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第四章 誰がために、その金は甦るのか
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前回よりも昼ごはんは少し豪華だった。
固いパンと少しのお野菜に、お肉が追加されていた。
「すごい!ご馳走様だ!」
「あの時は旅の最中だったからね。今は少しなら余裕があるよ」
「わぁ…」
思えばこの世界に来て、ほとんど木の実か果物ばかりだった。お肉は空に優先的にあげてたし、悪男とショーキなんかは生肉だった。
ルースが出してくれたのは、ちゃんと火を通して味付けされているお肉だった。美味しそう…。
「いただきます」
「いただきます」
ルースも太陽を真似て、手を合わせた。
驚く太陽に、ルースが微笑む。
異世界の自分の文化に合わせてくれる。そんなルースが好きだ。嬉しさと照れから、口がうにうにしそうになる。
何だか気恥ずかしくて、甘酸っぱい気持ちを誤魔化したくて、太陽はお肉を口にした。
「美味しい…!」
予想外の美味しさに太陽は目を丸くした。
食べやすい柔らかさのお肉にバター醤油みたいな食欲をそそる香りの良いソースが少しだけかかっている。
この世界で一番口にあったかもしれない。
夢中で食べきった太陽を見て、ルースはセーヤはこういう味付けが好きなんだねと笑った。
◇◇◇
食事の後は、2人で東の森を散策した。
以前いた時より緑や花々の種類が増えていた。
「すごい…森が息を吹き返したみたいだ」
「みたいじゃなくて、実際そうなんだよ」
ルースがしゃがみこんで、花々に触れる。ほんのり緑色の光の粒が弾けた。
「今のは…」
「こうやって、緑の民は各地の森の様子を見て回ってるんだよ」
各地の森や草花などに直接触れては、ほんの少し聖気を流してその土地の緑に問題が無いか確認して回ってるんだとルースは言った。それが緑の民の宿命。
今は大陸中に瘴気が溢れてるから、多くのエルフ達がエルフの里から出ない。でも本来エルフ達は皆で協力して世界を回っていたんだと言った。
「ルースさんは世界がこんな風になっても1人で回ってたんですか?」
「そうだよ。僕は世界を巡るのが好きだし、他の種族との交流も好きだからね。それに、弱ってる緑があれば少しでも良くしてやりたい」
「そうなんですね」
前に空が言っていた。緑の民は旅をするのが宿命だって。それはこの世界の緑を守る為。
「俺も一緒に行っていいですか?」
「え?」
「この世界の瘴気が落ち着いて、またエルフ達が世界を旅する様になっても。もしルースさんが旅を続けるなら俺も一緒に行きたい」
「結構大変だけどいいのかい?」
「…あなたが帰るのをただジッと待ってる方が耐えられない」
「わかった。じゃあ、一緒に行こう」
それからルースは、森を散策しながら色々な事を教えてくれた。
東の森と呼ばれる場所は、正確には東に大きく広がる山々と森を指していて。空達、東の銀狼達はその全体の領域と地に住まう動物を守っている事。
長の聖気が満たされた領域では瘴気が晴れ、少しずつ緑は回復する。でもそこに緑の民が訪れる事で更に緑は豊かになり食物はより実りが増える。だから昔は緑の旅人は実りの使者としてどの地でも歓迎されたそうだ。
「すごい。緑の民は幸福の使者なんですね」
「そう言ってもらえたら嬉しいな。旅をして世界を豊かにするのは僕らエルフの誇りなんだ」
『旅をして世界を豊かにするのは我らエルフの誇りなのです』
「っ!?」
一瞬、ルースの声と誰かの声が重なった気がした。懐かしい声に何だか胸が苦しくなる。
「セーヤ?どうしたの?」
怪訝そうにルースがこちらを見ていた。
何でもないです、そう言って、太陽は微笑んでみせた。うまく笑えたかは、わからない。
懐かしい声。あれは前にルースに弓矢を教えてもらっていた時にも思い出した声だった。
それが何を意味するのかわからない。でも今はルースとの2人の時間を大事にしたい。
