144 / 181
第五章 果てなき旅路より戻りし者
35
しおりを挟む
その後、改めてベイティ主導で話し合いが行われた。
真剣な話し合いの筈だったが、甘ったるい雰囲気の太陽とルース。感動で涙が止まらないユナと鳥族の長。そして甥の生還と婚約に感激ひとしおのベイティのお陰で、何と無く場は和んだまま開かれた。
「とりあえず…婚約おめでとうございます」
「ありがとうございますぅ…うぅ」
アキエスの言葉に、太陽が泣き、ユナと鳥の長と、とうとう悪男もつられた。ベイティまで目元を押さえて堪えている。
「お祝いでは無いですが、一刻も早く北の瘴気を解決しましょう。中央は勇者が仰られた上の土地を差し出します」
「南も海沿いにある土地を出そう。まだ開拓されてない土地だから被害も最小限に出来る」
アキエスとベイティがあっさり瘴気の受入を表明した。
それを見て、比較的冷静な空が呆れた声を出す。
「お前達いくら何でも軽すぎないか?浄化するのにはこれから何百年もかかるんだぞ?」
「私達は勇者様の仰る通りにするだけです」
長い物に巻かれるタイプのアキエスはニッコリ微笑んだ。初めから、金の者に楯突くなど微塵も考えていない。
「ルースの幸せの為も勿論だが、我々が生き抜くにはこれしかないだろう」
意外にもベイティはちゃんと考えての結論だった。なら空だって文句などあろう筈も無い。
こうして魔王が抱えている瘴気の受入先が決まった。
◇◇◇
受入先が決まれば、後は実際に魔王を呼んで瘴気を移し、そこへ光の封印をかけるだけだ。
だがその前に各地での瘴気の受入を表明をする必要があった。
前回は西で瘴気の正体を発表した。
その時に太陽は金の者として、これからどうすべきか北へ行き見定めてくると宣言していたからだ。
今回は北へ行って瘴気についてどう対応していくかをこの南の地で発表する予定だった。
エルフの館の大広間に大勢の者達が集められた。エルフ以外にも、各地の長の護衛でついて来た数人の銀狼、鳥族、人間達がいる。
壇上には再び金の髪と目に変化させた太陽とルース、空や悪男、長達とユナが並んでいた。
まず、太陽から魔王に会いこの世界の歪みを修復する為各地で瘴気の浄化を受け入れる事になった経緯、各地のその場所、そして今後起こるであろう災害に対処する為、新しい組織を立ち上げる事が発表された。
勿論、太陽は目立ちたくないので嫌々だったがこれもルースと幸せになる為だと腹を括って頑張った。
次にベイティから、300年前の対戦に関しての発表があった。それは主にエルフと人間達に対しての物だったが、特にエルフに対しては残酷な事実だった。
魔王と称して対峙したのは、本物の魔王では無く、人々に魔王を憎ませる様に仕向けた存在であったと。
魔王自身は金の勇者がずっと抑えていた為、正気を保ち勇者と共に瘴気を浄化しつづけていたと。
重苦しい空気の中、エルフ族の奥から叫び声が上がった。
「嘘だ!みんな騙されるな!その者は元は黒を纏っていたでは無いか!」
「そうだ!我らが女神様がそんな事する訳ない!」
叫んだのはほんの数人だった。太陽は知らないが、エルフ族の中でも有名な過激な女神崇拝者達だった。
「そうだ、みんな目を覚ませ!ワシの娘はその者を見破って投獄された!そやつは偽物だ!」
少し離れた場所からも太陽を糾弾する声が上がった。
ザワザワと声が広がっていく。太陽を怪しむというよりは、声を上げた者達に白けている様にも見えた。
「あの愚か者ども…!」
ベイティが怒りに目を剥く。その目が好戦的に光を帯び始めた。
ベイティが歯向かう者達へ制裁を加える前に太陽が動いた。
数歩前に歩くと、太陽を糾弾した者達へ右腕を上げ、手の平を向けた。その目は爛々と金に光っていた。
ーーー
次話、第五章の最終話です。
真剣な話し合いの筈だったが、甘ったるい雰囲気の太陽とルース。感動で涙が止まらないユナと鳥族の長。そして甥の生還と婚約に感激ひとしおのベイティのお陰で、何と無く場は和んだまま開かれた。
「とりあえず…婚約おめでとうございます」
「ありがとうございますぅ…うぅ」
アキエスの言葉に、太陽が泣き、ユナと鳥の長と、とうとう悪男もつられた。ベイティまで目元を押さえて堪えている。
「お祝いでは無いですが、一刻も早く北の瘴気を解決しましょう。中央は勇者が仰られた上の土地を差し出します」
「南も海沿いにある土地を出そう。まだ開拓されてない土地だから被害も最小限に出来る」
アキエスとベイティがあっさり瘴気の受入を表明した。
それを見て、比較的冷静な空が呆れた声を出す。
「お前達いくら何でも軽すぎないか?浄化するのにはこれから何百年もかかるんだぞ?」
「私達は勇者様の仰る通りにするだけです」
