75 / 181
第三章 空を舞う赤、狂いて
11
しおりを挟む
食いちぎられた肩から真っ赤な血が舞い、ショーキが叫び声を上げた。
悪男がハッとして、太陽に手を伸ばすが、その姿が太陽からどんどん遠ざかる。
ドシっと重い音がして、次に目を開けると太陽はルースの腕の中にいた。
それで悪男が手を離して、自分が落ちたのだと気づいた。
「セーヤ大丈夫? 怪我はない?」
心配そうな顔がすぐ側にあった。ずっと会いたいと願っていた愛しい人。
でも今は…まだその胸に飛び込む訳にはいかない。やらなきゃいけない事があるから。
「ルースさん。ごめん。離して…」
太陽を抱き止めたルースの手を、震える手で解いて下ろしてもらう。
「セーヤ?」
「これ以上アイツを傷つけないで…」
わかってる。ルースと空は俺を助けようとしただけだ。ならこの悲しみは、憤りはどうすればいい?
片翼を失った悪男が宙を舞いながら、地面に墜落した。固い地表に、骨が折れる様なひどい音がした。
回転しながら着地した空が、すぐさま悪男に飛びかかろうとするー。
「空!やめろ!」
それ以上の攻撃は許さない。
明確な意思を持って命令を下した。空が金縛りにあった様に、動きを止める。
何故止める? 空の目が太陽に語りかけて来た。
「そいつは俺の友達だ」
腹の底から、怒りと悲しみが込み上げてくる。
わかった。この怒りの矛先が。
1番許せないのは、この状況をどうにか防げなかった自分自身だ。
「これ以上傷つけたら…お前でも許せなくなる。だからもう、やめてくれ」
「…セーヤ」
ルースが引き止める様に太陽の腕を掴んだ。
それに構う余裕もなく、太陽はルースの手を振り解くと、悪男の元に走った。
右の翼は裂かれ、右肩は抉れ、大量の血が流れていた。
落ちた衝撃で、両脚は変な方向に曲がっていた。
あまりの惨状に太陽は息を飲んだ。
これは…もう。
ドクン、と心臓が嫌な音をたてた。
震える手で、悪男とショーキの手を取った。
「悪男…ショーキ…」
「セーヤ、イタイ、オレしぬ?」
悪男の左目から涙が溢れた。それを優しく拭う。
「大丈夫だ、きっと治る…ショーキも、悪男も」
声が震えそうになるのをグッと我慢して。何とか励ましの言葉を伝えた。
「あいつらだろ? お前の大事な人達って…オレが死んでも…そいつら恨むなよ…ゴホッ」
悪男の口から血が溢れ出た。
「悪男、もう話すな!」
「楽しかった…ありがとな…」
「アリ…ガト…セーヤ、トモ…ダチ」
2人の言葉に太陽の我慢も限界だった。悪男の胸に縋って泣きじゃくる。
「…嫌だ!嫌だ!死ぬなよ!また一緒に北に、魔王のとこに行くんだろ!? なあ!お前が死んだら、誰が鳥に餌あげんだよ!あの鳥達を!誰が瘴気から守るんだよ!なぁ!悪男!ショーキ!返事しろよ!」
「……」
「悪男?」
悪男の口が微かに動いた。もう声は聞こえない。泣きながら悪男の口元に耳を近づけた。
「…ワル…オ…って、けっこう、きにいっ、てた…ぜ」
言葉を告げた後、悪男の顔がゆっくりと横に倒れていく。
いやだ、死ぬな!