太陽は無理矢理、懐かしいその声の記憶を、意識の底に閉じ込め蓋をした。
固いパンと少しのお野菜に、お肉が追加されていた。
「すごい!ご馳走様だ!」
「あの時は旅の最中だったからね。今は少しなら余裕があるよ」
「わぁ…」
思えばこの世界に来て、ほとんど木の実か果物ばかりだった。お肉は空に優先的にあげてたし、悪男とショーキなんかは生肉だった。
ルースが出してくれたのは、ちゃんと火を通して味付けされているお肉だった。美味しそう…。
「いただきます」
「いただきます」
ルースも太陽を真似て、手を合わせた。
驚く太陽に、ルースが微笑む。
異世界の自分の文化に合わせてくれる。そんなルースが好きだ。嬉しさと照れから、口がうにうにしそうになる。
何だか気恥ずかしくて、甘酸っぱい気持ちを誤魔化したくて、太陽はお肉を口にした。
「美味しい…!」
予想外の美味しさに太陽は目を丸くした。
食べやすい柔らかさのお肉にバター醤油みたいな食欲をそそる香りの良いソースが少しだけかかっている。
この世界で一番口にあったかもしれない。
夢中で食べきった太陽を見て、ルースはセーヤはこういう味付けが好きなんだねと笑った。
◇◇◇
食事の後は、2人で東の森を散策した。
以前いた時より緑や花々の種類が増えていた。
「すごい…森が息を吹き返したみたいだ」
「みたいじゃなくて、実際そうなんだよ」
ルースがしゃがみこんで、花々に触れる。ほんのり緑色の光の粒が弾けた。
「今のは…」
「こうやって、緑の民は各地の森の様子を見て回ってるんだよ」
各地の森や草花などに直接触れては、ほんの少し聖気を流してその土地の緑に問題が無いか確認して回ってるんだとルースは言った。それが緑の民の宿命。
今は大陸中に瘴気が溢れてるから、多くのエルフ達がエルフの里から出ない。でも本来エルフ達は皆で協力して世界を回っていたんだと言った。
「ルースさんは世界がこんな風になっても1人で回ってたんですか?」
「そうだよ。僕は世界を巡るのが好きだし、他の種族との交流も好きだからね。それに、弱ってる緑があれば少しでも良くしてやりたい」
「そうなんですね」
前に空が言っていた。緑の民は旅をするのが宿命だって。それはこの世界の緑を守る為。
「俺も一緒に行っていいですか?」
「え?」
「この世界の瘴気が落ち着いて、またエルフ達が世界を旅する様になっても。もしルースさんが旅を続けるなら俺も一緒に行きたい」
「結構大変だけどいいのかい?」
「…あなたが帰るのをただジッと待ってる方が耐えられない」
「わかった。じゃあ、一緒に行こう」
それからルースは、森を散策しながら色々な事を教えてくれた。
東の森と呼ばれる場所は、正確には東に大きく広がる山々と森を指していて。空達、東の銀狼達はその全体の領域と地に住まう動物を守っている事。
長の聖気が満たされた領域では瘴気が晴れ、少しずつ緑は回復する。でもそこに緑の民が訪れる事で更に緑は豊かになり食物はより実りが増える。だから昔は緑の旅人は実りの使者としてどの地でも歓迎されたそうだ。
「すごい。緑の民は幸福の使者なんですね」
「そう言ってもらえたら嬉しいな。旅をして世界を豊かにするのは僕らエルフの誇りなんだ」
『旅をして世界を豊かにするのは我らエルフの誇りなのです』
「っ!?」
一瞬、ルースの声と誰かの声が重なった気がした。懐かしい声に何だか胸が苦しくなる。
「セーヤ?どうしたの?」
怪訝そうにルースがこちらを見ていた。
何でもないです、そう言って、太陽は微笑んでみせた。うまく笑えたかは、わからない。
懐かしい声。あれは前にルースに弓矢を教えてもらっていた時にも思い出した声だった。
それが何を意味するのかわからない。でも今はルースとの2人の時間を大事にしたい。
太陽は無理矢理、懐かしいその声の記憶を、意識の底に閉じ込め蓋をした。
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