【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
67 / 181
第三章 空を舞う赤、狂いて

しおりを挟む
 刺激的な空の旅を終えた太陽達は、切り立った崖に建つ建物に下りたった。

 足が地に着いた途端、太陽は倒れ込む様に膝をついて、ウッと口を押さえた。リバースしそうだ。

「ダイジョブ?」
「大丈夫じゃない…」

 ううー、と呻きながら建物を見ると、赤い石や岩で出来た建物だと気づいた。シンプルな作りだからこそ、赤の美しさが映えてる気がした。

 ヒョイ、と鳥人間が太陽を横抱きにした。太陽が驚いてる内に、スタスタと建物の中に入っていくと、藁が積まれた場所に放り投げられた。

 痛みを覚悟したが藁は驚くほど柔らかかった。自分の重みで何なら身体が沈むくらいだ。

「ココはお前が使え」
「え?」

 悪男とショーキは部屋を出て行った。

 もしかして具合が悪いのを見てベッド代わりに寝かせてくれたのかな?その割に雑だった気もするが。

 藁が思いのほか気持ちよくて、まだ疲れが残っていた太陽は、いつの間にか眠りに落ちていた。



◇◇◇



 夢を見ていた。
 不思議とこれが夢だとわかった。

 何故なら金色の男がいたから。

『姫』

 闇の中、男は太陽にそう呼びかけた。

「前々から思ってたけど俺男なのに何で姫って呼ぶんだ?」
『貴方の本質が姫だからですよ』

 中身が女っぽいって事?

 地味に傷ついたが、ルースの前では恋する乙女みたいになってる自覚があるので、反論出来ないのが辛いところだ!

「それで、何でこの世界に俺を連れて来たんだよ。俺に何して欲しいんだ?」
『北に来ればわかります』
「そもそも!何で俺1人であんな森に放置したんだよ!」
『…貴方が私の手を振り解いたからですね。途中ではぐれたのは』
「うっ…」

 これも心当たりがあって反論出来ない!

『もう私の封印だけでは持たない。瘴気が世界を埋め尽くす前にー』

 金の男の声が小さくなっていく。

「待って!俺がもし聖女だとして、そしたらお前と…その…」

 金の男が太陽の言葉を待つ様に見つめている。

 こんな事、本当はわざわざ確認したくないけど!でも色々と気になるから勇気を振り絞って聞いた。

「お前と…あ、愛し合ったりとかしないといけないのかよ!?俺、好きな人いるから、嫌なんだけど…」

 言ってて恥ずかしい!
 今顔全体が真っ赤になってる自覚があった。

 くっと男が笑った。姿が薄れていく。

『私もごめんです』

 そう言い残して、消えた。

 ……。

「……は?」



◇◇◇



「は~!?」

 憤りのあまり太陽は飛び起きた。

「初めて会った時に!あんな事していて!」

 いきなり抱きつかれてキスされた事は今でも鮮明に覚えている。ファーストキスだったのに!

「いや、気にするな。あれは事故だ、きっと!」
 
『私もごめんです』そう言われて良かったじゃないか。むしろ願ったりだ。…ちょっと不満は残るけど!

 少し落ち着いたところで、辺りを見回した。真っ暗だった。離れたところに、ガラスも無いただの四角い窓があったが、元々この世界は月も星もない。外も内も、同様の闇だった。

「寒い…な」

 南にいた時より少し気温が低い気がする。

 身体を少しでも温めようと藁に寄せて、いつもの温もりが無い事に気づいた。

 そうだ。寒い筈だ。だって空がいないのだから。いつも寒さから守ってくれていた存在を思い出す。

 それにルース。彼はいつも焚き火で暖をとってくれていた。あの薪や枝から聞こえる乾いた音や揺らめく炎が好きだった。

「ルースさんと空。心配してるだろうな…」

 会えなくなった大切な人達を思い出す。太陽がエルフの里から消えて、2人はどうしたんだろう。きっと急いで探しに出てくれた筈だ。

 でも運悪くラドに連れ去られ、今や魔王の配下と言われている西の本拠地まで連れ去られてしまった。

 大切な人は、みんないなくなる。かつて零した言葉がまた現実になってしまった。

 ずっと、わざと考えない様にしてたのに。なのに…夜は何だか寂しさが募る。

「ルースさん、会いたいよ」

 ルースと想いを確かめ合ったのは昨日の筈なのに、もっと前に起きた出来事の様だ。
 好きだと囁かれたのも、キスされたのも、身体を繋げたのも昨日の事なのにー。

 一度思い出すと感情を抑えられなかった。悪男とショーキに聞かれない様に、声を押し殺して、泣いた。

 寂しい。辛い。会いたい。
 俺はココにいるよ。
 本当は北になんか行きたくない。2人の側に居たい。

 目を閉じれば、あの日のルースの家を思い出す。
 ルースが何か作業をして、空が丸くなって寝てて。太陽がお茶を出す。

 とても幸せな時間。

 どうかせめて次見る夢は…少しでも幸せな夢でありますようにー。



◇◇◇



 チチチ チュンチュン

 何種類かの鳥の鳴き声で、目が覚めた。

 ぼんやり寝起きの目で周囲を見ると、すっかり明るくなっていた。窓と言ってもガラスや扉は無く、壁に大きく四角く開いただけの穴なので、光も風も自然のままに入ってくる。

 風は冷たいが、何故だか身体は温かかった。
 自分の身体を見下すと、赤く綺麗な羽根が太陽を包んでいた。
 
 後ろを振り向くと、何故か悪男が背中の羽根を広げて自分と太陽を包む様にして寝ていた。

 どうして?いつの間に?

 太陽が不思議に思ってると、窓から数羽の小鳥が入って来た。そのまま鳥人間の頭に止まり。

 コツコツコツコツ!

 一斉に頭をつついた。

「いってー!」

 (多分)悪男の方が飛び起きる。小鳥達がパタパタとその頭上を旋回した。

 呆気に取られている太陽に気づいて、悪男が「おはよ」と挨拶して来た。
 不思議と右目は閉じられていて、左目の澄んだ綺麗な赤い瞳が太陽に向けてくる。

「…おはよう。何でお前がここに?」
「昨日、何か叫び声聞こえたから。様子見に来たんだ。あと、お前寝ながら寒そうだったし」

 そう話す悪男の顔と手足は、何故か擦り傷だらけだった。

 不思議に思いつつ、そうか、だから羽根で温めてくれたのかと納得する。

「ありがとう。寒かったから助かった」
「そっか!」

 ニカッと笑った悪男に、再び小鳥達の猛攻撃が始まった。

「いてて!わかった!わかったから!相手してやるから、テメーらみんな表に出ろ!」

 ヤンキーみたいな言い方で小鳥を追いやると、悪男自らも窓から外に飛び出た。

 何をするのか気になって窓から覗いてると。悪男は腰のポケットから何かを取り出して辺りに放り投げた。

 それを小鳥達が集まって食べ出す。

 朝から小鳥達に餌やりするヤンキー。

 魔王の配下だと聞いてたから、どれだけ残忍な種族なんだろうと身構えていたのに。イメージと違いすぎて拍子抜けだ。

 むしろ人間のラドやエルフの少女達より遥かに好感がもてた。

「なぁ、悪男」
「変な名前で呼ぶな。何だ?」
「どうして西は魔王の配下にいるんだ?魔王は世界に瘴気をばら撒いてる悪いヤツなんだろう?」

 悪男がこっちを見た。ちょっとムッとしているのがわかる。

「ちげーよ。お前こそ何言ってんだ」
「え?」
「逆だろ。今世界に溢れた瘴気を食い止めてるのは魔王様だ」
「え?」

 それは、これまで太陽が学んできたこの世界の常識を根底から揺り動かす言葉だった。



ーーー

 ちなみに、悪男が擦り傷だらけなのは、鳥目で夜はよく見えない中、太陽の元に来たからです。あちこち、ぶつけました。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました

あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。 完結済みです。 7回BL大賞エントリーします。 表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

処理中です...