長い物に巻かれるタイプのアキエスはニッコリ微笑んだ。初めから、金の者に楯突くなど微塵も考えていない。
「ルースの幸せの為も勿論だが、我々が生き抜くにはこれしかないだろう」
意外にもベイティはちゃんと考えての結論だった。なら空だって文句などあろう筈も無い。
こうして魔王が抱えている瘴気の受入先が決まった。
◇◇◇
受入先が決まれば、後は実際に魔王を呼んで瘴気を移し、そこへ光の封印をかけるだけだ。
だがその前に各地での瘴気の受入を表明をする必要があった。
前回は西で瘴気の正体を発表した。
その時に太陽は金の者として、これからどうすべきか北へ行き見定めてくると宣言していたからだ。
今回は北へ行って瘴気についてどう対応していくかをこの南の地で発表する予定だった。
エルフの館の大広間に大勢の者達が集められた。エルフ以外にも、各地の長の護衛でついて来た数人の銀狼、鳥族、人間達がいる。
壇上には再び金の髪と目に変化させた太陽とルース、空や悪男、長達とユナが並んでいた。
まず、太陽から魔王に会いこの世界の歪みを修復する為各地で瘴気の浄化を受け入れる事になった経緯、各地のその場所、そして今後起こるであろう災害に対処する為、新しい組織を立ち上げる事が発表された。
勿論、太陽は目立ちたくないので嫌々だったがこれもルースと幸せになる為だと腹を括って頑張った。
次にベイティから、300年前の対戦に関しての発表があった。それは主にエルフと人間達に対しての物だったが、特にエルフに対しては残酷な事実だった。
魔王と称して対峙したのは、本物の魔王では無く、人々に魔王を憎ませる様に仕向けた存在であったと。
魔王自身は金の勇者がずっと抑えていた為、正気を保ち勇者と共に瘴気を浄化しつづけていたと。
重苦しい空気の中、エルフ族の奥から叫び声が上がった。
「嘘だ!みんな騙されるな!その者は元は黒を纏っていたでは無いか!」
「そうだ!我らが女神様がそんな事する訳ない!」
叫んだのはほんの数人だった。太陽は知らないが、エルフ族の中でも有名な過激な女神崇拝者達だった。
「そうだ、みんな目を覚ませ!ワシの娘はその者を見破って投獄された!そやつは偽物だ!」
少し離れた場所からも太陽を糾弾する声が上がった。
ザワザワと声が広がっていく。太陽を怪しむというよりは、声を上げた者達に白けている様にも見えた。
「あの愚か者ども…!」
ベイティが怒りに目を剥く。その目が好戦的に光を帯び始めた。
ベイティが歯向かう者達へ制裁を加える前に太陽が動いた。
数歩前に歩くと、太陽を糾弾した者達へ右腕を上げ、手の平を向けた。その目は爛々と金に光っていた。
ーーー
次話、第五章の最終話です。
24
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました
岩永みやび
BL
公爵家の次男ウィルは、王太子殿下の婚約者に手を出したとして犬になる魔法をかけられてしまう。好きな人とキスすれば人間に戻れるというが、犬姿に満足していたウィルはのんびり気ままな生活を送っていた。
そんなある日、ひとりのマイペースな騎士と出会って……?
「僕、犬を飼うのが夢だったんです」
『俺はおまえのペットではないからな?』
「だから今すごく嬉しいです」
『話聞いてるか? ペットではないからな?』
果たしてウィルは無事に好きな人を見つけて人間姿に戻れるのか。
※不定期更新。主人公がクズです。女性と関係を持っていることを匂わせるような描写があります。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
塔の魔術師と騎士の献身
倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。
そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。
男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。
それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。
悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。
献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。
愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。
一人称。
完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる