【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
135 / 181
第五章 果てなき旅路より戻りし者

26

しおりを挟む
 やっとルースに名前で呼んで貰えた太陽は、暫くルースと話した後、一緒に西の館に戻った。ニコニコご機嫌で。

 一方、西の館では、長と鳥族のみんなが空と悪男から北で何があったかを聞いた後、2人を待っていた。大号泣して。

 よって、2人が西の館に戻った時、館は大騒ぎになった。

「セーヤ、ルース、アンタ達は何でこんなに苦労するんだい!可哀想に」
「え?長?」

 長に泣きつかれて、太陽は面食らった。

 周囲の鳥族のみんなも口々に、お幸せに、とか、もうお2人の邪魔はしません、とか2人を応援するムードだった。

 空も悪男も呆れている。これでは肝心の瘴気の話し合いどころでは無い。

「あの、長。俺達の事は大丈夫です。これからまたルースさんに俺の事を知ってもらって、好きになってもらえる様に頑張りますから」

 太陽が笑顔で言った言葉に、また鳥族達は泣いた。

「あの、長。それより瘴気の事なんですけど」
「もう!そんなの引き受けるに決まってるだろ!水臭い!アタイら鳥族を救ってれた魔王様とセーヤの為なら、任せときな!」

 長に続いて、鳥族のみんなも賛同した。

 こうして、よく分からない内に鳥族の承諾を無事取り付けたのだった。



◇◇◇



「もう行くのかい?」

 数刻経ったというのに、まだ目を泣き腫らして、長が残念そうに声をかけて来た。

 西との話し合いが終わったので、これから東に向かう所だ。北からずっと休み無しで疲れてはいるが、時間が惜しい。だから今日中に向かう事にしたのだ。

「はい。東の説得が出来たら、南に向かいます。南で会いましょう。中央のアキエスさん達の件はお願いします」
「わかった。任せときな。気をつけるんだよ」
「はい。行って来ます」

 大きな鳥に変化した悪男の背に乗り込む。もちろんルースと空も一緒だ。

 ここで援軍メンバーは一旦解散し、参加していた鳥族に代わって、残っていた鳥族が銀狼とエルフ達を各々送ってくれる事になっている。

 ここから東へは太陽達と東に帰る銀狼達だけだ。

「また、後で!」

 舞い上がる悪男の背中の上から、太陽は見送ってくれている鳥族のみんなに手を振った。

 他の銀狼達を乗せた赤い鳥達も、続いて飛び立つ。

 今回の東へのルートは、迂回して西から直接東へ入る予定だ。前回ルースが東の小屋へ向かった時と同じルートだが、今回は空を飛んで向かうのでアクロバティックな移動にならなかったのは幸いだ。

 逆に東から西に戻る時は山や谷、崖を避ける為、中央部分を通って北の魔物に襲われた。だから、今回は中央の土地には踏み入れ無い事にしている。

「セーヤは、西のみんなと仲が良いんだね」

 それまで大人しかったルースの疑問に、太陽は、ハイ!と嬉しそうに答えた。

「鳥族のみんなは、何て言うかあったかいです」
「そうだね」
「俺、両親も亡くしてて兄弟もいないから、長は何て言うか、お姉さんみたいで」
「オレもカゾク!」
「ハハ!ごめん、悪男とショーキも空も家族だよ」

 その様子を見て、またルースは静かに周囲の景色に目を向けた。

 太陽と話した後の彼は終始こんな感じだ。
 
 太陽は勿論、悪男や空と話す様子も無く、ただ時折、北のほうに視線を向けている。

 彼が何故魔王に惹かれたのか。
 怖くて太陽は聞けないままだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった

angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。 『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。 生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。 「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め 現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。 完結しました。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました

あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。 完結済みです。 7回BL大賞エントリーします。 表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

処理中です...