次の瞬間。太陽と悪男の間から、眩い金の光が溢れた。凄まじい光の奔流に、目を開けていられない。
何とか光を遮りながら片目を開けると、悪男の身体を金色の光が包んでいた。まるで金色のリボンで悪男を隠す様にグルグルと幾重にも光を重ねていく。
「何だよ、これ、やめろよぉ!コイツを、悪男とショーキを連れて行くなぁ!」
悪男を隠していく金のリボンが、まるで死の宣告の様で。太陽は半狂乱になりながら、それをはずそうともがいた。
「落ち着け!」
太陽の行動を止める手があった。
呆然と顔を上げると、相手は人型になった空だった。
「これは治癒の光だ。だから止めなくても大丈夫だ」
「治癒…?じゃあ助かる?死なない?」
「…わからない。でも死ぬ前に治癒魔法が発動したから助かる可能性はある。希望は捨てるな」
空の言葉にようやく太陽は落ち着いた。コクリと頷く。
悪男の身体は今や全身を金の帯で包まれていた。空はこれが身を守る殻の様な役割をして、中で治療がされていると説明してくれた。
「そろそろ夜だ。中に運んでやろう」
空が光に包まれた悪男を、横抱きで抱えてくれた。
悪男の部屋がわからない太陽は、自分が寝た事のある藁のある部屋へ空を誘導した。
藁に悪男を寝かせると、その重みで中に沈む。それがまるで、鳥の巣で産まれた卵の様にも見えた。
藁の横に座って、優しく金の包みを撫でる。そこから自分の気持ちや力が伝わる様な気がして願いを込めた。
どうか悪男とショーキの2人が無事に助かりますように。
ふと背中が温かくなる。
見ると、銀狼が太陽を温める様に丸くなっていた。
「空、ありがとう。さっきはキツイ言い方してごめんな。俺を助けようとしてくれたのに」
空の頭を撫でる。
チラッと一瞬、青い目が太陽を見て、すぐ閉じた。
そういえば、いつの間にかルースがいない。探しに行きたいけど、どうしても今は、悪男の側を離れる気にはなれなかった。
再び悪男を包む金の帯に手を添える。
早く良くなって出て来いよ。
今度は誰にも傷つけさせないから。
待ってるから。
祈りながら太陽は目を閉じた。
悪男がハッとして、太陽に手を伸ばすが、その姿が太陽からどんどん遠ざかる。
ドシっと重い音がして、次に目を開けると太陽はルースの腕の中にいた。
それで悪男が手を離して、自分が落ちたのだと気づいた。
「セーヤ大丈夫? 怪我はない?」
心配そうな顔がすぐ側にあった。ずっと会いたいと願っていた愛しい人。
でも今は…まだその胸に飛び込む訳にはいかない。やらなきゃいけない事があるから。
「ルースさん。ごめん。離して…」
太陽を抱き止めたルースの手を、震える手で解いて下ろしてもらう。
「セーヤ?」
「これ以上アイツを傷つけないで…」
わかってる。ルースと空は俺を助けようとしただけだ。ならこの悲しみは、憤りはどうすればいい?
片翼を失った悪男が宙を舞いながら、地面に墜落した。固い地表に、骨が折れる様なひどい音がした。
回転しながら着地した空が、すぐさま悪男に飛びかかろうとするー。
「空!やめろ!」
それ以上の攻撃は許さない。
明確な意思を持って命令を下した。空が金縛りにあった様に、動きを止める。
何故止める? 空の目が太陽に語りかけて来た。
「そいつは俺の友達だ」
腹の底から、怒りと悲しみが込み上げてくる。
わかった。この怒りの矛先が。
1番許せないのは、この状況をどうにか防げなかった自分自身だ。
「これ以上傷つけたら…お前でも許せなくなる。だからもう、やめてくれ」
「…セーヤ」
ルースが引き止める様に太陽の腕を掴んだ。
それに構う余裕もなく、太陽はルースの手を振り解くと、悪男の元に走った。
右の翼は裂かれ、右肩は抉れ、大量の血が流れていた。
落ちた衝撃で、両脚は変な方向に曲がっていた。
あまりの惨状に太陽は息を飲んだ。
これは…もう。
ドクン、と心臓が嫌な音をたてた。
震える手で、悪男とショーキの手を取った。
「悪男…ショーキ…」
「セーヤ、イタイ、オレしぬ?」
悪男の左目から涙が溢れた。それを優しく拭う。
「大丈夫だ、きっと治る…ショーキも、悪男も」
声が震えそうになるのをグッと我慢して。何とか励ましの言葉を伝えた。
「あいつらだろ? お前の大事な人達って…オレが死んでも…そいつら恨むなよ…ゴホッ」
