143 / 181
第五章 果てなき旅路より戻りし者
34
しおりを挟む
ルースの流し込んだ聖気が水の様に魔法陣を伝っていく。一瞬、カッと強く光って静かに光は治まった。
エルフの里に転移した事で、それまで人間に化けていたルースの姿も変化した。ここでは一度全ての変化は無効化されるからだ。耳が尖り、髪も瞳も本来の緑に戻っている。
「着いたよ」
振り返ったルースが真っ先に目についたのは、その艶やかな黒髪だった。
先ほどまで泣きじゃくっていたセーヤがいた筈のそこに、何故か今は黒髪に黒瞳の少年が座り泣いていた。
何が起きたか分からず立ち尽くすルースに、空がその疑問に答えた。
「セーヤの本来の姿は髪も目も黒い。お前が探してたのはセーヤだ」
「あ…」
空の言葉は、渇いた身体を潤おす様にルースの中に入ってきた。
探していたのは彼。
何の疑問も無く腑に落ちた。
太陽の隣へ座りその顔を覗き込む。綺麗な黒い瞳がルースに向けられた。金色の時とは違う、夜の帳の色。ずっと探していた色。
彼だ。金では無い、黒を纏った彼が探し求めていた相手。
「やっと…見つけた」
「ルースさん」
ルースが太陽を引き寄せ抱きしめた。その胸に顔を埋めて、太陽は更に泣き出した。
◇◇◇
その日、エルフの里はざわついていた。
今日は東、西、中央の代表。そして500年ぶりに誕生した金の者がこの地に集い、世界の行く末について話し合うからだ。
太陽達がエルフ族の館に着いた頃には、既に東の長ガソル、西の鳥の長、中央代表のアキエスが到着していた。
皆が集まっていた広間に通されると、真っ先に駆け寄って来たのは南の長ベイティとその妻のユナだった。
「ルース無事で良かった!」
「ルース!セーヤ君!」
2人は先に鳥の長やガソルからルースの状況は聞いていた。かろうじて生きてはいたが、太陽の事だけ覚えていないと。
太陽とルースが、どれだけの苦労を経て想いを告げあったかわかるだけに、心配も一際だった。
手を繋いで現れた太陽とルースに、みんなはもしや記憶が戻ったのでは?と期待した。
それに対してルースは申し訳無さそうに首を振った。
結局、ルースの記憶は戻らなかったのだ。
それでもルースにとって大事な相手は太陽だったと気づけた。もうそれだけで充分だ。彼はそう言った。
太陽もルースの側で頷いた。例え過去が無くても、ルースが生きてくれていて、これからの2人に未来があるなら充分だ。そう言って笑った。
「セーヤ君…」
ユナが太陽を抱きしめた。
愛しい人に自分の事を忘れられて平気な人間はいない。でも彼は、それでも幸せだと言ってしまえるほどの辛い経験をしたのだ。
「セーヤ君はもう私達の家族よ。一刻も早く瘴気の問題なんて片付けて、ルースの伴侶になっちゃいなさい」
「え!?」
太陽は慌てた。さっきルースに抱きしめられたけど…元々の約束は覚えていない筈。なら、改めて話し合ってからでないと許婚面なんか出来ない。
慌てる太陽の手を掴んでルースは口づけた。
「ル、ルースさん?」
「セーヤ。この瘴気の件が落ち着いたら、この世界で僕と一緒に生きてくれる?」
「それって…」
「僕の伴侶になって欲しい」
ダメかな?不安そうにルースが太陽を見つめた。
ダメな訳が無い。返事をしたいのに、胸が一杯で、うまく言葉が出ない。泣いてしまいそうだ。
だから代わりに、頷いてルースの胸に飛び込んだ。
エルフの里に転移した事で、それまで人間に化けていたルースの姿も変化した。ここでは一度全ての変化は無効化されるからだ。耳が尖り、髪も瞳も本来の緑に戻っている。
「着いたよ」
振り返ったルースが真っ先に目についたのは、その艶やかな黒髪だった。
先ほどまで泣きじゃくっていたセーヤがいた筈のそこに、何故か今は黒髪に黒瞳の少年が座り泣いていた。
何が起きたか分からず立ち尽くすルースに、空がその疑問に答えた。
「セーヤの本来の姿は髪も目も黒い。お前が探してたのはセーヤだ」
「あ…」
空の言葉は、渇いた身体を潤おす様にルースの中に入ってきた。
探していたのは彼。
何の疑問も無く腑に落ちた。
太陽の隣へ座りその顔を覗き込む。綺麗な黒い瞳がルースに向けられた。金色の時とは違う、夜の帳の色。ずっと探していた色。
彼だ。金では無い、黒を纏った彼が探し求めていた相手。
「やっと…見つけた」
「ルースさん」
ルースが太陽を引き寄せ抱きしめた。その胸に顔を埋めて、太陽は更に泣き出した。
◇◇◇
その日、エルフの里はざわついていた。
今日は東、西、中央の代表。そして500年ぶりに誕生した金の者がこの地に集い、世界の行く末について話し合うからだ。
太陽達がエルフ族の館に着いた頃には、既に東の長ガソル、西の鳥の長、中央代表のアキエスが到着していた。
皆が集まっていた広間に通されると、真っ先に駆け寄って来たのは南の長ベイティとその妻のユナだった。
「ルース無事で良かった!」
「ルース!セーヤ君!」
2人は先に鳥の長やガソルからルースの状況は聞いていた。かろうじて生きてはいたが、太陽の事だけ覚えていないと。
太陽とルースが、どれだけの苦労を経て想いを告げあったかわかるだけに、心配も一際だった。
手を繋いで現れた太陽とルースに、みんなはもしや記憶が戻ったのでは?と期待した。
それに対してルースは申し訳無さそうに首を振った。
結局、ルースの記憶は戻らなかったのだ。
それでもルースにとって大事な相手は太陽だったと気づけた。もうそれだけで充分だ。彼はそう言った。
太陽もルースの側で頷いた。例え過去が無くても、ルースが生きてくれていて、これからの2人に未来があるなら充分だ。そう言って笑った。
「セーヤ君…」
ユナが太陽を抱きしめた。
愛しい人に自分の事を忘れられて平気な人間はいない。でも彼は、それでも幸せだと言ってしまえるほどの辛い経験をしたのだ。
「セーヤ君はもう私達の家族よ。一刻も早く瘴気の問題なんて片付けて、ルースの伴侶になっちゃいなさい」
「え!?」
太陽は慌てた。さっきルースに抱きしめられたけど…元々の約束は覚えていない筈。なら、改めて話し合ってからでないと許婚面なんか出来ない。
慌てる太陽の手を掴んでルースは口づけた。
「ル、ルースさん?」
「セーヤ。この瘴気の件が落ち着いたら、この世界で僕と一緒に生きてくれる?」
「それって…」
「僕の伴侶になって欲しい」
ダメかな?不安そうにルースが太陽を見つめた。
ダメな訳が無い。返事をしたいのに、胸が一杯で、うまく言葉が出ない。泣いてしまいそうだ。
だから代わりに、頷いてルースの胸に飛び込んだ。
25
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
欠陥Ωは孤独なα令息に愛を捧ぐ あなたと過ごした五年間
華抹茶
BL
旧題:あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。
嘘はいっていない
コーヤダーイ
BL
討伐対象である魔族、夢魔と人の間に生まれた男の子サキは、半分の血が魔族ということを秘密にしている。しかしサキにはもうひとつ、転生者という誰にも言えない秘密があった。
バレたら色々面倒そうだから、一生ひっそりと地味に生きていく予定である。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる