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第四章 誰がために、その金は甦るのか
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鳥族の長は己の短慮を悔いていた。
あの時、私が追い出さなければー。
東の聖獣に諭された時から既に何度もした後悔が再び胸をよぎる。
聖獣ソラは言った。ちょうどいいから2人は暫くゆっくりさせてやろうと。代わりに自分達で東と南の長を呼んで、この世界の真実を伝えようと。
セーヤとルースへの罪滅ぼしの為、長は早速東と南に遣いを出した。そして実現した長同士の会合で、彼女は鳥族の長のみに語られる瘴気と魔王の秘密を彼らに話した。
東の長ガソルは静かに眉を顰めながらも、そんな事があったなら鳥族が北につくのも分かると一定の理解を示してくれた。
南の長は、顔面を蒼白にしながら顔を覆った。そして先の対戦で犠牲になった弟夫婦は白い妖精王の友だったと涙した。
この世界の歪みを隠すのでは無く、どこか1つの種族に押し付けるのでは無く、我々みんなでどうしていくかを話し合おう。
東と南、そして西が1つになった瞬間だった。
そしてセーヤに良い知らせが出来ると、弟のワルオリとソラが2人を迎えに行き。その途中で悲劇が起きた。
魔王襲来。
魔王はセーヤを狙い、最後にその恋人のルースに牙を向いた。
弟のワルオリが言うには、魔王のシルエットを模った化け物にルースが喰われ、大量の血が吹き出したのを見たそうだ。そして最後は本物の魔王が現れ、化け物ごと消えた。
……恐らくルースはもう生きてはいないだろう。
瘴気は生き物を狂わせるという。
長い間、瘴気に侵され白の妖精王は狂ってしまったのかもしれない。
あの時、自分がルースを罵り追い出さなければ、少なくとも魔王と遭遇する事は無かっただろう。
思い悩んだ末、彼女は決めた。
これまで鳥族は北の配下だった。その恩義に報いる為。
でも今世、鳥族の恩義は金の力を宿すセーヤにある。
もしセーヤが魔王を封印。もしくは討伐すると決めたなら、鳥族は彼に従う。
「長!」
出入り口から入って来た者がいた。彼女の側近だ。
「金坊主が目を覚ましたぜ!」
「…言葉に気をつけな」
久しぶりに再会したセーヤはだいぶ見た目が変わっていた。そして、ワルオリが彼を連れ帰って来た時、精神的ショックか、はたまた能力の使い過ぎか、ずっと眠り続けたままだった。
もしかしたら、彼にとってはそのまま眠り続けていた方が幸せだったかもしれないね。
それでも、現実は変えられない。恋人の死も、金の者としてこれから崇められるのも。
だからせめて、自分は…自分達は、彼を家族として支えてやろう。
「すぐ向かう。青と緑にも知らせてやりな」
彼女は立ち上がると家族同然の少年の元へ向かって歩き出した。
◇◇◇
同時刻。
東の長ガソルは思案していた。
彼の祖父、かつての元長は大丈夫だろうかと。
祖父ソラが自分に東の長を押し付けて旅立ってから暫くして。西の瘴気が祓われたと情報が入った。
その後、西からの遣いに応じてこの地にやって来たガソルを待っていたのは、これまで以上に元気そうな祖父ソラだった。
そのうちセーヤの恋人になるとかかんとか言っていたが、結局セーヤはルースひと筋で、祖父は全く相手にされてないらしい。
それでも祖父は楽しそうだった。
きっと主であるセーヤが本当に好きな相手と一緒にいるからだろう。
もしそのまま2人が婚姻でもすれば、ルースも祖父の主であるセーヤと同列になり、彼も守り仕える対象になる。
正確にはなる筈だった。だが、きっと祖父の中では既に決定事項だったのだ。セーヤを連れて鳥族の若者と共に西の館に帰還した祖父を、ガソルは一生忘れられないだろう。
意識を無くして死んだように眠るセーヤと、泣き腫らした鳥族の若者と、表情が抜け落ちた無表情な祖父。
普段飄々としている彼がそんな表情を浮かべるのは、身近な者が亡くなった時だけだ。
祖父にとって、それほどに彼らは大事な存在になりつつあったのだ。
これから東はどう動くべきか。
出来れば祖父の意向も聞きたいが暫くは無理かもしれない、そう感じた。
「長!セーヤ様が目覚めたと赤達から連絡がありました」
「わかった。すぐ行く」
こんな事になって大変だが1つ良かった事がある。それは歴史の動くこの瞬間に、自分が決定権を持って立ち会えた事だ。
