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第五章 果てなき旅路より戻りし者
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魔王に続いて隣の部屋へ戻ると、残っていた援軍メンバーが武器を手に臨戦体制を取っていた。
あ、忘れてた。
さっきの勇者と魔王の同一人物事件が衝撃過ぎて、彼らの存在をすっかり忘れていた。
「武器を仕舞ってください。彼は大丈夫です」
「ですが、そいつは魔王では!?狂っている筈では!?」
「そうなんですけど、そうじゃないんです」
困った。どこから話せば。
途方に暮れる太陽を見兼ねたのか、魔王が人差し指をクルンと回すと白い光の粒が舞った。
「何を!?」
皆が構える中、部屋の奥からふわふわと沢山のティーカップが宙を飛んできた。
それらが丁寧にテーブルの上に整列していく。続いてティーポットらしき物も、ふわふわ飛んできた。
一体これは…。
「外は寒かったであろう。まずは身を温めるが良い」
赤い小鳥を乗せたままの魔王の言葉に、それまで構えていた援軍メンバーは一気に脱力した。
改めて部屋を観察すると、テーブルやソファや暖炉が設置されている西洋風の雰囲気で、太陽からするとこれまで見たこの世界のどの部屋よりも1番文化的な場所に見えた。
「座るがいい」
さすがに全員座る場所が無い為、ソファには太陽と空が座る事になった。援軍メンバーは周囲の床に適当に座り込んでいる。
太陽達の向かいのソファに魔王が腰掛けた。ずっと頭に赤い小鳥を乗せたままだ。
ティーポットが自動でお茶を入ると、またふわふわと全員にティーカップが飛んで配られた。
援軍メンバーも毒気を抜かれたのか、素直に受け取って、温まるーと和んでいる。
どういう魔法なんだろう。
あれが使えたら便利そうだなー。
色々あって混乱した太陽は、もう一旦全てを受け止める事にした。とりあえずルースが生きている事で心には余裕が出来た様だ。
暫く和んだ雰囲気の後、改めて空が魔王に切り出した。
「魔王よ。お前はラリエスを封じ魂を取り込んだのか?」
魔王は長い指先でティーカップを取り、お茶を一口味わってから口を開いた。
「それがアレの望みだった」
「…何だと?」
「話しても良いが…他の者達に聞かせても良いのか?とんだ醜聞だぞ?」
「………………………」
空の様子を見て、魔王が人差し指を振った。白い光と共にキンと音がした。
特に周囲の様子は変わらないが、それまでザワザワとしていた周囲の音が消えた。
「防音にした。向こうと空間を遮っている」
何気にすごい事を言ってる。
この人が今正気で本当に良かったと胸を撫で下ろした。
「500年前、我が魔王になる前にアレは我を脅したのだ」
魔王の言葉に空が眉を顰めた。
「…どういう事だ」
「自分が女騎士と添い遂げる為に協力しろと。瘴気の問題が解決するまで、この世界が滅びない様に一緒に瘴気を抑えてやるから、あれと女騎士の時を止めろと言ってきた」
「ラリエス…あのバカが!」
いつも飄々としてる空が珍しく憤慨した。
どうやらラリエスという勇者は一癖も二癖もある男の様だ。確かにこんな話、他の奴には聞かせない方がいいだろう。世界を救うべき勇者が世界の平和より自分の恋愛を優先したのだから。
「ではやはり先程の金髪はラリエスなんだな」
「そうだ。あれのお陰で、闇堕ちし魔王になってしまったが、瘴気は500年経ってもまだ世界を覆い尽くすには至らず、我もかろうじて正気を失くさずにすんでいる」
魔王のその言葉に反応したのは太陽だった。
「魔王はずっと理性を保ってたんですか?」
「なんとかな」
「じゃあ、300年前の人間とエルフとの対戦は?」
「…言ったであろう。魔王を憎む様、仕向けている存在を」
「…っ!そんな…」
思わず空を見る。空もその視線を受け頷いた。
ルースさんやルースさんの家族を襲ったのは魔王じゃなかった。更に上の、魔王すら上回る存在。
これが良い事なのか、そうで無いのか、太陽にはわからない。ただ、この事をルースに伝えてまた彼が心を痛めないか。それだけが不安だった。
「では、本題に入ろう。そなたはどこまで思い出した?」
今度は太陽が質問に答える番だった。
「思い出すとは…どういう意味ですか?」
「…そなたは魔王を憎む事で金の力が目覚めた。その時に過去の記憶は戻らなかったのか?」
「過去の記憶?俺…子供の頃からの記憶はありますけど」
「500年前の聖女の記憶だ」
「はい!?」
思わず素っ頓狂な声が上がった。この人は何を言ってるんだろうか?
