【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第三章 空を舞う赤、狂いて

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 太陽は次に目を覚ました時。床に座ったルースに、膝枕をされた状態だった。

 いつの間にか互いに服を着ていた。
 
「身体は大丈夫?痛いところはない?」

 先程まで太陽を激しく抱き続けていたルースが、心配そうに顔を覗き込んでいた。

 あんなに執拗に太陽の裸に絡みついていた蔦は跡形もなく消えていて、残念な気持ちになる。

「…さっきの蔦みたいなの消しちゃったんですか?俺嬉しかったのに」
「…君は…何でそんなに僕を煽るの?」

 先程まで情欲にまみれていた筈のルースは、ほんのり赤くなった。これまで溜まっていた気持ちや欲を太陽にぶつけて、いつもの彼に戻ってしまったらしい。

 それがちょっと残念。もう少し俺に縛られていて欲しかったのに。

「でもルースさんに愛されてる証拠みたいで嬉しかったから」
「タイヨウ…」

 はふ、と欠伸が出た。ルースの想いを受け止めきったものの、身体は疲れた気がする。

「少し眠るといいよ」

 ルースが太陽を寝かせたまま、愛おしそうにおでこに口づけてきた。

 このまま甘えて眠りたい。でも今回はそれじゃダメ。ルースの為に時間を使うと決めたから。

「逆でしょ、はいルースさん横になって」

 え?え?とルースが目を白黒させてる間に、太陽はルースを寝かせて側に寄り添って抱きしめた。

 これは、あの日のやり直し。

 長い長い呪いが解け、悪夢から解放された夜。きっとルースは幸せな朝を迎える筈だった。太陽が攫われなければ。

 そのせいで、彼は別の恐怖に囚わらてしまった。自分が休んでる間に太陽を失うかもしれない、という恐怖に。

 その恐怖を拭うのはきっと太陽にしか出来ない。

「この中なら他の奴は入れないんですよね?だから大丈夫。ルースさんが休んでも俺はもういなくならないです。だから休んで」

 太陽の言葉に、ルースの瞳が揺れた。その仕草から彼の心の傷の深さが窺い知れる。

「なら、2人が離れない様に俺とルースさん縛ってください。そしたら俺も安心できます」

 太陽の言葉に、ルースの手の平から緑色の美しい緑の光が溢れる。

 そこからシュルシュルと細いロープの様な細い茎が現れ、結びつける様に2人の周囲にゆったりと巻き付いた。最後に茎の端が太陽の手首に。もう片方がルースの手首に輪の様に巻きついた。

「嬉しい。これならもう大丈夫ですね」
「タイヨウ」
「大丈夫。ココには2人しかいないし、誰も俺を傷つける事は出来ないです。緑で繋いだから攫われる事もないし。だから休んでも大丈夫、ね?」