祖父がこれからどう生きるかはわからない。だが、東の同胞達を守る為、自分は未来を選び決断するだろう。
渦中の少年に会う為、ガソルは歩き出した。
◇◇◇
同時刻。
旧友に渡された物を見ながら、エルフ族の長ベイティは何度目かの溜め息を吐いた。
いまだに信じられないが、目の前に置かれた物を見れば、旧友の言った事は真実だと受け入れざるをえない。
「ルースお前まで…」
堪え切れずに緑色の瞳に涙が滲んだ。
ルースがセーヤの行方を追って暫くして、西の瘴気が祓われたと情報が届いた。
それはセーヤが無事だという証でもあった。
ルースは無事に合流出来ただろうか。それを心配していたら、今度は西から遣いがやって来た。聞けば、セーヤもルースもソラも無事で、今後の魔王への対策を西で話し合いたいという内容だった。
南の大陸の長として臨んだ会議は驚きの連続だった。旧友のソラがいなければ、とても信じられなかっただろう。
そして、話し合いがまとまり、ソラとワルオが、静養しているセーヤとルースを迎えに行った時にその悲劇は起こった。
まさかの魔王襲来。
無事にセーヤを守り抜いた代わりにルースが犠牲になった。
そう言って旧友のソラに渡された物は、ある意味ルースの死を裏づける物だった。
弟夫婦の忘れ形見の甥のルースは強い男だった。それこそエルフ族最強の証である神樹の実を授けられられる程に。
彼が行方不明になった金の者を追う時に、少しでも身を守れる様にと授けたが、それも魔王の前では意味を成さなかった。
「神樹の実…」
ふと思い浮かんだそれに、ベイティは顔を上げた。諦める前にどうしても確かめたい事があった。
近くで控えていた側近を呼び、至急エルフの里にそれを確認をするよう指示を出す。指示を受けた側近もその重大さに気づき、わかりました、と返事1つですぐ部屋から出て行った。
「それまで、望みを捨ててはいけない…。だよねルミド」
どうか。君の息子を守ってくれ。
既に逝なくなった弟に願いながら、ベイティは旧友から渡された物に保存魔法をかけて大切な物をしまう指輪に収納した。
その時、慌ただしく入って来た者がいた。
「長!金の者が目覚めたようです!」
「そうか。それは良かった」
ついに彼が目覚めた。
これから情勢は荒れるだろう。500年ぶりの金の者の登場が大陸中に知らされてしまったのだから。
だけど…今は。純粋に彼の無事を喜びたい。
ベイティは金の力を纏う少年の元へ向かって歩き出した。
あの時、私が追い出さなければー。
東の聖獣に諭された時から既に何度もした後悔が再び胸をよぎる。
聖獣ソラは言った。ちょうどいいから2人は暫くゆっくりさせてやろうと。代わりに自分達で東と南の長を呼んで、この世界の真実を伝えようと。
セーヤとルースへの罪滅ぼしの為、長は早速東と南に遣いを出した。そして実現した長同士の会合で、彼女は鳥族の長のみに語られる瘴気と魔王の秘密を彼らに話した。
東の長ガソルは静かに眉を顰めながらも、そんな事があったなら鳥族が北につくのも分かると一定の理解を示してくれた。
南の長は、顔面を蒼白にしながら顔を覆った。そして先の対戦で犠牲になった弟夫婦は白い妖精王の友だったと涙した。
この世界の歪みを隠すのでは無く、どこか1つの種族に押し付けるのでは無く、我々みんなでどうしていくかを話し合おう。
東と南、そして西が1つになった瞬間だった。
そしてセーヤに良い知らせが出来ると、弟のワルオリとソラが2人を迎えに行き。その途中で悲劇が起きた。
魔王襲来。
魔王はセーヤを狙い、最後にその恋人のルースに牙を向いた。
弟のワルオリが言うには、魔王のシルエットを模った化け物にルースが喰われ、大量の血が吹き出したのを見たそうだ。そして最後は本物の魔王が現れ、化け物ごと消えた。
……恐らくルースはもう生きてはいないだろう。
瘴気は生き物を狂わせるという。
長い間、瘴気に侵され白の妖精王は狂ってしまったのかもしれない。
あの時、自分がルースを罵り追い出さなければ、少なくとも魔王と遭遇する事は無かっただろう。
思い悩んだ末、彼女は決めた。
これまで鳥族は北の配下だった。その恩義に報いる為。
でも今世、鳥族の恩義は金の力を宿すセーヤにある。
もしセーヤが魔王を封印。もしくは討伐すると決めたなら、鳥族は彼に従う。
「長!」
出入り口から入って来た者がいた。彼女の側近だ。
「金坊主が目を覚ましたぜ!」
「…言葉に気をつけな」
久しぶりに再会したセーヤはだいぶ見た目が変わっていた。そして、ワルオリが彼を連れ帰って来た時、精神的ショックか、はたまた能力の使い過ぎか、ずっと眠り続けたままだった。
もしかしたら、彼にとってはそのまま眠り続けていた方が幸せだったかもしれないね。
それでも、現実は変えられない。恋人の死も、金の者としてこれから崇められるのも。
だからせめて、自分は…自分達は、彼を家族として支えてやろう。
「すぐ向かう。青と緑にも知らせてやりな」
彼女は立ち上がると家族同然の少年の元へ向かって歩き出した。
◇◇◇
同時刻。
東の長ガソルは思案していた。
彼の祖父、かつての元長は大丈夫だろうかと。
祖父ソラが自分に東の長を押し付けて旅立ってから暫くして。西の瘴気が祓われたと情報が入った。
その後、西からの遣いに応じてこの地にやって来たガソルを待っていたのは、これまで以上に元気そうな祖父ソラだった。
そのうちセーヤの恋人になるとかかんとか言っていたが、結局セーヤはルースひと筋で、祖父は全く相手にされてないらしい。
それでも祖父は楽しそうだった。
きっと主であるセーヤが本当に好きな相手と一緒にいるからだろう。
もしそのまま2人が婚姻でもすれば、ルースも祖父の主であるセーヤと同列になり、彼も守り仕える対象になる。
正確にはなる筈だった。だが、きっと祖父の中では既に決定事項だったのだ。セーヤを連れて鳥族の若者と共に西の館に帰還した祖父を、ガソルは一生忘れられないだろう。
意識を無くして死んだように眠るセーヤと、泣き腫らした鳥族の若者と、表情が抜け落ちた無表情な祖父。
普段飄々としている彼がそんな表情を浮かべるのは、身近な者が亡くなった時だけだ。
祖父にとって、それほどに彼らは大事な存在になりつつあったのだ。
これから東はどう動くべきか。
出来れば祖父の意向も聞きたいが暫くは無理かもしれない、そう感じた。
「長!セーヤ様が目覚めたと赤達から連絡がありました」
「わかった。すぐ行く」
こんな事になって大変だが1つ良かった事がある。それは歴史の動くこの瞬間に、自分が決定権を持って立ち会えた事だ。
祖父がこれからどう生きるかはわからない。だが、東の同胞達を守る為、自分は未来を選び決断するだろう。
渦中の少年に会う為、ガソルは歩き出した。
◇◇◇
同時刻。
旧友に渡された物を見ながら、エルフ族の長ベイティは何度目かの溜め息を吐いた。
いまだに信じられないが、目の前に置かれた物を見れば、旧友の言った事は真実だと受け入れざるをえない。
「ルースお前まで…」
堪え切れずに緑色の瞳に涙が滲んだ。
ルースがセーヤの行方を追って暫くして、西の瘴気が祓われたと情報が届いた。
それはセーヤが無事だという証でもあった。
ルースは無事に合流出来ただろうか。それを心配していたら、今度は西から遣いがやって来た。聞けば、セーヤもルースもソラも無事で、今後の魔王への対策を西で話し合いたいという内容だった。
南の大陸の長として臨んだ会議は驚きの連続だった。旧友のソラがいなければ、とても信じられなかっただろう。
そして、話し合いがまとまり、ソラとワルオが、静養しているセーヤとルースを迎えに行った時にその悲劇は起こった。
まさかの魔王襲来。
無事にセーヤを守り抜いた代わりにルースが犠牲になった。
そう言って旧友のソラに渡された物は、ある意味ルースの死を裏づける物だった。
弟夫婦の忘れ形見の甥のルースは強い男だった。それこそエルフ族最強の証である神樹の実を授けられられる程に。
彼が行方不明になった金の者を追う時に、少しでも身を守れる様にと授けたが、それも魔王の前では意味を成さなかった。
「神樹の実…」
ふと思い浮かんだそれに、ベイティは顔を上げた。諦める前にどうしても確かめたい事があった。
近くで控えていた側近を呼び、至急エルフの里にそれを確認をするよう指示を出す。指示を受けた側近もその重大さに気づき、わかりました、と返事1つですぐ部屋から出て行った。
「それまで、望みを捨ててはいけない…。だよねルミド」
どうか。君の息子を守ってくれ。
既に逝なくなった弟に願いながら、ベイティは旧友から渡された物に保存魔法をかけて大切な物をしまう指輪に収納した。
その時、慌ただしく入って来た者がいた。
「長!金の者が目覚めたようです!」
「そうか。それは良かった」
ついに彼が目覚めた。
これから情勢は荒れるだろう。500年ぶりの金の者の登場が大陸中に知らされてしまったのだから。
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