【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第四章 誰がために、その金は甦るのか

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 長と西の館に戻ると、ひどい有様だった。

 久しぶりの宴でみんなハメを外したらしく、ほとんどの鳥族がそこら中に酔い潰れていた。

「仕方ないね。今日はそのまま寝かしておきな」

 長がまだ起きていた鳥族に指示を出した。

 その時ー。

「セーヤ!いた!」

 館の中から、衣服がボロボロになったルースが飛び出て来た。
 太陽に駆け寄るとギュッと抱きしめて来た。

「ルースさん?どうしたんですか?」
「気づいたらセーヤがいなくなってたから!心配したんだ…ソラも見つからないし、ワルオは知らないって言うし…」

 それは心配をかけてしまった。申し訳なく思う。

 ただ…それよりも太陽は気になる事があった。

「…ルースさん何でこんなにボロボロなんですか?」

 ルースの服装はボロボロだった。まるで追い剥ぎにでも合って、命からがら逃げて来た様な…。

 その理由はすぐにわかった。原因がルースを追って来たからだ。

「ルースさん!今夜は私の相手をしてぇ~」
「男でもいいならボクが相手します!」

 数人の鳥族の男女が太陽を押し除けて、ルースを囲んだ。もはやルースが見えない。

 太陽がポカーンとしてると。

「ちょっと!緑の!ウチの奴らに手を出したら許さないと言ったろう!」

 長の怒号が響いた。
 その声を受けて、囲いの中からルースが必死に顔を出す。

「赤よ、お前の目は節穴かい?この場合、どう見ても襲われてるのは僕の方だろう!」
「じゃあその魅了をやめな!」
「好きで魅了してる訳じゃない!」

 ルースと長が睨み合い…再びルースが後ろに引っ張られ囲いの中に姿を消した。

「うわ!ダメ、そんなとこ…ん」

 ルースの悩ましげな声が聞こえて、ハッと太陽は正気に戻った。慌てて、ルースを救出に向かう。

「やめてください!ルースさんは俺の恋人です!」

 何とか囲いの中に入ると、上半身の服を破かれたルースが半裸状態で尻もちをついていた。

 肩や胸が晒されてセクシーな事になっている。指輪からマントを取り出してルースに羽織らせた。

「…お前らどきな!」

 長の一言で、ルースを囲っていた鳥族達が2人から離れた。

 その間から長が近寄って来た。何だか険しい顔をしている。

「セーヤ。アンタまさか。大事な人ってのはそのエルフの男かい?」
「はい。そうですけど…」
「念のため聞くが、エルフに魅了て能力があるのは知ってるかい?」
「…知らないです」

 太陽の言葉に、長は怒りの表情を浮かべた。そしてそのままセーヤの腕を掴んで、ルースから引き離した。

「緑の。お前はセーヤに黙ったままで魅了してるのかい」
「……」
「恋人に筋を通さないエルフなんては最低だよ!」
「ま、待ってください!長!何の話ですか?」

 意味が分からなくて尋ねた太陽に長が不機嫌そうに振り向く。

「そのまんまさ。アンタもこの男が異常にモテるのを見ただろう?あれはエルフが相手を魅了する能力があるからさ」
「魅了?」
「相手が自分に好意を持つ様に洗脳する力さ。エルフは子供が出来にくい。だからところ構わずそういう機会が作れる様に本能的にそんな能力があるんだよ」
「…え?」

 鳥の長の驚きの発言に、セーヤは息を呑んだ。

 初めてルースに会った時に、その澄んだ緑色の瞳が煌いていて、とても美しいと思ったのを覚えてる。とても綺麗で見惚れてしまったから。

 なら、もしかしたらあれが魅了というものしれない。

「このエルフは止めておきな。アンタが好きな相手なら応援したいさ。でも魅了は洗脳の一種なんだ。恋人にこんな大事な事も伝えず、他の奴とイチャついてるなんて碌な男じゃない」
「…どう見たらこれがイチャついて見えるんだい」

 ルースが地面に座ったままマントで身を守りながら、不服そうにソッポを向いた。
 
「長!別に俺は洗脳なんかされてません」
「アンタ…コイツの瞳に引き込まれた事はないかい?」
「…っ」
「一夜でもいいから相手にして欲しいと思った事は?」
「…っ、それは」
「ほら。そうやってエルフは魅了する瞳と美しい外見で相手を虜にする。本当、厄介な力だよ」

 確かに一夜の関係でもいいからと迫った事はある。でも自分なりにそう思うキッカケはあった。

 それに自分がルースを好きになったキッカケもちゃんとあった筈だ。

 じゃあ、いつから?

 多分あの東の森の湖で。ルースにキスされた時から自分は意識し出した。水に濡れたルースがとても綺麗で。

 そして山小屋で抱きしめられたり、キスされたりして。少しずつ。

 気づいたらもう好きになっていた。

 長は…これが魅了のせいだって言うの?

「長なんで?俺の事を応援してくれるって言ったのに…」
「もういいよ、セーヤ」

 ルースの声がして、呆然とルースの方を向くと、彼は立ち上がりズボンの埃をはたいていた。

「今夜は僕は他の場所で休むから。長も、もうセーヤを責めないで」
「…ルースさん!」
「ソラやワルオの側にいるんだよ。また早朝来るから」

 そう言ってルースはスタスタと端まで行くと、そこから崖下に飛び降りた。

「ル、ルースさん!?」

 駆けつけ様とする太陽を、長が肩を掴んで止めた。

「大丈夫さ。エルフなら緑なり大地なり操ってどうにでもなる」
「離して…ルースさんが行っちゃう!」
「もう遅いよ。どうせ明日になれば会えるだろ。それよりアンタは本当にアイツの事が好きなのか、洗脳されてんじゃないか、ちゃんと見極めな」
「…何でそんな風に」

 この人は何を言ってるんだろう。
 ルースがそんな事をする訳ないのに。

 わかってる。この人はただ自分を心配してくれてるだけだ。

 それでも恋人を悪く言われて、悔しさで涙が滲んだ。

 その時、館から空と悪男が出て来た。

「セーヤみっけ!」
「ルース兄貴が探してたぞ!ってどうしたんだよ?」

 悪男が慌てて駆け寄って来た。

 半泣きで落ち込む太陽の側で、悪男が姉である長に噛み付く。

「姉ちゃん!セーヤに何かした?」
「エルフに魅了の力があるって教えただけさ」
「魅了?」
「それオイシイ?」
「食べ物じゃないよ。相手に自分の事を好きにさせて操るひどい能力さ。セーヤにルースを好きなのはそのせいじゃないかって言っただけさ」

 ルース兄貴がセーヤにひどい事する訳無いだろう!と代わりに悪男が怒ってくれているのが、どこか遠くに聞こえた。

 目の前に影が差した。

 太陽が見上げると空が太陽を見下していた。ただジッと太陽の様子を見ている様だった。

「空は…知ってたの?ルースさんにそういう力があるって」
「あぁ。だからモテるのはエルフのサガだって言っただろう」

 そうだ。

 確かに東の森で銀狼達がルースに集まってるのを見て、確かに空はそう言った。

「空も…ルースさんが俺を洗脳したと思ってるの?」
「いや。あの種族は本人の意志に関係なく他を惹きつける。仮にセーヤが魅了されてたとしても…ルースの意志では無いだろう」
「……そう。わかった」
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