「青。そなたは気づいてるのだろう?」
「オレは主の意にそぐわん事はせん」
「意にそぐわない?どういう事だ?」
「セーヤはあくまでセーヤとしての人生を望んでいる」
空の言葉に、魔王はそうか、と呟いた。暫し思案して、黒い瞳を太陽に向けた。
「では、無理にそなたの過去の記憶を引きずり出すのはやめておこう。必要な事だけを話す」
はい、と太陽は居住まいを正した。どんな話が出てくるかと緊張する。
「まずお前は元々この世界の人間だ」
「へ?」
「500年前にお前の望みに応え、我が異世界に飛ばした」
「は?」
「そして、時が来たので光の勇者がそなたを迎えに行った」
「……いや、全然わからないんですけど」
どうしよう。予想以上に魔王の話が飛び過ぎて、全くわからない。それでも、何とか自分なりに噛み砕く為、わからない事を質問する事にした。
「元々この世界の人間て事は、500年前の聖女の生まれ変わりとかなんですか?」
「肉体は変わっているが魂は王女そのものだ。だから望めばいつでも王女の魂に塗り変わる」
「塗り替わる…。それって今の俺が消えてなくなるって事ですか?」
「そなたの記憶は残るだろうが、そなたとしての意思が残るかはやってみないと、わからん」
ゾッとした。今の太陽の精神が無くなるかもしれない。それなら王女の記憶なんて無くてもいい。
「…王女の500年前の願いって何なんですか?」
「光の封印以外で瘴気の問題を解決する事」
「え?」
「王女は魔王1人に瘴気を押し付けて封印するのはおかしいと言った。そして光の勇者と結ばれるべきだと決めつけられるのが納得いかないと。王族の役割に縛られず自分の意思で未来を選びたいと言った」
「それって…」
今の俺と同じ望み。自分の中で王女という人物像が重なった感覚がする。
「だから、それを実現できる術がある世界へ行く事を彼女は望んだ」
「実現出来る…術」
あ、忘れてた。
さっきの勇者と魔王の同一人物事件が衝撃過ぎて、彼らの存在をすっかり忘れていた。
「武器を仕舞ってください。彼は大丈夫です」
「ですが、そいつは魔王では!?狂っている筈では!?」
「そうなんですけど、そうじゃないんです」
困った。どこから話せば。
途方に暮れる太陽を見兼ねたのか、魔王が人差し指をクルンと回すと白い光の粒が舞った。
「何を!?」
皆が構える中、部屋の奥からふわふわと沢山のティーカップが宙を飛んできた。
それらが丁寧にテーブルの上に整列していく。続いてティーポットらしき物も、ふわふわ飛んできた。
一体これは…。
「外は寒かったであろう。まずは身を温めるが良い」
赤い小鳥を乗せたままの魔王の言葉に、それまで構えていた援軍メンバーは一気に脱力した。
改めて部屋を観察すると、テーブルやソファや暖炉が設置されている西洋風の雰囲気で、太陽からするとこれまで見たこの世界のどの部屋よりも1番文化的な場所に見えた。
「座るがいい」
さすがに全員座る場所が無い為、ソファには太陽と空が座る事になった。援軍メンバーは周囲の床に適当に座り込んでいる。
太陽達の向かいのソファに魔王が腰掛けた。ずっと頭に赤い小鳥を乗せたままだ。
ティーポットが自動でお茶を入ると、またふわふわと全員にティーカップが飛んで配られた。
援軍メンバーも毒気を抜かれたのか、素直に受け取って、温まるーと和んでいる。
どういう魔法なんだろう。
あれが使えたら便利そうだなー。
色々あって混乱した太陽は、もう一旦全てを受け止める事にした。とりあえずルースが生きている事で心には余裕が出来た様だ。
暫く和んだ雰囲気の後、改めて空が魔王に切り出した。
「魔王よ。お前はラリエスを封じ魂を取り込んだのか?」
魔王は長い指先でティーカップを取り、お茶を一口味わってから口を開いた。
「それがアレの望みだった」
「…何だと?」
「話しても良いが…他の者達に聞かせても良いのか?とんだ醜聞だぞ?」
「………………………」
空の様子を見て、魔王が人差し指を振った。白い光と共にキンと音がした。
特に周囲の様子は変わらないが、それまでザワザワとしていた周囲の音が消えた。
「防音にした。向こうと空間を遮っている」
何気にすごい事を言ってる。
この人が今正気で本当に良かったと胸を撫で下ろした。
「500年前、我が魔王になる前にアレは我を脅したのだ」
魔王の言葉に空が眉を顰めた。
「…どういう事だ」
「自分が女騎士と添い遂げる為に協力しろと。瘴気の問題が解決するまで、この世界が滅びない様に一緒に瘴気を抑えてやるから、あれと女騎士の時を止めろと言ってきた」
「ラリエス…あのバカが!」
いつも飄々としてる空が珍しく憤慨した。
どうやらラリエスという勇者は一癖も二癖もある男の様だ。確かにこんな話、他の奴には聞かせない方がいいだろう。世界を救うべき勇者が世界の平和より自分の恋愛を優先したのだから。
「ではやはり先程の金髪はラリエスなんだな」
「そうだ。あれのお陰で、闇堕ちし魔王になってしまったが、瘴気は500年経ってもまだ世界を覆い尽くすには至らず、我もかろうじて正気を失くさずにすんでいる」
魔王のその言葉に反応したのは太陽だった。
「魔王はずっと理性を保ってたんですか?」
「なんとかな」
「じゃあ、300年前の人間とエルフとの対戦は?」
「…言ったであろう。魔王を憎む様、仕向けている存在を」
「…っ!そんな…」
思わず空を見る。空もその視線を受け頷いた。
ルースさんやルースさんの家族を襲ったのは魔王じゃなかった。更に上の、魔王すら上回る存在。
これが良い事なのか、そうで無いのか、太陽にはわからない。ただ、この事をルースに伝えてまた彼が心を痛めないか。それだけが不安だった。
「では、本題に入ろう。そなたはどこまで思い出した?」
今度は太陽が質問に答える番だった。
「思い出すとは…どういう意味ですか?」
「…そなたは魔王を憎む事で金の力が目覚めた。その時に過去の記憶は戻らなかったのか?」
「過去の記憶?俺…子供の頃からの記憶はありますけど」
「500年前の聖女の記憶だ」
「はい!?」
思わず素っ頓狂な声が上がった。この人は何を言ってるんだろうか?
「青。そなたは気づいてるのだろう?」
「オレは主の意にそぐわん事はせん」
「意にそぐわない?どういう事だ?」
「セーヤはあくまでセーヤとしての人生を望んでいる」
空の言葉に、魔王はそうか、と呟いた。暫し思案して、黒い瞳を太陽に向けた。
「では、無理にそなたの過去の記憶を引きずり出すのはやめておこう。必要な事だけを話す」
はい、と太陽は居住まいを正した。どんな話が出てくるかと緊張する。
「まずお前は元々この世界の人間だ」
「へ?」
「500年前にお前の望みに応え、我が異世界に飛ばした」
「は?」
「そして、時が来たので光の勇者がそなたを迎えに行った」
「……いや、全然わからないんですけど」
どうしよう。予想以上に魔王の話が飛び過ぎて、全くわからない。それでも、何とか自分なりに噛み砕く為、わからない事を質問する事にした。
「元々この世界の人間て事は、500年前の聖女の生まれ変わりとかなんですか?」
「肉体は変わっているが魂は王女そのものだ。だから望めばいつでも王女の魂に塗り変わる」
「塗り替わる…。それって今の俺が消えてなくなるって事ですか?」
「そなたの記憶は残るだろうが、そなたとしての意思が残るかはやってみないと、わからん」
ゾッとした。今の太陽の精神が無くなるかもしれない。それなら王女の記憶なんて無くてもいい。
「…王女の500年前の願いって何なんですか?」
「光の封印以外で瘴気の問題を解決する事」
「え?」
「王女は魔王1人に瘴気を押し付けて封印するのはおかしいと言った。そして光の勇者と結ばれるべきだと決めつけられるのが納得いかないと。王族の役割に縛られず自分の意思で未来を選びたいと言った」
「それって…」
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「実現出来る…術」
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