。柄が悪いのが悪男ワルオだとわかった。

「人間。お前オレが怖くないのか?」
「?」
「赤いし、鳥の羽根が背中から生えてんだぞ?気持ち悪くないのかよ」
「いや俺、赤色好きだし。それに獣人やエルフがいるなら鳥人間くらいいるだろ」
「……(あ然)」
「アカスキ?オレウレシイ(ぽっ)」

 鳥人間との会話が落ち着いた所で、太陽は改めて周囲を見渡した。

 目の前は見事な峡谷だし、左右背後は土と岩しかない。そもそもココは何処だ?

「なぁショーキ、ココどこ?俺、南の大陸の南の街に行きたいんだけど」
「ココ、ニシ。ミナミ、アッチ」

 ショーキが太陽の背後を指差した。

「あ、馬鹿!せっかく攫ったのに帰り道教えてどうすんだ!」
「え?」
「ソウダッタ!」

 ショーキがエヘヘーと笑った。
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