【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第五章 果てなき旅路より戻りし者

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 パチリと唐突に目が覚めて身体を起こすと、見慣れない寝室だった。

 部屋は真っ暗だったが、所々にぼんやりと灯りがあり、それが室内の様子をかろうじてわかる様にしてくれていた。

 よく見ると光る鉱石を細工した氷が覆っていて、屈折して反射した光が室内を彩っている。とても幻想的な光だった。

 幻想的な氷のランプに、ココが北の城だと思い出す。

「夢…」
 
 リアルな夢というより、誰かの目を通してずっと物語を見ている様だった。

 でも分かる。きっとあれは本当にあった事だ。きっと魔王、勇者、女騎士に会ったからそれに付随する記憶が夢に出て来たんだろう。

 自分の手の平を見る。少し震えていた。

「大丈夫…。俺は俺だ」

 王女じゃない。今ある記憶も意思も、清家太陽せいやたいようの物で間違い無い。

 でも、北に来てから北の城を懐かしいと思ったり、王女の記憶が夢に出てきたり…今までの自分とは違う症状に恐怖を感じた。

 魔王が言っていた意識が王女に塗り変わる。そんな恐怖がジワリと胸の奥から這い上がる。

「セーヤ?起きたか?」

 悪男の声に横を見ると、隣のベッドに空と悪男がいた。そしてベッドの上には横たわるルースの姿が。

「ルースさん!」

 駆け寄ると、2人が少しずれて場所を空けてくれた。

「セーヤよ起きたか」
「うん。ルースさんは?」
「先ほど治癒の光が解けた。腕も修復してる。あとは自然に目を覚すまで寝かせていた方がいい」

 言われてルースの右腕に目を向ければ、綺麗に治っていた。

「良かった…」

 ルースの右手を両手で握る。温かい。あの冷たい固い感触はどこにも無い。その事に再び安堵する。

 ピクリ

 ルースの指が反応した。瞼が少し震えて、綺麗な緑色の瞳が目を覚ました。

「…ここは?」
「魔王の城です。話し合いが終わった後、この部屋を借りて治癒をしていたんです。身体は大丈夫ですか?」
「…治癒?」

 ルースが身体を起こして、自身の両手を確認した。右手が戻っている事に驚愕して目を見開く。

「これは…君が?」
「はい」
「そうか。金の者よ。僕の為に大切な力を使ってくれてありがとう。感謝する」
「え?」

 ルースの他人行儀さに戸惑う。何故今さら金の者なんて。髪と目が金色だから?

 様子を見ていた空が確かめる様に尋ねた。

「ルースよ。オレ達の事は覚えてるか?」
「ソラとワルオだろ?どうしたの?」

 不思議な質問にルースが首を傾げた。

「オレ達が誰の従属か覚えてるか?」
「それは……」

 当たり前に答えようとして…無言になった。答えが出て来ない。

「覚えてないのか?」
「ごめん。知ってる筈なのにすっぽり抜けてるみたいで…思い出せない」
「…セーヤの事を覚えてないのか?」
「セーヤ?」

 不思議そうに首を傾げる。そして太陽に視線を向けた。

「…もしかして君も一緒に旅してた仲間なの?」
「っ!」

 困った様な表情を浮かべるルースの視線は、まるで知らない人を見る様だった。

「あ…そんな…」

 ショックのあまり気を失いそうだった。

 何度も引き裂かれて、やっと、生きてまた会えたというのに。

「俺の事…忘れちゃったんですか?嘘…ですよね?」
「…ごめん」
「2人でした約束も?」
「…覚えてない」

 ショックで顔を伏せた太陽の目に、ルースの左手が見えた。その薬指には何故か太陽とお揃いの指輪が無くなっていた。

 まるであの時の約束が無かった事みたいにー。

「…どうして?」
「…ごめん」

 違う。責めたい訳じゃない。
 生命があるだけで。そこにいてくれるだけで良い。そう思っていた筈なのに。

「……っ」

 あまりの事に言葉が出ない。ルースの側にいたい。でもこのまま側にいたら、ルースに気を使わせる言葉を吐いてしまうかもしれない。

 だから。

 太陽は小さな声で「少し頭を冷やしてくる」そう言って立ち上がった。

「セーヤ!」

 空が太陽を追いかけようとして…踏みとどまった。

 傷ついてる太陽の側にいてやりたい。でも、それ以上に自分の主はきっとルースの安全を一番に気にするだろう。

 それが分かるから、あえてもう1人の仲間に大切な主人を託す。

「ワルオ。セーヤについててやってくれ」
「わかった!」
「マカセロー」

 小鳥になった悪男が太陽の肩に乗る。そのまま、太陽は無言で寝室を後にした。
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