【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
124 / 181
第五章 果てなき旅路より戻りし者

15

しおりを挟む
 金の勇者に続いてルースが歩こうとしたが、右腕が無いせいか、はたまた体調不良からか、バランスが取れずにふらついた。
 
 慌てて太陽がルースを支える。

「ルースさん、大丈夫?」
「君は…?」
「え?」

 予想外の事を言われて、一瞬戸惑ったが自分の髪と目が変わった事に思い至った。

「俺セーヤです。ルースさんと離れた後、気づいたらこうなっていて…変ですか?」
「…いや、そんな事ないよ」

 首を振ったルースに太陽の心臓がギュッとなった。
 
 ルースが生きている。それだけで、もう太陽は泣きそうだった。こんな話し合いの場でなければ、きっとルースに縋って泣いていた。

「ルースさん、俺治療しますから、休んでください。こんな…酷い状態で…」

 腕や身体からの血は止まっていたが、全身服も身体もボロボロだった。とても普通に話し合いに参加出来そうに見えない。

「大丈夫。終わったら休むから」

 でも、とそれでも心配そうな太陽にラリエスが声をかけた。

「一応、私も癒しはかけましたよ。貴方が治癒をかけたら暫く目覚めないでしょうから、今は話し合いに参加させた方がいいでしょう。でないと南に不利な条件になってしまうかもしれない」
「そんな…」
「本当に大丈夫だよ。悪いけど、手を貸してもらえる?」

 その時、壁際に無言で立ち尽くしていた女騎士キャスが、太陽とルースにスッと近づいて来た。

「私も手伝おう」

 一言断って、太陽と反対側からキャスがルースを支えてくれた。2人でサポートしながらルースをソファへ座らせた。

 先に座っていた空は席を立ち、獣化してルースの足元へ座った。その様子を向かいに座っていたラリエスが、へえ、と面白そうに見ていた。

 席が空いたことで、太陽はそのままルースの隣へ腰掛け、女騎士はルースの手伝いが終わると再び壁際に移動して直立した。

 みんなが落ち着いたのを見て、最初に口火を切ったのはラリエスだった。

「そちらのキャスと緑の者には簡単に説明してます。では話を再開しましょう。中央は人間が捨てた土地が多い。特に北寄りは。その一部に瘴気を詰めましょう」
「それは…人間が反発しないか?」
「大丈夫です。私が黙らせます」

 魔王の懸念にラリエスがニッコリ微笑んだ。

 西の館で、王家を復活させないと言い切ったアキエスを思い起こさせる。今更だが、空とベイティがアキエスをラリエスに似ていると言ったのも納得だ。名前も見た目も性格までソックリだ!

「金なら濃い瘴気も浄化できます。これで残りはどの位ですか?」
「…あと少し残る位だ」
「ならそれは北で出来ますか?」
「…出来る。だが…」

 魔王が顔を少し伏せた。

「瘴気を各地で浄化するなら、これから起こりえる自然災害はどうするのだ?この先、長の能力だけでは対処しきぬぞ?」
「だそうですよ、聖女」

 急にラリエスがセーヤに話をふってきた。
 話の行末を見守っていた太陽は焦った。

「そんな急に言われても、俺がわかるわけ…」
「大丈夫です。この世界を救うだけの知識を貴方は学んで来た筈。だから貴方に私の声は届いた」
「え?」
「答えは貴方の中にある筈です」

 目の前のラリエスが自信ありげにニヤリと笑った。まるで太陽が答えられない筈が無い、とでも言う様に自信たっぷりに。

 目の前の男は眼帯はしていない。垂れ目の優男だし、あの吊り目の男とは全然違う筈なのに、これまで夢の中で会った勇者と印象が重なる。

 俺の中に答えがある。

 一旦、太陽は自身を落ち着ける為、目を閉じて深呼吸した。俺の中にあると言うなら、きっとそれは難しいことじゃ無い筈だ。元の世界なら、こんな時どうする?そう考えたら、自ずと答えは出た。

「各地から希望者を集めて組織を作りましょう」
「組織?」

 ラリエスが片眉を上げた。

「大きな問題には、みんなの協力が必要です。水の問題には北の力、風の問題には東の力、緑や大地の問題なら南の力、大気に関する問題には西の力。どこで何が起きるか分からないからこそ、どこで何が起きても対応できる組織を作る必要があります」
「おもしろい」

 ラリエスがニヤリと笑った。

「中央の人間は物作り位しか出来ないですが、それでも出来る事で参加させましょう。他に異論は無いですか?」

 ラリエスが周囲を見回す。誰も反対の声は上げなかった。ここまでの話を聞いて、反対など出来る筈も無い。

 それを確認して、ラリエスが魔王に視線を向けた。

「だそうですよ。いい加減、貴方も覚悟を決めなさい白」
「…この荷を下ろしても良いのか?」
「当たり前です。言ったでしょ?きっと彼女なら、私も貴方もキャスも纏めて救ってくれる方法を持ち帰る筈だって」
「だが」

 なかなか煮えきらない魔王に、太陽がずっと言いたくて仕方無かった事を伝えた。

「これ以上、貴方が1人で苦しむ事は無いんです。大きな問題はみんなで解決しましょう。俺達にも手伝わせてください」

 その言葉に魔王が驚いた様に太陽を見た。

「そなたは…」

 一瞬眩しい物を見る様な表情を浮かべ、すぐに顔を伏せた。そして一言「わかった」と呟いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました

あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。 完結済みです。 7回BL大賞エントリーします。 表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

処理中です...