【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第五章 果てなき旅路より戻りし者

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 夜が開けてからすぐ、魔王の呼びかけで、再び一同は昨日の話の続きをする事になった。

 ソファには太陽とルース。ルースの足元には銀狼姿の空。悪男は小鳥姿で太陽の頭に乗っている。

 向かいのソファにはラリエスとキャス。昨日何があったのか、ラリエスの頬には手形が残って腫れていた。

 そんなラリエスに無理やり隣に座らされてるのは女騎士キャス。何だか居心地が悪そうだった。

 魔王は1人掛けのソファに座りお茶を飲んでいる。

 護衛含めた援軍メンバーはその周辺に各々座っていた。

「緑のよ。体調はどうだ?」
「大丈夫です。金の者が治してくれたから」

 ルースはいまだにセーヤを名前で呼ばない。

 この世界では名を呼ぶ事はそれだけ親密である事を意味するらしい。悪男がそう教えてくれた。

 つまり、ルースの中であくまで太陽は会ったばかりの他人という事だった。



「それで…1番の問題はどうするんだ?」

 防音壁が張られたのを確認してから空が尋ねた。

 空の質問に対し、それは何か?と尋ねる者はいなかった。皆、既に瘴気が発生した1番の問題は何かを分かってこの場にいるからだ。

「それは大丈夫。強制的に手出しさせられなくなる方法があるんです。ね?白」

 ラリエスの言葉に魔王が静かに頷いた。

「金の者よ。其方がこの世界に新たな名をつけよ」
「何を言って…」

 冗談かと思って魔王を見れば、相変わらず無表情で太陽を見つめていた。

「だってこの世界は、この国や街は名前が無いって…」

 それは魔王が降臨して名乗る事を禁止したから。だから誰もこの世界の国や土地に名前をつけたりしない。

 そしてそれは、この世界を作った偉大な存在がつけた名を奪う行為。

「もしかして…この日の為に?」
「そうだ。同等の能力を与えた金の者がつけた名であれば奪う事は出来ない。何者でもな。そうなれば、アレはもうこの世界に手が出せない」
「…っ」

 魔王が強制的に当時の名を名乗る事を禁じ、それから500年。時が流れ世代が変わり、当時の名を知る者はほとんどいなくなった。

 この時の為に、この人はどれだけの苦痛を耐えて来たのか。込み上げそうになる気持ちを、グッと堪えた。

「分かりました」
「早い方がいいですね。いつにします?」
「まずは長達に話を通して、瘴気を各地に移し、北の地に再び結果を張ってからだ。結界を結んだ土地にアレは手をだせん」

 次すべき事は長に話を通す事。
 これで北でするべき事は終わった。

 ホッとため息を吐く。何気にルースの方を見ると、彼はジッと魔王を見つめていた。

 その目に何かを切望しているかの様な熱を感じて、何だかそれに不安を感じた。

「じゃあ後はセーヤが戻って長達と話せばいいですね。私はこの地に残って話が落ち着くまで今暫く瘴気を封印しておきます」
「お前も女騎士もアレに見つからない方がいいからな。城からは出るな」

 防音壁を解除して、援軍メンバーに西に戻る事を伝えた。皆、明らかにホッとした顔を表情を浮かべた。たった2日の滞在だったが、やはり瘴気が漂う土地だけに、みんなの疲労は濃い。

 早速みんなが外へ向かう中、ルースの姿が無い事に気づいて探すと、何やら魔王と話をしていた。

 ルースを呼びに近づいた太陽の耳に、その声が聞こえて来た。

「僕もココに残ったらダメかな?」

 ドクリと心臓が嫌な音をたてた。側に太陽が来ている事にルースは気づいて無い。

「其方も狙われてるからな。本来ならこの城から出ない方がいい」
「じゃあ僕もココに残るよ」
「だがいいのか?金の者は其方を迎えに来たのだぞ」
「僕は彼を覚えてない。行ったら足手纏いになるよ」
「そんな事ないです!」

 気づいたら太陽はルースの服を掴んでいた。

「ルースさんが足手纏いなんて、そんな事ないです!」
「君…」
「俺がルースさんを守ります!今なら前みたいに守られてばかりじゃない!だからお願い、俺から離れて行かないで…お願い…」

 ここに残りたいという相手にこんなに必死になって、みっともない。自分でもそう思った。

 でもここで離れたら、もう2度とルースに会えない気がして、そんな不安に駆られて太陽は必死にルースに縋った。
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