148 / 181
第六章 運命を壊す者
2
しおりを挟む
城の中に入ると、王女は上に吊り下げられた大きな氷の結晶を見上げた。
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもないわ。行きましょう」
護衛達と共に奥の部屋へ向かった。
「長達の了承を取り付けたわよ!」
バンッとノックも無しに、王女は扉を開け放った。
中には、ちょうど魔王、勇者ラリエス、女騎士キャスがいた。のんびりお茶を飲んでいた様だ。
「早かったですね。長旅お疲れ様でした。お茶でも飲んで身体を温めてください」
ラリエスが、部屋に入ってきた一同に和やかに声をかけ、その後「白、早く準備しなさい」と魔王に命令していた。
相変わらず命令するのが得意な男だ。ラリエスの事を心の中でそう評しながら、王女は空いてるソファに座った。そんな王女を、先程から魔王がジッと見つめている。
「何?」
彼も私に文句があるのかと、ついイラついてしまう。そんな彼女に魔王から驚くべき言葉が返って来た。
「其方は…王女の方だな」
「…!」
王女は驚きに目を見開く。彼女の従属さえ分からなかったのに。側にいたラリエスやキャスも驚き王女を見つめた。
「何故わかったの?」
「…懐かしい気配だ。やっと帰って来たのだな」
「……」
「長い旅、ご苦労だった」
魔王の言葉に、みるみる王女の顔が歪んだ。
「…ただいま」
◇◇◇
今の太陽の中身が王女だと聞いた女騎士のキャスが、泣きながら太陽に抱きついた。それをラリエスが慌てて引き剥がそうとして、キャスに怒られて、それを見た王女が泣きながら笑った。
その様子を、ルース、空、悪男はソファから離れた、扉に近い場所から見ていた。
「大丈夫か?ルース」
「どうしていいかわからないよ」
心配そうに声をかけてきた空に、ルースは肩をすくめた。
やっと太陽が心から探し求めていた相手だと気づいた矢先に、彼の人格は変わってしまった。正直ルースは今どうしていいか、わからない。ただ、それは従属の空だって、そうだろう。
あんなに大事にしていた主が別人格になったと思ったら、それが前の主だったのだから。
「君こそ大丈夫?」
ルースの心配通り、空は複雑そうな表情を浮かべた。
「オレも分からん」
「ソラが音をあげるなんて珍しいね」
「オレにも分からん事はある」
「ルース兄貴もソラ兄貴も何言ってんだよ。セーヤが戻って来なかったらどうすんだよ」
側にいた悪男はむくれて不満そうだ。
「僕だって本音を言えば嫌だよ。でも…あれ見てよ」
ルースの視線の先では、キャス、ラリエス、魔王に囲まれて楽しそうに笑う王女の姿があった。さっきのエルフの館にいた時のピリピリした様子は微塵も無かった。
500年前に彼女がこの世界を救うと決意して異世界に行かなければ、きっとこの世界はもっと早くに壊れていたに違いない。そもそも、太陽自身ともきっと出会えなかっただろう。
それを考えるとただ責めるだけではいけない。そう思い知らされた。
「なら、どうすんだよ、セーヤの事あきらめんの?」
「まさか」
ルースが顔を振った。その瞳には失望や絶望は無かった。
「何か方法はきっとある筈だよ。それを探そう」
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもないわ。行きましょう」
護衛達と共に奥の部屋へ向かった。
「長達の了承を取り付けたわよ!」
バンッとノックも無しに、王女は扉を開け放った。
中には、ちょうど魔王、勇者ラリエス、女騎士キャスがいた。のんびりお茶を飲んでいた様だ。
「早かったですね。長旅お疲れ様でした。お茶でも飲んで身体を温めてください」
ラリエスが、部屋に入ってきた一同に和やかに声をかけ、その後「白、早く準備しなさい」と魔王に命令していた。
相変わらず命令するのが得意な男だ。ラリエスの事を心の中でそう評しながら、王女は空いてるソファに座った。そんな王女を、先程から魔王がジッと見つめている。
「何?」
彼も私に文句があるのかと、ついイラついてしまう。そんな彼女に魔王から驚くべき言葉が返って来た。
「其方は…王女の方だな」
「…!」
王女は驚きに目を見開く。彼女の従属さえ分からなかったのに。側にいたラリエスやキャスも驚き王女を見つめた。
「何故わかったの?」
「…懐かしい気配だ。やっと帰って来たのだな」
「……」
「長い旅、ご苦労だった」
魔王の言葉に、みるみる王女の顔が歪んだ。
「…ただいま」
◇◇◇
今の太陽の中身が王女だと聞いた女騎士のキャスが、泣きながら太陽に抱きついた。それをラリエスが慌てて引き剥がそうとして、キャスに怒られて、それを見た王女が泣きながら笑った。
その様子を、ルース、空、悪男はソファから離れた、扉に近い場所から見ていた。
「大丈夫か?ルース」
「どうしていいかわからないよ」
心配そうに声をかけてきた空に、ルースは肩をすくめた。
やっと太陽が心から探し求めていた相手だと気づいた矢先に、彼の人格は変わってしまった。正直ルースは今どうしていいか、わからない。ただ、それは従属の空だって、そうだろう。
あんなに大事にしていた主が別人格になったと思ったら、それが前の主だったのだから。
「君こそ大丈夫?」
ルースの心配通り、空は複雑そうな表情を浮かべた。
「オレも分からん」
「ソラが音をあげるなんて珍しいね」
「オレにも分からん事はある」
「ルース兄貴もソラ兄貴も何言ってんだよ。セーヤが戻って来なかったらどうすんだよ」
側にいた悪男はむくれて不満そうだ。
「僕だって本音を言えば嫌だよ。でも…あれ見てよ」
ルースの視線の先では、キャス、ラリエス、魔王に囲まれて楽しそうに笑う王女の姿があった。さっきのエルフの館にいた時のピリピリした様子は微塵も無かった。
500年前に彼女がこの世界を救うと決意して異世界に行かなければ、きっとこの世界はもっと早くに壊れていたに違いない。そもそも、太陽自身ともきっと出会えなかっただろう。
それを考えるとただ責めるだけではいけない。そう思い知らされた。
「なら、どうすんだよ、セーヤの事あきらめんの?」
「まさか」
ルースが顔を振った。その瞳には失望や絶望は無かった。
「何か方法はきっとある筈だよ。それを探そう」
23
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
塔の魔術師と騎士の献身
倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。
そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。
男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。
それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。
悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。
献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。
愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。
一人称。
完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる