【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第四章 誰がために、その金は甦るのか

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 ルースが西の館のある渓谷から飛び降りた後。宴は解散になった。

 長は残ってる者達にまだ指示出しをしてるが、恩人でもある太陽や空、そして太陽の従属になった悪男はもう休む様にと言われた。

 場所は沢山ある部屋の1つ。
 ちょうど3つ分の藁があってそこに1人ずつベッド代わりに横になった。

 暫くすると寝息が聞こえてきた。

 悪男だった。怪我したり、泣いたり、宴の準備で今日1番の功労者だ。きっと疲れてるだろう。

「セーヤよ、寝れないのか?」

 空が話しかけてきた。

「寝れる訳ないよ。やっとルースさんと仲直り出来たと思ったのに…。自分の気持ちは偽物で洗脳されてるなんて言われて…。別に俺はルースさんの外見だけに惹かれたんじゃないのに」
「それをそのまま言えば良かっただろう」
「そうだけど…」

 あまりにも急な事で、あの時はどう言っていいかわからなかった。そして動揺する太陽を見かねてルースは何処かに行ってしまった。

 ギュッと藁を掴む。藁は温かい筈なのに何だか身体は寒く感じた。

「俺…ルースさんの事となると、自分でも冷静でいられないんだ。空に攫われた時も、ルースさんに会えなくなるのが1番苦しかった」
「ピーピー泣いてたな」
「…うるさい。東の村での事もショックだったし」

 そうだ。一夜でもいいからルースに愛されたいと思う様になったのも、あれがキッカケだった。

 それからマノスや鞄屋の店主とか、ルースの婚約者の話とか。色々出てきて。でも、あきらめられなくて。

 そしてユナさんにルースの過去を聞いた。やっとお互い素直になって。ルースに初めて抱かれて、すごく満たされた。

 この気持ちを偽物だなんて言われたくない。

 そうだ。俺、何を迷ってたんだろう。

 悪男にまた攫われた時、ルースの家に帰りたいと思った。あの人のいる家に帰りたいと思ったんだ。

 もう2度と傷つけたくない。あの人の身も心も守りたい。そう思ったのにー。

 もう、寝てなんていられなかった。

 藁から起き上がると、太陽は窓に向かって走り出す。

「どこに行くんだ?」

 驚いた様に空が起きる気配がした。

 窓に足を掛けながら太陽が叫ぶ。

「ルースさんを探しに!」

 太陽は外に飛び出した。



 ルースが何処に行ったかなんて知らない。行く先も告げず行方をくらましたから。

 でも太陽には確信があった。

 あの人が、俺を置いて遠くに行く訳無い。

 だから真っ直ぐ、あの場所を目指した。

 一昨日、ルースが墓を作った場所。
 館のあるこの渓谷の頂きで1番見晴らしが良くて、1番全体が見渡せる場所。

 裸足のまま駆けて足が痛かったが、気にしてられなかった。墓の近くまで来て、上がった息を整えた。

 見た限り、誰もいない。
 そこら辺で酒盛りして、そのまま眠っていた鳥族達もこちら側までは来てなかった。

 空は真っ暗だ。月明かりも、星も見えない。館周辺に山積みされた明かりが微かに届く程度だった。

 風が冷たかった。標高が高いせいか、寒さに身が震える。

「ルースさん、いるんでしょ?」

 返事は無い。

「出て来て下さい!出て来ないと、ルースさん追いかけて、ここから飛びます」

 その声は太陽の背後からした。

「…何でこんな所にいるの?」

 振り向くと、探し求めていた人がいた。
 
「ルースさん!」

 太陽はその胸に飛び込んだ。ルースは着けていたマントを広げて太陽をくるんだ。

 回された腕から温かい体温が太陽に伝わってきた。安心する優しい花の香り。

「こんなに身体を冷やして。中に戻って。明日また来るから」
「嫌です!ルースさんを否定する所には居たくないです…」
「ソラやワルオがいるでしょ?」

 ルースに抱きついたまま、首を横に振った。

「それでも嫌です!俺はルースさんの側にいたいのに。いつもいつも!周囲に邪魔されて!…もう離されるのは嫌なんです…」
「セーヤ…」

 この世界は、明日どうなるかもわからない世の中だ。そんな中、こんな風に一方的に他人に引き裂かれるのは、もう我慢できなかった。

 ルースが回した腕を引き寄せ、太陽を抱きしめた。

「さっきの魅了の話…怖くないの?」
「怖くないです!だからお願い…貴方まで俺の気持ちを否定しないで…」

 確かに初めてルースの瞳を見た時。その美しさに見惚れた。

 それでも。

 あの日、異世界に放り出されて魔獣に襲われてるのを助けてくれたのはこの人だ。

 困っていた太陽に手を差し伸べてくれたのも、寄り添ってくれたのもルースだ。

 そこに魅了という力は関係無い。

「キッカケが魅了なのかとか、俺にはよくわかりません!それでもこの世界で俺を救い、守ってくれたのはルースさんです…。ちゃんと俺は共に過ごした貴方を見て、愛したんだ…」

 鼻がツンとして、胸が苦しくて、涙が溢れた。辛さを吐き出す様に、太陽はルースに縋った。

 帰りたいあの山小屋に。

 質素な食事と簡素な家具。
 ルースと2人っきりの生活。
 他に何も無くて、誰もいなくて。

 だけど太陽の幸せはそこにあった

「ルースさん…お願い…俺を攫って」
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