【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第三章 空を舞う赤、狂いて

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 ルースを探して、館の周りを走る。

 ちょうど太陽のいた部屋の反対側に、その人は居た。

 早朝の薄暗い朝の光の中、遠くに広がる赤のグラデーションの地層をバックに、緑の髪を風に揺らして佇んでいた。

 その光景が美しくて、思わず声をかけるのも忘れて立ち尽くす。

 ルースの周囲には小鳥が集まっていた。手にほんのりと緑と黄に輝く餌を手にして、ルースの肩や手、その周辺に集まった鳥達が嬉しそうにさえずっている。

 先に声をかけたのは、立ち尽くす太陽に気づいたルースの方だった。

「どうしたの?」
「あ、ルースさんを探してて」
「そう。鳥族の彼はもう大丈夫?」
「はい。翼や肩の傷は治ってました。空が言うにはあと1日位で目覚めるだろうって」
「そう。良かったね」

 言いながら、ルースは餌を周囲に投げ撒いた。少し大きい鳥達もやって来て、小鳥達と仲良く餌を食べ出した。

「俺、ルースさんに話があって」
「なに?」

 ルースが振り向く。穏やかに微笑んでるのに、ツキンと胸が痛んだ。この笑顔を知っている。ルースが気持ちを抑えてる時に浮かべる表情だ。

 どう話しかけたらいいか迷ってる太陽を見て、ルースがクスッと笑った。

「君も餌をあげてみる?」
「あ、はい」

 おいで、と手招きされて、手の平にソッと餌を渡された。ほんのり緑と黄の光が混じっている。

「南の聖気は植物や大地に有効なんだけどね。それでも、せめて鳥族の彼が目覚めるまで、少しでも瘴気の進行を抑えられたらと思って」
「悪男が餌に聖気混ぜてるの何で知ってるんですか?」
「昨日君が言ってただろ?」

 あ、と思い出した。確かに昨日悪男に縋りながら、そんな事を言った気がする。

「僕はまだやらなきゃいけない事があるから。話はそれが終わってからでもいい?」
「わかりました。待ってます」

 ルースは太陽に餌を渡すと、数メートル離れた所へ歩いて、しゃがみ込んで何かを始めた。

 鳥族の館は峡谷の1番上にある。
 ルースのいる場所は、館から離れて少し地面がせり出している所だった。

 側にスコップが刺さっているので、穴を掘って何かを埋めているのだと、わかった。

 それが気になって、太陽は餌を全部撒き終わると、ルースの元へ向かった。

「ルースさん何してるんですか?」

 背後から覗き込んで、ハッとした。

 ルースの前に大きな穴が掘られていた。穴の1番下には、芝生の様な柔らかい緑と、シロツメクサの様な小さくて可愛い花々が咲いていた。
 そして、その上には沢山の鳥の死骸が寝かされていた。

「これは…」
「…僕とソラがココに来た時に、多くの魔鳥の群れが襲って来たんだ。僕らは単純に、瘴気で闇堕ちした鳥に襲われたんだと思ってた」

 だから身を守る為に襲って来た魔鳥を殺した。
 
 でも、とルースが鳥の死骸の上に花を手向ける。

「もしかしたら、この場所を守っていたのかもしれないね」
「……」

 死骸の中に、見覚えのある種類の鳥を見つけた。悪男が餌を与えて瘴気を和らげていた、あの鳥だった。

「…俺も手伝っていいですか?」
「…じゃあ後で土を被せるのを頼むよ」

 ルースはそのまま穴の側で地に両手をつけ、何かを唱え出した。

 ルースの手の平から、蔦の様な紋様を描いた緑の光が地を伝いながら穴全体にへ広がっていく。

 その光は穴全体を覆うと鳥達を隠す様にして実体化した。それはまるで緑で作られた棺の様だった。

 ルースが立ち上がる。太陽が駆け寄ると、これで土を被せて、とスコップを渡された。

 太陽が掘り起こした土を被せていく。ルースは少し離れた所で、それを静かに見ていた。

 やがて掘り起こした分を全て戻すと簡素な墓が出来上がった。



 出来上がった墓の前にルースが花を添えた。

「君の世界ではこういう時に何か儀式とかある?」
「…手を合わせて冥福を祈ります」
「じゃあ一緒にやろうか」

 はい、と頷いて太陽は墓の前に膝ついて手を合わせた。ルースもそれに倣う。

 太陽が祈り終え、目を開けると、ルースはまだ手を合わせて目を閉じていた。

 よく見ると、その手や服は土に汚れて、手や顔に小さな切り傷が出来ていた。顔色もあまり良くない。

 そういえば、彼はいつの間にこんな墓を用意したんだろう。昨日からずっとルースを見ていなかった。もしかして、あれからずっと1人で?

「ルースさん…全然休んでないんですか?」

 太陽の声にルースが閉じていた目を開ける。綺麗な緑色の瞳が太陽を捉えた。でもすぐに視線を逸らされる。

「この後、少し休むよ。せっかく来てくれて悪いけど、また後にして」
「え?」

 太陽を置いてルースが館に向かって歩いて行く。

 ルースの態度に太陽は立ち尽くした。こんな素っ気ないルースは初めてだった。あまりの変わり様に愕然とする。

『きっとセーヤが心変わりしたと思ってるぞ』

 空の言葉を思い出す。

 ルースに嫌われたくない一心で駆け出した。やっと会えたのに。このまますれ違うのは嫌だ!

 待って!叫んで背中からルースに抱きついた。

「待ってください!ルースさん!俺の話を聞いて」
「……」
「俺が好きなのはルースさんだけです!あいつは、悪男は友達としか思ってない。恋人とか、そんなんじゃないんです」
「君は友達ともキスするの?」
「え?」

 予想外の言葉に太陽が目を見張る。

「何の話ですか?俺そんな事…」

 ルースが振り向き太陽を掻き抱いた。そのまま後頭部を押さえられたまま激しくキスされる。

「ん、ん…」

 苦しくてルースの胸を叩いた。その手を掴んで、ルースは唇を離した。

 苦しくて呼吸を繰り返す太陽の耳元にルースが囁いた。

「…まだ他に相手が出来たって言われた方がマシだったよ」

 ソッと太陽の手を離すと、ルースは1人建物の中に入って行った。
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