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第五章 果てなき旅路より戻りし者
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化け物の動きがおかしい。
太陽達は今それをハッキリ確信した。
何故なら化け物があの時あの場所で倒されなければ、太陽達はこの城に気づく事は無かった筈だから。
あの化け物は太陽達にこの隠された城の存在を見つけさせたかった。そう考えるのが当然だ。
でも何故?
罠かもしれない。それを承知で太陽達一向は割れた空間の内側に入った。
不思議な事にそこは瘴気が穏やかだった。まるで少しずつ浄化でもしているかの様にー。
光の勇者がココにいる。何となくそう感じた。
周囲に魔獣がいないのを確認してから、太陽達は城から少し距離を開けて降り立った。次々とみんなも降りてくる。
空は獣化した。何だかいつもよりモコモコしていた。
「ワルオ、お前小さくなれるか?」
「わかった!」
「オレチビなる」
2人が降りたのを確認してから、悪男は小さな小鳥に変化した。
「うわあ!可愛い!」
「オレカワイイ?」
「あぁ!とっても」
「オレウレシイ(ぽ)」
「……(照)」
寒さを凌ぐ為、防寒服の首元の隙間に悪男を入れてあげた。ピィピィ鳴く姿がたまらない。
そのまま太陽は空の背に乗った。
城まで少し距離がある為だ。歩きだと足が埋もれてしまう。
他の銀狼達も獣化して、その背にエルフが乗った。鳥族は悪男に倣って小鳥になっていた。
「行くぞ」
一面広がる銀世界で動くのは雄々しい銀の獣達のみ。
他に足跡をつける生き物は無く、無垢な銀世界をさらしていた。その雪景色を太陽やエルフ達を乗せた銀狼達が駆け抜け、足跡をつけていく。
「ここは瘴気が薄いね」
「少しずつだが浄化してるんだろう」
「近くに光の勇者がいる気がする」
首元から、サムイ!と声が聞こえてきた。
「ははっ、ショーキは寒いのか」
寒気が服の中に入らない様に首元の隙間を小さくした。ピピッと囀りがして、多分お礼だと推測する。
「セーヤもう着くぞ」
白い世界に雪と氷で表面を彩られた建物が目の前に見えて来た。
東、南、西とそれぞれの一族の館を見たが、北が1番文化的に見えた。太陽の元の世界の西洋の城を思わせる造りだった。
「綺麗なお城だね」
「まあな。中央の城もこんな感じだぞ」
「ふーん」
中央については、あの元王族のせいか微塵も興味が湧かなかった。
落ちない様に空にしがみつきながら、改めて銀世界に聳え立つ城に目を向けた。
あそこにきっとルースがいる筈。
怪我の治療はされているだろうか。
酷い事はされたないだろうか。
彼の事を考え出したら、心配し出したら、キリがない。だからせめて今は無事でいる事を信じよう。そして、必ず助け出す。
「待ってて、ルースさん」
暫くすると空がスピードを少しずつ落として、城の前に到着した。
「セーヤ。確認だが、まずはルース救出。次に魔王でいいか」
「うん。あとは勇者と合流したい」
「わかった」
「ぐー」
ショーキは寝てるのか。緊迫感漂う中、寝息にちょっと癒された。
太陽達に続いて到着した援軍達も、隊列を整えた。太陽自ら最初に乗り込むのは危ない!と反対の声が上がった事で、何組か先に入り次に太陽達が続く事になった。
先頭の銀狼が恐る恐る城の扉に触れたが、幸い難なく開いた。
よく考えれば魔王は太陽を待ってる筈だ。
それならここで妨害する筈も無いか、と思い至る。
では何故前回は本気で攻撃してきたのか。
わからない。矛盾してる事ばかりだった。
入ってすぐの場所は少し広めの空間だった。