悪男の口から血が溢れ出た。
「悪男、もう話すな!」
「楽しかった…ありがとな…」
「アリ…ガト…セーヤ、トモ…ダチ」
2人の言葉に太陽の我慢も限界だった。悪男の胸に縋って泣きじゃくる。
「…嫌だ!嫌だ!死ぬなよ!また一緒に北に、魔王のとこに行くんだろ!? なあ!お前が死んだら、誰が鳥に餌あげんだよ!あの鳥達を!誰が瘴気から守るんだよ!なぁ!悪男!ショーキ!返事しろよ!」
「……」
「悪男?」
悪男の口が微かに動いた。もう声は聞こえない。泣きながら悪男の口元に耳を近づけた。
「…ワル…オ…って、けっこう、きにいっ、てた…ぜ」
言葉を告げた後、悪男の顔がゆっくりと横に倒れていく。
いやだ、死ぬな!
次の瞬間。太陽と悪男の間から、眩い金の光が溢れた。凄まじい光の奔流に、目を開けていられない。
何とか光を遮りながら片目を開けると、悪男の身体を金色の光が包んでいた。まるで金色のリボンで悪男を隠す様にグルグルと幾重にも光を重ねていく。
「何だよ、これ、やめろよぉ!コイツを、悪男とショーキを連れて行くなぁ!」
悪男を隠していく金のリボンが、まるで死の宣告の様で。太陽は半狂乱になりながら、それをはずそうともがいた。
「落ち着け!」
太陽の行動を止める手があった。
呆然と顔を上げると、相手は人型になった空だった。
「これは治癒の光だ。だから止めなくても大丈夫だ」
「治癒…?じゃあ助かる?死なない?」
「…わからない。でも死ぬ前に治癒魔法が発動したから助かる可能性はある。希望は捨てるな」
空の言葉にようやく太陽は落ち着いた。コクリと頷く。
悪男の身体は今や全身を金の帯で包まれていた。空はこれが身を守る殻の様な役割をして、中で治療がされていると説明してくれた。
「そろそろ夜だ。中に運んでやろう」
空が光に包まれた悪男を、横抱きで抱えてくれた。
悪男の部屋がわからない太陽は、自分が寝た事のある藁のある部屋へ空を誘導した。
藁に悪男を寝かせると、その重みで中に沈む。それがまるで、鳥の巣で産まれた卵の様にも見えた。
藁の横に座って、優しく金の包みを撫でる。そこから自分の気持ちや力が伝わる様な気がして願いを込めた。
どうか悪男とショーキの2人が無事に助かりますように。
ふと背中が温かくなる。
見ると、銀狼が太陽を温める様に丸くなっていた。
「空、ありがとう。さっきはキツイ言い方してごめんな。俺を助けようとしてくれたのに」
空の頭を撫でる。
チラッと一瞬、青い目が太陽を見て、すぐ閉じた。
そういえば、いつの間にかルースがいない。探しに行きたいけど、どうしても今は、悪男の側を離れる気にはなれなかった。
再び悪男を包む金の帯に手を添える。
早く良くなって出て来いよ。
今度は誰にも傷つけさせないから。
待ってるから。
祈りながら太陽は目を閉じた。
24
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
欠陥Ωは孤独なα令息に愛を捧ぐ あなたと過ごした五年間
華抹茶
BL
旧題:あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
塔の魔術師と騎士の献身
倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。
そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。
男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。
それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。
悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。
献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。
愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。
一人称。
完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる