【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第五章 果てなき旅路より戻りし者

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 魔王が瘴気の肩代わりを放棄すると決めてからは、話はどんどん進んで行った。

 話が落ち着いた頃、ラリエスが疲れた様に肩を回しがら休憩を求めた。

「久しぶりにこの身体に戻ったんです。少し慣れさせないと」
「皆で適当に空いてる部屋を使え。我は少し休む」

 そう言って魔王は氷部屋と反対側に設置している扉へ向かう。

「待って」

 魔王を引き止める者がいた。

 ルースだった。
 魔王が無言でルースを振り返った。

「襲われた僕を貴方が助けてくれたって聞いた。ありがとう」

 具合悪そうにソファに寄りかかりながらも、ルースがお礼を述べた。それを聞いた援軍メンバーが、どういう事だ?と顔を見合わせている。

 一度離れた魔王がソファの近くに戻りルースを見つめた。

「其方はルミドによく似ているな」
「よく…言われる」
「ああ。その綺麗な瞳もソックリだ」

 魔王の表情は変わらないが、少し声色が優しく感じた。

「聖女よ、そなたも緑を治癒した後はそのまま休むが良い」

 最後に魔王はそう言い残して、奥の部屋へと消えた。

「聖女…今はセーヤでしたね。外の廊下を左に行くと最初の部屋は広いのでおすすめですよ」
「あ、はい。ありがとうございます。ルースさん、歩ける?」

 ラリエスにお礼を述べて、ルースを振り返る。太陽がルースに手を貸そうとする前に、人型になった空がルースを横抱きにした。ルースも抵抗する事なくされるがままになっている。

「セーヤ様。我々が護衛をします」
「我々も」

 援軍チームから2組が名乗りを上げた。念の為何が起きるか分からないという事で、エルフ、銀狼、鳥族から2名ずつ太陽達について来る事になった。

 珍しく太陽を置いて先に歩く空に太陽が後ろをついて行く。キャスが扉を開け、外に出るのを手伝ってくれた。



◇◇◇



 ラリエスに聞いた通り、最初の部屋は広い作りだった。手前が広間で奥が寝室になっていた。

 護衛の内、2名が部屋の入口を守り、残り4名は広間で待機する事になった。

 太陽は悪男や空と共に奥の寝室に入った。いくつもあるベッドの内、一番手前のベットにルースを寝かせた。

 先程まで普通にソファに座っていたルースはぐったりと力無く横たわっている。顔も真っ青だった。

「セーヤ。ルースの治癒を」
「わかった」

 それまで肩に乗っていた悪男が、太陽の邪魔にならない様にパタパタと空の頭に移動した。

 太陽は指輪からルースの腕を取り出して、ルースの右腕の切断部分に添えた。

 お願いルースさん良くなって。

 太陽が望んだ瞬間、金色の光が辺りを包んだ。前に見た金の色の光のリボンがルースを覆っていく。

 以前、この光が悪男を包んだ時はそのまま会えなくなるんじゃないかと慌てたが、今ならわかる。これは聖女の治癒能力で1番高スキルの技だ。

 次第に姿が見えなくなると一つの繭の様に完全な楕円形の円になった。きっと今は繭の中で傷や腕が修復されているだろう。

「空、ルースさんを運んでくれてありがとう」
「またルースに何かあれば、セーヤがおかしくなるからな」
「うっ」

 否定出来ない。多分ルースが本当に死んでいたら、前向きにこの世界の事を考えられなかっただろう。もしかしたら、そのまま元の世界に帰りたいと思ったかもしれない。

 シュンと落ち込んだ太陽を見て、空がふんと鼻を鳴らした。

「ルースはもう大丈夫だ。だからお前も少し休め」

 ヒョイと太陽を横抱きにすると、ルースと少し距離を空けた場所にあるベッドに太陽を寝かせた。

「空は?」
「オレは念の為ルースの側で休む。ワルオはセーヤについててくれ」
「わかった」
「オレマモル」

 空の頭から小鳥が羽ばたき、太陽が休むのに邪魔にならない程度に距離を開けて着地した。

「空、悪男」
「何だ?」
「あの時、俺を止めてくれて、ありがとう」

 絶望に正気を失っていたとはいえ、危うくルースの腕を無くしてしまう所だった。

「…気にするな。あの時ルースを守ってやれなくて悪かったな。もう休め」

 空はルースの方へ行くと銀狼に戻ってベッドの下に丸くなった。

 代わりに悪男がぴょんぴょんと太陽の近くに寄って来た。

「セーヤ。俺もあの時セーヤの気持ち考えずにごめんな」
「ハンセイ」
「…悪男とショーキは俺を守ってくれただろ。俺の方こそお前たちの気持ちも考えないで、ごめんな」

 人差し指で小鳥の頭を優しく撫でた。ピィと鳴いて、スリスリ太陽の手に身体を擦り寄せて来た。その仕草に、それまで緊張していた気持ちが解れてくる。

 中央で北の化け物に襲われてから、ずっと緊張しっぱなしだった。ルースが無事かが心配で気が気じゃなくて。それでも、空と悪男が一緒にいてくれたから、何とかここまで来れた。

 2人には感謝しかない。

 少し落ち着いたら、2人にも何かお礼をしたいな。そんな事を考えながら、太陽は眠りについた。
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