中は暖かかったので、分厚い防寒服を脱いだ。悪男が小鳥のまま、パタパタと羽ばたいて太陽の頭にちょこんと止まった。
空は素早く移動出来るよう獣のままでいる事にした。何かあればすぐ太陽を背に乗せて逃げれる様に。
落ち着ける空間に辿り着いた事で余裕が出来た太陽は城の中を見回した。
上部分には複雑な形をした氷の結晶の様な物がぶら下がっていた。さながらシャンデリアの様に。電気もない世界で何でこんな物がと考えて思い至る。
空の住んでいた洞はこの世界がまだ分厚い雲に覆われる前、日光を計算して作ったと言っていた。
だから多分この城もそう。きっと晴れた日には眩しい光が差し込み、氷の結晶が美しく輝いたに違いない。
そう考えた瞬間、美しい陽の光を受けてキラキラ輝く氷の結晶を見た気がした。結晶の周りの開いている場所から、白い妖精達が今にも出入りして来そうだ。見た事など無いはずなのに、楽しそうな妖精達の笑い声や歌声が耳に蘇る。
「セーヤ様どうかされましたか?」
側にいたエルフに声をかけられ、太陽は我に返った。
「すみません、何かちょっと…何でもないです。行きましょう」
初めて来た場所の筈なのに感傷的になってしまったなんて、馬鹿な話だ。気を取り直して、太陽は廊下を歩き始めた。
廊下に面する壁も、何かしら優美で美しい飾りが施されていた。南のエルフの館も緑と鉱石が織りなす美しさがあった。向こうがどこか温もりを感じさせるのに対して、北は洗練された印象があった。
暫く廊下を進むと正面に扉が見えて来た。空がくんくんと鼻を鳴らした。
「僅かだが、ルースの匂いがする」
「本当!?」
くんくんと、廊下の匂いを嗅ぐとそのまま正面の扉に向かって歩いて行った。それに太陽も続く。空はそのまま正面の扉に辿り着いた。
「この奥にいる」
ドクン、と心臓が音をたてた。
ルースさんがこの扉の向こうにー。
太陽を守る様に囲んでいたエルフの1人が前に出て、扉に手を添えた。
「開けてよろしいですか?」
「はい」
エルフは扉を開けた。
太陽達は今それをハッキリ確信した。
何故なら化け物があの時あの場所で倒されなければ、太陽達はこの城に気づく事は無かった筈だから。
あの化け物は太陽達にこの隠された城の存在を見つけさせたかった。そう考えるのが当然だ。
でも何故?
罠かもしれない。それを承知で太陽達一向は割れた空間の内側に入った。
不思議な事にそこは瘴気が穏やかだった。まるで少しずつ浄化でもしているかの様にー。
光の勇者がココにいる。何となくそう感じた。
周囲に魔獣がいないのを確認してから、太陽達は城から少し距離を開けて降り立った。次々とみんなも降りてくる。
空は獣化した。何だかいつもよりモコモコしていた。
「ワルオ、お前小さくなれるか?」
「わかった!」
「オレチビなる」
2人が降りたのを確認してから、悪男は小さな小鳥に変化した。
「うわあ!可愛い!」
「オレカワイイ?」
「あぁ!とっても」
「オレウレシイ(ぽ)」
「……(照)」
寒さを凌ぐ為、防寒服の首元の隙間に悪男を入れてあげた。ピィピィ鳴く姿がたまらない。
そのまま太陽は空の背に乗った。
城まで少し距離がある為だ。歩きだと足が埋もれてしまう。
他の銀狼達も獣化して、その背にエルフが乗った。鳥族は悪男に倣って小鳥になっていた。
「行くぞ」
一面広がる銀世界で動くのは雄々しい銀の獣達のみ。
他に足跡をつける生き物は無く、無垢な銀世界をさらしていた。その雪景色を太陽やエルフ達を乗せた銀狼達が駆け抜け、足跡をつけていく。
「ここは瘴気が薄いね」
「少しずつだが浄化してるんだろう」
「近くに光の勇者がいる気がする」
首元から、サムイ!と声が聞こえてきた。
「ははっ、ショーキは寒いのか」
寒気が服の中に入らない様に首元の隙間を小さくした。ピピッと囀りがして、多分お礼だと推測する。