 安心させる様にルースの背中を撫でる。太陽の言葉に少しずつルースの身体の強張りが解れていく様だった。

 その内、ルースが眠そうに微睡んでいく。おやすみなさい、と太陽がルースの目元を手で覆った。

 暫くすると、静かな寝息が聞こえて来た。やっとルースが眠りに落ちたのだ。

 おやすみなさい。ルースさん。
 今度こそ心穏やかな朝が迎えられます様にー。



◇◇◇



 深く落ちていた意識が浮上して、自然と目が覚めた。

 目を開けると、同じ様に横になっているルースの姿が目に入った。すうすう、と穏やかに寝ている。

 良かった。ちゃんと休めてる。
 穏やかな寝顔を見て太陽は安堵の息を吐いた。

 ルースの不安や苦しさを太陽が受け止めた事で、ルースはやっと安心出来た様だ。

 もう二度とこの人を苦しませたくない。

 ルースは例え太陽が元の世界に戻りたいといっても、もう手離せないと言ったが、太陽の心も決まっていた。

 朝ご飯の用意でもしようかな、と起き上がって、指輪に意識を集中した。

 この収納指輪は不思議なもので、意識を集中すると中見を確認したり、出し入れが出来る優れ物だった。しかもルースの瞳と同じ色。

 指輪の色で、昨日のルースの瞳を思い出してニヤニヤしてしまう。自分で言うのもなんだが、相当ルースにハマってる自覚があった。

 指輪には肉や木の実、果実などが入っていた。西は火が使えないと言っていたので、自然と木の実や果実になる。皿代わりの大きな葉に、それらを並べた。

「これも便利だな」

 太陽の左手についた緑の腕輪を見る。細めの茎が伸びて2人に巻きついてるが、自由に伸び縮みして太陽の動きを邪魔しない優れ物だ。

「これ…外したくないな」

 そしたらずっと繋がっていれるのに。

「…何が?」

 後ろからルースの声がした。
 振り返ると、横になったまま、少しぼんやりしてるルースが太陽を見ていた。

「ルースさん、おはよう」
「タイヨウ、おはよう」

 まだ少しぼんやりしてるルースの頬にキスを落とした。

 よく寝れた?という問いかけに、ルースはぼんやり頷いた。その無防備さに胸がキュンとした。

 はぁ。もう俺この人から離れられる気がしない。

 もそもそ起きだしたルースの前に、食べ物と、木のコップに準備した水を用意した。

 ありがとう、と受け止ったコップを一気に飲み干す姿さえカッコ良く見えた。いや、実際ルースはイケメンなんだけれども。

 おかわりいる?と太陽が差し出したコップを受け取る。ジーっと、ひたすら視線を向ける太陽が気になったのか、どうしたの?と聞かれた。

「俺の恋人が世界一カッコいいなと思って」

 ルースが水を咳き込んだ。大変だ。俺の恋人が苦しんでる。慌てて背中をさすった。

「タイヨウ、どうしたの?急に」
「急にじゃないです。ずっとルースさんは綺麗でカッコいいし、素敵だって思ってました」
「そう…ありがとう」

 太陽の言葉か、咳き込んだせいか、ルースの頬が染まる。それさえも愛しい。はぁ。

「んんっ、話は変わるけど。タイヨウはこの後はどうしたいの?」
「この後?」
「僕やソラが合流したでしょ?だからこの後どう行動するか方針を決めた方がいいと思って」

 スッとお花畑だった頭が冷えた。
 
 そうだ。ここは西の鳥族の館。ココでやるべき事をして、北に向かわないといけないんだ。

 ルースとやっと仲直りが出来て。愛される事が幸せすぎて。現実を避けてしまってたみたいだ。
 いつまでもココにはいられない。わかっていても、少し気持ちが沈んだ。

「…すみません。ルースさん。ちょっと俺…浮かれてたみたいです。今後の方針なら、空と悪男のとこで話しませんか?」
「…わかった。そうしよう」

 パチン。ルースの指音一つで、部屋を覆っていた緑の檻も、太陽とルースを繋いでいた茎のロープも、全て消えてしまった。

 広がるのは、ほんのり赤い色彩の建物の壁。

「……」

 自分の両手首には、腕輪も蔦の跡さえ無かった。まるで昨日の事が夢だったみたいに。

「行こうか」

 ルースが太陽の手を引いて歩き出す。繋いだ左手がほんのり熱を感じた。何だろう、と視線をやると、繋いだ太陽とルースの手首にあの緑の腕輪がついていた。細い茎はついてない。

 手を繋いだ相手に視線を向けると、照れた様な困った様な微笑みを浮かべていた。

「こんなのでもよければ、一緒につけておこうか」
「ーはい!」
「今回の旅が落ち着いたら、一緒に暮らそう」
「…はい!」
「その時は、僕の伴侶になってくれる? 僕と一緒に生きて欲しい」
「…っ。…はい」

 嬉しすぎて、言葉に詰まってうまく話せない。そんな太陽の手をルースが優しく引いて歩きだした。
 
 この世界でこの人と生きる。

 その為にこの世界の瘴気を必ずどうにかする。

 覚悟が出来た瞬間だった。
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