【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第五章 果てなき旅路より戻りし者

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「そろそろ東だ」

 飛んで数刻。暫くすると、空の言う通り赤い地層から青々とした森に、一気に景色が塗り変わった。

「んー空気が全然違う」

 西は乾いた空気だったが、東はより新鮮なマイナスイオンを感じる気がする。思わずスーハーと深呼吸した。

「セーヤは空気の違いが分かるの?」
「え?あ、偉そうな事言ってすみません。ただ、こっちは緑が多い分、より空気が美味しく感じた気がして…」

 慌てた太陽に、ルースはフッと優しく笑った。言葉は無いがルースも共感したという事だろう。

 その笑顔に胸がキュンとして甘酸っぱい気持が胸に広がる。やっぱり自分は忘れられても、相手にされなくも、ルースの事が好きだ。そう思った。



◇◇◇



 久しぶりの東の銀狼の洞は、相変わらずの絶景だった。西に負けない程の遥かに高い崖の上にあり、眼下に山々の緑が広がっている。以前より、確実に緑が広がってるのが分かった。

「ソラ様お帰りなさいませ」

 出迎えてくれたのは東の長ガソルと銀狼の種族。皆、人型で跪いて太陽達を歓迎してくれた。沢山の獣耳と尻尾が各自動いてピクピクしてる。触りたくてたまらない。心なしか指がわちゃわちゃした。

 早速、話し合いが行われたが、東の長ガソルは瘴気の受け入れに対し消極的だった。

 理由は、空が提案した湖がこの山々や森全体で1番大きな水資源だったからだ。他にも池や湖はあるが、これだけの規模はそうそう無いらしい。

「だがあの湖は元々、北に近い分、瘴気に染まるのも早かった。それでも他の水資源で生活出来ていた筈だ」
「ですが、やっと元に戻った自然をわざわざ手放すのですか?なら森部分の一部を使ってはどうですか?」
「森は食料の確保に必要だ。これから生き物が増える事を考えれば、森は減らす訳にはいかん」

 空とガソルの話し合いは平行線だった。ガソルが、ため息を吐いて、太陽に視線を向けた。

「セーヤ様も本当に良いのですか?あの湖に瘴気を封印するという事は、近くにある小屋も含めてあのあたり一帯が立ち入り禁止になりますよ」
「それは…」

 本音を言えば嫌だ。空の言っていた湖は太陽とルースが水を浴びた思い出の場所だ。そこが瘴気が封印され立ち入り禁止になる。そしてルースと出会い、一緒に過ごした小屋も。

 でも、それは我が儘だ。今、世界は一つになろうとしているのに嫌だとは言えない。

「寂しいですけど…仕方ないとも思ってます。それで、ガソルさん、俺に良い案があるんですけど」

 寂しさを振り切る様に、太陽は瘴気を封印した後の事について説明した。

 魔王が瘴気の肩代わりを止めて、白の妖精王に戻れば、ゆくゆくは水は巡る様になる。そうすれば雨が降り、いずれ川が復活する筈。今ガソルが心配している水資源は今よりも数は増えると説明した。

「巡る?雨とは何ですか?」

 ガソルも悪男もルースも空さえも、生まれた頃には水は巡らなかった。太陽は簡単に水の循環について説明した。

「なるほど。ならあまり悲観的にならなくてもいいのですね」
「はい。それに水だけでなく、空を覆っている雲も晴れる筈なので、太陽が出た日はきっと明るい陽射しも入って来ます」
「陽射し?」
「はい、昼間の明るい光の事です。空が前に言ってました。この洞が暗いのは昼に太陽の光が入ってくるのを考えて設計したからだと。ココに光が入ってくるのが楽しみですね」

 太陽の言葉にガソルはハッとする。

 そのまま部屋の天井部分に視線をやった。この洞には所々、多数の孔が空いている。正直、何の為に作られか分からなかった孔だ。

 彼らの尊敬する先祖が知恵を絞り作った銀狼一族の洞。それは雲が晴れ、陽差しが出た時に初めて完成する。

 暫く天井を見つめていた、ガソルが空に視線を向けた。

「ソラ様。決めました。湖を器としましょう」
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