「セーヤもう着くぞ」
白い世界に雪と氷で表面を彩られた建物が目の前に見えて来た。
東、南、西とそれぞれの一族の館を見たが、北が1番文化的に見えた。太陽の元の世界の西洋の城を思わせる造りだった。
「綺麗なお城だね」
「まあな。中央の城もこんな感じだぞ」
「ふーん」
中央については、あの元王族のせいか微塵も興味が湧かなかった。
落ちない様に空にしがみつきながら、改めて銀世界に聳え立つ城に目を向けた。
あそこにきっとルースがいる筈。
怪我の治療はされているだろうか。
酷い事はされたないだろうか。
彼の事を考え出したら、心配し出したら、キリがない。だからせめて今は無事でいる事を信じよう。そして、必ず助け出す。
「待ってて、ルースさん」
暫くすると空がスピードを少しずつ落として、城の前に到着した。
「セーヤ。確認だが、まずはルース救出。次に魔王でいいか」
「うん。あとは勇者と合流したい」
「わかった」
「ぐー」
ショーキは寝てるのか。緊迫感漂う中、寝息にちょっと癒された。
太陽達に続いて到着した援軍達も、隊列を整えた。太陽自ら最初に乗り込むのは危ない!と反対の声が上がった事で、何組か先に入り次に太陽達が続く事になった。
先頭の銀狼が恐る恐る城の扉に触れたが、幸い難なく開いた。
よく考えれば魔王は太陽を待ってる筈だ。
それならここで妨害する筈も無いか、と思い至る。
では何故前回は本気で攻撃してきたのか。
わからない。矛盾してる事ばかりだった。
入ってすぐの場所は少し広めの空間だった。
中は暖かかったので、分厚い防寒服を脱いだ。悪男が小鳥のまま、パタパタと羽ばたいて太陽の頭にちょこんと止まった。
空は素早く移動出来るよう獣のままでいる事にした。何かあればすぐ太陽を背に乗せて逃げれる様に。
落ち着ける空間に辿り着いた事で余裕が出来た太陽は城の中を見回した。
上部分には複雑な形をした氷の結晶の様な物がぶら下がっていた。さながらシャンデリアの様に。電気もない世界で何でこんな物がと考えて思い至る。
空の住んでいた洞はこの世界がまだ分厚い雲に覆われる前、日光を計算して作ったと言っていた。
だから多分この城もそう。きっと晴れた日には眩しい光が差し込み、氷の結晶が美しく輝いたに違いない。
そう考えた瞬間、美しい陽の光を受けてキラキラ輝く氷の結晶を見た気がした。結晶の周りの開いている場所から、白い妖精達が今にも出入りして来そうだ。見た事など無いはずなのに、楽しそうな妖精達の笑い声や歌声が耳に蘇る。
「セーヤ様どうかされましたか?」
側にいたエルフに声をかけられ、太陽は我に返った。
「すみません、何かちょっと…何でもないです。行きましょう」
初めて来た場所の筈なのに感傷的になってしまったなんて、馬鹿な話だ。気を取り直して、太陽は廊下を歩き始めた。
廊下に面する壁も、何かしら優美で美しい飾りが施されていた。南のエルフの館も緑と鉱石が織りなす美しさがあった。向こうがどこか温もりを感じさせるのに対して、北は洗練された印象があった。
暫く廊下を進むと正面に扉が見えて来た。空がくんくんと鼻を鳴らした。
「僅かだが、ルースの匂いがする」
「本当!?」
くんくんと、廊下の匂いを嗅ぐとそのまま正面の扉に向かって歩いて行った。それに太陽も続く。空はそのまま正面の扉に辿り着いた。
「この奥にいる」
ドクン、と心臓が音をたてた。
ルースさんがこの扉の向こうにー。
太陽を守る様に囲んでいたエルフの1人が前に出て、扉に手を添えた。
「開けてよろしいですか?」
「はい」
エルフは扉を開けた。
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