【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
59 / 181
第二章 闇に囚われし緑よ、いずれ

25

しおりを挟む
 コンコン

 どこかでドアを叩く音がして目が覚めた。

 あれからどの位時間が経ったんだろう。

 隣を見ると相変わらず安らかな顔でルースが眠っていた。そんな場合じゃないのに、その綺麗な寝顔に見入ってしまう。

 コンコン

 催促する様に再びノック音がした。寝室の向こう、玄関からだった。

 ルースを起こしたくなくて、急いで服を着ると玄関へ向かった。

 ドアを開けると、見た事のないエルフの女性が立っていた。

 薄い緑色の髪と目の綺麗な女性だった。女性が太陽を見て驚いた顔をする。

「あの…ルース様は?」
「ルースさんは今寝てて、起こして来た方がいいですか?」
「……」

 女性がチラリと太陽の格好に視線を向ける。

 服を着たものの慌てたせいで、ボタンが途中までだったし、服の裾も上に捲れていた。

 それに気づいて、太陽は慌てて裾を直す。慌てて着たのがバレバレだ。

「ルース様がお休みなら、ちょうどいいですわ。貴方ともお話したいと思ってましたの」

 女性がそう言って、花がほころぶ様に笑った。

「私、ルース様の親戚にあたるマリィと申します」
「あ、俺は…セーヤです」

 タイヨウと名乗りそうになってセーヤと言い直した。ルースから本名は伏せた方がいいと言われたからだ。

 この世界は太陽と空の関係の様に、名で相手を縛ったり操ったりする術もあるらしい。

 太陽の金の力を狙う者が知ったら悪用されかねないと教えてもらった。

「少しだけお邪魔していいかしら?用が済んだらすぐ戻ります」

 ルースが寝てるのに、どうしよう、とふとマリィに背後に目をやると、少し距離をあけて、マリィ以外にも3人の女性がいた。

「セーヤ!そいつを中に入れるな。嫌な臭いがする」

 空の声がした。

 女性達のすぐ側の木から、銀の狼が飛び降りて来た。女性達がその姿に気づいて悲鳴をあげる。

 マリィの背後まで来ると、空は人型に戻った。

「エルフの娘よ。オレの主に害をなす事は許さん。失せろ」
「な、何?魔物?こんなのが下僕なんて…あなたはやはり、黒の者だったのね!私は騙されてないんだから!」

 言うと、マリィは太陽をドンと押すと無理やり部屋に入った。

 そのまま走って白い壁に手をつく。そこに描かれた紋様を瞬く間に光を点らせると、太陽に向かって叫んだ。

「ルース様に近づかないで!」

 一瞬、強い光が辺りを包んだ。反射的に閉じた目を恐る恐る開けると、部屋の中にマリィはいなかった。

 開いていた筈の玄関も閉まっている。何が起きたかわからず、ドアを開ける。

 外にはポツポツと民家が建っていた。エルフの里に来る前に見た南の街中だった。

「そんな…空?どこ?」

 すぐ目の前にいた空もいない。ハッとして、玄関もそのままに、太陽は寝室へ駆け込んだ。

 寝室にルースはいなかった。元々誰もいなかった様にベッドは綺麗な状態だった。

「ルースさん、何で?どこ?」

 状況が理解出来なくて、思わずベッドを手で探る。無情にも柔らかいベッドの感触しか感じられなかった。

 考えられるのは。こちらからエルフの里へ行った時の仕掛けを使って、太陽だけ里から追い出された、だ。

 多分、ルースも空も向こうに残されたままだろう。

 ならきっと、この家で大人しくしていれば2人が見つけてくれるかもしれない。

 そこまで考えたところで、いる筈のない人の声が聞こえた。

「よぉ、可愛い子ちゃん。相変わらずルースに相手にしてもらえてないのかよ」

 この声は。まさか。

 信じられない思いで振り返ると、大男のラドが寝室のドアの所に立っていた。

「何でここに」
「ダメだぜ?玄関は開けっぱなしにしちゃあよぉ。襲われちゃうぜ?俺みたいのに」

 舌舐めずりするその目は以前見たより明らかに濁っていた。
 
「く、来るな」
「安心しろよ。可愛がってやるからよ」

 ラドが太陽の前までやってきた。

 太陽も、逃げる様に移動したが元々出入り口はラドに押さえられていて、逃げ場が無い。

 ジリジリと壁際に追い詰められた。

「本当はこの場で襲いたいけどよ。ルースが戻って来るかもしれないからな。もっと落ち着ける所でたっぷり可愛がってやるよ」
「な、誰が…」

 全部は言えなかった。ラドが素早い動きで布で太陽の鼻と口を押さえたからだ。

 何かの匂いがした。くらり、と目眩がする。ルースさん…たすけて…。

「お前は俺のもんだ」

 ラドのその言葉を最後に、太陽は気を失った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました

あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。 完結済みです。 7回BL大賞エントリーします。 表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

処理中です...