【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
86 / 181
第三章 空を舞う赤、狂いて

22

しおりを挟む
 4人は太い蔦でグルグル巻きにされた長の前に並んだ。

 今だに他の魔鳥達はポヨンポヨンと辺りをとび跳ねていたが、長が元に戻れば同じく元に戻るからと放置された。

「悪男大丈夫か?」
「あぁ、背中を刺されたけど死ぬ程じゃない」
 
 悪男は背中を刺されたらしく、空に横抱きにされたままだ。顔色はあまり良くないが受け答えは問題なさそうだった。

「セーヤがキスすれば良くなるぞ」
「はぁ!?」
「はあ!?」
「チュー?」

 空の言葉に、太陽、悪男、ショーキが声を上げる。

「何だ今さら。セーヤの体液は治癒の力があるだろう」
「いや、知らないし!初めて聞いたし!」

 浄化だけじゃないの?治癒って何!
 俺の身体はどうなってるわけ!?

「そ、そ、それにキスなんて、友達同士で俺無理だし!…ルースさん?」

 いつの間かルースが太陽の手を取っていた。その手を、大きめの木のコップに入れられた。中は水だった様で、チャプチャプとコップ内で手を洗われた。

  お陰で手の土埃と、かすり傷の血跡が綺麗になった。

「そのコップ…」

 どうするの?、と聞く前にルースがスタスタと拘束された長の元に歩いて行く。

 いきなり嘴をガバァと開けると、コップの水を流し込んだ。

 ゴクゴクゴクゴク

 大人しく飲ませる事に成功した様だ。
 ルースが戻ってきて、全員が隠れる程度にあの透明な壁を作る。

 グルグル グルグル

 何だか変な音が辺りに響いた。その後、ゴフッゴフッと長が咳き込み、その嘴から黒い液体を勢い良く吐き出した。

「気持ぢ悪い…」
「セーヤ見ていて気持ちの良いものじゃないだろ?コッチにおいで」
「オェー」
「ショーキ吐くな!」
「まぁルースのした事は間違ってない。セーヤの血を飲んだんだ。強制的に瘴気が排出されるだろう」

 リバースしそうな太陽はルースの胸に顔を埋めた。ルースが優しく抱きしめてくれる。

 その向こうで、オェー!我慢しろ!とショーキと悪男の声が聞こえたが無視した。

 空は楽しそうに、まだ吐くのか!大量だな!と笑っていた。

 時間にして10分程度だろうか。

 暫くすると、辺りが静かになり、赤と紫の光が見えた。恐る恐る長を見ると、そこには1人の若い女性が倒れていた。

「姉ちゃん!」

 悪男が空の腕から抜け出そうともがく。それを見て空が悪男を抱いたまま女性の元へ向かった。

 太陽もそれを見て、ルースと共に歩み寄る。

「姉ちゃん!起きて!大丈夫か?」
「ん~ワルオリ…?」

 女性が頭を抑えながら身を起こした。
 赤く長い髪に、悪男同様に美しい翼を持った女性だった。

 悪男に向けて開かれた眼は、悪男の左目と同じ澄んだ綺麗な赤だった。顔立ちも良く似ていた。

「ワルオリ…あんた…ソイツは誰だい?」

 警戒した様に空を睨む。女性は少し後ずさった。

「姉ちゃん!コイツらは敵じゃない!コイツらが闇堕ちした姉ちゃんを助けてくれたんだ!」
「何だって?」

 女性が眉を顰める。

「そのいでたちは、東の者だね。西を嫌っていた筈なのに、どうして…」
「オレの主が望んだからだ」
「主?」

 空の視線を辿って、女性が太陽とルースに視線を向けた。2人を見てハッとする。

「その緑の髪と目。南の者だね。それに黒い髪と目…北の者?いや違う…」

 女性がゴニョゴニョ何か呟く。

 悪男が、あーまた姉ちゃんの病気が始まった~とため息を吐いた。

 病気?それを尋ねる前に、女性がバッと顔を上げて勢い良く言い放った。

「まぁ、そんな事はどうでもいい!あんたら良い男だね!アタイの婿になりな!」

 …………。

 え?婿!?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました

あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。 完結済みです。 7回BL大賞エントリーします。 表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

処理中です...